14話-(1) 浮遊する世界
ー君の魂に抱かれてー(きみのこころにだかれて)
この作品はフィクションです。
登場する人物・団体・地名・事件・世界設定などは全て架空の物であり、
実際の物とは一切関係ありません。
「君の魂に抱かれて」は本編とboy and girls' aspects
で構成されています。
初めて読む方は、本編からご覧ください。
ー9月5日ー
桜凛武装高校へ向かう途中に、その日は来てしまった。
今は、空に太陽が昇りはじめ、徐々に明るくなっていく。
黄昏の風景だ。
俺達は、真の理由を調べるために、桜凛武装高校へ向かう。
だが、その道のりは困難を決した。
桜凛武装高校は、郊外にあり、更には海の向こうにある。
場所は海を埋め立てし、その上に作った高校。
つまりは、島の上にある高校。それが桜凛武装高校
その島へと続く、巨大橋が一本あるそうだ。
そこからでしか、桜凛武装高校には入れない。
つまり、俺達はその橋に向かっている。
移動の中では、決して静かではなく、話し声で溢れていた。
最初はどうなるかと思ったけど、意外にも話し合える人だった。
だが、その中でも少女は自分からは話さなかった。
無視をする訳ではない。話しかけたら、短いが返答はしてくれる。
「随分と遠いですね……」
数時間はざらに歩いている。
夜から朝になるぐらいだ。
「あと少しだ」
ガイが俺を励ましてくれた。
あと少しか……。あと少しってどのぐらいだろう……。
まぁ、そう簡単には真実へは辿り着けないってことか……。
◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇
「ああッ!海だッ!!」
突如、美唯が大声を出す。
海……?海だとッ!?
俺も美唯の見つめていた方を視る。
「本当だ……」
ああ……俺達は海まできたのか……。
なんだか、嬉しいというよりは、感動に近い感覚だ。
長い年月をかけて、成し遂げたときの状態に近い。
「海……」
月守さんも嬉しいというより、感動に近い感じだった。
そうなるほどに、俺達は歩いてきた。
「もう、一息だな」
桜夜先輩も海を眺める。
確かに此処まで来ればもう一息だ……。
俺は改まって考える。
俺達は、相手の本拠地、本陣ともいえる場所に向かっている。
つまり、敵の数は今までとは比べ物にならないことが予測される。
明らかに少人数な俺達。
できれば戦闘は避けたいが、そうは上手くいかないだろう。
覚悟を決めなくてはならない。
俺達の生死すら懸かっているんだ。
俺は左眼に手を添える。
あの時の激痛はなんだったんだろう……。
全身を駆け巡る痛み、その中でも左眼の激痛は一秒も耐えられないほどだ。
やはり、使い過ぎというものなのだろうか……。
俺は一昨日、寝る時に結界を数時間も発動させていた。
それがかなり響いたかもしれない。
使い過ぎというのは、一般的に考えてもよくない。
時と場合で、使い分けるしかないか……。
◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇
「あれが橋なんじゃないのか?」
海に近づくにつれ、島へと続く大きな橋が視えてきた。
あと、5、6kmといったところか……。
正確ではないが、憶測でそんな感じだ。
あれが俺達の目的の橋なら、あの島のようなところが、桜凛武装高校。
「そうだ。アレが桜凛武装高校へ続く、虹陵橋だ」
ガイが俺の問いに答えた。
虹陵橋っていうんだ……。
随分と大きく、長い橋だ。
俺はその虹陵橋の先の島を見つめる。
「あれが桜凛武装高校か……」
島全体が桜凛武装高校の領土なんだ……。
その島はかなりの大きさだった。
今から、あそこへ進入すると思うと、思わず腰が引けてしまう。
それぐらいの大きさだ。
「随分と大きいね……潤……」
「そうだな……」
緊張感が漂ってくる。
あれだけ大きな所だ。
防犯設備等も完璧なのだろう。
「あの島全部が桜凛武装高校……」
月守さんは気が引けたようだ。
初めて視る俺達は、まずその大きさで圧倒される。
本当に進入できるのかな……?
そう思いつつも、俺達は前へ進んでいった。
◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇
「遂にきた……」
もう、俺達は橋の目の前にいる。
着いたなら嬉しいはずなのに、なんだか喜びが沸かない。
ガイはその先の桜凛武装高校を見つめる。
「警備人がいない……?」
ガイがつくなり声を張り上げる。
警備人がいない?
俺も虹陵橋の先を凝視する。
が、人影はまったく視えない。
「随分と怪しいな」
桜夜先輩も小首を傾げている。
怪しいということは、普段は警備人がいるってことか?
「普段はいるんですか?」
俺は桜夜先輩に問いかける。
「ああ、週番制になっていて絶対にいる。サボれば手痛い処分が待っている」
警備人絶対にいる。
なのに、今に限っていない。
確かに怪しい。
「これマズイってッ!絶対に怪しいってッ!」
月守さんは恐慌し始めた。
確かに、いつもいるものが、いなかたら誰だって怪しむ。
これは、どういうことなんだ……。
「いないなら、好都合」
少女の左右の手には常時、銃が握られている。
移動中ですら、ずっと握っている。
確かに好都合だけど……。
それ以上に、なにかがあると思うんだよな……。
「好都合って言ったて……」
既に太陽は昇っていた。
眩しい太陽の光が、俺達を照らしている。
「元より危険は承知しているッ!!行くぞッ!!」
どの道、危険は避けれない。
危険ともわからないのに、ビクビクしてどうするんだ。
「よっしッ!行こう!」
俺は自らの意思で、それを言葉にした。
「うんッ!行こうッ!」
美唯も誰からも縛られず、自分の意思でそれを言葉にする。
「潤、無理しないでよ?」
優しい口調で、語りかけるようにそういった。
「ああ、美唯こそ無理するなよ?」
「うん」
素直に頷いた美唯。
無理はしないと口では言ったが、実際はその気はない。
仲間を助けるためなら、俺は自分の限界を超えるつもりだ。
「えぇッ!?みんな行っちゃうのッ!?」
月守さんは更に恐慌する。
「お前は残るのか?」
ガイは恐慌する月守さんに問いかける。
俺達に着いていけば、危険は避けられない。
だが、ここに残れば安全っていう訳でもない。
「い、行くよッ!」
恐怖を拭って、行くことを選択した。
蛮勇にもよくにているかもしれない。
「行くぞッ!」
桜夜先輩の声と共に、俺達は虹陵橋を渡り始めた。
その先にある、真実の為に。