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17話-(2)

ー君の魂に抱かれてー(きみのこころにだかれて)


この作品はフィクションです。

登場する人物・団体・地名・事件・世界設定などは全て架空の物であり、

実際の物とは一切関係ありません。


「君の魂に抱かれて」は本編とboy and girls' aspects

で構成されています。

初めて読む方は、本編からご覧ください。



ピアノの直撃に奇跡的に避けた俺達。

俺は首に負傷を負ったが、少し休めば回復した。

俺の首が回復した後、俺達は音楽室へ入った。


しかしそこは無人。

音の原因はラジカセだった。

完璧に朝倉にして遣られた。

罠だと思っても避けられない朝倉の罠。

見事としか言いようがない。


「あまり長くは留まれない。音楽室から出るぞ!」


桜夜先輩がそう言い残し、音楽室から退場する。

しかし……朝倉は何処にいるんだ……。

そう考えながら、俺達は音楽室から退場した。



◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇



「…………」


音楽室の向かいの壁。

いや、大きな穴の方が正しいかもしれない。

俺達はその穴を重視する。

その大きな穴から、外の景色が視える。

もう夕方か……。

俺達は朝に桜凛武装高校へ進入した。

そしてもう夕方になっていた。


「闇雲に歩くのは危険だ。まずは憶測を並べて究明に近づけよう」


桜夜先輩の言う通りだろう。

ただ闇雲に歩くのは、罠に掛かりに行くようなものだ。


「私の憶測だと、朝倉は淡々に居場所を変えているように思える」


「場所を変えてる……?」


「あくまで憶測だがね」


桜夜先輩が少し失笑を浮かべる。


「私は同じ場所から監視していると思う」


清王さんが話しに加わる。

監視か……。

十分に考えられることだな……。


俺は無意識に天井を見上げる。


「――ッ!?」


偶然見上げた天井に、天井から何かが掛かっていた。


「か、カメラ!?」


そこにあったのはカメラだった。

隠しカメラという訳か……。

ん?隠しカメラ?


あのカメラって隠しているのか?

随分と旧型で型も大きい。

というか、デカ過ぎる。

20インチのテレビぐらいあるんじゃないかな……。


「カメラだとっ!?」


桜夜先輩も天井を見上げる。


あんなに大きいのに良く今まで気付かなかったな……。

逆に気付かない方が不自然だと思う。


「あんな所にカメラはなかった。私達は音楽室に入る前に周りを周到をしていたし、気付かない方がおかしい」


清王さんがハッキリとした口調でそういう。

確かに最初からあれば、音楽室に入る時に気付いていた。

それ程の大きさだ。


「確かに……」


桜夜先輩は口元に手を当て、眼を瞑り考えている。


「このカメラ動いてないぞ!」


ガイの一言で俺達の視線はカメラへ向く。

え?動いてない?


「そ、そんな馬鹿なっ!」


桜夜先輩もカメラの付近まで近づく。


「何故だ……動いてないだと……」


先輩は眼を大きくさせる。


「じゃぁ、何でカメラなんて……」


俺の問いに答える者はいなかった。


駄目だ……頭がゴチャゴチャだ。

話を纏めよう。


あのカメラはかなりデカイ。

そして何故か動いてない。

つまり、あのカメラには意味がない。


が、この暗礁な場面が美唯の一言で豹変する。


「ああ!クマさんっ!」


美唯は人差し指を右側の廊下隅に差す。

へ?クマ?

あまりの唐突な発言に拍子抜けする。

が、俺は美唯の指差した先を見つめる。


……。……。……。


本当にクマだ……。

廊下の角からちょこんっと顔を出している。


「く、クマさん……」


今度は清王さんの態度が急変する。

だが、無理にその思考を追い払おうと左右に頭を振っている。


「翠華。分かってるな?」


「心配は要らない。同じ過ちは二度としない」


ガイなりの忠告なのだろう。

その忠告を素直に受け入れた清王さん。

だが、その表情は無表情ではなく、少し強張っていた。


「ちょっと…!!あれクマさんのレベルを遥かに超えてるよっ!」


月守さんはクマを一見し、恐慌の色をみせる。

熊のレベルを超えている?

まだ頭しか露にしていない熊。

だから全長は分からない。


その時、月守さんの言葉に突き動かされるようにクマが歩き始める。

そしてようやくクマの全身が露になった。


「うおぉぉぉおおおおおおおっ!!!」


男の俺ですら雄叫びを上げてしまった。

そこに居た熊。

そう……。『クマ』ではなく『熊』という方が相応しい。

いや、熊という言葉すら生温い。


『巨大熊』


その言葉が頭に逸早く浮かんだ。

それに相応しい容姿。

思わず腰が抜けそうになる。


「な、何て大きさだっ!」


あの桜夜先輩ですら驚愕している。

そんな俺達に関わらず、熊は俺達との距離をゆっくり縮めて行く。


「種類はヒグマ。大きさは推定3メートルの500キロ」


桜夜先輩が呪文のように早口で唱える。

視線は熊に向けて、威嚇にも良く似た眼付きで熊を睨む。


「ネコ目クマ科に属する哺乳類。ホッキョクグマと並びクマ科では最大の体長を誇る。また日本に生息する陸棲哺乳類でも最大の種。

分布はヨーロッパからアジアにかけてのユーラシア大陸と北アメリカ大陸に幅広く生息し、その生息地は温帯からツンドラ気候の地域にまで及ぶ。現存するクマ属の中では最も広く分布を誇る。また形態は……」


「そんなことはどうでもいいですっ!!」


俺らしくもない大きな声を上げてしまう。


あまりにも桜夜先輩の口語が速過ぎて、結局何も分からなかった。

でも唯一聞き取れたのが『ツンデレ』という単語。

クマってツンデレなのかっ!?

ならデレてくれっ!!

ツンツンしないでくれっ!!


俺は恐れながらも熊の顔を見てみる。


こ、こえええぇぇぇぇぇっ!!!!!


声に為らない心情が心中でもがき叫ぶ。

熊ってこんなに怖いのかっ!?

眼の前にいる熊は、漆黒の毛に覆われ、腰を抜かす程の怖い表情を浮かべている。

というか、比喩ではなく腰を抜かした。






熊との距離。残り10メートル――






「舞い落ちる桜の花に夢幻の優美を奉ずる」


桜夜先輩は超高速で呪を唱え始める。

桜夜先輩は既に千鳥を構えていた。

そして空いている左手の人差し指で、前方に呪印を組む始める。

人差し指で描いた呪印が、指で組んだ通りに桜色に光る。


「巡り来る花信へと集い百花繚乱の如く成せ!」


呪を唱え終えると、指で組んだ呪印が燦爛の如く輝きを増した始めた――


「貴様っ!クマさんに何をするっ!!」


清王さんは後ろから桜夜先輩を抱くようにして動きを止める――!

まさかの清王さんの行動に俺達は呆然とする。


「えぇいっ!離さんか!」


桜夜先輩も負けじと力を入れ、清王せんを振り払おうとする。

が、清王さんも負けじと歯を食い縛る。


「あのクマさんが何をした!答えろっ!」


清王さんとは思えないテンションだった。

確かに清王さんの意見も一理あるかもしれない。だけど……。


「あれも朝倉の差し金だ!同じ罠に掛かってどうする!?」





熊との距離。残り5メートル――





此処まで間近で視るとド迫力だ。

熊が動くたびに、何故だか鈴の音がする。


その鈴の音は熊から聴こえてくるような……。


「こ、コイツ熊なのに鈴を付けてるぞっ!!」


熊の首に鈴が付けられていた。

マジかよ……。

熊って鈴の音とかが弱点じゃなかったのか……?


「潤、熊って以外に怖いね?」


傍らにいた美唯は笑顔で問い掛けて来る。


「いや……熊を諸共しないお前の方が恐ろしいぞ……」


「潤先輩……!どうするんですか!!」


月守さんは正常な反応を示す。

かなり身体がガクガク震えていた。


「どうもこうも……」


俺は桜夜先輩と清王さんを視る。

その二人を必死で止めているガイの姿も視える。







熊との距離。残り3メートル――






「翠華!もういい加減にしろっ!!」


ガイが清王さんに警告をする。

が、清王だんは聴く耳を持たない。

熊を目の前にし、俺達の心は一つにならない。


そんなことが有り得るのだろうか?

大抵の人間が心を一つにし、熊から逃げるんじゃないか?


「もう一度言うがこれは朝倉の差し金だ!いい加減に手を引いてくれ!」


まだ清王さんは桜夜先輩から離れない。

と、ここで……。



「き、貴様!長官の前で無礼だぞ!」



俺達の誰でない声が響いた。

この声は初耳ではない……。

この声は……。この声は……。


ん?その前に何だ?長官?


「はぁ?ちょ、長官?」


初めて全員の声があった。

この熊がか?


「この熊がか?朝倉?」


桜夜先輩は声の主に問いかける。

いや、"朝倉"に問いかける。

やはり声の主は朝倉だった。


「な、なんということを! 長官、申し訳ありません。私の呼んだ客人がご無礼な真似を……」


朝倉は真面目な顔で、俺達と熊の間に割って入っり熊に話掛ける。


「しかし、朝倉の差し金だ。何をするか分からない」


桜夜先輩は警戒を緩めず、熊を睨み付ける。

柄を握る力も増して視える。


「長野長官はいつも学園の綱紀粛正の為にご尽力されている高貴なお方なんだぞ? 貴様等、控えろ、控えんか」


熊は朝倉の後ろで『グオォオオオオオッ!!!!!』と鳴いている。

なんだ……朝倉って奴は……狂ってやがる……。


『ブルルルルルルルルルル…………』


と、ここでまさかの携帯着信音がキャンバスに響く。


「け、携帯!」


聴こえる筈のない携帯の着信音が聴こえてくる。

電気が使えない筈なのに……何で着信音が……!


『♪Oh,Yeaa~!!』


声の高い男の人が、色気良くそう発音する。

この声を聴き、全員のバランスが崩れた。

美唯と月守さんは必死に笑いを堪えている。

俺とてその例外ではない。


『ピッ』


朝倉はポケットから携帯を出し、耳を携帯に当てる。


「うん。少将か。うむ、長官は今こちらに来られている。恐らくいつも視察だと思う」


朝倉は奇妙な口調なまま、携帯でやり取りをしている。


「長官だが何だか知らないが、私達に危害を加えるのなら容赦はしないぞ」


桜夜先輩が再び柄を握り直し、刃先を熊に向ける。

すると、朝倉は蒼然な態度を取り始める。


「貴様っ。重ね重ね長官に無礼な真似を……」


その時、朝倉と熊の顔色が変わった。


「むっ、これは……!?」


朝倉は何かに気付いたのだろうか?

朝倉は何かの変化に明敏に反応する。


「どうしたのかね?狡猾な君が動揺するとは、よほどの希代が起こったのかね?」


桜夜先輩は朝倉に対し、嘲笑いながら問責をする。

と、その時……。


『ハクションッ―――――!!!!!』


熊が豪快に飛沫を飛ばす。

その瞬間、周りがホワイトアウトし視野全体がホワイトで覆われる。


「長官、彼らが追って来ます。一先ずこの場を引き上げましょう」


その間、熊と朝倉とのやり取りが聴こえてくる。

熊が『グオォオオオオオッ!!!!!』と鳴いた。

だが、そのやり取りは視えない。


「さらばだ諸君っ!縁があったらまた会おう」


くそ……!周りがホワイトアウトしてて視えない!

しかし、眼を凝らすと熊の影が薄っすらと視える。

その熊がこっちに接近してくる――っ!?


「ケホッ!ケホッ!ケホッ!」


相変わらず、桜夜先輩の咳きが聞こえて来る。

その桜夜先輩に向かって熊が猛スピードで接近してくる――!!


「さ、桜夜先輩っ!!」


俺は桜夜先輩の名を叫ぶ。

だが、返事は咳きしか返ってこない。


「はぁっ!?」


桜夜先輩の声がようやく聴こえた。

だが、その声は何かに気付いたような声だった。


くそ……前が視えれば……。

そう思った直後、徐々に視野が回復していく。


「み、みんな……無事か……」


俺は仲間達に呼びかける。


「うん……大丈夫……」


傍らから美唯の声がする。

これで煙は何回目だろう?

いや、さっきのは煙なのか?


「どうにか……」


月守さんの生存を確認。


「問題ない……」


「俺は大丈夫だ……」


清王さんとガイの生存も確認。

これで全員の生存が確認されたか……。

後は霧が晴れるのを待つだけだ。


……。……。……。


「ああ、ようやく晴れた……」


俺の視野から忌々しいホワイトは姿を消した。

朝倉が自ら尻尾を出したというのに……結局俺達は何も出来なかった……。


が、霧が晴れても俺達の間に会話が生まれない。


あれ?俺達ってこんなに空気重かったけ?

俺は違和感を覚える。


「あれ?桜夜先輩は?」


俺は360度、周りを見渡す。

が、桜夜先輩らしい人物は見当たらなかった。


「え?桜夜先輩ならここに…………って、あれ?」


美唯も360度、周りを見渡す。


「ど、何処にもいない!」


月守さんが声を上げる。

え?何でいないんだ?


「桜夜先輩っ!!出て来てくださいっ!もう大丈夫ですよーーー!!」


……。……。……。


俺の呼びかけに反応する声はなかった。

何で出てこないんだろう?

先輩がこんな悪ふざけするなんて珍しいな……。


「桜夜先輩―――!!!」


俺達は桜夜先輩の名を呼び続ける。

しかし、以前として桜夜先輩は現れない。


と、その時……。


あの光景が脳裏を過ぎる。

そうだ……あの熊は桜夜先輩に向かって走ってったよな……。

その桜夜先輩が……いない……。

ということはまさか……まさかっ!!


「桜夜先輩が……誘拐された――!?」



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