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20話-(2) 

ー君の魂に抱かれてー(きみのこころにだかれて)


この作品はフィクションです。

登場する人物・団体・地名・事件・世界設定などは全て架空の物であり、

実際の物とは一切関係ありません。


「君の魂に抱かれて」は本編とboy and girls' aspects

で構成されています。

初めて読む方は、本編からご覧ください。



真実を知れば、架瀬セナの世界・・・・・・・が壊れる。

俺たちは、それを既に知っていた。


いや、知っているふりを・・・・・・・・していたのだろうか?・・・・・・・・・・

知って壊れる世界は――


架瀬セナの世界・・・・・・・ではなく俺たちの世界・・・・・――


俺たちは何も知らなかった――


この世界の真実を・・・・・・・・






俺は黙って架瀬さんを見つめる。

その表情は、俺たちが異世界に堕ちてから決して見ることの出来なかった「至福」

まさにそれだ。


そんな彼女のひと時を奪いたくない。


横目で美唯に微笑をし、美唯も同じように微笑を漏らす。


「架瀬さんは幸せそうですね」


思わず口から出てしまった。

こんなことを言うのは失礼だと思って後悔したが、架瀬さんは笑ってくれた。


「幸せに見えますか?」


「はい。あ、こんなこと言ってすいません」


「いえ!いえ!」


架瀬さんは自分の前で大袈裟に両手をパタパタさせる。


「なにも失礼ではありませんよ?私にとっては褒め言葉です。……ですけど――」


そう言って、架瀬さんは自分のまだ温かいお茶を手に取る。

それを自分の太もも辺りに持ってきて両手でしっかり包むように持つ。

架瀬さんは、視線を落としお茶を見つめる。


「……幸せなんて、一瞬で壊れるぐらい儚いモノですから」


「――ッ!!」


ザクッと胸に棘が刺さったような痛みが走った……。

「幸せなんて、一瞬で壊れるぐらい儚いモノ」

まるで、俺の過去を知っているかのように悟った架瀬さんの言葉に――

俺の魂の中で様々な感情が蘇る。

もう二度と触れたくない、この悲しい熱情。


「そ、そんなことは……!」


美唯も声を上げたが、そこで途切れ眼を逸らしてしまった。


この異世界に堕ちて俺たちの幸せは一瞬で壊れた。

幸せって、こんなに儚いものなのだろうか。

俺は肯定も否定も出来なかった。


架瀬さんは唇を強く噛み締めた。

その表情は頭上で見えないが、悲哀な表情をしているのだけは解った。


「……どんなに一緒にいたって……別れはいつも唐突で一瞬で――」


その架瀬さんの声は震えていて、ポタッポタと輝く雫が落ち始めた。

俺はその涙を拭うことも、何も出来なかった。

どこまで俺は無力なんだろう。


架瀬セナの過去は俺は知らない。


ただ、華やかな過去ではない。それだけは解った。


バンッ!

その瞬間、美唯がテーブルを叩き、その勢いで立ち上がった。


「確かに別れは一瞬です……どんなに愛しても、どんな想いでも……でも……!!」


美唯は強く架瀬さんを見つめた。


「一生一緒にいたって別れは絶対に来るんですよ!ならその瞬間まで笑って、一緒にいれればいいじゃないですか!」


「――ッ!」


美唯の言葉で、俯いたままだった架瀬さんが美唯の瞳を見た。

その瞳は滲んでいて、目は少し赤かった。


「だから……そんな悲しい顔しないでくださいよ……」


その美唯の言葉が――

激しく俺の心を動かした。




美唯eyes




昔の私なら、絶対に言わなかった言葉。


それは『別れ』


『別れ』なんて私は信じていなかった。

いいえ、信じられなかった。

考えも想いもしなかった。


ずっと同じ景色を見て、ずっと一緒にいた人と――

何も変わらずに、毎日を過ごしていきたい。

笑って、怒って、悲しんで、バカにしたり、バカにされたり、たまに喧嘩して、

状況が変わっても、何が起きても、決して終わることのなかった。

だって、それは『あたりまえ』で、世界にたった一つの――


私の日常なんだから――


消えるはずがない。失うはずがない。

私の日常が、もしも壊れた瞬間とき――

それは全ての終わりで、私の世界の終わり。


なら、今の私はどうなるの?


一瞬で日常を奪われて、いつ死んじゃってもおかしくない世界に連れて行かれて――

この世界は私の日常じゃない。

なら、もう私の世界は終わったの?


いえ、まだ私の世界は続いている。



――どうして?



私の日常が壊れたのに、どうして私の世界は終わってないの?

だけど、私がこの世界に来て、分かったことがあった。

別れは絶対に来る・・・・・・・・ということ・・・・・


この世界では人殺しが日常化していて、いつ誰が死んじゃっても不思議じゃない。

死んじゃえば、私の日常は終わる。

大切な人が死んじゃえば、私の日常は壊れる。

それほどに私の日常は儚いものだったんだ。

今思えば、それは幻や奇跡に思える。


それと、もう一つ解ったことがある。


私はこの世界で・・・・・・・死ぬのだと・・・・・


私の世界の終焉を眼の前にしている私に出来ること。

それは、その瞬間まで笑って一緒にいること。

それしかなかった。それしか……それしか……。




潤eyes




美唯……変わったな……お前も。

俺はどんな美唯でもずっと傍にいたい。

俺たちは小さい時から、お互いの悪いところは直しあってきた関係だ。

今の美唯を俺は応援したい。

それは良い方向の変色だ。


「成沢さん……」


架瀬さんは涙を人差し指で拭う。

そして、美唯を滲んだ瞳で見つめる。


「こんなこと言ってくれたのは、貴方が初めてです……ありがとうございます」


「わ、私はそんな大層なことは言ってませんよ!ただ自分の想いを言っただけで……」


美唯は少し頬を高潮させ、パタパタと両手を振る。


「とても素敵な想いを持っているのですね。尊敬します」


架瀬さん温かい笑顔で言う。

それが、更に美唯の頬を高潮させた。


「うぅ……」


そう恥ずかしそうに声を漏らし、失速した勢いでへなへなっと座った。

よほど恥ずかしかったのだろう。

そんな美唯を見て、俺はふぅっと笑みを零してしまった。


「ちょ……笑わないでよ……」


すっかりと、美唯は縮まってしまった。

いつもなら殴る蹴るの暴行を受けるのにな。


「本当に……ありがとうございます。成沢さん」


そんな美唯を見て、架瀬さんは綺麗に一礼をした。

架瀬さんを滲ませていた悲しみの象徴の涙は、もうない。


この優しい笑顔に包まれた時間が、絶望さえも包んでいく。


それほどの美しさで、そして、何より儚い瞬間だった。



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