23話-(1) まだ視ぬ力に下す運命
ー君の魂に抱かれてー(きみのこころにだかれて)
この作品はフィクションです。
登場する人物・団体・地名・事件・世界設定などは全て架空の物であり、
実際の物とは一切関係ありません。
「君の魂に抱かれて」は本編とboy and girls' aspects
で構成されています。
初めて読む方は、本編からご覧ください。
「還りきたれ! 千鳥! 三日月宗近! 神切!」
部屋から出て桜夜先輩が呪を唱えると、空間を超えるような――本当に一瞬でそれぞれの刀が桜夜先輩の手のひらに還る。
これは本当に空間を越えているかもしれない。
三振りの刀をを廻しながら腰へ差した。
「一回寮に戻る。弾倉が少ない」
清王さんが桜夜先輩に確認を取る。
独断専行の清王さんが確認を取るなんて……昔は有無も言わずに寮へ戻っていただろう。
「そうだな。補給出来る時にした方がいい」
「それは助かる」
ガイも弾倉が少ないのか、そう言って背中の狙撃銃を自然と肩にかけ直した。
「では、寮へ向かうぞ!」
桜夜先輩が先頭で駆け出す。
それに続いて俺たちも駆け出すのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇
ここが寮……なのか?
まるで学校のような規模と外見。
「桜夜先輩……ここが寮なんですか?」
「ああ、そうだ」
俺の質問に平然と返した桜夜先輩。
桜凛高校に寮はないから寮は初めて見るかもしれない。
寮ってこんなに立派なもんなのか?
「これは立派な……」
美唯も俺と同じ反応をし、寮を見上げる。
「璃桜……もしかしたら……」
桜夜先輩が何かを呟いた。
「行くぞ」
桜夜先輩の言葉で寮の中へ入って行った。
◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇
桜夜先輩によると、この寮は4階建てで1、2階が男子。
3、4階が女子っという風になっているらしい。
だから男子は3、4階が侵入禁止だとか。
だが、その逆は可能らしいが。
という訳で、俺たちはそれぞれ自分の部屋に向かう前に、一階の広間に体感時間30分後に集合という事で別れた。
時計が使えないと不便だな……。
一階広間の時計を見ると、5時10分で止まっている。
この時間に――俺たちはこの異世界に堕ちたのだろう。
「私の部屋に案内しよう。ついてきたまえ」
そう言うより先に桜夜先輩が階段を上り始める。
俺たちは黙って桜夜先輩の後をついていく。
視線は初めて見る寮に奪われっぱなしだ。
「桜夜先輩の部屋って何階ですか?」
「4階だ。玄関からは遠いが眺めはいいぞ」
「えっ? 4階だったら俺は行けないじゃないですかっ!?」
「……君は私の話を聞いていたのかね? 女は3、4階と言ったはずだ」
「いえいえ! てっきり1、2階のどちらかと」
「中沢くん。地獄への引導を受け取るかね?」
話の噛み合っていない会話を桜夜先輩としていたら、俺は男だというのに禁断の領域(女子寮)に足を踏み入れてしまう。
「……俺、捕まったりしませんよね?」
「中沢くんが武装高の生徒だったら寮長に火炙りにされていたかもな」
「あははは、まさか女子寮に入ったぐらいで火炙りなんか……」
「実例はあるぞ」
……俺は言葉を失った。
◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇
「部屋って何人部屋なんですか?」
「基本的には2人部屋だ。科を超えて一番親しい人と組む事も可能だ」
「で、桜夜先輩は一人部屋で?」
「……いつ私が一人部屋と言った?」
「「「ええっ!? 一人部屋じゃないんですかっ!?」」」
桜凛高校3人の声が見事に揃った。
「……それはどういう意味だ?」
「桜夜先輩は一人部屋って雰囲気が漂ってますよ?」
「わ、私にだって心許せる友はいるっ!」
桜夜先輩は歯を食いしばって、歩くスピードを速めた。
◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇
「桜夜先輩のルームメイトってどんな人ですか?」
「中沢くん。君はなぜ質問ばかりする?」
「ちょっと気になりまして……」
ちょっと所じゃない。
かなり気になる。
「……どんな人と言われてもなぁ」
「もちろん女の子……ですよね?」
「なぜ確認を入れる?」
桜夜先輩は少し頭を悩ませる。
あの桜夜先輩のルームメイトだ。
刀の話をしだすと止まらない剣術一筋な人なんだろう。
「刀の話を良くする感じの人ですか?」
「――いや、なんだか理解し難い話ばかりしてくる」
桜夜先輩が理解出来ない話……。
「どんな話なんですか?」
「服がどうの……テレビがどうの……かわいいものがどうの……料理がどうの……サブマシンガンがどうの……」
最後のサブマシンガンを除いては、普通の女の子っぽい。
桜夜先輩と本当に性格が合うのだろうか?
現代を生きるルームメイトと剣術一筋の桜夜先輩だぞ?
そんな事を思っていたら――
「ここだ」
桜夜先輩の足が止まった。
どうやら桜夜先輩の眼の前にあるドアが桜夜先輩の部屋らしい。
ガチャッとドアノブを捻るがドアは開いてくれなかった。
「璃桜の奴……鍵を閉めるとは何とも無用心な……」
「……普通逆だと思います」
桜夜先輩は千鳥の鞘を腰から抜く。
そして、鞘の下緒にキーホルダーのように付けてある鍵をそのままドアノブに近づけ鍵を開けた。
そんな所に鍵を付けてるのか……桜夜先輩は。
「まぁ、入るといい」
桜夜先輩は中に入ると、扉を開けたままにして俺たちを招待する。
「「「おじゃまします!」」」
桜夜先輩の言葉に甘えて、俺たちは桜夜先輩の部屋に入った。
「桜夜先輩」
「ん? どうしたかね中沢くん?」
「手前半分が桜夜先輩の部屋ですよね?」
「ああ、そうだが……良く解かったな」
手前半分は……女の子の部屋にしては物が少なさ過ぎる。
奥半分は……華やかな可愛らしい女の子の部屋。
ラインなどはないが、見えない国境がそこにはあった。
「やはり璃桜はいないか……」
桜夜先輩は人数分の座布団を自分の領域に敷き、自分専用であろう座布団に腰を下ろした。
「ん……どうしたのかね? 座らないのか?」
「あ、はい。では……失礼します」
俺はとりあえず一番近かった座布団に腰を下ろした。
それに続いて美唯、月守さんも腰を下ろす。
思わず桜夜先輩の部屋を一望してしまう。
「もてなしも出来なく面目ない」
桜夜先輩がペコリと頭を下げた。
「いえいえっ! 電気も使えないんですから仕方ないですよ」
俺はそう言いながら両手を左右にパタパタさせる。
「そう言って貰えると助かる」
軽く一礼すると、自分の眼の前に刀三振りを並べる。
先輩は銃ではないから弾倉は一切関係ない。
ならば刀の手入れだろうか。
「桜夜先輩の体感時間だと何分経過しましたか?」
「また君は質問か……」
「ちなみに俺の体感時間は2、3分です」
「私の体感時間だと10分はゆうに経過しているな」
そう言うと桜夜先輩は視線を刀に落とした。
ああ、これはもう話しかけない方がいいな。
手入れが始まるのだろう。
「美唯の体感時間だとどのぐらい?」
「う~ん……7、8分かな」
俺の体内時計を相当狂ってるのか?
この異世界に堕ちた影響もあってかなりネジが外れたらしい。
「月守さんは?」
「う~ん……8年ぐらいかな?」
「ごめん。月守さんの冗談って届きにくいよ」
「ええぇ~!」
俺たちが雑談をしていたその瞬間――
『ズドォ―――――ンッ!!!!!』
まるで花火が上がったような……そんな爆音が響いた。
その音に桜夜先輩は機敏に反応し、窓の外から音のした方――武装高の屋上を見る。
「信号弾っ!?」
桜夜先輩はその正体を信号弾だと確認し、素早く三振りを腰に差す。
俺は状況が掴めなく、ただ桜夜先輩の動作を見ていた。
「武装高に生徒が戻ってくるぞ――!」
武装高に生徒が戻ってくる?
一瞬では理解出来なかったが、直ぐに理解出来た。
俺たちが桜凛武装高校へ進入した時、生徒は誰もいなかった。
桜凛武装高校全生徒は命令遂行の為に桜凛市内で活動しているからだ。
つまり今の信号弾は――桜凛武装高校へ戻れっという合図。
「武装高から出るぞっ!」
桜夜先輩が千鳥を鞘から右手で抜き、刃先を下へ向けて握る。
これはまずい状況になった……。
武装高を行き来できるのはあの巨大橋、虹陵橋しかない。
戻ってくる生徒も、もちろん虹陵橋を渡るだろう。
そこで大人数と鉢合わせたら……一刻を争う事態だ。
俺たちは桜夜先輩を先頭に、全速力で寮の一階――待ち合わせの広間へ向かう。
『ズドォ―――――ンッ!!!!!』
もう一度、信号弾が発射される。
今度は見なくても解かる――信号弾が爆発したのはこの寮の真上だ――!
恐らく発射しているのは朝倉で、俺たちの居場所を教える為に真上に発射したんだ――!
「清王くん! ガイくん!」
俺たちより早く、待ち合わせの場所に2人は居た。
「事態が悪化した」
清王さんは怪訝な表情でそう呟き、常に両手に握ってある銃を持ち直した。
清王さんが左右に持っているハンドガンには、フレーム付近に大型のナイフが装備されている。
剣戟戦も可能という訳か。
「止まっている暇はない。桜凛武装高校から出るぞ――!」
全員が同時に頷き、全速力で桜凛武装高校の出入り口――虹陵橋へ向かう。
俺たちが先に出るか、先に来られるか――それが勝負の分かれ道だ。
それにしても……なぜ朝倉はこうも唐突に?
俺たちを不殺の罠に何度も嵌めたということは、俺たちを殺せたんだ。
なのに殺さなくて、なぜ今になって増援を呼ぶんだ?
矛盾もいい所だ。
「間に合うかっ!?」
武装高の校門に差し掛かった所で桜夜先輩は声を上げた。
校門を潜れば、後は1kmにも及ぶ虹陵橋を渡るだけだ。
桜夜先輩は校門の先の――虹陵橋を凝視する。
「くそっ! やはり手が回ったか!」
視力の良い桜夜先輩は多数の人影を捉えていた。
「もう来てるんですか!?」
「だがまだ数は少ない! 一気に駆け抜けるぞ――!」
あの信号弾から数分だぞ!?
たった数分でも手が回るのか……!
とにかく一心不乱に走るしかない――!