1話-(3)
ー君の魂に抱かれてー(きみのこころにだかれて)
この作品はフィクションです。
登場する人物・団体・地名・事件・世界設定などは全て架空の物であり、
実際の物とは一切関係ありません。
「君の魂に抱かれて」は本編とboy and girls' aspects
で構成されています。
初めて読む方は、本編からご覧ください。
『ガコンッ!!』
屋上のドアが開く音がした。
今の俺には、ドアを振り返ろうとすら思えない。
「ああっ!やっぱりいた!何してるの!?」
俺しかいない屋上に俺以外の声が響く。
それは美唯だった。
俺は、ゆっくりと振り返る。
「キャッ……風強い……」
美唯は翻るスカートを両手で押さえる。
秋風で美唯の髪が揺れている。
授業はどうしたのだろう?
サボリか?珍しいな……。
それとも俺を連れ戻しに来たか?
「美唯……」
自分でも不思議なぐらい、弱々しい声が出てしまった。
俺はその記憶を吹き飛ばすように、頭を左右に振った。
「どうしたの?また思い出しちゃった?」
そう言いながら、美唯は俺の傍らに近づく。
「ああ……」
また、思い出してしまった。
思い出さないって、誓ったのに……。
美唯に心配をかけたくないのに……。
忘却の檻に閉じ込めたはずなのに……。
「忘れられる訳ないよね……テレビでも流れるくらいだもの」
美唯も俺と同じくフェンスに手を置き、自然と空を仰ぎ見た。
その"記憶"を忘れようと思っていた俺を呪った。
忘れられるはずがない。心からまったく離れない。
まるで、"魂"の一部みたいに……。
「あのとき、何で俺だけ助かったんだろう?」
俺の口が本能に従わされたように無意識に動いた。
だが、これは事実だ。
あのとき、家族は死んで俺だけ生き残った。
◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇
忘れられない過去。
それは交通事故。
車と車同士の事故だった。
俺を含めた4人。
母さん、父さん、俺、そして妹の沙希。
どこに行こうとしていたなんて、今の俺は覚えていなかった。
車内には、家族の会話が鳴り響く。
その会話も、今になってはもう聞こえない。
何処にでもあるような道を自動車で走っていた。
俺はその時、補助席の後ろに乗っていた。
その時の俺は背も小さく、身体を乗り出さないと前は見えない。
だから俺には、何が起きたか分からなかった。
大響音と共にすごい勢いで車同士がぶつかり、その衝撃は激震で天地が揺らぐほどだった。
そのとき俺が眼にしたのは、運転していた父さん、その隣に乗っていた母さんの身体が、ぐにゃりと上下に折りたたまれるような光景だった。
その光景は、今でも生々しいぐらいに覚えている。
それほど大きな事故で、相手の車は逃走車だった。
多分、父さんと母さんは即死だろう。
その光景を鮮烈に思い出した俺の胸は裂けそうに痛む。
なら、何で後ろに座っていた"俺だけ生きている"のだろう?
俺の隣の席には沙希が乗っていた。
だが、その沙希はもういない。
俺の目の前で、無上なほど酷に赤い血が吹き乱れていた。
誰の血なのかもわからない。
だが、昔の俺には『それ』が何を意味していたのか分からなかった。
そんな事故でも俺は『無傷』だった。
だが、テレビでは軽症と流れた。
この事故はの事は、全国ニュースにもなった。
この事故の死亡者は4人。
相手の運転手、母さん、父さん、そして沙希。
なのに俺は無傷。
俺の"日常"は、一瞬で消えていった。
もう、手の届かない処まで……。
十数年経っている今でも、あの絶望は忘れていない。
「大丈夫よ潤。みんな見守ってくれてるよ」
美唯の声にも耳を傾けられなかった。
だが、その美唯の優しい口調は、俺の"魂"からは離れなかった。
「…………」
俺は閉じ込めた記憶を辿り続ける。
あの事故の俺には矛盾がある。
それはまず"俺が無傷"と言うこと。
それと"俺の服に血が付いていない"と言うこと。
あのとき俺の目の前で、赤い血が吹き乱れていた。
なのになぜ血が付かない?
しかも、なぜ俺は無傷なんだ?
まるで俺が何かに"守られてる"みたいじゃないか……。
「潤――?」
美唯は俺の顔を覗き込む。
その仕草に、一瞬ドキっとした。
「ああ、ごめん。しっかりしないとな」
そう口ではいったものの、俺の記憶は鮮烈に蘇る。
家族を失った俺は、成沢家が引き取ってくれた。
俺は事故のあと、酷い精神状態だった。
人間の形をしたただの人形のように。
なんの意力も湧かず、なんの価値もなかった。
だから、青空には涙が滲んでいるように見えた。
何もかもが、くだらなく思えた。
そんな精神状態でも、美唯はいつもと変わらず接してくれた。
だけど、そのときの俺にはそれが苦痛だった。
笑顔を見るのが苦痛だった。
幸せに触れることすら、苦痛でしかたがなかった。
そんなときでも美唯は俺と接してくれた。
毎日、毎日、毎日……。
そんな精神状態と生活が数年続いた。
俺の性格は暗いままだった。
学校すら行かない俺に友達もいないし、いらなかった。
こんな世界に生きたくなかった。
家族いない、こんな世界に……。
なんども自ら死をを考え、何度も実行しようとした。
だけど結局、自殺なんて出来なかった。
覚悟と現実の違いというものだろうか?
だが、そんな俺を美唯は優しく抱きしめてくれた。
俺の痛みに触れて、美唯も一緒に泣いてくれた。
『一緒に背負っていこう』
俺は美唯のその短い一言で、美唯の『魂』にようやく気付いた。
美唯を傷つけてしまっている。
それから俺は変わった。少しずつ。
母さんや父さん、そして沙希の分まで精一杯生きていこう。
こんな俺の姿なんて見たくないだろう。
そう思えるようになった。
俺はあの日から、当たり前の幸せさに気付いた。
神が救った命なら、俺にはやることがあるはず。
あのとき、一番傷ついていたのは俺ではなく、美唯だったんだろう。
「ごめんな、美唯。大丈夫だ」
俺はあの時の美唯の言葉を思い出した。
『一緒に背負っていこう』
俺は一人じゃない。仲間がいるんだ……。
もう、俺以外の人を傷つけたくない。
「そう?よかった」
もう美唯を傷つけたりはしない。
俺は青く澄んだ空に再び誓った。
「よし!じゃぁ、寝るか!お休み」
俺は近くにあったベンチに横たわる。
風が気持ちいい。
そして、瞳を閉じた。
「ええッ!ちょっと!授業……」
寝れば、脳が整理される。
だから、寝よう。
もう、美唯の声は聞こえなかった。
俺は安息に包まれるように眠りに落ちた。
あの記憶を閉じ込めるように……。
あの過去を背負うために……。
◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇
あれから何時間が経っただろう?
そろそろ起きたほうがいいかな。
俺はゆっくりと眼を開けた。
「こんにちは」
眼を開けたら視野全体に覗き込むように、美唯の顔があった。
ち、近い……。
顔を前に動かせば、当たってしまうぐらいに。
「起きたばっかりなのにこんにちはって何か変だな……」
やっぱり起きたら『おはよう』に限る。
ああ、そういえば、此処は屋上だったな……。
忘れてた……。
「だって、おはよう!っていう時間じゃないよ」
『おはよう』って時間じゃない……?
って、ことはッ!
「えっ!マジッ!?」
「今昼休みです」
なんということだ……。
午前中の授業全部サボってしまった……。
午後はちゃんと受けよう。
これは、成績に響いたぞ……。
ん……?
ところで美唯はどうしたんだ?
授業を受けたのか?
まぁ、そこは聞かないでおこう。
その瞬間、俺の腹が空腹に襲われる。
「おおっ!!俺、今日飯食べてないんだった!腹減った……」
腹が空いたことを美唯に猛烈にアピールする。
手振り身振りを加え、大袈裟気味にアピールした。
「はい。お弁当」
美唯は微笑みながら、弁当が入った包みを俺に渡す。
「おおっ!ありがとう!いただきます!」
俺は紐を解き、弁当を開ける。
今日も和風の料理。
いつも美唯が弁当を作ってくれる。
少しは幼馴染らしいじゃないか。
いや、何と言おうと美唯は俺の幼馴染だ。
これは、変わらない。
暴力的というのも美唯らしさだ。
……。……。……。
そう思った俺を少しだけ後悔した。
「召し上がれ」
俺は弁当を食べ始める。
相変わらずおいしい。
美唯は料理上手いな。
暴力的だけど……。
人は見かけによらないな……。
「そういえば、あの事故のあと一緒に暮らしてたよな」
俺は咄嗟に思ったことを口にした。
だが、過去を思い出したさっきみたいに気は重くない。
「そうだけど、どうかした?」
美唯はあたりまえのように返答する。
そういいながら美唯も自分の弁当箱を紐解き、食べ始めている。
「今思うと変な感じだよな」
俺と、美唯が一緒の建物の中で住んでた……。
昔は何も思わなかったが、今思うとすごいことをしていたな……。
なんか恥ずかしくなる。
「そう?別に変じゃないけど……」
俺は事故のあと、つまり小3から中学に入学するまで成沢家に住ませてもらっていた。
俺は相当世話になってるな……。
よっし! 近いうちに『潤の恩返し』をしよう!
この恩返しが後の日本の神話になるかもな。
俺はありもしないことに期待を懸ける。
◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇
「ごちそうさま!いつも悪いな、美唯」
俺は弁当箱を閉じ、包みに入れる。
ちょっと、汚くなってしまった。
俺は再び紐解き、リベンジする。
「いいって……私にできることはこのぐらいだから……」
美唯の儚い声が胸を突き刺した。
今にも消えてしまうかのような声。
だから、あえて俺は明るく振舞った。
「よし!教室に戻るか」
「あ、うん」
俺達は屋上を出る。
そして、美唯と肩を並べ教室へ歩みを進める。
「おおっ!帰ってきた!」
歴史的生還を眼にしたように、侑は歓声を上げる。
侑達は、既に昼食を終えていた。
「サボってたの?」
だが、菜月は直球ど真ん中。
「そんな悪い言い方するなよ」
まぁ、確かにサボリかな?
そして、不意に学校のキャンバスにチャイムが響く。
このチャイムは5時間目の始まりのチャイム。
そのチャイムと同時に、授業が始まる。
俺は教科書を広げ授業を受ける。
……。……。……。
くそっ!よりによって筆箱忘れたっ!
めっちゃ出鼻くじかれた……。
俺は隣で授業を受ける美唯にSOS信号を出す。
「……筆箱忘れたから、ペン貸して……」
先生に気付かれないように小声でSOSを出す。
だが、この席は先生と目と鼻の先だ。
ハラハラもんだな……これは……。
「なに?忘れたの?」
美唯は小さく微笑みながら、自分の筆箱をあさり始める。
「はいっこれ」
美唯から渡されたのは普通のシャーペンだった。
唯一の色のピンクがぐるっと一周されているシンプルなモデルだ。
「恩に着る……」
そして、俺は黒板に目をやる。
その黒板には理解不可能な暗号で埋め尽くされていた。
これは、なんの授業だ?
こうして授業を受けているってことは俺にとっては奇跡なのかもしれない。
あのとき、美唯がいつも通り接してくれなかったら。
今の俺はどうなっていたのだろう?
美唯が取り戻してくれた、"俺"か……。
だからこそ、この瞬間を愛しく思えた。
◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇
――そして待望の放課後――
俺達は集い、帰りながら遊ぶことを考える。
「さぁ、今日はどうする?」
俺は誰ともなくはなしかけた。
「サバゲーだろう?」
まず、提案を出したのは聖夜だった。
そうだった……聖夜もサバゲー好きだもんな……。
「おお、賛成」
侑もサバゲーという提案に賛成する。
この二人はサバゲーが趣味であり、特技でもある。
この二人の仲を支えているのはサバゲーかもしれないな……。
それはないか……。
だが、仲良くなったきっかけはサバゲーだろう。
「ええっ!サバゲー?」
菜月は反発声を上げる。
確かに、女子はサバゲーっていうのはな……。
「どうした?菜月、怖いのか?」
侑が菜月を上から目線で挑発する。
「な!怖くなんてないわよ!やってよろうじゃないの!」
おお!侑が上手く乗せた!!
さすが幼馴染だな。
って!本当にサバゲーをするのか!?
「いや、俺サバゲー強くないし……」
俺は侑に色々な意味を込めていう。
女子もいるんだぞ……?
「心配するな潤。俺が守ってやる」
侑が俺の肩に手を置き、頷きながらそういった。
俺まで乗せられてしまった。
こうなったら!
「美唯は?」
最後の希望である、美唯に問いかける。
アイコンタクトを美唯に送る。
「別にいいけど……」
この裏切り者ッ!
本当にサバゲーでいいのか!?
「よし!じゃぁ、学校で集合な!」
侑が話を進める。
これは阻止しなければ……。
「学校でするのか」
「ああ」
迷いもなく侑は頷く。
ここからは俺と侑の戦いだ。
「先生に怒られるぞ?」
学校でサバゲーは良い舞台かもしれない。
だがその場合、強敵が現れる。
「なら撃てばいい」
迷わずに侑がそう言ってみせた。
「停学だぞ」
俺の頭中どおりに事が進む。
「…………」
侑が黙り込んだ。
この流れだと、
『じゃぁ、違うことするか!』
と言うのが基本のはず……。
「じゃぁ、学校集合な!」
侑と菜月、聖夜はそれぞれの下校路に行く。
バカな……!
侑は一般常識が通用しないのか!?
これはもう、サバゲーをするしかないな……。
「ねぇ、潤。家寄ってく?」
美唯は俺の裾をグイグイと引っ張ってくる。
女の子がこの仕草をしたら、普通は可愛いものなんだろうがコイツは違う。
コイツの場合、俺の身体が180度回転するぐらいの勢いで引っ張ってくる。
可愛いという表現より、邪魔という表現の方が正しいかもしれない。
そんな俺に美唯は話しかけてくる。
サバゲーの件はそれでいいのだろうか?
「美唯はサバゲーでいいのか?」
美唯は嫌そうな素振りも一切しない。
「別にいいよ」
即答された。
遊べればいいという感じなのだろうか?
「…………」
つい黙り込んでしまった。
男だけならいいのだが、女子がいる。
なのにサバゲーはどうかと思う。
何もサバゲーをやらなくても……。
もっと魅力的な遊びなら他にもあるだろ……?
将棋とか囲碁とか麻雀とかリアルお飯事とか……。
最後のは違うか。
「それより潤!」
美唯にも流された……!しかも美唯は何故か楽しそうだ……。
くそ!こうなればサバゲーをこれでもかって言うぐらい楽しんでやる!!
これが、俺の最後の抵抗だった。
「え~とぉ、私のい、家に寄ってく……?」
美唯が恥ずかしそうに指で頬をカリカリと掻く。
「そうだな……美唯の両親には本当にお世話になってるからな……挨拶ぐらいしないとな……」
俺達二人で下校路を歩く。
「やったぁ!」
「どうした?そんなガッツポーズして?」
「あ、いや、なんでもない……」
これもいつも通りで、何も変わらない日常だ。
そして俺は昔から決まっている右のポジションを歩いている。
それが、俺の最後の日常だった。
2010年9月1日午後5時10分――
「きゃぁぁあああああっ――――――!!!!!」
俺と普段通り会話をしていた美唯は、いきなり悲鳴を上げて崩れるように倒れ込んだ。
その悲鳴は、断末魔染みた狂ったような……。
「美唯ッ!?どうしたッ!?」
あまりにも唐突過ぎて、俺は恐慌する。
俺は美唯の近くで膝を屈する。
一体……。何が起きた……?
俺には何一つわからなかった。
俺にはこの瞬間。何が起きたのか何一つ理解できなかった。
分かることは、美唯が立てないほどの"何かが起こった"ということだけ。
何かに足を取られて転んだのだろうか?
いや、特に足が取られそうなものもないし……。
転んだだけであの悲鳴はありあえない。
俺は美唯の肩を掴み、優しく揺らす。
「ううぅうぁぁああああ……!!!い、痛い……ああぁぁ―――――!!」
美唯がその場で疼くんでいる。
そして美唯の呼吸が一気に速くなる。
痛い……?なんでだ……?
俺にはまったく理解できなかった。
ただ、『美唯を助ける』という気持ちで溢れていた。
「痛い!?何処が痛いんだ!?」
俺は倒れている美唯の頭を右腕で持ち上げる。
「わからな……い……身体全体がぁああ……!!!ああぁぁ―――――!!」
言葉すら普通通りに話せないのか……。
身体全体……???
そんなことがありえるのか?
だが、美唯はこんなときに嘘を言う人じゃない。
俺が一番良く知っている。
俺は美唯の身体を凝視する。
外傷ではない。
なら、内部からか!?
俺には医療知識なんてない。
くそッ!なんて俺は役立たずなんだ!
「美唯ッ!」
俺はあの日の美唯がしてくれたようにやさしく抱きしめた。
俺にはこのぐらいしかできない
なんて……なんて俺は無力なんだ……。
だが、今は自分の無力さに嘆いてい場合じゃない。
俺は想いを込めて痛いくらいに抱きしめる。
そのとき――――空間が大きく歪む。
ドクン……と空間そのものが鼓動をしたような感じがした。
身体と空間の境目が失われ、歪曲されていくような感覚がした。
歪んで見えた世界が何重にもブレる。
「!!!!!!」
俺は声にならない悲鳴を上げ、眼を強く閉じてからもう一度周りを見る。
だが、その歪みは何事も無かったかのように今はなかった。
な……なんだったんだ……?
「ん……うぁああぁぁぁ……」
美唯が苦しそうに声を漏らす。
歪みどころじゃなかった!
美唯を助けないと!
俺は慌てて携帯を取り出す。
「大丈夫か!?今救急車呼ぶ!!」
「……うぅ……ん……」
美唯の力無き声が胸に響いた。
こんな美唯の声を聞いたのは初めてだ。
いつでも美唯は元気だった。
杞憂しながらも、俺は携帯を開く。
「――ッ!?」
しかし、―――― 何も映らない。
電源が入っていないのか、と思い電源を入れるが、
画面にはなにも映らない。
「くそ!こんなときに充電切れか!? 昨日充電したばっかりなのに! みゆっ!携帯借りるぞ!」
今の俺には"その状況"を疑う余裕はなかった。
「んぁぁ……うん……」
再び力無い声を出して頷く。
俺は美唯のポケットに手を突っ込む。
少し抵抗はあるが、迷ってはいられない。
そして、美唯の携帯を開く。
「!!!!!!」
しかし、―――― なにも映らない。
電源を入れてみるが、ピクリっともしない。
「なんでだ!?なんで映んない!?」
俺は昨日充電して、今日なんてあまり使ってないのに……。
なのになぜ映らない?
充電切れなんてありえないはずだ……。
俺は激しい恐慌を感じた。
「つぅ……ああぁぁぁ」
美唯は声を漏らしながらぎこちなく立ち上がる。
俺はその美唯を優しく支える。
「大丈夫かッ!?」
俺は美唯を抱き支える。
俺にはこれぐらいしかできない。
「う……うん……もう……大丈夫……」
さっきに比べれば良くはなったが、
やはり様子がおかしい。
「無理はするな! 早く家に戻った方がいいぞ! ほら、背中に乗って」
俺は美唯に背中を向け、膝を屈する。
携帯が使えないなら、家の電話で掛けるしかない。
「え? あ、うん……」
美唯が俺の背中に乗る。
背中に柔らかものがあたった。
だが、今はそれを感じている場合じゃない。
誰かに見られるかもしれないがそんな事はどうでもいい。
「しっかり掴まれよ!」
俺は猛ダッシュで美唯の家に行く。
幸い近かったのですぐ着いた。
おんぶなんて何年ぶりだろう?
昔は良くやっていた記憶がある。
俺は過去の記憶に触れてみる。
だが、今はこれほどまで身体の大きさが違う。
いつも会っているから、成長に気付かないんだろう。
成沢家の前に着いた俺は、インターホンを押した。
『…………』
しかし、無音のまま。
「あれ?鳴らない……」
もう一回押してみる。
『…………』
が、やはり無音。
その瞬間俺は、あることに気付く。
「なんでだッ!? さっきから何かおかしいぞ!?」
俺はドアを開けてみる。
しかし、鍵が掛かっているため開かない。
「美唯!鍵は?」
背中に乗っている美唯に、横目で問いかける。
「も、持ってない……」
だが、美唯はゆっくりと首を横に振る。
「え?何で?」
意味を聞いたってしかたないことぐらいわかってる。
だけど、何故か聞いてしまった。
「だって、いつもお母さんがいるから……」
お母さんがいつもいる?
確かにおばさんはいつもいた。
なのにいない?
いや、その前にインターホンが鳴らない……。
これは、偶然なのか?
「よっしー!俺の家に行こう!しっかり掴まれよ!うぅおぉりゃぁあああああ―――――!!」
再びおんぶをして、自分の家まで猛ダッシュをする。
家がかなり近くて助かった……。
そして鍵を開け、ドアを開けた。
「もう、降ろしても大丈夫……もう何処も痛くない」
美唯の吐息が俺の後ろ髪に当たる。
だが、その吐息はまだ少し速かった。
「ああッ!ごめん」
俺は美唯を背中から降ろす。
本当にもう痛くないのだろうか?
俺を心配させないためなんじゃないのか?
しかし、本当に一体――――何があったのだろう?
「もう本当に大丈夫だから!気にしないで!」
いつもの美唯に戻った。
口調も態度も元の美唯だ。
「本当か?」
「本当よ」
美唯は優しく俺に笑い返した。
これは本当だな……。
なら、さっきのは何だったんだ……?
「そうか……なら良かった」
完璧に大丈夫とは信じ難いが、俺はその美唯のまっすぐな瞳を信じた。
俺は何か起きたのかと思いテレビの電源を入れた。
「!!!!!!」
俺は何度もスイッチを押す。
「どうしたの?」
その俺の行動に美唯も動揺している。
交互にリモコンとテレビを何度も視る。
「テレビが映らない!?」
テレビはまったく映らない。
停電なのだろうか?
それとも、違うなにかなのだろうか?
「ええッ!?」
このとき、俺は確信した。
何かがおかしい……。
「やっぱり何かおかしい!!外に行ってみよう!」
俺は飛ぶようにダッシュして玄関へ。
「うんっ」
俺達はドアを開け、外に出る。
その瞬間、太陽の光が俺達を照らした。
そして、空を仰ぐ――
変わらない蒼穹な青色――
だが、――――何か変だ。
「やけに静かじゃないか?」
俺は閑静に包まれている光景を不思議に思う。
「え……?」
美唯も耳を澄ます。
だが、物音一つも聞こえない。
「車の音もしない、人間もいない」
そもそも、そんなに此処は活気溢れている所ではないが、
そう思い込むほどに不安が増す。
「…………」
俺達は周りを見渡す。
人の気配もなく、鳥の声もなく、自動車の音もない。
俺達の声が響くだけだった。
「とにかくおかしい!!学校に行こう!侑達がいる筈だ!!」
――何かがおかしい。
その何かが分からない。
だが、学校には侑達がいる!
「わかったっ!!」
「急ごうッ!!」
2010年9月1日午後5時10分――
この瞬間から少年少女の"日常"、"世界"すら大きく変わり始めた。
壮絶な戦いの果てに辿り着いた"真実"を前に、少年少女は仲間と明日の為に、何を失い、何を守れるのか?
絶望の最果てで、ヒトは何を望むのか?
―― 忘れないで、この想いを ――
ー登場人物ー
中沢 潤(なかざわ じゅん):(男)
本作の主人公。桜凛高校2-A組。
小学3年生のとき、両親、そして、妹の沙希(さき)を事故で亡くした。その事故の場にいたのにも関わらず、潤は無傷だった。
家族を亡くしてからは成沢家に引き取られ、中学から現在に至っては国と成沢家の援助によって一人暮らし。
家族を亡くしてからは怠惰な生活を送っていたが、幼馴染の美唯の言葉を糧に、明るく接してくれる仲間と学生生活を送っていた。
だがその日常は、異世界へ堕ちたことで劇的な変化が訪れる。
異世界では、自分も桜夜先輩たちに守られている身でありながら、仲間を守ろうとする。
体力や運動神経は一般よりは上だが、部活等はやっていない。
発想力が豊かな潤は、それ故に話が脱線することがよくある。
身長:178cm
体重:60kg
血液型:A
髪色:暗黒色(黒系)
誕生日:7月26日
年齢:17
成沢 美唯(なりさわ みゆ):(女)
潤の幼馴染であり、同じく桜凛高校2年A組。
潤に対し、甘える、寄り添うような性格ではなく、逆に潤を修正させる程の性格。
潤も美唯に対しては甘えたりしないため、ミスマッチに思えるがお互いを良い方向へ引っ張り合っている。
体力や運動神経が高く、潤曰く『暴力女』
パンチ、蹴りなどの威力は、潤曰く『世界チャンピオンですら、膝を屈するほどの威力』
潤に毎朝、ドアの猛攻撃を受けているため『鋼のような防御力』を得ている。
以外にも勉強や料理を得意とする。潤曰く『人は見かけによらない』
身長:165cm
体重:46㎏
血液型:O
B.W.H:84.54.80
髪色:枯葉色(茶系)、ロング
誕生日:8月3日
年齢:17
天神 侑(あまがみ ゆう):(男)
桜凛高校2-A組。潤の親友。
学校の登校は菜月、下校も菜月と帰るり、休み時間には潤達と過ごす。
成績はあまり良くはない。
趣味はサバゲー。
聖夜とは色々とライバル。
悩みの種は、菜月の日々の暴力行為。
身長:174cm
体重:60㎏
血液型:O
髪色:黒紅色(黒系)
誕生日:2月23日
年齢:16
蝶野 菜月(ちょうの なつき):(女)
桜凛高校2-A組。
侑の幼馴染。侑に対しては暴力的。
侑の発言も問題だが……。
以外にサバゲーも強いため、侑は首を傾げてる。
何でも侑に挑戦的だが、侑を信頼している。
身長:158cm
体重:45㎏
B.W.H:80.48.83
血液型:O
髪色:鴇色(ピンク系)
誕生日:6月6日
年齢:17
衛藤 聖夜(えとう せいや):(男)
桜凛高校2-D組。侑といつも絡んでいる友達。
侑とは高校で出会い、今でも良い友であり、良きライバルでもある。
サバゲーが趣味。
身長:183cm
体重:67㎏
血液型:B
髪色:枯茶色
誕生日:7月7日
年齢:17
ー場所設定ー
桜凛市(おうりんし)
潤達が住む場所。
最近の発展が著しい。人口も年々上昇。
(-1th Product-)の場所とリンクがある。
桜凛高校(おうりんこうこう)
潤達が通う学校で、桜凛市で2番目に大きい学校。
3学年それぞれがF組まであり、生徒数は桜凛市の学校NO.1を誇る。
桜凛高校はかなり広く、一般棟、特別棟、事務棟の三つに別れている。
一般棟は桜凛高校の生徒が授業を受ける教室でほとんど。
桜凛高校は4階建で、2階は1年、3階は2年、4階は3年と割り振られている。
桜凛高校は右校舎と左校舎に分かれていて、一般棟から特別棟へ移動する渡り廊下が一つ存在する。
一般棟は左校舎で、特別棟は右校舎。
特別棟は、社会科室、理科室、視聴覚室、家庭科室、といた各科目の特別教室が集まっている。
図書室や、保健室、学食といった場所も特別棟にあり、部活の部室などもある。
事務棟は一般棟の1階にあり、事務棟は、職員室、用務員室、校長室、極め付けは職員が使う部屋まである。




