15話-(2)
ー君の魂に抱かれてー(きみのこころにだかれて)
この作品はフィクションです。
登場する人物・団体・地名・事件・世界設定などは全て架空の物であり、
実際の物とは一切関係ありません。
「君の魂に抱かれて」は本編とboy and girls' aspects
で構成されています。
初めて読む方は、本編からご覧ください。
俺の脳内に電撃が走るように、先輩の言葉が蘇る。
『戦術科の出した命令は絶対』
命令……。
命令と聞いて、一番に思い浮かぶのが、この狂気な命令。
『桜凛高校の全生徒の殺害』
この命令を出したのは戦術科……。
その戦術科の代表は……朝倉……?
そんな人が今、俺達の敵なのか……?
これは、とんでもない敵だ……。
「そ、そうだったんですか……」
朝倉は俺達を殺す気だ……。
自分の手を汚さずに、罠で……。
「えッ!ってことは、"あの命令"を出したのも朝倉ッ!?」
あの命令。
それだけで、月守さんのいいたいことが伝わる。
「そういうことになる」
背筋に寒気が走る。
これは、美唯の悪い予感が的中したかもな……。
ああ!そっか!
だから、この狂気な命令を聞いた清王さんは、真っ先に桜凛武装高校へ向かったんだ!
命令は戦術科の命令。
こんな狂気な命令をする戦術科を誅伐するために……。
「あ、あれは……」
ガイが何かを発見したように、前方を見つめる。
それに釣られて、俺達も前方を見つめる。
「な、なんだ?あれは……?」
『壁』
それが、俺の第一印象だった。
その壁は天井まで延びていて、廊下の横幅を覆い尽くしていた。
「あれが屍というやつか……」
桜夜先輩は腕を組みながら屍を見つめる。
ただの壁ではない。
それは、視れば分かる。
沢山の物を積み重ねて、連なっている壁。
「壁……なのか?」
行き止まりということなのだろうか?
それとも、違う意図なのだろうか……?
俺達はゆっくりと、その壁に向かって歩いていった。
◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇
遂にその壁の目の前へ来た。
俺達は、目と鼻の先にある壁を見る。
「つくえ……?」
その壁の正体は夥しい数の机だった。
机のバリゲート。
この言葉が適切かもしれない。
その夥しい数の机が、天井まで延びていた。
まさしく、壁を思わせるように。
しかも、積み重なっている机は、バランスよく積み重ねているのではなく、
複雑に入り組んでいる。
「なぜつくえ?」
清王さんは珍しく小首を傾げた。
疑問は膨らむばかりだ。
壁を作りたいのなら、シャターのようなものを降ろせばいい。
だが、この壁は崩すことができる。
進入を妨げるために作られた壁としては、あまりに耐久性がなさすぎる。
「う、うわ~」
月守さんは手を額にあて、天井まで連なっている机の壁を見上げる。
「この先が放送室だ」
ガイがいうにはこの先……。
机同士が重なりあっている隙間から前方を見つめる。
よくみると、この壁は隙間だらけだ。
それはそうだ。
机なんてあまりにも壁にはむいていない。
「突破するしかあるまい」
桜夜先輩の意見。それは突破……。
崩すのは容易いだろう。
だがそれは、この夥しい数の机が一気に崩れるという意味だ。
俺が予想するに、この机が雪崩のように崩れる。
それに巻き込まれれば、大惨事だ。
「でもどうやって突破を……」
これは時間稼ぎなのか?
いや、この夥しい数の机を作るのに、相当な時間を費やしているだろう。
だとするなら……これは……。
「う~ん……」
先輩は両腕を組み、頭を悩ませている。
空いている隙間は、人間が通れるような隙間ではない。
やはり、崩すしかないのか……?
いや、崩せば雪崩の如く俺達に襲い掛かる。
打つ手なしか……。
「崩さないで通るのが、一番いいと思うんだけど……」
確かに月守さんのいう通りだな……。
う~ん……。
俺は腕を組んで必死に考える。
崩さないで通る方法……。
机は、触れてしまえば崩れそうなぐらいのアンバランス。
その机を崩さずに通る方法なんてあるのだろうか……。
この机の壁を作るなんて、とんでもない匠の技だ。
逆に感心してしまう。
「遠距離から崩せばいい」
清王さんが意見をだす。
具体例を上げず、遠距離から崩せばいいと。
「え?でも、どうやって……」
『カチャ……』
月守さんがそういうと、
少女の両手に常時握られている、銃の銃口を壁に向ける。
「なるほど!これなら遠距離からでも崩せる!」
これで、崩れた机が俺達に直撃するということはなくなった。
「そうときまれば、下がるぞ」
桜夜先輩は机の壁に背を向け、その場を離れる。
「上手くやれよ」
ガイは横目で見ながら、少女の横を過ぎていく。
「美唯、行こう」
ここにいると、雪崩の餌食になる。
清王さんは俺達が下がるまでの時間、待っているとは思えない。
容赦なく崩すだろう。
「う、うん……」
「ほ、本当にこれで大丈夫かな……」
月守さんは、不安でか何度も顔だけ後ろを振り向く。
俺は、美唯と一緒に、机の壁から離れて行った。
◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇
十分な距離を置いた。
これだけ離れれば、被害は受けないだろう。
『ズド―――――ンッ!!!!!』
なんの断りも入れず、清王さんは不意に一発、
机の壁に向かって発砲する。
『ガシシャァァアアアアアアッ!!!!!』
大きな轟音を立て、机は崩れ始める。
まさしく、その光景は雪崩だった。
それか、土砂崩れ。
「やったか翠華?」
見事に遠距離からの崩しに成功。
だが、さらに問題も増える。
「足場が……」
廊下中に机が散乱している。
廊下の床が見えないぐらいに、机で覆われている。
これだけの机を、壁として積み上げていたのか……。
「少々、足場が悪いが、臆することはない」
先輩は一番に机で覆われた大地へ入っていく。
かなり、足場が悪そうだ。
それに続いて、ガイと清王さんも入っていく。
『ガクッ!』
清王さんがバランスを崩し、机が多少動き大きな音を立てた。
だが、転ばないで、すぐに態勢を立て直した。
そして、何事もなかったように歩みを進める。
今の清王さんは、ちょっと可愛いかった。
「うわ~。ゴミ屋敷みたい……」
その月守さんの表現が正しいかもしれない。
ゴミではないが、そのゴミが机になった感じだ。
「美唯、行くぞ」
俺はゆっくりと机大地へ行く。
「あ、足場悪いから、気をつけてね……?」
「美唯もな」
こうして俺達は、無事に突破に成功した。
何度も足が縺れたけど、どうにかその場を突破した。
◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇
「此処が放送室……」
前方にはドアがあった。
これは、ドアノブで開けるタイプだ。
引きか押しかまでは分からない。
「そうだな」
ちゃんと上には、放送室と書かれていた。
此処に、朝倉が……。
緊張感は一気に高まった。
「万が一のことがあれば、君達だけでも逃げたまえ」
その言葉は誰でもなく、俺達に向けられていた。
「ま、万が一って……」
そんなことは、想像したくはない。
だから俺は頭をブンブンと横に振り、思考を消す。
そして、桜夜先輩がドアノブに手をかけた。
「行くぞっ!!」