13話-(1) 真実へと続く道の途中
ー君の魂に抱かれてー(きみのこころにだかれて)
この作品はフィクションです。
登場する人物・団体・地名・事件・世界設定などは全て架空の物であり、
実際の物とは一切関係ありません。
「君の魂に抱かれて」は本編とboy and girls' aspects
で構成されています。
初めて読む方は、本編からご覧ください。
俺達は通常の雷の逆袈裟に光る奇妙な雷を眼にした。
明らかに普通では、ないとわかる雷。
だから、俺達は先輩の仕業だと分かった。
先輩が俺達と合流するために、起こした雷だろう。
たしか、ここら辺から光ったよな……。
前方には大きなビルがある。だが、そのビルも廃墟だ。
此処は開いている広場のような所だった。
銃声はしない。
どうやら戦闘は行われていないようだ。
そのビルの前に視える人影がひとつ。
「桜夜先輩ッ!!」
俺達は同時に先輩の名を呼んだ。
先輩の姿が視えた。
戦闘中でもなさそうだった。
俺達は再び合流する。
「おおっ!中沢くん!よく無事でいてくれた!」
先輩の一言でようやく実感した。
俺達は無事だったんだ……。
絶体絶命な状況もあったが、どうにか無事だ。
「――ッ!?」
先輩は後ろから来た、少女の方を視る。
桜夜先輩は険しい表情を崩さなかった。
「魔弾の誅伐人……」
魔弾の誅伐人……?
確かに先輩はそう呟いた。
なんだ?それは……?
「至高の桜月導」
少女は先輩に向かってそう言った。
至高の桜月導……?
俺の知らない世界が展開されていく。
「桜夜先輩ッ!どうしたんですかッ!?その傷!?」
不意に美唯の声が響く。
傷……?
桜夜先輩に傷……?
あの先輩に傷……?
あんなに強い……桜夜先輩に……?
俺には信じ難いことだった。
「なに、気にすることはない。ただ腕の表面を切っただけだ」
先輩の右腕には、確かに少し血が滲んでいた。
本当に……あの桜夜先輩が怪我をしたのか……。
「少し待っててください!今治療を……」
治療道具を出そうとした美唯を、先輩は右腕を出し止める。
「この程度の傷で治療はいらんよ」
治療を拒む先輩。
そして、俺の所まで歩み寄る。
「よく……無事でいてくれた……」
先輩は優しく微笑んだ。
先輩は、仲間の無事を心から感嘆している。
だが、無事でいられたのは、俺のお陰じゃない。
「俺達が無事でいられてのは、あの人のお陰です」
俺は後ろで立っている少女を視る。
俺は何もしていない。まったく。
月守さんが銃で撃たれたときも、俺は何も出来なく、立ち竦むだけだった。
あの銃弾が当たらなかったのは、月守さんの持ち前の運動神経と反射神経のお陰だった。
その後だってそうだ。
結局、また俺は何も出来なかった。
「清王翠華……」
先輩はその少女を視て、そう呟いた。
なんで……先輩はあの少女の名前を知っているんだ……?
確かに、あの少女の名前は、『清王 翠華』だ。
その少女は、ただ、桜夜先輩だけを凝視していた。
「桜夜沙耶」
なんなんだろう……?この空気は……。
いつになく張り詰めた雰囲気だった。
しかし、何故、二人とも名前を知っているんだ……?
「そうか……君が中沢くん達を助けてくれたのか……」
先輩が少女に歩き寄る。
だが、それを拒むように声を上げる。
「別に助けてない。ただ誅伐をしただけ」
少女はハッキリとした口語でそういった。
俺は少女と初めて会ったときを思い出す。
彼女はあのとき、迷いも無く女生徒の頭を後ろから打ち抜いた。
あの惨劇な状況が、脳に突き刺さるように蘇ってくる。
暫く閑静が続く。
だが、その閑静を破ったのは、誰でもなく天候だった。
「雨……?」
俺の頭上に水滴が落ちる。
その水滴に反応するように、俺は空を見上げる。
空模様は濃い鼠色だった。
「酷い雨になりそうだな」
少年も雨に気付き、空を仰ぐ。
天気雨だろうか?
「一先ずビルに入るぞ」
桜夜先輩は廃墟と化したビルに向かって歩く。
「あ、はい」
美唯は俺を視てからビルの中へ入っていった。
その表情は『潤も来るんだよ』といっている気がした。
「ああッ!あたしも行くッ!」
二人は先輩の後に着いて、ビルの内部へ入る。
俺は――
「貴方がたも行きましょう!此処にいれば雨に打たれますよ!」
この雰囲気だと、少年少女とは此処で別れてしまう。
俺達の成すべきことは、『仲間』を増やすこと。
「…………」
少年は空を軽く見上げながら、考えている。
その瞬間、雨は本降りになった。
『ザザザザザザザザァァァ―――――』
雨は激しく降り注ぐ。
この世界での雨は初めてだ。
「翠華、行くぞ」
少女にそういい、少年はゆっくりと廃墟と化したビルへ向かう……。
「…………」
少女は何も喋らず、少年の後に続く。
複雑な気分だが、決別は避けれたようだ。
あの人達とは話が弾まない……。
タイミリミットは雨が止むまでか……。
雨が止んでしまえば、共にいる意味はなくなる。
それまでには、対話をしなければいけない。
「俺も行くか……」
このまま、雨に打たれても、風邪を引くだけだ。
まぁ、雨も滴る良い男ともいうけどな。
今はそれどころじゃないな。
俺もビルの内部へと歩んでいった。