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16話-(2)

ー君の魂に抱かれてー(きみのこころにだかれて)


この作品はフィクションです。

登場する人物・団体・地名・事件・世界設定などは全て架空の物であり、

実際の物とは一切関係ありません。


「君の魂に抱かれて」は本編とboy and girls' aspects

で構成されています。

初めて読む方は、本編からご覧ください。



全員の動きが同時に止まった。


「階段……」


目の前にあるのは、2階へ続く階段だった。

果たして、2階に行っても良いのだろうか。


この階段へと続く廊下には、罠は仕掛けてなかった。


今回も選択肢は2つ。

上がるか上がらないか。


「上がるしかないだろう?」


桜夜先輩は階段へ一歩踏み出した。

俺達も上がるか……。


……。……。……。


こんなにも慎重に階段を上がるのは初めてだ……。

なんだか気疲れする。

そして、ガイが周りを見渡す。


「階段にもなにもなしか……」


2階に到達した。

結局、階段にも何も仕掛けはなかった。


「気を抜くなよ。我々は相手の本陣にいることを忘れるんじゃない」


そういい、桜夜先輩が先頭へ立つ。

そうだった。

此処は相手の拠点だったんだ。


俺の予想は、既に戦闘を繰り広げていた。

なのに、戦闘は一つも起きてない。


戦闘が避けれたというのは、喜ぶことだ。


あ、そうだった。

先輩には聞きたいことが、いっぱいあったんだ。


「先輩、あの桜並木はなんだったんですか?」


桜凛武装高校には、美しい桜並木があった。

元々あったのなら、不思議には思わないが、

先輩も知らないと言っていた。

しかも、9月にもなって桜が満開なんて、信じ難い。


「あの桜は、異世界と当時にできたものだと考えられる」


桜ができた?

異世界と同時に?


「私は1日のとき、その桜並木のある所を通ったが、桜は咲いていなかった」


9月1日。

それは、一生忘れないであろう日。

異世界に堕ちた初日だ。


「そのとき私は、周りの木々を視ている暇なんてなかったんだ」


でも、咲いているなら視なくてもわかる。

先輩がいうに、1日の段階では咲いていなかった。


なら、1日以降に咲いたのか?


「じゃぁ、1日以降に咲いたんですね……」


また、不思議が増えたな……。

異世界に咲く桜か……。


それ以上に疑問なことがある。


「先輩、なんで朝倉は電気が使えたんですか?」


電気が使えないってことは、身をもって知っている。

この異世界はの特徴は、大雑把に言って2つある。

まずは、電気が使えないこと。

そして、桜凛高校、武装高校の生徒以外はいないということ。


その2つは絶対に覆らない確証だった。


だけど、それが覆された。


「…………」


先輩は眼を閉じ、手を口元に当てながら、考えている。


俺って本当に先輩に頼ってるよな……。


先輩はいなかったら、今頃俺はどうなっていただろう。

俺もしっかりしないと……。


「ここの中だけ使えるとか……?」


そういいながら、月守さんは自分のポケットに手を入れる。

ポケットの中から、携帯を取り出し、開いてみる。


「どうだった?」


月守さんの発想が正しければ、このキャンバスの内部では電気が使えるということになる。


「駄目だ……まったく映らない……」


期待をしていたのか、ガックリと肩を落とす。

これで、その可能性は消えたか……。


「使えないはずの電気が、朝倉には使えた……」


ガイが話しを整理する。

もしも、その理由が分かられば、俺達も電気を使えるかもしれない。


すると、口を閉じていた清王さんが口を開いた。


「なら、それは絶対的なものではないということ」


絶対的なものではない……。


あれ?そういえば先輩は雷切で雷を出してたよな……。

雷ってことは……。


「先輩って雷使えましたよね?」


「ああ、使えるが?」


先輩は当然のように俺の問いに答える。


「なんで、使えるんですか?」


前に話してくれたことがある。

雷切には、雷魂が宿っていると。

だから使える。


だけど、この世界は電気が使えない。

う~ん……なんだか頭が混乱するな……。


「この異世界は、人間で作られた一切の電気が使えない」


人間によって作られた一切の電力は使えない……。


「雷魂って人間によっては作られていないんですね?」


「そうだ。雷魂は精霊の力で分類すれば、自然魂だからな」


自然ということは、人の手は一切ないということだ。

だから、この異世界でも使える。


「じゃぁ、その朝倉っていう人も雷魂があるってこと?」


よく月守さんは桜夜先輩にため口を使えるな……。

だが、言っていることは正しい。


今、考えられるのはこの辺りだ。

もし朝倉にも雷魂が何らかに宿っているのなら、電気が使えても不思議じゃない。


「それは、ありえないな」


だが、先輩は言い切った。

その言葉に続けて、先輩が説明を始める。


「自然魂には様々な種類の精霊があって、炎や氷なども存在する。それらの自然魂はそれぞれ一つしか存在しない」


なら、雷魂も一つしか存在しないということか……。

また、一つの可能性が消えたが……。


じゃぁ、何で朝倉には電気が使えるんだ?


「そっか……」


月守さんがガックリと肩を落とす。


「だったら、翠華の言っていたことが正しいかもな」


清王さんは、絶対的なものではないと言っていた。

電気が使えないってことが、絶対的なものじゃないだと……。

これこそ、俺には信じられなかった。


今まで絶対的だと思っていたことが、盲信していた何て信じられない。


「何とも言えないな」


桜夜先輩は首を少しだけ傾げる。


『絶対的なものではない』


その言葉が脳裏を走る。


どれが本当で、どれが間違いなんだ……。

俺は何を信じればいいんだ……。


「世界の法則に干渉し、自然な状態を歪めて意のままに操る技術」


清王さんが呪文のようにハッキリとそういった。


世界の法則に干渉?自然な状態を歪める?意のままに操る技術?

確かに清王さんはそういった。

だけど、俺には理解が及ばなかった。


「それを"魔術"という」


魔術……。

俺にとっては不馴染みな言葉だ。

昔の俺は、魔術なんて信じようともしなかった。

だけど、今は存在していると聞いてもおかしいとは思わない。


すると、桜夜先輩ハッとしたような表情を作る。


「私達の知らない、この異世界の法則がある……」


異世界の法則っ!?

清王さんが言うに、法則に干渉して意のままに操ることを魔術というらしいが……。

い、意のままに操るっ!?


「朝倉には電力が使える。これは何らかの魔術であると考えられる」


これが清王さんの考え。

俺にはこれが間違いとは思わなかった。


「豪く魔術に詳しいな、翠華。」


「…………」


ガイの問いに清王さんは答えなかった。

確かに清王さんは射撃科のはず。

一方。剣術科の桜夜先輩は魔術はまったく知らない。


桜夜先輩を視てみると、先輩は腕を組んで何かを考えているようだ。


「それが正しいとは思えないな」


桜夜先輩のその一言で、先輩に視線が集まる。


「朝倉は戦術科だ。その朝倉が高度な魔術を使うとは思えない」


ああ……そうか……。

戦術科の人が魔術も出来るとは考え難い。

しかも、高度ならなおさらだ。


疑問ばかりが増えていく……。


俺は眼を瞑り、頭をブンブンと振った。


すると、美唯がいきなり前方に人差し指を指す。


「ああっ!ハムスター!」


美唯の人差し指の向こうには、確かに白と茶色の物体がうごめいていた。

大きさは猫ぐらいだろうか……。

とてもハムスターの大きさとは思えない。


「は、ハムスタ……」


清王さんが『ハムスター』と可愛らしく声を漏らすと、清王さんの表情が微量に一瞬明るくなった。

その途端、清王さんの歩くスピードが増す。


「翠華?どうした?」


ガイからの言葉も無視し、清王さんは先頭にいた桜夜先輩を抜く。


「翠華くん?」


最後の桜夜先輩からの忠告を無視し、ハムスターへ早歩きで近づく。


その清王さんの行動に、思わず俺と美唯は顔を合わせる。


あのハムスターに何かあるのか?

ん……?ハムスター!?


「ちょっと待ってくれ……!何で動物がいるんだっ!?」


既に清王さんはハムスターの前にしゃがみ込んでいた。


この異世界では、電気が使えない。動物がいない。

それが鉄則。絶対に覆らないこと。


そう思っていた……。


だけど、それすらも覆った……。


これも朝倉の仕業なのだろか?


「翠華くん!待ちたまえ!」


桜夜先輩もハムスターへ駆け出す。


「翠華!早まった行動は止せ!」


ガイも清王さんへ駆け出す。


残された俺、美唯、月守さんは、ただ顔を合わせるしかなかった。



◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇



「本当にハムスターだ……」


俺達も結局、ハムスターへ近づいた。

やはりサイズは猫ぐらい。

だが、完璧にハムスターだ。


そのハムスターは床に横たわっていて、顔を出し凛々しい目付きで清王さんを見つめる。

その眼は潤っていた。


「桜夜先輩……なんでハムスターが……」


俺の問いに先輩は両手を上げ、お手上げのポーズを取る。


俺はハムスターを再び見つめる。

なんだか、助けを求めているようにも見える。

その姿はとても可愛らしい。


俺はハムスターの前でしゃがみ込んでる清王さんを視てみる。


何故だが頬を桜色に染め、輝かしい眼でハムスターを見ている。

このハムスターに何かあるのだろうか?

こんな清王さんを視るのは初めてだ。

こんな表情も出来るんだな……。


「で、デカ……っ」


一方、月守さんは一歩後ずさる。

そして、ハムスターと距離を置いた。


さて、このハムスターはどうしたものか……。


「かわぃ……」


清王さんが吐息混じりの声で小さく何かを言った。


清王さんは右手をゆっくりとハムスターの頭へ近づける。

すると、ハムスターはそれを受け入れるかのように頭を下げる。


「翠華くんっ!止めろっ!!」


桜夜先輩の声がキャンバスに響き渡る。


止めろ……?


なんでだ?

相手は動物なのに……。


ああっ!!動物だからか!!

この世界には動物がいない。

いるはずのない動物がいるということは、このハムスターは朝倉の……。


だが、桜夜先輩の言葉を言い終わったすぐに、清王さんの手がハムスターの頭に触れた。

その瞬間……。


『ドカ―――――ンッ!!!!!』


爆発大音響がハムスターから響き渡る――!

比喩ではなく天地が揺れる程の大爆音。

それと同時に、視野全体を被さるように黒煙が迫ってくる――!


あまりにも、一瞬の出来事で、脳は処理仕切れなかった。


そうか……これが爆弾か……。


あのハムスターは言い方を変えれば、爆弾だったってことか……。

この爆音から推測するに、相当規模が大きいだろう……。


ハムスターから1mも離れてない俺達は、間違いなく死ぬ。

これが、死か……。

本当に刹那に訪れるんだな……。

こんなところで、俺は死ぬのか……。


自分の終焉に俺は一つ後悔をした。


誰も助けられなかった……。






「ケホッ!ケホッ!ケホッ!」


あれ?桜夜先輩の咳が聞こえる……。

俺は不思議に思い、覚悟を決めて眼を開く。


そこは黒煙に満ちていたが、その黒煙の8割が桜夜先輩に向かっていた。

そのため、俺の視野には僅かな黒煙だけだった。


「い、生きてるのか?」


声に出して言ってみる。

何度も手を動かしてみる。


動作も問題ない……何処も痛くもない。


「じゅ、潤……大丈夫……?」


俺の傍らにいた美唯が俺の肩に重く手を置く。

その光景を視て、俺は生きていると確信した。


「美唯こそ……大丈夫か?」


「うん……どうにか……」


俺は周りを見渡すが、全員がちゃんと立っている。


ということは、あれは爆弾じゃなかったのか……?

あれはただの黒煙弾だったのか?


「翠華……無事か……?」


「は、ハムスターが……」


どうにか清王さんも無事のようだ。


あれ?月守さんは?


ああ、そういえば月守さんだけがあのハムスターと距離を置いてたな……。

月守さんの勘だったのかな……。


「潤先輩っ!」


月守さんが駆け寄ってくる。

駆け寄れる程に、月守さんはハムスターと距離を置いていたってことか。


あれ?桜夜先輩は?


ああ、あの黒煙の中に閉じ込められているんだろうな……。

一部分だけ、異常なまでに黒煙が集まっている所があった。

例えるなら、小型の台風っと言った所か……。


「ケホッ!ケホッ!ケホッ……」


その黒煙の中から、桜夜先輩の声が聞こえる。

いつになく、苦しそうな咳だった。


何でこうも黒煙は桜夜先輩に向かって行くんだろう?

ここまでくると、恐ろしくなる。


俺達は結局、全員負傷者なしだった。

朝倉は何がやりたかったのだろうか?


疑問は膨らむばかりだった。



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