14話-(2)
ー君の魂に抱かれてー(きみのこころにだかれて)
この作品はフィクションです。
登場する人物・団体・地名・事件・世界設定などは全て架空の物であり、
実際の物とは一切関係ありません。
「君の魂に抱かれて」は本編とboy and girls' aspects
で構成されています。
初めて読む方は、本編からご覧ください。
桜夜先輩が先頭で、俺達は横に並ぶように歩んでいる。
何処から、奇襲されてもおかしくない。
既に、ここは相手の領域なのだから。
だが、身体は一切震えない。
なぜだろう?その理由は、自分でも分からなかった。
この虹陵橋は、ざっと1kmぐらいかな?
その1kmが、短いのか、長いのか。
徐々に桜凛武装高校の姿が露になってくる。
俺達は、言いらずに歩く。
「これが、校門か……」
ついに校門まで来てしまった。
大きく聳え立つ門。この門が、今の俺にはかなり大きく視えた。
異世界に堕ちた初日の俺だったら、考えられないところにいると思う。
自ら、一番の危険のところへ足を運ぶのだから。
「帰ってきてしまったな」
桜夜先輩は『しまった』と後につけていった。
此処は高校。そのためか、入りにくい雰囲気ではなかった。
俺は空を見上げる。
今日も青々とした空が広がっている。
俺は、あの空の向こうにいる家族に誓った。
「行くぞッ!」
先輩が先頭で門を潜る。
此処は先輩の通う学校。
桜夜先輩は、堂々として桜凛武装高校の内部へ入っていく。
「翠華、行くぞ」
次にガイが門を潜る。
「…………」
少女もその後に続く。
俺達も行くか……。
「先輩に続けッ!」
俺はなんの迷いもなく、門を潜る。
「此処が、桜凛武装高校……」
美唯は周りを見上げながら、入っていく。
「りおん……お姉ちゃんを見守ってて……」
月守さんは何かに委ねるように、門を潜っていく。
此処が桜凛武装高校……。
今、俺はその大地を踏んでいる。
まず、入って眼に入ったのは、桜並木だった。
「桜ッ!?」
満開に咲き誇っている桜。
その花びらが、舞い散っている。
確かに桜が咲いている。
なんで、桜なんて咲いてるんだ……?
今は、9月だぞ!?
「桜……」
桜夜先輩も、始めてそれを視るかのような境地だった。
桜夜先輩は立ち止まり、桜を仰ぎ見ていた。
「なぜ、桜が……」
ガイもその桜に驚愕している。
桜凛武装高校の生徒ですら知らない。
それが、この桜。
「…………」
その桜に興味を示したのか、少女も桜を見上げる。
舞い散る花びらが、少女の周り、少女の上にも落ちていく。
「きれい……」
美唯は手の平を広げ、桜の花びらが手の平へ落ちていく。
「こんな時期に……なんで桜が……?」
月守さんはただ呆然と眺めている。
確かに此処には、桜が咲き誇っている。
俺達は、決死の覚悟でこの場に来た。
なのに、この桜並木は予想外だった。
桜に見惚れてしまい、本来の目的を忘れてしまっていた。
「では、行くか」
先輩の頭の上には、桜色の花弁がついていた。
この異世界でも、こんなに素晴らしいところがあったのか……。
「桜夜先輩、この桜は……?」
この時期に桜が満開なんて、ありえない。
だが、先輩も始めてみるような心境だった。
だとするなら、何なんだ?この桜は?
「こんな所には桜はなかった」
ないところにいきなり桜が……?
俺の頭は、疑問に包まれる。
「いや、ないのではなく、咲いていなかった。詳しいことはまた後だ」
咲いていなかった……?
どういう意味だ……?
「校舎へ入るぞ」
校舎……。
その瞬間、一気に現実感に襲われた。
いよいよ、遂行する。
その時が来た。
俺は桜並木の向こうにある、校舎を見つめる。
「あれ?そういえば、人がいないんじゃない?」
月守さんが何かに気付いたように声を上げる。
人がいないだと……?俺は周りを見渡す。
だが、人影すら一つもない。
「確かにいないな」
ガイも周りを見渡す。
「いないなら、好都合」
少女はさっきからこの一点張りだ。
でも。確かに好都合だ。
もしかしたら、戦闘も避けられるかもしれない。
だが、ここまでくると不気味なものを感じる。
やはり、なにかの策なのか……?
「行くぞッ!」
だとしても、俺達は前へ進まないといけない。
俺達は先輩の声と共に、校舎に向けて歩き始めた。
◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇
「此処が正面玄関か……」
目の前には正面玄関が聳え立つ。
此処まで来ても、人の気配一つもしない。
「そうだ。此処が正面玄関だ」
俺も、こうも簡単に正面玄関まで辿り付けるとは思わなかった。
「行くぞッ!」
恐怖は計り知れない。
だが、それ以上に真に理由を知らなくてはならない。
その意思が俺を後押しする。
「先輩に続けッ!」
どんな危険が在ろうとも、俺は仲間を守る。
この命に代えても。
絶対に……。必ず……。
俺達は、桜凛武装高校のキャンバスへと入っていった。
◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇
桜凛武装高校のキャンバスは、静寂に包まれていた。
「妙に静かだな」
ガイは入るなりそんなことをいう。
確かに静まり返った放課後を思わせる。
校内ですら、人の気配は一つもしない。
俺は校内を見渡す。
桜凛武装高校のキャンバスは、いたって普通。
武装高校と知らずに行ったら、とても武装高校とは思えない。
俺の通う桜凛高校と、そうは変わりはなかった。
「フハハハハハハハハハハッ!!!!!」
「――ッ!?」
不意に男の高笑いが、校内中に響き渡った。
しかも、かなりの大音量だ。
「どこからだッ!?」
桜夜先輩は辺りを見渡す。
だが、人影は見当たらない。
「御機嫌よう!諸君!」
御機嫌よう……?
何なんだ?この男は?
その前に、この声は何処からだ!?
「潤ッ!スピーカーからだよッ!」
スピーカーからだとッ!?
俺は上を見上げる。
見上げた、その天井にはスピーカーがかかっていた。
まさか、此処からなのか?
「放送室はこの私、朝倉が占拠した!」
放送室を占拠したッ!?
そして、この男の正体は朝倉……。
って!スピーカーから!?
「なんでスピーカーから……?電気は使えないんじゃないのかッ!?」
この世界では、電気は使えないはず……。
なのに、電気を使うスピーカーが、使えるはずがないッ!
「――ッ!?」
全員、そのスピーカーを凝視する。
「視ての通り、この校内には桜凛武装高校の生徒はいない」
やはりそうだったか……。
怪しいまでに、生徒の一人もいなかった。
朝倉ってのが、裏で意図を引いていたのか……。
「この俺を止めたければ、この校内に這い巡らしている屍を越えてみせろ!」
屍!?
それは、俺達に対する挑戦かッ!?
面白い……。
この感覚……いつに懐かしい感覚よ……。
俺の中で、奮い上がるものがあった。
「受けて立とうッ!!朝倉ッ!!!!」
俺はスピーカーに向けて高く拳を揚げた。