23話-(2)
ー君の魂に抱かれてー(きみのこころにだかれて)
この作品はフィクションです。
登場する人物・団体・地名・事件・世界設定などは全て架空の物であり、
実際の物とは一切関係ありません。
「君の魂に抱かれて」は本編とboy and girls' aspects
で構成されています。
初めて読む方は、本編からご覧ください。
桜舞い散る校門を駆け抜け、ついに虹陵橋に差し掛かった。
幅もかなり広い虹陵橋。
戦闘を行うには十分な広さだ。
これが吉と出るか凶と出るか……。
「千鳥に宿われし雷魂よ。再び生ずことを請う」
先頭を疾走しながら桜夜先輩は呪を唱えはじめる――!
呪を唱え終わった刹那、千鳥の刃には電流が奔り始めた――
「今、此処に雷魂を開放する!」
その瞬間、激しい雷音を轟かせながら千鳥の刃身は雷神の如く帯電し始める――!
「立花道雪! 雷切―――ッ!!!」
――虹陵橋の半分まで駆け抜けた。
残り約500メートル。
ここまで来ると敵の数や動きも解かる。
その相手は――横に一列に並んで一人一人が銃口をこちらへ向けている。
あれは恐らく軽機関銃。
侑から無理やり教えられた銃知識によると、ベルトが繋がっている限り装弾数の制限が無く、無限に撃ち続ける事ができる銃。
それが一つではなく一列に並んでいる……。
10人は少なくとも構えているだろう。
――恐らく相手は射程内。
なら、俺の結界で防御すれば――!
俺が左眼を見開こうとした瞬間――
「中沢くん! ここは私に任せたまえ――!」
桜夜先輩が俺を止めて、疾走する中、雷切の刃先を相手に向けた。
「我が剣よ請え。全ての雷魂を飲み込み、正法を生じよ」
高速に唱えた桜夜先輩の呪に雷切は反応し、雷切から放たれる閃光で前方が見えなくなるぐらいに――雷切は雷光を増す!
「雷神正法! 解き放てっ!!!先導―――――ッ!!!!!」
先輩の呪とほぼ同時に、軽機関銃が無数に連射する――!
だが、その銃声は桜夜先輩の雷切の雷音で掻き消された――!
俺は反射で眼を閉じる。
雷から漏れる閃光で眼が焼けそうだ……。
俺たちは反射的に全員が立ち止まった。
俺たちは――どうなったんだ?
あれだけ相手の軽機関銃が俺たちに発砲したんだ。
無傷の筈がない……。
だが、いつになっても予想していた痛みは訪れなかった。
俺は腕で覆っている眼をゆっくりと開ける。
「――ッ!!」
思わず声が出てしまった。
倒れているのは俺たちではなく――相手全員だった。
「桜夜先輩っ!? 何をしたんですか!?」
「雷で銃弾を誘導させた」
「じゅ、銃弾を誘導――ッ!?」
「私たちに発砲した全ての銃弾を雷で誘導させ、逆に相手の防弾制服に返しただけだ」
「そ、そんなことが……!」
俺は桜夜先輩の言葉に耳を疑った。
だが、現に相手の武装高生徒は悶絶し苦しんでいる。
防弾制服は、銃弾を弾く事が出来る。
だが、当たると死ぬほど痛い。
そうガイから耳にした。
つまり桜夜先輩は、誰も犠牲者を出さずにこの場を乗り切ったんだ――!
「誅伐――」
清王さんが悶絶する生徒に銃を構える。
だが、すぐにその銃口を桜夜先輩は手で塞いだ。
「誰も犠牲者を出してはならない。君なら解かるはずだ」
「なぜ? あいつ等はまた私たちを殺しにくる。誅伐できる時に誅伐する」
「誰も殺さずにそれぞれの日常へ還るんだ! 一人でも殺してしまえば私たちの日常へは戻れないっ!」
誰かを殺してしまえば、元の日常にはもう還れない。
例え異世界から脱せても誰かを殺してしまえば、元の日常へ戻れない。
桜夜先輩の志でもあり、俺たちの志でもある。
だが清王さんはその言葉を聞き、少なからず表情を変えた。
「……私に戻りたい日常なんてない」
小さく震える声で、清王さんはそういった。
過去の記憶が身体をも震わせて、銃身が少し音を立てて震えていた。
その光景は過去に苦しみ悲哀する……普通の女の子の姿だった。
清王さんの今までにない姿を見て、今度は桜夜先輩が少しだけ表情を変えた。
「大丈夫だ。翠華くんには私たちがいる。全員で新しい日常へ還ろう」
清王翠華「魔弾の誅伐人」の過去が少し解かった気がする。
清王さんは元の世界でも誅伐をする事が日常だったのだろう。
その日常には、もう清王さんは戻りたくない。
清王さんも……人を殺したくなんてないんだ。
あと、それ以外にも解かったことがある。
清王さんは……あの時見せたように、可愛いものが好きな普通の女の子なんだ。
今までたった一つの揺ぎもなかった清王さんは今、過去を、そして日常を思い出して震えているんだ。
「あたらしい……にちじょう……」
清王さんはゆっくりと銃口を下ろした。
相変わらず無表情だが、その無表情の中には微かな希望が宿っていた。
「じゅん」
力強く、そして優しい声で美唯は俺の名を呼んだ。
「ああ、絶対に還ろう」
俺は力強く美唯の手を握った。
この温もりは……絶対に離さない。
今度こそ――絶対に。
「桜月導! この時を逃すな!」
「ああ、解かっている。行くぞっ!!!」
ガイに返答しながら桜夜先輩は先頭を弾丸のように駆け抜ける。
その桜夜先輩の背中を守るように、ガイが走る。
当然、俺たちは桜夜先輩の弾丸のようなスピードには追いつかない。
だが、そんな俺たちを守る人影が一人いた。
「「翠華ちゃんっ!」」
美唯と月守さんは見事合っている声で清王さんを歓迎した。
だが清王さんは険悪そうな表情は見せず、小さく微笑んだ。
「私が、貴方たちを守る――」