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25話-(2)

ー君の魂に抱かれてー(きみのこころにだかれて)


この作品はフィクションです。

登場する人物・団体・地名・事件・世界設定などは全て架空の物であり、

実際の物とは一切関係ありません。


「君の魂に抱かれて」は本編とboy and girls' aspects

で構成されています。

初めて読む方は、本編からご覧ください。



――しかし、いつになってもその時は訪れない。


其れは、この世界が止まっているかのような永遠の静寂で――

俺は二度と開くはずのなかった眼をゆっくりと開ける。


「なんでぇ……なんでそんな事できるの……なんでぇ……」


少女は視線を落しながら、怒りにも良く似た震える声を振り絞る。

更に視線を落すと、刀の刃先は俺の胸のほんの僅か手前で制止しているのが解かった。


そして、少女の両手から力なく刀が落ち、糸の切れた人形のように少女はその場にへたり込んだ。


「なんでぇ……なんでよぉ……」


震える声で同じ言葉を繰り返す少女。

自分の過去に対して悲哀し、その悲哀に慄然して、更に激昂まで感じられる少女の声。


「そんなことされたらぁ……殺せるわけないよぉ……さあらはアイツ等・・・・とは違う……! 絶対に違うっ!!!」


記憶に苦しみながらも少女は強く唱えた。


その瞳からは幾多もの雫が零れ落ちていく――

アイツ等とは違う・・・・・・・・と。

この言葉は少女の記憶の深奥から出た言葉だろう。

動揺を隠せない俺だが、小動物のよう震える少女に屈んで視線を合わせた。


「……?」


俺の視線に気付いた少女は、落としていた視線を合わせた。

湖のように澄んだサファイヤのような瞳は、涙いっぱいに濡れていた。

何度もしゃくり上げる仕草に、ひたすらに泣く子供を連想させた。


「大切な人を守りたいから命を賭けられるんだよ」


自分でも恥ずかしくなる口調と言葉を少女に囁く。

俺の言葉に少女の動きが止まる。


「大切な人……? ならさあらは…… ――ッ!?」


突如、頭を押さえつける少女。


「お、おい!? どうした!?」


「ご、ごめんお兄ちゃん……無理に昔のことを思い出そうとすると頭が痛くなって……」


思い出そうとすると頭が痛くなる……?

まさかこの子は過去を覚えていないのか?


「まさか……過去の記憶がないのか?」


「そんな事もないよ。大切だった思いでは薄っすらだけど覚えてる。だけど……」


少女は口重そうに言葉を詰まらせた。

そして、俺の眼を直視した。

その眼の深奥は、自分じゃ解からない記憶に酷く恐慌し助けを求める。

そんな心眼だ。


「記憶がごちゃまぜなの……無理やり付け加えたような記憶で……とにかくすっごく気持ち悪い」


少女は記憶に対し、不愉快そうな表情を創る。

本当に……過去の記憶がないんだな。

もどかしそうな表情を続ける少女に俺は頭を少し強めに撫でた。


「あっ……いたっ!」


少女の顔に少し笑顔が戻った。

その笑顔にもう何も不愉快なものは感じず、戦意も感じなかった。

この少女に何があったのかは解からない。

だが、人を命がけで守るという事に何か特別な何かがあるのだけは解かった。

それが、少なからず『記憶』に関係していると。


「えへへへ……」


俺の撫でに気持ち良さそうに笑顔を溢す少女。

本当に子供みたいだなっと俺も微笑を漏らした。


「……お姉ちゃんみたい」


「お姉ちゃん?」


「うん。覚えてないけどさあらにはお姉ちゃんがいたと思うの」


俺の胸に棘が刺さったような鈍い痛みが走る。

それも覚えていないなんて……。

俺はあまりにも悲哀過ぎる少女に、掛ける言葉が見つからなかった。


俺に家族はいない。

それが解かるのは記憶があるからだ。

だがこの少女には記憶がない。

自分の事も、家族の事すら記憶から消えてしまっている。

それがどんなに残酷で悲哀なことか……。


「大丈夫だ。俺も手伝ってやる」


「え……?」


「取り戻してやるとは言えないけど、手伝うよ。お前の記憶探し」


俺の言葉に息を呑む少女。

そして、そのまま視線を地面に落した。


「なんでお兄ちゃんはそんなに優しいのぉ……さあらはお兄ちゃんを殺そうとしたんだよ……?」


「人を殺すというのは許せない。だけどお前は殺さなかった。それに……」


その言葉に少女は視線を瞳に合わせる。

俺は少し恥ずかしくなり、視線を斜めに落とした。


「なんだが……お前は昔いた妹に似てるんだよ」


「……そうなんだ」


少女は少し唇を噛み締めた。

それは自分の過去に対してか、俺の過去に対してかは解からない。

だから俺は、ふぅと鼻で笑ってやった。


「だから、何だか放ってけないんだよ」


「えへへへ……ありがとう、お兄ちゃん」


そう言って再び少女は笑顔になった。

その笑顔は俺の妹――沙希にどこか似ていた。


不意に――少女に近づく荒々しい足音が聞こえる。

その足音の主は――美唯だった。


「……もう絶対に――あんな事はしちゃ駄目だからねっ!!!」


「ふぇえええッ!?」


バシーンッ!と少女の頬に紅葉が出来る。

美唯の一撃に少女の小柄な身体は軽く飛ばされた……。

……なんて威力だ。


「ご、ごめんなさぁ~い……。もう二度々あんな事はしませぇ~ん……」


マンガのような滝の涙を流しながら、少女は倒れたまま美唯に謝罪する。

その言葉を聞いた美唯は、ギロッと戦慄しそうな眼を俺に向ける。

戦慄はしなかったが、心臓が飛び出るかと思った。

今にも狩られそうな勢いだったが、美唯は全身の緊張を抜くように深く溜息をついた。


「潤も死のうなんてしないでよぉ……お願い……」


これまでに見た事もない美唯の表情。

こんな悲しそうな表情でお願い事をする美唯なんて……。

俺は何て自分勝手なことをしてしまったんだろう。


「ごめん……ちょっと自分勝手過ぎたな……」


「全然ちょっとじゃないよっ!!!」


全ての感情を吐き出した美唯の一言。

その言葉が鋭く俺の胸に突き刺さる。


「潤なら解かるでしょ……!? 私がどんな気持ちなのか……」


「今まで潤がいたから私は生きれたのに……どんな事でも乗り越えれたのに……」


その瞬間、美唯の瞳から一滴の涙が零れた。

落ちる雫は、震える拳を過ぎて地面に落ちて行った。


「潤がいるから私がいるのに――潤がいなかったら……潤がいなかったら私はいれないよぉッ!!!」


「…………」


魂の中で様々な想いが錯綜して、俺は何も言葉に出来なかった。

何故だか解からないが、視線を合わせられなくなった。


俺は命に換えて美唯を守ろうとしていた。

美唯を死なせたくない気持ちで一杯になっていて、俺は美唯・・に気付けなかったのか――


俺だってそうだろう?


美唯がいなかったら俺はここにいない。

美唯がいなかったら、家族を亡くしたと同時に俺の心も無くしていた。

俺は美唯がいたから生きれたんだ。


「俺だってそうだ……美唯がいなかったら俺はここにいない」


そうか――そういう事なのか。

なんでこんな事に気付けなかったんだろう。

だから美唯は命と引き換えにしようとした俺をこんなに叱っているんだ。


「ごめん美唯。ようやく気がついたよ。今までの俺はどうかしてた」


俺の言葉を聞いて、美唯は表情を明るくした。

そして、俺に手を差し伸べた。


「潤、今を必死に生きよう。そして誰も欠けないで私たちの日常へ戻ろう」


希望に満ちた瞳をいつまでも近くで見ていたい。

その為に俺は美唯の手を握った。


「約束だぞ。美唯」


「うん。約束――」


俺と美唯で始まった手の抱擁が――


「私も約束しよう。その時は私も君たちの日常に混ぜてくれないか?」


桜夜先輩が俺たちの手を握った。

その手は温かくて確かな力を感じる。


「もちろんですよ!」


俺と美唯は無邪気に笑った。

そして、もう一つ小さな手が現れた。


「さあらも約束するよ! さっきまで敵同士だったさあらが言うのは駄目……かな?」


「何を言っている星見郷くん。昨日の敵は今日の味方と言うじゃないか」


控えめに言った少女に桜夜先輩はすかさず返答する。


「桜夜先輩、この子と会ったのは今日ですよ」


「中沢君。君はそこまで神経質だったのかね?」


そんな談話をしていたら、新しい手が現れた。


「あたしも改めて約束する。……あたしは何も出来ないけど、精一杯努力するよ!」


月守さんに続いて、再び新しい手が現れた。


「まだ信頼されていないかもしれないが、俺も約束する。 スナイパーとしてお前等を護衛するよ」


「何を言っている『精鋭の狙撃手』河坂ガイくん。私が全てを覚えたという事は信頼の証だ」


桜夜先輩の意味の解からない信頼の証を聞いていると、最後である手が現れた。


「約束……する」


「翠華くん。こんな時ぐらい銃をしまったらどうなんだ? 君の銃は刃も付属していてゆゆしいんだ」


「ふ、付属……」


付属という言葉に憤りを感じた清王さんは、己の銃を見る。

その光景に和むような笑いが俺たちを包んだ。



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