24話-(2)
ー君の魂に抱かれてー(きみのこころにだかれて)
この作品はフィクションです。
登場する人物・団体・地名・事件・世界設定などは全て架空の物であり、
実際の物とは一切関係ありません。
「君の魂に抱かれて」は本編とboy and girls' aspects
で構成されています。
初めて読む方は、本編からご覧ください。
「最高に面白いよお姉ちゃん。さあらに見せて。お姉ちゃんの力を」
少女はトリガーを引いた――!
それと同時に硝煙と連続してくる発砲音が聞こえた。
反動は少ないと言えど、あの少女の体型には無理があると思っていたが、少女は軽々しくマシンガンを往なしている。
その幾多の銃弾は桜夜先輩の残像に向かっていった。
「へぇ~! やっぱ口だけじゃないんだ」
少女は桜夜先輩の姿を見失ったかと思うと、突如銃口を真上に向ける。
その真上には人間離れした飛躍で刀を振りかざしている――
「はぁ――ッ!!!」
桜夜先輩の千鳥が少女の頭上に眼にも留まらぬ速さで振り下ろされる――!
だが、少女は悲鳴も上げる事無く口元を歪ませた。
空間を揺らすほど――いや、比喩ではなく実際に地を揺らがせた桜夜先輩の一撃。
爆音と粉塵が周囲に飛び散って、風圧がまともに俺立つに襲い掛かってくる。
桜夜先輩の剣戟でその場には穴が穿たれた。
「いただきぃ――ッ!!!」
桜夜先輩が地に着いた真上、そこに桜夜先輩と同等の飛躍を見せる少女の姿があった。
マシンガンを持っているのにこの飛躍――
尋常の人間の力ではない――この少女も。
『ズドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!』
桜夜先輩に降り注ぐ銃弾と薬莢の雨。
畏怖するぐらいの銃弾が桜夜先輩の頭上に連射される――!
一発でも命中すれば致命傷は避けられないだろう――いや、それ以前に回避ポイントがない!
だが、桜夜先輩からは恐慌すら感じられなかった。
桜夜先輩は降り注ぐ銃弾に千鳥の刃身を素早く受け流すように当て、銃弾を地面に流す!
まともに銃弾を受ければ、千鳥とて刃身が折れるだろう。
だが桜夜先輩は受け流す事によって刃が毀れる事もなく、銃弾を流したのだ。
これぞ神業と言っても過言ではないだろう。
「どうかね? これで君の虚実は証明出来たぞ」
少女の言った言葉、刀はマシンガンには敵わないという虚実を証明する為に桜夜先輩は回避しなかったんだ!
あの時冷静な顔をしていたが、本当は熱情していたんだ。
「なるほどね、そういうやり方もあるのか」
上空に飛躍している少女は、硝煙を上がらせながら狙いを修正する。
「だけどさぁ~お姉ちゃん、そんな薬莢まみれの地面で大丈夫なの? 転んじゃうよ」
その少女の言葉に俺の視線は勝手に桜夜先輩の足元へ行く。
銃弾の雨の影響か……桜夜先輩の足元には薬莢が無数に転がっていた。
「相手の心配より自分の心配をしたらどうなんだ?」
桜夜先輩は刃先を地面に向け、その場から動かずに頭上にいる少女を見る。
「えぇ……?」
その桜夜先輩の動作と言語に、少女は微かながら動揺を見せる。
刹那、何かが頭上に迫ってくる不快な気を覚えた少女は己の頭上を仰ぐ。
少女の視線の先には既に目前まで迫って月光に照らされる宝刀――頭上を貫こうと重力で堕ちてくる三日月宗近があった!
「うわぁっ!? い、いつのまにっ!?」
「私が飛躍した時、三日月宗近を天を突くかのように投げ放った」
「――ッ!?」
誰もが桜夜先輩の姿をロストしているほんの刹那、桜夜先輩はそんな事をしていたのか……。
まるで全てを読んでいるかのよう……いや、先を知っているかのようなタイミングだ。
少女は左右上下にも避けようがなく、マシンガンを頭上に上げ、それを盾にしようとする。
その時を待っていたと言わんばかりに、桜夜先輩は初動する。
弓を引く姿を想像させる程に、手に握る千鳥を深く引く桜夜先輩。
それが槍のように、刃身全域に力が蓄積されていく――
「はぁ――ッ!!!」
全身の発条によって加速した千鳥。
それが矢のように、少女へ投げ放たれる――!
「ひ、ひっど~いッ!!!」
自分の命が生死の天秤にかかっているとは思えないような陽気な声。
その声はまるで悪戯に合った子供のような……。
だが、千鳥の刃先は的確に少女の真下に吸い込まれて行く。
空中故に少女は八方塞り。
もうマシンガンは頭上の三日月宗近を盾にしている為、下から迫ってくる千鳥は回避しようがない。
桜夜先輩は決着を三日月宗近と千鳥に委ね、地上からその光景を見届けた。
甲高い金属音を響かせ、少女は頭上の三日月宗近を防いだ。
だが、それと同時に真下から千鳥が接近してくる――!
「もおぉ~ッ!!!」
真下に迫る千鳥に向けて吹っ切れたような声を上げる。
そして、両脚を開脚させ、太ももで千鳥を真剣白刃取りした――!
その光景に誰もが唖然とした。
偶然ではない――明らかに狙ってやっている。
全員が唖然とする中、桜夜先輩は戦闘中だと言う事を忘れていなかった。
「まさか太ももで真剣白刃取りとはッ!」
桜夜先輩は驚きを力に変え、再び地面を蹴って上空の少女へ向かう――!
堕ちてくる三日月宗近の柄を右手に掴み、桜夜先輩は月夜を背景に大きく振りかざす――!
眼にも止まらぬ太刀筋の速さに、少女は対応仕切れなかった。
「舞い落ちる桜の花に夢幻の優美を奉ずる。巡り来る花信へと集い百花繚乱の如く成せ!」
呪を唱えた瞬間、三日月宗近の刃身全域に月光の如く金色の光を帯び始める――
三日月宗近は光を帯びた瞬間、月の月光も一段と強さを増して見えた。
「桜剣っ! 斬月ッ!!!」
三日月を形取るような三日月宗近の剣戟。
その太刀筋には、本当に三日月のような金色の光が制止していた。
「――ッ!? う、うそ……」
息を呑むような少女の悲鳴――
桜夜先輩の剣戟をまともに受けたマシンガンは冗談のように美しく一刀両断された。
だが、少女は半分だけになったマシンガンをすぐに桜夜先輩の視野を覆うように投げた。
それを桜夜先輩は簡単に三日月宗近で流す。
「これで!」
一瞬、桜夜先輩の視界を奪われた刹那――その影から少女の太もも真剣白刃取りした千鳥の突きが現れる――!
「なぁ――ッ!?」
桜夜先輩でも予測していなかった上空での突き。
その突きをどうにか鍔で受け止め、上に太刀筋を変える。
少女の太刀筋を変えた事によって、桜夜先輩の胴体には隙が生じた。
「隙ありぃ――!!!」
突きの太刀筋を上に変えられた反動を利用して、桜夜先輩の胴体に少女がドロップキックをお見舞いする――!
「ぐあぁッ!?」
少女のドロップキックが桜夜先輩の心窩に炸裂する。
そして重力に従って、少女は桜夜先輩を下敷きにして堕ちていく。
「さ、桜夜先輩ッ!?」
俺は思わずその光景に声を上げてしまった。
だが、そんな声を虚しく、桜夜先輩は背中から地面に堕ち鈍い音が響いた。
桜夜先輩を下敷きにしていた少女は無傷。
背中から打った桜夜先輩は動作が完全に静止した。
「チャックメイトって奴だね」
少女は自分が手にしていた千鳥を真後ろに投げ、左手で桜夜先輩の右腕を掴み、右脚で踏みつけるようにして左腕も静止させた。
桜夜先輩も抵抗しようと藻掻くが、微動だにも出来ない。
そして少女はにやっと笑いながら懐から拳銃を取り出し、その拳銃を突きつけるように桜夜先輩の口の中に突っ込んだ。
「んぐっ……んぐぅんっ!」
藻掻き声を上げる桜夜先輩は、もう少女に手も足も出ない……。
口腔内に突っ込まれてある拳銃のせいで呪すら唱えられない。
まさしく――剣が峰だ。
「「「桜夜先輩っ!?」」」
俺と美唯、月守さんの声が重なった。
どうすれば桜夜先輩を助けられる……? どうすれば……。
一番守るべき場面で、俺の結界も意味を成さない……。
発動させても桜夜先輩を守る事は不可能だ。
「あ~あ~お姉ちゃんもうお終いかぁ。あんなでかい口叩いてた癖に結構早かったね」
そう冷笑して少女は拳銃をスライドさせた。
この動作で初弾がチャンバーに送り込まれ、あとはトリガーを引けば――発砲出来る。
「最期ぐらい私の名前を教えてあげる。私は星見郷さあら。覚えてとは言わないよ。もう覚えられないしね」
拳銃をスライドした時、桜夜先輩は初めて死に直面して畏怖を見せた。
言葉にもならない声で藻掻く桜夜先輩……。
だから、俺にはその光景が幻想に見えた。
いつだって負けた事のない桜夜先輩が、こんな小さな女の子に負ける訳がない。
負けるはずがない。きっと桜夜先輩には考えがあるはずだ。
なのに…どうして桜夜先輩の表情は恐怖で畏怖しているのだろうか。
それは……死が怖いからだ。
自分が死ぬと解かっているからだ。
けれども、まだその瞳は絶望していない。
剣士としての最期の志、誇り高く生きるために。
そんな瞳が……そんな瞳が世界を失って俺たちまで映さなくなるなんて……。
そんなこと……そんなことさせるかぁッ!!!