26話-(2)
ー君の魂に抱かれてー(きみのこころにだかれて)
この作品はフィクションです。
登場する人物・団体・地名・事件・世界設定などは全て架空の物であり、
実際の物とは一切関係ありません。
「君の魂に抱かれて」は本編とboy and girls' aspects
で構成されています。
初めて読む方は、本編からご覧ください。
「行くぞっ!!!」
桜夜先輩は獅子が突進する以上の速さで少女に駆ける。
一気に間合いを詰めた桜夜先輩は――
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」
乾坤一擲の気迫の気迫と共に、桜夜先輩は少女の刀目指して刀を振る――!
心なしか、戦闘時以上の気迫に思える。
「うぉぉおりゃあああ―――ッ!!!」
少女の頭上で、二つの刃身は交差する。
その交差した少女の刃身を見てみると――そこには綿があった!
少女はあの桜夜先輩の太刀筋を見切って、刃身に巻きつけてある綿に当てたんだ!
そして、ギリギリッと鍔迫り合いが続く。
「えいッ!!!」
少女は刀を前に押し出し、桜夜先輩を飛ばす。
飛ばされた桜夜先輩は、ズズッと後ずさる。
「――――ぐッ!!!」
桜夜先輩は声を漏らしたかと思うと、俊敏に駆け間合いを詰める。
「――ッ!?」
間合いを詰められるのは予想外だったのか、少女は表情を強張らせた。
高い金属音を響かせ、桜夜先輩の左薙ぎの一撃を受け流す少女。
「はぁ――ッ!!!」
その左薙ぎの一撃を眼に視えない速度で太刀筋を右にする――!
俺にとって決死の一撃に見えたが、その右薙ぎの剣戟は当然かのように受け流される。
「まだだ――ッ!!!」
再び太刀筋を反転させる桜夜先輩。
その速度は衰えを知らず眼に視えない。
なるほど……この繰り返しで火花を起こして火を点けようという事か……。
読みどおり、それが幾多にも繰り返された。
絶え間なく響く金属音。
その音が二人の息遣いのように錯覚する。
火花は散っている。だが、火は点かない。
……それもそのはずだ。
なぜなら――
「ストップ! 二人とももう止めてください!」
傍観者である俺の声に、二人は険悪な眼差しで振り返る。
蛇に睨まれた蛙の気分だ……。
「なぜだ中沢くん! あと少しなのだぞ!?」
「そうだよお兄ちゃん! 邪魔しないでよ!」
二人に反発の声を浴びたが、俺は発言に出た。
「もう綿がない! これ以上遣り合っても無意味だ!」
俺の言葉に二人共に少女の刃身を慌てて視る。
「なぁ――ッ!」
驚愕する桜夜先輩。
「そ、そんな――ッ!」
その光景に眼を大きくする少女。
二人の視線の先には――綿が消えてなくなり、刃身だけの刀があった。
「な、なぜだ……!」
桜夜先輩は驚愕の色を隠せない様子で、誰に向けてでもなく声を上げる。
「さあらの考えは完璧だったはずなのに……!」
二人共、恐慌状態に陥る。
その前に、この二人は本当にこの作戦で火を起こせると、一瞬でも思ったのだろうか?
いや、二人の様子だと今も思い続けているのだろう……。
「当たり前だ! 最初に刀が交差した段階で綿が斬れて落ちたッ!!!」
俺の言葉に、二人共に言葉を失う。
と、傍らの美唯は、
「まぁ、当然だよね……」
美唯の言葉に、更に胸を抉られた様子の二人。
それに続いて月守さんは、
「今は二人の無事を祝おうよ! ねぇ?」
確かにそうだな。
素人眼の俺から視れば二人が無傷だという事が奇跡だ。
あんな火起こしの中で……。
「滑稽……」
「期待はしてなかったが……」
更に清王さん、ガイがダメ押しをする。
全員に否定された二人は、更に心痛した様子だ。
「ま、まだだよ!お姉ちゃん!」
力強い声で少女は桜夜先輩を呼び覚ました。
だが、なぜか桜夜先輩は弱々しい。
よほど火が点かなかったのがショックだったのだろうか?
「……もう駄目だ。私は何も出来ない……」
「そんな深く考えないでくださいよ! その前にあの方法で火を起こせる人はいません!」
俺は酷く傷付いている桜夜先輩に告げた。
「まだ方法はあるよ! 聞いてよお姉ちゃん!」
少女は立ち尽くしている桜夜先輩の身体全体を揺らす。
身体が揺れてようやく少しは眼が覚めたようだ。
「刀が駄目なら銃だよ! 銃なら絶対に出来るよ!」
桜夜先輩は慰めようとした少女だが、
「……銃だと? ならば私は用済みではないか……」
逆に墓穴を掘ってしまった。
その事に気付いた少女は慌てて自分の口を塞ぎ、次に繋がる言葉を捜す。
そして、慌てふためく少女を、桜夜先輩はジトーとした眼で見つめる。
……こんな桜夜先輩を視るのは初めてだ。
何が原因だったのだろう?
今になってはその事も解からない。
そして、遂に少女は吹っ切れたような笑顔を作った。
更に右手はさよならのポーズを作り……。
「そうだね! じゃぁね、お姉ちゃん!」
最高の笑顔で桜夜先輩を戦力外通告した。
音は聞こえないが、桜夜先輩の心が折れる音が聞こえた気がする。
その証拠に、冷たい沈黙が訪れた。
この沈黙を破ったのは以外にも桜夜先輩だった。
「ふぅ、そうだな。銃なら私の出番ではない。清王くん、任せたぞ」
軽く微笑してから、見失っていた己を取り戻した様子の桜夜先輩。
そして、しっかりとした足取りで俺たちのいる所まで帰還してきた。
「お疲れ様です。桜夜先輩」
「ああ、ありがとう。中沢くん」
受け答えも出来ているので正常のようだ。
だが、その深奥は計り知れない。
「桜夜先輩、少し休んでいてください。雷切は俺が持ってますから」
「本当か? 面目ない」
俺は桜夜先輩を休ませる事にした。
疲れも己を乱す原因かもしれない。
だけど、桜夜先輩が乱したのは火起こしが原因ではない気がする。
「さぁ、翠華ちゃんの出番だね!」
美唯が送り出すように清王さんの背中を押す。
いや、押すと言うより叩くの方が正しいかも知れない。
バシン!という鈍い音が聞こえてきた。
「…………」
清王さんも痛かったのか、表情を強張らせる。
さすがの清王さんにも堪える一撃なのか……。
それを俺は……毎日喰らっていたんだよな。
急に自分の身体が心配になってきた。
「頑張れ翠華ちゃん!」
月守さんも清王さんを後押しする。
「期待してるぞ」
ガイも期待の眼差しを向ける。
なんだが、桜夜先輩の時とは違ってみんな期待している気がする。
一方、その当人は、
「頑張ってくれ清王くん! 私の無念を晴らしてくれ!」
全員に強く想いを託された清王さんは、心ならずも少女の所へ向かって行った。
◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇
「良く来たねぇお姉ちゃん。さあらは嬉しいよ」
満面の笑みを浮かべて清王さんを迎え入れる少女。
だがその反面、清王さんは不快そうな表情をする。
「座興はいい……何をすればいいの?」
「お姉ちゃん、ノリ悪いぃ~!」
「…………」
少女の子供のような態度を見ると、清王さんは更に露骨に不快そうな顔を作った。
その表情を見た少女も露骨に不思議そうな表情をする。
「あれ? もしかしてお姉ちゃん……さあらのこと嫌い?」
「愚問……空気で解からない?」
呆れた清王さんの顔を見て、少女は大袈裟に笑った。
「きゃははははは! じゃぁ~親交を深める為に火起こしやっちゃおうか!」
「……別にお前と親交を深める気はない。それより早く……」
清王さんの額には多少、汗が滲んでいた。
なんでだろう?
気温も暑くないし、逆に寒いぐらいだ。
清王さんが動揺するような事でもあったのだろうか?
「そんな事言うからお姉ちゃんは友達少ないんだよ?」
一瞬、肩を強張らせた清王さん。
「べ、別にお前に関係なんかなぃ……それよりぃ……」
随分と声がか細くなってしまった。
その証拠に最後の言葉は俺の耳には届かなかった。
「きゃははははは! だいじょ~ぶだよお姉ちゃん! お姉ちゃんはすっごく可愛いから、さあらの言う通りにすればホイホイ……」
その時、少女の声を掻き消すような清王さんの声が聞こえた。
「早く火起こを! このままだと餓死するッ!!!」
誰もがその声に耳を疑った。
清王さんの言語に感嘆符が付いた……!
ってかその前に……が、餓死する……?
全員、何も物も言えない沈黙が訪れた。
その沈黙が続くにつれて、清王さんの頬は次第に高潮して行く……。
まずい……あまりにも可哀想だ。
清王さんは自分の危機を赤裸々に叫んだだけなのに……。
その瞬間、妙な指令感が頭の中をグルグル廻った。
俺がどうにかしないと……!
何も考えもなく、俺は行動に出る――!
「うぉぉぉおおおおおおおッ!!!!! お腹空いて来たぞぉッ!!! 早く火起こししてご飯にしようッ!!!」
終始、最高に恥ずかしかった。
次は俺に対する沈黙が続く……。
なるほど……これは心身に堪える沈黙だ。
清王さんの気持ちが良く理解出来た。
「じゅ、じゅん……? いきなりどうしたの……?」
美唯が不可解なモノを視るように、俺に正当なツッコミを入れる。
お前なら解かるはずだ……! 俺がこんな羞恥を犯してまで何故したのか!
そう……! 清王さんを救う為だ。
次は美唯、お前がやるんだ。
そうしなくては清王さんを救えない!
全員が二の舞になるんだ!
……という熱情を込めたアイコンタクトを美唯へ送る。
俺のコンタクトを理解して受け取ってくれた美唯は、コクリと頷いた。
「すいませんッ! 何方か食べられる食べ物を持っている方はいませんか! 潤がおかしくなったんです! 助けてくだ……」
「ちげぇ―――――よぉ!!!!!」
「ええぇ……?」
呆けた顔で俺を見る美唯。
くそぉ……美唯じゃ駄目だったのか……。
桜夜先輩ならこの場を的確に把握しているはずだ!
俺は腰を下ろして休憩している桜夜先輩にアイコンタクトを送る。
「そんな卑しい眼で視ないでくれ。即席な物は何も……」
「だから違いますよぉッ!!!」
俺は思わず頭を抱えた。
いや、的は清王さんから外れた。
これはある意味……助けられたのか?
そう悟った俺は、地面にゆっくりと正面から倒れた。
現実逃避の為に……恥隠しの為に……そして、無意識に、本能的に――
「じゃ、潤が倒れたぁ―――――ッ!!!!! しっかりしてよ潤ッ!!! 私の大切にしてたお菓子あげるからぁッ!!!」
だ・か・ら・ちげぇ―――よぉッ!!!




