22話-(1) 探し続けた答え
ー君の魂に抱かれてー(きみのこころにだかれて)
この作品はフィクションです。
登場する人物・団体・地名・事件・世界設定などは全て架空の物であり、
実際の物とは一切関係ありません。
「君の魂に抱かれて」は本編とboy and girls' aspects
で構成されています。
初めて読む方は、本編からご覧ください。
まったく俺は何をしているんだ……。
探し続けた朝倉が今、眼の前にいるんだぞ?
朝倉がくれた焼き芋を食べてる場合じゃないんだよ!
だけどこれがまた美味い。
不味かったら朝倉の弱みを握れたのに……。
「むっ、これは……ッ!?」
朝倉は何かに気付いたように、周りをそわそわと見る。
「ん……どうしたんだ?」
気になった俺は、つい朝倉にフランクに接してしまった!
これじゃ友達みたいじゃないか!
その瞬間――
『ドカン―――――ッ!!!!!』
俺たちの眼の前にある焚き火の黒煙が、まるで噴火したかのように噴き上がり、天地を揺らす程の大爆音が空間ごと揺らす――!
その黒煙で、俺の視界は一瞬で覆われる……。
「く、くそぉ……!」
結界を創って逃げられる前に朝倉を閉じ込めようとしたが、黒煙で眼が開けない……。
叫ぼうとする度に黒煙が喉に入り、咽るような咳が出る。
俺は瞼を強く閉じ、腕で口を塞ぐ。
視界が晴れるまで俺にはこれしか出来ない……。
唯一役割を果たしている耳からは、咳き込む声が聞こえてくる。
くそぉ……また俺は何も出来ないのか……。
少し眼を開けると、黒煙が消えているのが確認出来た。
そして、ゆっくりと眼を開く。
「美唯! 月守さん! 大丈夫か!?」
「うん……私は大丈夫だけど……」
――返って来たのは美唯の声だけ。
ま、まさか……。
「月守さんっ!?」
俺は慌てて周りを見渡す。
だが、その返事は返ってこなかった。
「り、りんかっ!?」
美唯も周りを見渡す。
だが、視線の先に……月守さんはいない。
「う、うそだろ……」
月守さんが……誘拐された――
またしても朝倉に……しかも桜夜先輩と同じ手口で……。
俺の中に悔しさじゃ形容できない感情が立ち昇る。
また俺は朝倉の手の平で踊っていたのか……。
「桜夜先輩……月守さん……すぐ、すぐ助けに行きます」
俺は唇を噛み締め、武装高の校舎を見る。
「美唯っ! 行こう!」
俺は美唯の手を握る。
絶対に美唯は……美唯だけは渡さない。
渡せないから……絶対に渡せないから俺は美唯の手を握る。
「うん!」
俺は美唯の手を握ったまま、校舎へ走っていった。
◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇
桜凛武装高校一階――
「絶対に桜夜先輩と月守さんを助けるぞ」
「うん……絶対に助けよ」
握られた手は離さず、俺たちは一階の廊下を歩く。
また一階に逆戻りか……。
「美唯、俺の考えが正しければ朝倉は最上階――屋上にいる」
「え……? どうして?」
「落とし穴……いや、落とし床か。それがあるという事は上へ行かれたらマズイということだ」
「そうか! 朝倉は屋上にいるから上へ行かれたら不都合なんだ!」
「そういうことだ」
朝倉が一階、もしくは下の階に陣取っているなら、上へ行く俺たちを下へ落とすはずがない。
あと、相当この学校は朝倉によって要塞化されている。
これで電気が使えたら……俺たちは歯が立たないだろう。
ん……? そういえば電気を使っていた事もしてたような……。
あのピアノの電子音……それに朝倉の携帯……。
駄目だ。今考えてもしょうがない。
と、俺の眼に輝くものが見えた。
「スットプ!」
俺は空いている左手を横薙ぎに払い、美唯にストップをかける。
「え……? どうしたの?」
「あれを見ろ」
俺は顎で前方を指す。
俺たちの前にあるのは何の変哲のない廊下。
だが――
「うわぁ……すごい光ってる……」
恐らくワックスの類だろう。
廊下は一面大理石のように輝いている。
慎重に歩いていても、滑って転倒は免れないだろう。
「美唯、ここはあれしかない」
「ええ? あれって?」
俺は美唯の手を握ったまま、助走のとれる距離まで後退した。
普通に歩いても滑るんなら――
「滑る前にこっちから滑り込めばいい!」
俺は一気に駆け出す――!
「ええっ!? きゃふ―――ッ!!!」
手を握っている美唯は、俺が駆け出したことで突き動かされた。
「滑り込むぞ美唯!」
「ええっ!? ちょ……!」
「1……2……3!」
123の合図で俺と美唯は美しいぐらいに同時に滑り込む――!
これは……ウォータースライダーの如く思ったよりすごいスピードだ!
滑り込み方が上手かったのか、猛スピードだというのにも関わらず、俺たちは真っ直ぐに滑って行く――!
いける――!
「美唯! スライディングの勢いを利用して一気に駆け抜けるぞ――!」
「あ、う、うんっ!」
徐々に終わりが見えてきた。
あのラインから普通の廊下だ。
「1……2……3!」
俺は握られている右手を軽く上げて美唯を起こし、折っている左脚を地面に着かせる。
そして、左脚を伸ばし上体を前のめりにして、右脚で踏み切る――!
俺が上手く立ち上がった事を利用して、俺は握られた手で美唯を立ち上がらせた。
「行くぞ美唯!」
「うんっ!」
自分でも驚くぐらいに綺麗に立ち上がれた。
だが、今は歓喜している場合じゃない。
俺たちはスライディングの勢いを殺さず、トップスピードで廊下を駆けて行った。
◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇
俺たちの眼の前には、階段がある。
この階段は恐らく屋上へ続いているだろう。
俺はこのまま一気に階段で屋上へ行くべきだと思う。
だが、独断で決める訳にはいかない。
「美唯、俺は一気にこの階段を上って屋上へ行った方がいいと思う」
「私は潤を信じてるよ」
美唯は笑顔で俺と少し視線を合わせた。
やるしかない。
この異世界を脱する為に、俺は朝倉と対峙するしかない――!
「行くぞっ! 美唯!」
「うんっ!」
手に引かれるままに、美唯は俺の横を並走する。
階段を段飛ばしで駆け抜け、俺たちは朝倉のいるだろう屋上へ向かう。
ようやく……ようやく探し続けた答えに辿り着けるかもしれない。
この真実へと続く道が、すごく長くて、すごく重く感じる。
「この扉か……」
一心不乱に上った階段はこれ以上先がない。
俺たちの眼の前にあるのは――金属製の扉のみ。
「これが……屋上の扉?」
「ああ、恐らくそうだ」
俺は扉の前で立ち尽くし、呼吸を整える。
――自然と異世界に堕ちた時を思い出した。
何が起きたかなんて解らなくて、電気も使えなくて人もいなくて……。
そして、桜凛高校の生徒が銃で撃たれて……。
俺は美唯の手を握ってひたすら逃げて……。
そんな俺が、桜凛武装高校の最高指揮官ともいえる朝倉と対峙しようとしている。
考えてみるとおかしな話だ。
「美唯! 絶対に俺たちの日常へ戻ろう!」
「うん! 絶対に……一人も欠けないで戻ろう!」
俺はドアノブに手を掛けた。
異世界に堕ちたのが――俺たちの運命なら、その運命は俺たちの手で断ち切らなければならない。
俺たちの日常を取り戻す為に、俺は扉を開け放った――