19話-(2)
ー君の魂に抱かれてー(きみのこころにだかれて)
この作品はフィクションです。
登場する人物・団体・地名・事件・世界設定などは全て架空の物であり、
実際の物とは一切関係ありません。
「君の魂に抱かれて」は本編とboy and girls' aspects
で構成されています。
初めて読む方は、本編からご覧ください。
「……ん?」
意識を失っていたのだろうか……?
ここは……?俺は状況を把握しようと立ち上がる。
「あれ?立ち上がれない……」
俺は思い瞼をゆっくりと開いた。
「!!!!!!」
み、密着しすぎだ……!
もう、何がなんだか分からない。
俺の上には美唯がいて、俺のすぐ左には月守さんがいて……。
だから立ち上がれないのか……。
「だ、大丈夫ですか?」
動揺を隠し切れない俺に、優しくて綺麗な少女の声が届く。
「ああ、大丈夫……」
その優しい声に俺は反射的に言葉を返してしまった。
この声は美唯でもないし、月守さんでもない……。
「手伝いましょうか?」
前も美唯しか見えないので、もちろん少女の顔も見えない。
二人の女の子と密着してる状態での初対面ってめったにないぞ……。
「いや、俺がどうにかするよ」
「そうですか。もし駄目そうでしたらいつでも助けを呼んでくださいね。私はここで見守ってます」
顔は見えないが、少女が微笑んでいるのが口調で分かった。
ってか、見守ってるて……。
それはそれで変なプレッシャーがかかるな……。
「あははっ、ありがとう」
ふぅ、と俺は深呼吸をする。
上には美唯、そして左には月守さんが密着している。
やはり誰もいない右側にスライドするのが上策か……。
いや、そうしたら俺の上に乗ってる美唯が「きゃふっ!」とか言って顔面強打するだろう。
だから俺は右側にスライドすることは出来ない。
万策朽ち果てたか……。
いや、落ち着け……まだ策はあるはずだ。
こんな格好をいつまでも少女に見せる訳にはいかない
……。……。……。
美唯を起こすか……。
今は気絶しているのか、意識がない。
美唯さえ起きれば、俺達は解放される。
よっし!起こすか!
俺が美唯を起こすなんて珍しい……。
ってか、どうやって起こせばいいんだ?
「みゆ!起きろ!」
……。……。……。
やっぱり目覚めないか……。
俺は右手を不恰好に美唯の鼻まで伸ばし、鼻を摘む。
右手が不恰好なのは密着して上手く伸ばせないからだ。
……。……。……。
予想通りだ……。やはり目覚めない。
俺は次の策に出る為、左右の手の平を美唯の頬に置いた。
「美唯、許せ」
パンパンパンパン……。
俺は軽く往復ビンタを左右で始める。
「きゃふ……」
おお、少し反応があった。
このまま一気に決めるぜ!
パンパンパンパン!!
「うぉぉおおりゃああああああああああああッ!!!」
俺は必要以上に力が入り、軽くのつもりが強く叩いていた。
「いたい……いたい…いたい……いたい!!」
その瞬間、美唯の目が見開いた。
「おお、おはよう!」
俺は爽やかな笑顔を美唯に送る。
しかし、こんなに密着してると上手く笑えない。
パンパンパンパン!!
「だから痛いって!」
ああ、止めるの忘れてた。
「さぁ、美唯。早く立ち上がるんだ」
「え……?」
美唯は状況を理解出来ないのか、周りをキョロキョロと見る。
そして視線を、美唯の下敷きになっている俺へ向ける。
その瞬間、カァッと美唯の顔をが紅潮した。
「じゅ、じゅんのへんた―――――い!!!」
美唯の右ストレートがこの近距離から飛んでくる――!
ズバシ―――――ン!!!
「理不尽だろう!この流れ!」
俺は激痛に耐えながらも、美唯の肩を両手で掴み、勢い良く立ち上がった。
「きゃぁ!」
美唯の短い悲鳴は聞こえたが、無事に立つことに成功!
っと思った矢先、勢いが良すぎて今度は前方に倒れてしまった。
「ああ゛……」
前方に倒れて、美唯との立場が逆転した俺は――
美唯を押し倒すような格好になってしまった――
「ああ……私はお邪魔のようですね。それでは……」
ああ、そうだった!
ここには初対面の少女もいるんだった!
「ま、待ってくれ!これは偶然が生んだ産物だ!」
俺は慌てて右側に飛び込むように転がり、初めて見る少女に目を向ける。
しかし、既に背中を向けていた。
ああ、なんて綺麗な人だろう。
俺は本気でそう思った。
背中しか見えないが、黒髪で背中ぐらいの長さ。
その髪は漆黒色で輝いている。
そして、俺の声を聞いた彼女は――
ゆっくりと振り返った――
彼女の輝く黒髪が、優美な曲線を描いてその動きを追う。
黒髪碧眼。
それが彼女の容姿だった。
文句なしに綺麗な少女だ。
その証拠に俺は言葉を失っていた。
俺の顔を見た少女は、にこっと微笑んだ。
「申し遅れました。私は架瀬セナと申します」
「あ、俺は中沢 潤。よろしくな」
この架瀬セナという少女は、俺達とは違う制服を身に着けていた。
つまりは、桜凛武装高校の生徒。
『武装』という言葉が無縁に思えるが、やはりそうなんだろう。
そんな事を考えていたら、架瀬さんはゆっくりと俺に近づく。
「中沢 潤くんですね。宜しくお願いします」
にっこりと笑うと、架瀬さんは俺に右手を差し出してきた。
「え……?いきなり慰謝料請求……? 俺、君にはまだ何もしてないと思うけど……」
「なんでそうなるんですか!? 握手ですよ!」
ああ、びっくりした……。
知らない内に架瀬さんにも何かやったのかと思った……。
「ああ、こっちこそよろしく」
俺はそっと架瀬さんの手を握った。
そして架瀬さんはまた優しく微笑んだ。
なんて笑顔の耐えない優しい人だろう。
この世界にも、こんな人がいたなんて……。
「ちょっと潤っ!いつまで私を放ったらかしてるのよ!」
美唯の声が、胸にザクッと突き刺さった。
そうだった……忘れてた……。
しかし、月守さんはまだ目覚めていないようだ。
すると美唯はタッタッと早歩きで俺のところへ。
目は完全につりあがってる。怒ってる証拠だ……。
「はじめまして!成沢 美唯です。よろしくお願いします!」
そのつり目だった表情が架瀬さんと目線が合った瞬間、まるで別人のように一瞬で表情が変わった。
「あ、はい!よろしくお願いします」
あまりの急変さに架瀬さんも少しばかりか動揺しているように見える。
そしてギロッと俺に視線を向けてきた。
これは慰謝料請求より段違いで恐ろしい。
「美唯、別にもういいじゃないか。過去の事は水に流すということで」
「なによ!その妙にいい顔!」
いつも通りの美唯に戻ったことで、俺は今まで気にしなかった回りに目を遣った。
俺達が落ちたこの場所は――




