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8話-(1) あの頃へ続く想い

ー君の魂に抱かれてー(きみのこころにだかれて)


この作品はフィクションです。

登場する人物・団体・地名・事件・世界設定などは全て架空の物であり、

実際の物とは一切関係ありません。


「君の魂に抱かれて」は本編とboy and girls' aspects

で構成されています。

初めて読む方は、本編からご覧ください。


あれから、何分が経っただろう?


俺達3人でくだらない雑談をしていた。

何も異世界とは関係の無い話。

いつものような話。くだらない話。意味の無い話。

まるであの頃へ戻ったみたいだ。

こうしていれば、異世界とは気付かない。

果たして本当に異世界なのだろうか?

そう思えてしまう程だ。


「月守くん?」


桜夜先輩は月守さんに話しかける。

そろそろ落ち着いてくれただろうか?


「…………」


まだ、月守さんは虚ろな目をしていた。

何処を見つめているのでもなく、

ただ、彷徨うその瞳。

何を想い、何を感じているのだろう?


「大丈夫だ。共にこの異世界から脱出しよう」


桜夜先輩が手を差し伸べるが無反応。

今の月守さんは心が此処には無い。

そんな感じがする。


「りんか?」


美唯の呼びかけにも答えず、まだ、その眼は虚ろに彷徨っている。

人間は悲しい事、絶望を知ってしまった時それぞれ過程が違う。

余命告知がこの状況には似ているかもしれない。


事実に絶望する者。

事実を受け入れられない者。

怒りに身を任せる者。

何かに縋る者。

生きる方法を探す者。

今までの生活に後悔する者。

憎悪する者。

受け入れる者。

そして、残りの人生を楽しもうとする者。


まだまだ、あるだろう。


俺は怒りに身を任せてしまった。

だが、美唯はなんだろう?

その事実を知った時、激怒する俺を優しく抱きしめてくれた。

なら、美唯は受け入れていることになる。

先輩は脱出方法を探している。

つまり、生きる方法を探す者。


月守さんは、事実に絶望する者。


だが、それには意味がない。

絶望しても助からない。

嘆いても助からない。

行動を起こさなければ、

『脱出』という可能性すら見つけられない。


俺は月守さんに想いを伝えた。

そんな無駄な事は止めて欲しい。


「今、何が見える?」


「…………」


俺の問いに月守さんは答えない。


考えてみると、月守さんの反応が一番自然なのかもしれない。

俺達は最初、心の片隅では嘘だと信じていたんだ。


だけど、俺は戦闘を視た。

人と人同士の殺し合いだ。


だから俺は信じられた。

此処が異世界だと。


「世界はどう見える?」


月守さんの気持ちは痛い程に分かる。

俺も絶望の後は何もかもが汚く見えた。


そう、"あの事故"の後。

家族が死んだ"あの事故"


俺の世界は穢れてしまった。

何もかも色褪せて見えた。


そんな状況が数年続いて、ただ虚ろに彷徨い意味のない日々、苦痛の日々を送っていた。


だが、苦痛なのは俺だけではない。

俺は自分の『大切』にも怯えていた。

俺は『大切』すら遠ざけてしまっていた。


「異世界から出る術は十分にある」


だから俺はこの異世界のことを知っても絶望はしなかった。

ただ、理不尽が許せなかった。人を殺すと言う行為が。

どんなことがあっても、その行為だけは赦せない。


だけど、俺はそれ以上の絶望を経験している。

父さん、母さん、沙希、が助かる可能性はもう今はない。


だが、この異世界には可能性がある。

脱出は可能。俺はそう思う。


「出る術……?」


やっと声が出た。

だけど、恐怖に怯え、震えている声だった。


「ああ、必ずある。だから一緒に探そう。思い詰めても何も変わらないし世界も何一つ変わらない」


月守さんはただ、自分を追い込んでいるだけ。

このままだと、自分も闇の中に消えていってしまう。

俺みたいにはならないで欲しい。

月守さんはまだ自分を見失ってない。

だから、まだ間に合う。


俺は……事故の後、闇へ消えた。

立ち直れず。前を向けず。俺は俺であり、俺ではなかった。


だが、その闇の中に光が照らした。

その光が、美唯だった。


「…………」


月守さんは涙を流している。


何の涙かわからない。

決心の涙か絶望の果ての涙か。

違うものなのか。


「だから一緒に行こう!」


俺は手を差し伸べた。


月守さんは腕で涙を拭い、

俺の手をしっかりと握った。


「はい……ありがとう……ございます……」


その声は涙のせいで、ぎこちなかった。

だが、その意思は強かった。確実に想いは俺に届いた。

それだけで十分だ。


「よし!ではそろそろ行くか!」


桜夜先輩が図ったように声を出した。


「はい!行きましょう!先輩」


威勢よく先輩に言葉を返す美唯。


「さぁ、行こう!月守さん」


「はいッ!」


俺達は脱出の術を探すため、再び歩み始めた。



◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇



脱出する術。

それを探しに仲間と共に歩く。


「しかし……」


「どうしたんですか、桜夜先輩?」


此処は林。

脱出する術と言うが、具体的にどんな事をしていいのか分からない。


「中沢くんだけ異性だな」


「ブブゥゥゥ―――――!!!」


思わず吹き出してしまった。

何を言い出すんだ先輩は!?


「確かに潤だけ男の子だねぇ……」


確かに周りは女の子。

今まで気が付かなかった……。

いや、そんな事を思う余裕が無かったんだ。


「じゃぁ、潤先輩はハーレム状態ですね」


「ハーレム状態って…おい……」


まぁ、現実世界ならハーレム状態だろう。

だけど、此処はこんな世界だ。

ハーレムは不成立と言いざるを得ない。


「まぁ、いいさ。破廉恥な行動だけ止せよ」


何故か俺に注意をする桜夜先輩。

俺は何をしたのだろうか?

善からぬ行動なんてした覚えもない。


「特に夜中とかです?」


月守さんも話しに乗る。

出来れば乗らないで流して欲しかった……。

あ、自然な流れで月守さんが会話に入った……。

それほどまで俺達を信用してくれたか……。


「いや、最近の若者の男子は大胆だと聞く」

「へぇ~そうなんですかぁ……」


話の趣旨が変わっているような……。

二人共、嫌な目付きで俺を見つめる。

そんな目で見ないでくれ……。

俺の人格を勝手に作らないでくれ……。


「潤はそんなことしませんッ!! 一生ッ!!」


美唯が二人い向かって声を上げる。

力強い声で。

ありえない事を。


「えッ!? 一生ッ!?」


動揺を隠せなかった。

一生だと、俺の中沢家は滅ぶ。


「ほぉ、一生か……」


先輩の顔が怪しい。

でも、流石に一生はない。

俺もそれは困る。


そんな事を話している間に、

俺達が良く知っている所に着いた。


「桜凛高校……」


そこは初日に行ったきり来てなかった、桜凛高校。

別れを告げた桜凛高校だった。



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