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21話-(1) 彷徨う月夜に映る真実

ー君の魂に抱かれてー(きみのこころにだかれて)


この作品はフィクションです。

登場する人物・団体・地名・事件・世界設定などは全て架空の物であり、

実際の物とは一切関係ありません。


「君の魂に抱かれて」は本編とboy and girls' aspects

で構成されています。

初めて読む方は、本編からご覧ください。



普段の日常の事や、他愛もない話。

架瀬さんとは出会ったばかりだが、今までに、遠い昔に会っていたようなこの感覚。

きっと、この世界で出会わなければ、いい友達でいれただろうな……。

そう思うと口惜しさが胸に沁みる。


「そういえば、なぜお二人は武装高に来られたのですか?」


「……え?」


架瀬さんの質問に思わず黙り込んでしまった。

『異世界の真実を探しに来た』なんて言えない……。

架瀬さんに真実を知って欲しくない。

頭で会議をしていたところ、早々と美唯が口を開いた。


「武装高に友達がいるんですよ。その友達が一回ぐらいは来いっと言うので」


「なるほど、そういうことでしたか」


架瀬さんは納得してくれて、優しく微笑む。


「よろしければ、その友達を教えてくれませんか?」


自分も知っているかもっというニュアンスで聞いてくる架瀬さん。


「桜夜先輩です」


「桜夜さんですか? 意外な方とお友達ですね」


指を口元に当て、クスクスと架瀬さんは笑う。

やっぱり、あの人は有名なのだろうか。


「桜夜先輩ってやっぱりその……有名なんですか?」


美唯も心中で思った同じ質問をする。

やっぱり、考えてること同じだったんだな。


「ええ、もちろんですよ。桜夜さんは武装高の中でも屈指の最強剣士ですからね」


武装高の中でも屈指の最強剣士……。

それもそのはずだ、あんなに強いんだからな……。


「桜夜先輩っていつもはどんな感じなんですか?」


「そうですね……」


美唯の質問に少し考える架瀬さん。

桜夜先輩の学生生活か……。

俺は壮絶な生活をしている桜夜先輩しか知らない。

一体、どんな学生生活を送っているのだろうか。


「既に卒業できる単位を揃えているのもあって、あまり授業や実習には参加しないですね」


「まったくあの人は……」


はぁっと美唯は肩を落とす。

俺の中ではなんというか……まめで真剣に授業とかに参加してるイメージだった。

授業中にうるさい人がいれば、

『静かにしたまえっ!』

と、ビシィ!と注意する人柄かと思ってたのに……。

まさかその舞台にすら立っていないとは……。

まぁ、確かに桜夜先輩といえば桜夜先輩らしいか。

ちょっと抜けてる所があるからな。


「知っているかとは思いますが、桜夜家は武家三台名門の一家ですからね……」


「「ええっ!? そうなんですか!?」」


やっぱりそうだったんだ!

桜夜先輩は武家の家系に生まれて、小さい頃から修行に明け暮れていたのだろう。

一方、架瀬さんは俺たちのまったくズレのない声に、少し身を震わせていた。


「え、ええ……、だから桜夜さんはいつも桜夜流の鍛錬をしています」


授業、実習をサボっても桜夜先輩は剣術の鍛錬をしているのか……。

俺なら遊んでるな……それか居眠り……。


「だからってサボるのは良くないですよね」


まるで保護者のような口調で言う美唯。


「それは良くはありませんが……」


架瀬さんは少し視線を落とし、自分にも責任があるようにバツの悪そうな顔をする。

表情を曇らせた理由は解らないが、架瀬さんは勉強熱心だと思う。

人柄も良くて家事炊事もすごく出来そうで……。

あと美唯とは違って暴力的でもないし……。

武装高生徒の一人だが、俺の眼から架瀬さんは肉体的に強そうには見えない。

武装高生徒に対して失言だとは思うが、美唯の方が運動神経は良さそうだ。


「桜夜さんはすごく優秀なんですよ。テストもほぼ満点に近い点数で……」


だから先生達も放って置いているっと架瀬さんは語尾に繋げた。

そういえば、桜夜先輩のうんちくは凄かったな……。

確かに会ったときから才女な感じはしたが、ここまでとは……。

ん……? ちょっと待てよ……。


「桜夜先輩っていっつも鍛錬に明け暮れてるんじゃなかったんですか?」


「しっかり時間を確保しているのでしょう。桜夜さんにはまったく頭も上がりません……」


……この世の中は不公平だ。

俺は部活もしてないから、時間も美唯にあげるぐらいあるのに、どうして勉強が出来ないんだ?

……勉強してないからか。

その前に、美唯にあげるほど時間があるってどういう意味だ?

後で何でも知ってる桜夜先輩に聞いてみよう。


……。……。……。


さくらよせんぱい?


あああッ―――!!!


「そうだ! 桜夜先輩を探さないと!」


思い出した勢いで俺は立ち上がってしまった。

すると傍らに座っていた美唯も勢い良く立ち上がった。


「そ、そうだよ! 潤なにやってんのよ!」


「お前だって今気付いたんだろっ!?」


俺はベットの方を見る。

そこには、すやすや眠っている月守さんがいる。

俺はバッ!とベットまで一足で跳ぶ。


「う、うそっ!?」


俺の華麗な跳びに心奪われたのか、美唯は驚愕の声を上げる。


「な、中沢さんって何者ですかっ!?」


架瀬さんまで驚愕の声を上げている。

はて、俺はそんな凄いことをしたのだろうか。

俺はさっきまで座っていた場所と、今立っている場所の距離を見てみる。


「おおおッ!!!」


今度は俺が驚愕の声を上げてしまった。

普通の人間なら絶対に一足では跳べないだろうという距離――

桜夜先輩なら跳ばないでも移動してきそうだが……。


「って、そんなのは良い! 月守さん―――ッ!!! 起きろっ!」


俺は月守さんの肩を掴み、豪快に揺らす。

反応は……。


「あ、あとごふん……」


寝返りをしてそっぽを向かれた。

後五分って。

朝、子供を遅刻しないように起こす母親のようじゃないか。

なんで俺が母親役なんだ。


「起こされる+あと五分=絶対に遅刻! いいから起きろっ!」


「うるさいなぁ~りおん。お姉ちゃんはまで眠たいんだよぉ……」


ああ、月守さんの妹は毎朝大変だな……。

恐らく、毎朝起こして貰ってるんだろう。


「起きないというならこっちも考えがあるぞ?」


「ふにゃふにゃ……」


俺の最後の警告を享受しないとは……。

その度胸だけは駆ってやろう。

行動を起こそうとしたその時――


「中沢さん! 桜夜さんを探しに行かれるのですよね……?」


「あ、はい、そうですけど」


何だろう?

架瀬さんは何かを言い難そうにしている。


「実はこの部屋から出られないんです……」


「ええっ!?」


架瀬さんの絞り出すように言った言葉に、俺は耳を疑った。

この部屋から出られない……?


「どうやっても出れないんですよ……私も早く出たいのですが……」


俺は部屋を見渡す。

ドアはある。

だが、それはまるで金庫のようなドア。

窓もなく、出られそうの箇所は……一つもない。

かなり豪華な独房というべきか。


「な、なら俺たちはどうすれば……」


美唯は真相を確かめに鋼のようなドアに向かう。


「駄目だ……ビクともしない」


と、閉じ込められたのか!?

俺たちは!?


「架瀬さんはどうしてこの部屋に?」


美唯が冷静に架瀬さんに質問をする。

確かに、どうして架瀬さんはこの部屋に閉じ込められているのだろう?


「私……この数日間の記憶がないんです……」


「眼が覚めたらこの部屋で……記憶が抜けたみたいに何も覚えてなくて……」


架瀬さんの身体は少し震えていた。

恐怖と不安で一杯なのだろう。

架瀬さんが嘘を言っているとは一切思えない。


――架瀬さんは……本当に何も知らないんだ。

この世界の事も、そして数日間の記憶も。


数日間……?


俺はこの言葉が引っ掛かった。

数日間前ってもしかして……。


「こんな事聞いてすいませんが……覚えているのはどのぐらい前ですか?」


「そうですね……一週間程前です」


「一週間前……」


約一週間。

やはり憶測通り、異世界の始まりと同じだった。

理由は解らないが、何か関係があると見ていいだろう。

異世界に堕ちた影響で記憶を失ってしまったかもしれない。


「潤、どうやってここから出る?」


「そうだな……まずは月守さんを起こそう。美唯も手伝ってくれ」


「うん、分かった」


美唯が席を立ち、月守さんが粘り強く眠っているベットに近づく。

架瀬さんは席に座ったまま、こちらの光景を見守っている。

俺が再び起こそうとしたその時――


「おはようっ!!!」


「うぉおおおっ!?」


勢い良く月守さんが上体を起こした。

ああ、びっくりした……。

お年寄りだったら心臓止まったな。

美唯もからだをビクッと震わせていた。


「あ、ああ、おはよう……」


俺は一応返事を返す。

まだ鼓動が速い……。

すると、月守さんは地面に足をつき、立ち上がった。


まるで、この時を待っていたかのように、それは図ったタイミングだった。


俺たちの体重を支えている床が堕ちたのだ――!


「うぉおおおッ!?」


突然、失われた立っているという感触。

このままだと、俺たちは重力に従って下へ堕ちて行く……。


「きゃッ!?」


「うわぁ!?」


美唯と月守さんも金切り声を上げる。

だが、落とし床に嵌るのはこれが初めてではない。

俺も対策を練っていたのだ。


「うぉおおおッ!!!」


俺は左眼を見開く――!

まだ、堕ちてはいない!

まだ部屋が見える!

だが、下へ堕ちるのも時間の問題だ。

もう、俺たちには床がないのだから……。


「お、落とし床っ!? み、みなさん―――――ッ!!!!!」


架瀬さんの声が聞こえる。

架瀬さんはソファーに座っていたから落とし床には嵌らなかった。

そうか……これも朝倉が仕組んだ……。

架瀬さんは堕とさず、俺たちのみ堕とす。


だが、朝倉の好きにはさせない。

俺が円状に結界を創れば、結界という名の床が出来る。

それを創れるだけの時間はあった。


「――ッ!?」


だが……結界が創れない・・・・・・・

ど、どうして結界が創れないんだ!

俺の結界は自由に創れるはずだ!

しかし、結界どころか左眼が熱く滾る感覚もない……。


成す術もなく、俺たちは暗い闇へと堕ちて行く……。


「!!!!!!」


架瀬さんの息を呑む短い悲鳴が聞こえた。

だが、俺の視界にはもう架瀬さんはいなかった。

そして、俺は凄まじい浮遊感に襲われる……。


「「「うわぁあああああああああああああ―――――ッッッ!!!!!!」」」



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