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君の魂に抱かれて  作者: 皐月-Satsuki-
boy and girls' aspects
135/136

9月7日/侑eyes   奇跡を



全てが重なった。この世界の全てが分かった気がするほどにそれは大きなことだった。

桜夜沙耶のグループは6人。今目の前にいる3人の他に桜夜沙耶も入れてあと3人いるらしい。

このグループは本当の真実が分かるまで、俺たちのように戦い続けてきた。悪戦する戦いも仲間の力で乗り越えてきた。

仲間の為に戦う。そんな中、突如下された残酷な命令。『桜夜沙耶が率いるグループの殺害』

混乱に陥った桜夜たちだが、それでも本当の真実に辿り着くまで仲間を信じてと戦い続けた。

そして、壮絶な戦いの中、遂に桜夜沙耶が本当の真実に辿り着いてしまったのだ。


異世界を創らされた異能者が死ねば、この世界は終わる。


そう。その異能をもつ者が桜夜沙耶のグループにいたのだ。

仲間を守ることを望めば、すなわち世界の終りを望むするようなもの。

……この世界にあってはいけないぐらい過酷な選択を強いられたんだろう。


「…………」


沈黙が場を支配する。意思が揺らいできた証拠かもしれない。

仲間を守り、世界を終わらせるのか。仲間を殺し、世界を守るのか。

当然、俺は前者をとっていた。だけど……それは自分勝手な感情が決めた決断だ。


考えるだけで苦痛で仕方ない。だけど俺はこの世界では恵まれている方だ。

異世界を創らされた人は――今頃何を想っているのか。


「異能者は知ってるのか?自分が死ねばこの世界が終わることに」


冷たい言い方かもしれないが言葉を選択するだけの時間はない。


「……たぶん知ってると思う。いきなり二人があたしたちから離れて行ったから」


唇を噛み締めか細い声ながらも教えてくれた星見郷。

それが原因で桜夜のグループは決別してしまったのか……。


「二人? 異能者とその友達ということか?」


蒼生先輩も真実を解くため必死に黙考しているように見える。


「……うん。正しくは恋人だけどね。二人は」


――恋人。その二人が世界の命運を握っているというのか。……あまりに重過ぎる。

心中でも考えているのだろうか……? それとも他の道を探しているだろうか?


「会いに行こう。その二人に」


粢先輩は先陣を切って言い放つと真っ直ぐに俺たちを見渡した。

明日を見るような何一つ曇りのない瞳。


「もちろん殺そうなんて考えてない。何か別の手段があるはずだ」


「ああ、それが一番だな。桜夜沙耶もその二人を探しているだろう」


その考えに蒼生先輩も乗ると次々と賛同の頷きが起こった。

粢先輩の親友でもある桜夜沙耶も俺たちと同じ考えだったら良いけど……最悪の事態も頭に入れなければいけない。


「……沙耶お姉ちゃんは二人を殺す気だよ。だからあたしたちを武装高に返したんだ。責任を自分一人で背負う為に」


俺の心を見透かされたよう、畏怖しながらも口を開いた星見郷。

……決して間違えを言っているとは思えない。むしろそうである可能性の方が高いだろう。

桜夜沙耶の仲間である彼女が言うのなら……。


「……沙耶、本当にそれでいいのか。仲間を見殺しにしてお前の世界は守れるのか」


空を仰ぎながら粢先輩は小さく何かを問う。

――問いたくて仕方ない。どれが本当の正解なのか教えて欲しい。

俺たちは――こんな小さい世界に閉じ込められて何をしているんだ。


「急ぐしかないな。桜夜に見つけられたら瞬殺されるのは間違いない。異能者とは言えど一般高の生徒だ」


異能者が死ねばこの世界は終わる。なら桜夜沙耶に命運を賭けた方が良いんじゃないか?

……そんな最低な考えが過らない訳ではない。都合の良いことだけ考えるのが俺たち人間だ。

もちろんこの世界に来る前の俺は人任せだった。だけど、今は違う。


やってみないと分からないじゃないか。俺にしか出来ないことだってあるかも知れない。

最高のハッピーエンドでこの世界を終わらせてやる。


「急ごう。もう時間がない」


どこに向かっていいか分からない粢先輩は辺りを見渡す。

会いに行くとは行っても、その二人がどこにいるかすらまるで見当がつかないのだ。


「……とは言ってもどこを探せばいいのやら」


……暗中模索とはこのことか。まるで手がかりがない。

だけど、ここには桜夜のグループにいた3人がいるんだ。それはかなりの手がかりになるはず。


「そうだ。その二人の特徴を教えてくれないか?」


粢先輩も当然考えは同じだ。


「えぇ……、二人の特徴って言われてもなぁ」


少し言葉を詰まらせ思考と記憶を巡らせる星見郷。

そうだ。この二人は確実に桜凛高校の生徒なんだ。顔が広いとはとても言えない俺だが、少しは知っている可能性もなくはない。


「名前教えてくれよ。俺たちは桜凛高校の生徒だからもしかすると知ってるかもしれない」


親指で後ろに居る聖夜、菜月を指さす。


「名前ぐらいなら国語力がないさあらでも言えるよ! えっとねぇ……」


一つ小さく息を吐いて、


「――中沢潤と成沢美唯」


「……え?」


人間、まったく予想もしていない事が起きると、本当に頭が真っ白になるらしい。

これはある種の拒否反応に近いのかも知れない。受け入れたくない。だから理解が出来ない。


「ど、どうしたんだ3人とも……?」


粢先輩の声でようやく現実に帰ってこれた。が、思考は巡りに巡っている。

ウソ……だろ。潤と美唯がこの世界の……。

いや、何かの間違いだろ。俺たちは親友なんだぞ? それなのに異能に気付かないわけが……。


「最後の最後まで……どこまで悪趣味なんだよこの世界は」


聖夜は空に向かい壮大な溜息をついていた。

気落ちなんてもんじゃない。どん底に沈められ境地に立っている気分だ。


「ともだち……なんです。二人とも。俺たちの。……大切な」


声を絞り出すのもやっとの思い。既に何を語ったのかなんて忘れていた。


「な、なんだと……」


地面しか視界に入らない。悔しさと怒り、様々な感情が入り混じる中、ただ手を握り締めるしかない。

嘘ではないと分かっていても嘘だと信じたくなるこの複雑な気持ち。

……そうか。潤たちが死なないと――この世界は終わらないのか。世界の命運を――あの二人が背負ってるのか。


「……落ち込んでどうするのさ二人とも」


とても励ましなんて出来ないような空気の中、菜月の声が一際通る。


「美唯と潤は生きてるんだよ!? あたし達の助けをきっと待ってるよ!? 周りが敵だらけの中……たった二人で今も頑張ってるんだよ!?」


心の中が震え上がるような錯覚を覚える。それはきっと菜月の声が響き、木霊しているから。

この世界が存続している以上、必然と二人も生きていることになる。――二人は戦ってる。今も。

その二人を助けられるのは――俺たち仲間しかいない。


「……まったく何を考えてたんだ俺は」


例え誰であろうと俺たちのするべき事は変わらないだろ? それに、守らなければならない理由もできた。

こんなにも心が清々しい。事態は最悪のはず。だけどその事態すら俺には最良に思えてきた。

最高の仲間と共に戦える。これ以上の最良があるだろうか。


「ありがとう菜月」


この世界の創造主。つまり鍵は潤か美唯。

だけどこの世界で唯一、異世界を終わらす力があるのも異能力者である潤か美唯なんだ。


「運命ってのは本当にあるのかもな」


気が付けば聖夜からも溜息ではなく、微笑が漏れていた。

運命、か。

粢先輩と出会った頃から運命はもう決まっていたのかも知れない。


「……よし、皆迷いはないな? もう一度力を一つにするぞ!」


いつも彼女の声は力をくれる。何度も俺たちを裂こうとしたモノが存在していた。

だけど、その度に俺たちは絆の力で乗り越えてきた。


――きっと俺たちにはとんでもない力がある。


「覚悟決めて突き進むぞ!」


粢先輩が力強く拳を突くと、その拳を突き合う仲間。

その輪を成す仲間を俺たちはファーゼストクンパニアンという。


「あたしたちも一緒に行くよ! 桜夜グループはまだ解散してないもん! もう一度結成しに行くんだ!」


更に仲間の輪は広がっていく。この輪が大きくなればなるほど奇跡は近づいてくる。


「奇跡を起こすぞ!!!」



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