17話-(1) 破格知力
ー君の魂に抱かれてー(きみのこころにだかれて)
この作品はフィクションです。
登場する人物・団体・地名・事件・世界設定などは全て架空の物であり、
実際の物とは一切関係ありません。
「君の魂に抱かれて」は本編とboy and girls' aspects
で構成されています。
初めて読む方は、本編からご覧ください。
俺達はまんまと朝倉の屍に掛かってしまった。
あのハムスター。
あれが煙幕弾のようなものだった。
ハムスターに触れたら爆発するという古典的な罠。
その古典的な罠すら、俺達は掛かってしまった。
「ああ……死ぬかと思った……」
桜夜先輩らしくない言葉を漏らす。
確かに桜夜先輩が一番ダメージを受けていたかもな……。
黒煙の8割が先輩へ向かっていったからな。
「大丈夫ですか?桜夜先輩」
「ああ、大丈夫だ中沢くん」
でも、あれが爆弾だったら俺達は死んでいただろう。
しかし、爆弾ではなかった。
朝倉が本当に"桜凛高校の全生徒の殺害"を命令したのなら、何故俺達を殺さなかったのか?
でも、清王さんの行動には驚いた。
口数も少なく、俺の中ではクールなイメージだった。
でも、以外に可愛いものが好きなのかもな……。
やっぱり人の子ってことか……。
俺はその清王さんを視てみる。
「…………」
普段は無表情な清王が、バツの悪そうな顔をしている。
何か言いたいが、放って置くことにした。
清王さんの性格上、フォローは逆効果だと思う。
「翠華、大丈夫か?」
ガイが間もなく清王さんに話掛ける。
「大丈夫……」
再びスイッチを入れ替えたように視えた。
「立ち止まっている暇はない。行くぞっ!」
桜夜先輩の一言で、俺達は再び歩みを進めた。
◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇
二階――
『ジャンジャン!!ジャジャジャジャン、ジャジャジャジャン―――――!!!!!』
怪しいピアノの旋律が校内に響く。
重低音で恐怖を覚えるような旋律だ。
「何だ……この如何にも怪しい旋律は……!!」
桜夜先輩が旋律のした方向に身体を向ける。
それにつられ、俺達も身体を向ける。
「ピアノってことは音楽室か……」
これも罠という名の屍なのか……。
一体、今度は何をする気だ……。
「どうするんですか……?桜夜先輩……」
「安心したまえ成沢くん。これは罠だ。罠と分かっていて罠には掛からないよ」
確かにこれは罠だろう。
此処には朝倉しかいない。
なら、弾いている本人も朝倉ということになる。
「今度はどういう罠……?」
月守さん深奥な趣きで声を漏らす。
「怪しそうな物に触れないと良いんじゃないか?」
あくまでこれは俺の意見。
今までがそういう傾向だった。
まずは夥しい数の机、そしてハムスター。
どれも俺達が触れなければ直接害のないものばかりだった。
「まずは中沢くんの言う通りにしないか?」
桜夜先輩も俺の意見に賛同してくれた。
「わかりました」
美唯もコクリっと頷いた。
「行くぞっ!!」
桜夜先輩の一言で、俺達は音楽室へと歩いていった。
◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇
「気を付けるんだぞみんな。どんな罠が仕掛けてあるか分からない」
桜夜先輩は注意深く辺りを見渡す。
「うわぁ……音に段々近づいてきた……」
月守さんの身体が戦慄しだす。
それが普通の反応かもな……。
「恐怖心は人の弱点だ。衝き込まれると相手の思う壺だぞ」
「わ、わかりました……」
恐怖心は人の弱点か……。
俺も気を引き締めないとな……。
『ジャンジャン!!ジャジャジャジャン、ジャジャジャジャン―――――!!!!!』
より音がリアルに聴こえて来た。
その音は俺達の前にある、ドアの向こうから聴こえる。
此処が音楽室か……。
流石に此処まで来ると心拍数が騰がる。
と、桜夜先輩が振り返った。
「恐らく音楽室にも罠が仕掛けられている。どんな事があっても真摯を忘れるでないぞ!」
俺はコクリっと喉を鳴らす。
「桜夜先輩、どういう順番で入るんですか?」
美唯が音楽室に入る前に、桜夜先輩に確認する。
確かに6人同時に入れる広さではない。
精々同時に入れて2人が限界だろう。
「二人同時に入る。最初は翠華くんガイくんの二人だ。その次に中沢くんと成沢くん。そして最後は月守くんと私だ」
確かに、二人同時に入る方が安全性は高いだろう。
俺と美唯は二番目に入るのか。
どんなことがあっても、俺は絶対に仲間を守る。
いつまでも守られる身は嫌なんだ……。
「わかりました」
俺は真っ直ぐドアを重視する。
未だに、あの旋律が鳴り響いている。
「皆、先の形態になれ!」
先輩の言葉で、俺達は言われた通りの形態になる。
そして、先頭の清王さんが迷わずドアノブに手を掛けた。
この人は恐れというものを知らないのだろうか?
手もまったく震えてない。
そして、ドアノブを捻った――
『ガチャッ!』
清王さんが勢い良くドアを開ける。
が、音楽室は真っ暗だった。
『ピピィ―――』
開けて間もなく、電子音が聞こえてきた。
まるで何かを認識したような……。
って!何かを認識っ!?
『ゴゴゴゴゴオオオオッ!!!!!!』
前方から神速の如く、豪音と共に何かが接近してくる――!!
速過ぎてその物体が何なのかも分からない。
分かったのは巨大で漆黒色の物体であるということだけ。
「――ッ!?」
清王さんは機敏に反応し、状態を下げる。
ガイも同じような動きをしていた。
清王さん達はあの物体の下を潜り抜けたようだ。
そのことを認識した途端、俺の視野全体を覆うようにあの漆黒の物体が接近していた!
「ピアノかっ!!」
直撃間近で俺はその物体がピアノであると認識する。
だから、態勢を下げた清王さん達は直撃を回避出来たんだ。
だが、俺は清王さんみたいには反応できなかった。
「馬鹿者っ!!」
桜夜先輩が右手で俺の頭を鷲掴む!
その右手で美唯の頭にの腕を置き、月守さんの頭には左手が置かれていた。
この態勢を瞬間的に取ったのか……桜夜先輩は……。
「ぐはぁっ!?」
そのまま桜夜先輩は姿勢を下げ、両腕を地面に叩き付けるような勢いで俺達の態勢を下がらせる――!
俺は桜夜先輩の腕力に一瞬で転倒する。
く、首が折れた……。
そう思うほどの衝撃を受けた。
「きゃふっ!!」
美唯も激しく転倒する――!
だが、その転倒で美唯の態勢は下がった。
俺も同じだ。
「わぁあ!?」
だが、月守さんは綺麗に桜夜先輩の腕力を活かし綺麗に受身を取る!
仰向けに倒れている俺がみた光景――
それは、俺の目の前を猛スピードで駆け抜けるピアノだった。
ピアノが俺達全員を通り過ぎ、廊下の壁にピアノが直撃する!!
『ドカァァァァアアアンッ!!!!!』
天地が揺れるほどの豪音が響く。
俺は倒れながらもピアノが直撃した壁を重視する。
「嘘だろう……」
既に壁は存在していなかった。
存在しているのは、大きな穴が開いている光景。
もはやそれを壁とは呼べない。
被害はそれだけでは留まらず、その周囲の壁にもヒビ割れが走っていた。
ピアノは壁を貫通し外に堕ちたのだろう。
もし、ピアノが身体に直撃していれば……。
それを想像した瞬間、背筋に寒気が走る。
「君達!無事か!!」
逸早く桜夜先輩が立ち上がった。
首を動かそうとするが、受身も取っていない俺の首には激痛が走る。
「美唯……大丈夫か……?」
「うん……大丈夫……頭とかは潤のお陰で丈夫だから……」
そうだった……。
美唯は"鋼の防御力"を得ていたんだったな……。
毎朝、俺の猛スピードで開け放つドアに直撃していたもんな、美唯は。
「潤先輩っ!?大丈夫ですかっ!?」
月守さんは既に立ち上がっていた。
月守さんはあの時受身をとっていた。
反射神経が良いのか運動神経が良いのか……。
いや、両方か……。
「翠華くん達は無事かね?」
一番ピアノとの距離が近かったのはこの二人だ。
あの二人は刹那とも言える速さに反応したんだな……。
「問題ない」
「ああ、俺も大丈夫だ」
どうやら、全員が無事のようだ。
今はそれを喜ぶしかない。
また……俺は守られたのか……。
いつも俺は……俺は……。
足手纏にしか為らないのか……。