25話-(1) 約束
ー君の魂に抱かれてー(きみのこころにだかれて)
この作品はフィクションです。
登場する人物・団体・地名・事件・世界設定などは全て架空の物であり、
実際の物とは一切関係ありません。
「君の魂に抱かれて」は本編とboy and girls' aspects
で構成されています。
初めて読む方は、本編からご覧ください。
そんなこと……そんなことさせるかぁッ!!!
俺は本能のままに駆け出した。
このままでは確実に桜夜先輩は殺される。
それが俺の魂を激動させた。
だが――遠い。
全身の筋肉が千切れるほど全力で走るが、まだ遠い。
桜夜先輩の口腔内に突き込まれている銃で、確実に撃たれる。
その未来を変える術はないとでもいうのか?
いや、絶対にある!
そう信じて、一心不乱に前へ走る――!
脚が使い物にならなくなっても構わない――!
桜夜先輩を守る為なら!
俺の背中から美唯と月守さんの声が聞こえる。
だが、もう俺の耳には聞こえていなかった。
俺には遠距離武器は愚か武器すらない。
だから、少女に攻撃は出来ない。
だが、騙す事は出来る。
俺には――左眼の異能がある。
「うぅぉおおおおおおおおおおおおおッ!!!」
走り絶叫しながら俺は左眼に手を置き、能力を発動させる。
この能力の事を少女は知らない。
だからこそ成せる業。
「――ッ!?」
全力で走る俺に気付き、自分の身に危険を感じた少女は素早く拳銃を口腔内から引き抜き、銃口を俺に向ける。
――それだけの時間で十分だ。
少女の拳銃から銃弾が発砲される。
それを俺の能力――結界で弾き飛ばす。
「け、結界ッ!? まさか異能者なのッ!?」
俺の能力に気を取られている少女は、桜夜先輩の事まで手が回らなかった。
「還りきたれ! 千鳥!」
桜夜先輩が呪を唱えた刹那、瞬間移動のように千鳥の柄が左手に握られていた。
だが桜夜先輩は口が開放されただけでまだ動けれない。少女の押さえ込みが的確な証拠だ。
その事に気付いた少女は、再び銃口を口腔内に突っ込もうとするが――
「はっッ!?」
突如、少女の握っていた銃が手から弾き飛んだ。
これは、この好機をずっと林に潜んで待っていたガイのスナイパーライフルによる銃弾でだ。
「千鳥に宿われし雷魂よ、再び生ずことを請う」
桜夜先輩が呪を唱え始める――
その呪に反応して、一波、二波と電撃が流れる。
「今、此処に雷魂を開放する!」
大轟音を轟かせ、視界全体を覆う程の閃光が漏れる。
「もぉ~! なんなのよっ!」
少女は桜夜先輩から一跳びで後退する。
だが、少女が後退した真後ろには――
「誅伐!」
そこには今までとは違い、確かな感情が入っている清王さんがいた。
少女は声に慌てて振り返り、銃口を清王さんに向ける。
その時には既に清王さんの銃からは硝煙が上がっていた。
「ぎゃあああッ!?」
頭ではなく防弾制服で守られている胴体を清王さんは発砲した。
激痛に表情を歪ませる少女だが、直ぐに銃口を清王さんに向けた。
「こ、こんのぉッ!!!」
少女は俊敏にトリガーを引く――
その銃声に重なるように、清王さんも発砲した。
「ぎゃあああッ!?」
これは少女の悲鳴だ。
一発しか撃っていない清王さんの銃弾が、少女には二発被弾している。
ど、どういう事だ……?
清王さんは一発しか発砲していないのに……。
防弾制服のお陰で出血はしていないが、死ぬほど痛い激痛に悶絶する少女。
一方の清王さんはどこも被弾がなく、悠然と銃を構えている。
「……そうかぁ」
少女は痛さで歪む口元を無理やり笑わせ、清王さんを見る。
「お姉ちゃんはさあらの銃弾を銃弾で誘導させて……その二つの銃弾をさあらに当てたんだぁ……」
不意に――少女は素早く銃口を向ける。
「だけど、さあらを殺さなかったのがお姉ちゃんたちの敗因だよ!」
少女は弾が尽きるまでフルオートのM1911を連射させる。
狙いは全て清王さんの頭部だ――!
だが、清王さんはスゥと閉じていた眼を開き、避けたと解からないぐらいの最小限の動きで頭を傾げる。
「こ、このお姉ちゃんもやるぅ~!」
少女のM1911は弾切れを告げるホールドオープン状態になり、すぐに弾倉をリロードさせる。
そのリロード間に清王さんは動いた――!
清王さんは舞うように螺旋しながら左右の銃で交互に二発、着地時に身を引きながら一発、発砲した――!
既にリロードを終えていた少女は、清王さんの銃弾をバネが付いているかのように空中で縦に一回転して避ける。
そして着地前に銃口を清王さんに向け、今度は三点バーストで発砲する――!
その攻撃も清王さんは当然かのように最小限の動きで避ける。
「銃じゃこのお姉ちゃんには勝てないか」
そう言い切って少女は残りの弾を全てフルオートで発砲し、銃を投げた。
そして背中に両手を突っ込み、ジャキジャキ!っと流星みたいな速さで隠していた刀を二刀流で抜いた。
「お姉ちゃんは銃のフレーム付近に大型ナイフが装備されてるみたいだけど、それじゃぁー刀には敵わないでしょ?」
そう言い放って少女は人間離れしている瞬発力で飛び掛る――!
この少女……銃も刀も使えるのかっ!?
「……ッ!」
清王さんは流星のように飛び掛る少女に発砲するが、全て回避されてしまう。
流石の清王さんも少し唇を噛み締めているのが解かった。
明らかに少女のペースに嵌ってしまっている。
少女は清王さんの肩目掛けて両刀で突き出してくる――!
その刃先を清王さんはフレーム付近の大型ナイフの腹でカキンッ!と打った!
後ろにザザッ!っと下がる少女に、清王さんは左右一発ずつ同時に水平面撃ちをする!
「さっきのお返しだよぉ!」
少女は清王さんの放った二発を両刀で打った――!
打った銃弾の一つは、清王さんの頬を掠め林へ消えていった。
その軌跡を後追いするように、清王さんの頬からはゆっくりと真紅の血が流れ始めた。
そして、少女と清王さんの間に長い間合いが生まれる。
近づくだけで圧迫されそうな、そんな2人だけの空間。
清王さんの流した頬の血が地面に堕ちる途次、2人は同時に駆け出した――!
夜空に木霊する音。
何度も何度も――互いの刃を交錯し合う両者。
眼にも及ばぬ速さで必殺を重ね合う両者。
それでも勝負に決着は訪れない。
「もぉ~! このお姉ちゃん剣術も上手い!」
少女が近い間合いを一足で跳ぶように後退する。
少女、清王さんは両刀だが、互いに桜夜先輩の桜剣のような類はないようだ。
だからこそ、己の力が物を言う。
清王さんは床を蹴ると、獅子のような速さで二丁拳銃を同時に発砲する――!
それを少女は背転しながら避け、距離を取る。
だが、少女の真後ろから――
「ひぃっ――ッ!?」
威嚇するかのように雷切の雷音が響く。
その大音響に少女は首を縮ませる。
遠くからの俺たちでも度迫力だ。
「あちゃ~、前後で囲まれちゃったよ……」
だが少女は笑っていた。
それは暗礁の場面を楽しむかのような余裕の表情。
「まぁ、あのお姉ちゃんなら勝てるかな」
少女の視線の先には、美唯が映っていた。
そう俺が認識したよりも早く、少女は小さな獅子のような速さで、両刃を構えて疾走する。
その先には、俺と美唯、月守さんがいる。
少女の狙いは――俺と美唯。
桜夜先輩も清王さんも、もう追いつけないほどの速さ。
瞬きをする間に、少女は既に間合いに入っていた。
あまりの速さに結界は愚か、何も間に合わなかった。
両刃の刃先が、突きの太刀筋で現れる。
その刃先は、俺と美唯の胴体。
俺は反射的な本能のように、ありったけの力で美唯を吹き飛ばした。
「じゅ、じゅん―――――ッ!!!!!」
美唯は俺に吹き飛ばされながらも、俺に手を差し伸べてくれていた。
その手と美唯の滲む瞳に、俺は最期の笑みを浮かべた。
そして、その手の距離は次第に遠のいて行く。
これで美唯は少女の間合いから外れ、俺だけが残る。
――後悔はしてない。
美唯を守れるなら――
あの時の美唯が俺を守ってくれたみたいに、今度は俺が美唯を守れるなら――
――俺は眼を閉じる。 そして――不意に思い出がよみがえった。
俺の思い出には――どんな思い出にも美唯がいた。
悲しい顔をしている美唯もいる。怒っている美唯もいる。
でも、必ず最後には笑顔の美唯がいた。
そのかけがえのない想いを俺は魂で抱きしめた。
美唯の笑顔を離さないように、もう二度と離さないように、思い出を空にばら撒いた。
美唯――俺がいなくても強く生きて行くんだぞ。いや、お前なら強く生きれる。
それは、ずっとお前の傍にいた俺が一番よく知っている。
美唯となら、どんなに離れ離れになっても何度でも巡り合える気がする。
それは美唯も感じているよな?
「じゅん―――――ッ!!!!! いやだよぉ……!!! 独りにしないでよぉ!!!!! じゅん―――――ッ!!!!!」