8話-(2)
ー君の魂に抱かれてー(きみのこころにだかれて)
この作品はフィクションです。
登場する人物・団体・地名・事件・世界設定などは全て架空の物であり、
実際の物とは一切関係ありません。
「君の魂に抱かれて」は本編とboy and girls' aspects
で構成されています。
初めて読む方は、本編からご覧ください。
「此処なら何か手掛かりがあるかもしれない」
確かに桜夜先輩の言う通りだ。
この異世界では、桜凛高校と桜凛武装高校の生徒しかいない。
ということは、最も身近で関係が深い所はお互いに校舎。
此処なら何か分かるかもしれない。
「…………」
だが、俺は気が進まなかった。
それは此処で銃撃があったから。
どんな状況か、わからない。
だが、恐れてはいけない。
俺は前に進む。
正面玄関が近くなると、鼻を刺す激臭がした。
今までに経験したこともない臭い。
まさか、この臭いは……。
「此処でもか……」
先輩が下を見る。
「これは……」
物言わぬ肉魂と化して転がっている人間。
俺ははそう思わずにはいられなかった。
折り重なる肉が形づくる地面……。つまりは死体。
数はかなり多かった。
「うぅ……」
美唯が左手で口を押さえる。
「そ、そんなぁ……」
月守さんはその光景をただ見つめていた。
ああ!?侑達は――!?
「侑ッ!?菜月ッ!?聖夜ッ!?」
俺は夢中でその地獄の中へ駆け出した。
夢中で探し走る途中、血で滑る地面に足を取られて何度もよろける。
それでも転ばすに、立ち直り、走ることを止めなかった。
確かにあの時、侑達は此処に行った。
こんなに危険な場所だったのか……。
こんな所に侑は行ったのかッ!?
この死体の中に侑達の死体があってもおかしくない。
そんな事考えたくない……。
だが、これだけ酷い状況の中で侑達は逃げれたのだろうか。
美唯が俺に向けて、儚く声を漏らした。
だが、俺には美唯の声は聞こえなかった。
「潤……」
俺は夢中で探す。
侑達の無事を確かめるために。
「此処から離れるぞッ!!」
桜夜先輩は俺に警告する。
俺の直感も此処から離れろと命令する。
本能的に此処は危ない。
「……分かりました……」
俺は死体が転がる景色を視る。
みんな……。
痛かっただろう……?
苦しかっただろう……?
そして、こんな所で死んでなによりも悲し過ぎるだろう……。
死ぬ間際に何を求めた……?
必死に助けを求めたんじゃないのか……?
俺は溢れそうになる涙を必死に堪え、その地獄から走り去った。
侑達がその場地獄にいない事を信じて。
そして、俺達は裏庭へ行った。
◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇
「こんなことが……」
こんなことが在ってもいいのだろうか?
いや、人の殺し合いが良いはずがない……。
「…………」
全員が黙ってしまった。
こんな事が起こっている世界にいま俺達がいる。
殺し合いが日常。それがこの異世界。
俺達は異世界の是非を再び認識する。
逃げる術すらないのだろうか……。
いや、逃げてもこの地獄は続くだろう。
何処へ逃げても。
だから、俺はこの惨劇に挑む。
逃げる術もなく、ただ立ち向かうだけだ。
「君達……大丈夫か?」
桜夜先輩は精神的なダメージは受けていないようだ。
いや、表情には出さないだけかもしれない。
「潤?大丈夫?」
「美唯こそ……」
俺達はどうにか平然を取り戻した。
だが、あの光景が俺の頭に、取り憑かれるようにして離れない。
「月守さん?」
「あっ!うん……大丈夫……」
その声は怯えていた。
だが、虚ろな目はしていない。
昔の月守さんなら、心が折れていただろう。
「では、校舎に入るぞ……!!」
俺達は決心し、先輩を先頭にて俺達の見慣れている校舎に入る。
あの頃の記憶が蘇る。
いつも此処で授業を受け、仲間と共に、"俺の日常"を送っていた。
だが、その日常はもうない。
音も無く手の平からすり抜けていった。
あっけなく、無惨に……。惨烈に……。獰悪に……。悲哀に……。
そして、容易く……。
俺の日常を奪っていった。
「特に変わった様子はないな……」
だが、周りのガラスは割れ荒らされている。
まるで廃校を思わせた。
校舎をしばらく歩く。
『ガコン!』
先輩が扉を開けた。
この音は、俺は聞きなれている。
そこは屋上へと出る扉。
「屋上か……」
屋上……。
俺もあの時授業をサボり、屋上にいた。
俺はこの屋上から見る景色が気に入っている。
「良い眺めだな」
風が桜夜先輩の赤い髪を揺らす。
なんだか、とても絵になる。
「本当だ……良い景色……」
月守さんは屋上に出入りはしたことがないのだろうか?
月守さんも景色を初めて見るように感嘆する。
「…………」
俺も眺めた。
この景色は色褪せてない。
お気に入りの景色のままだ。
「では、食事にするか」
桜夜先輩は昨日の夕飯で食べ残った、
ご飯をおにぎりにしていた。
「さぁ、食べたまえ」
先輩は美唯と月守さんにおにぎりを渡す。
「あ、ありがとうございます」
「ありがとうございます! 沙耶先輩」
二人はおにぎりを受け取った。
「中沢くんも受け取りたまえ」
おにぎりは異常に俺のだけでかかった。
「随分と強大サイズですね……」
顔ぐらいあるんじゃないかな……。
よく握れたな……こんなおにぎり……。
「男はきちんと食べたほうが良いぞ?」
俺はおにぎりを受け取る。
おにぎりと言うかボール。
『よっし!サッカーでもするか!』
と言いたくなる大きさ。
こんなの食べきれない……。
俺はボール型のおにぎりを受け取った。
「重っ!?」
腕から毀れ落ちそうなくらいな重量だった。
筋トレ道具にはもってこいな重さだった。
「ほら、落とすなよ」
「分かってますよ……」
予想より重かった。
これは流石に食べれないな……。
夕飯まで残しとこ……。
「こうして皆で食べるとお昼休みたいだよね」
美唯は近くのベンチに座る。
そのベンチは、1日の日に俺が昼寝をしたベンチだ。
「そうだな」
先輩とはつい最近会ったのに、
なんか何年も前みたいな感じがする。
昔のように皆でご飯を食べれる世界に戻りたい。
ちょっと先輩作った弁当見てみたいかも……?
そう想いつつ、俺はサッカーボールを食べ始めた。
◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇
「中沢くん、食べるのが遅いぞ?」
皆、食べ終わっていた。
皆のは普通のおにぎりサイズ。
俺だけサッカーボールサイズ。
しかも、中身なし。
「あんなボール短時間じゃ食べれませんよ!?」
心の中だけで思っていたおにぎりの通称を、
口にだしていってしまった。
「な、ボールだと!?」
先輩がボールに反応する。
ちょっと失礼だったな……。
せっかく作ってくれたのにな……。
自重しないとな……。
「あれは、ボールではないぞッ!?」
「そんなこと知ってますよッ!!!」
俺は、やっとの思いで、
『よっし!ソフトボールでもするか!』
と言いたくなるぐらいまで食べた。
俺はソフトボールをポケットにしまった。
もう、食べられない……。
というか飽きた……。
「よし!皆食べたな?では……」
俺は食べ終わってないけど……。
だが、桜夜先輩がそう言い掛けた時……。
『ドカ―――ンッ!!!』
「うわぁあ!?」
月守さんが短い声を上げる。
空間ごと揺れるような大音響がした。
「爆発音!?」
桜夜先輩は屋上のフェンスぎりぎりまで行き、外を見る。
「あそこか……」
俺もフェンスに手をかけ、外を見る。
黒い煙が立ち昇っていた。
爆弾か何かだろうか?
距離は近くもないし遠くもない。
「行くぞッ!!」
先輩が猛ダッシュで屋上から出て行く。
「桜夜先輩!?」
俺は桜夜先輩を呼び止めたが、先輩は行ってしまった。
「潤ッ!りんか!」
「ああ、俺達も行くぞ!」
「えっ!?」
月守さんは少し困惑していた。
俺達が戦場へ行くなんて思ってもいなかった顔だ。
「先輩に続けッ!!」
俺はそう高らかに拳を空に突き出し、俺達も先輩を追った。
これ以上の犠牲を出さないために。
異世界から脱するために。