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君の魂に抱かれて  作者: 皐月-Satsuki-
boy and girls' aspects
134/136

9月7日/侑eyes   これからつくる未来



「ここからは俺だけの方が良くないですか?」


屋上の扉を目前にして俺はそう提案した。

そもそもあの少女と面識があるのは俺だけで、いきなり大勢で駆けつけても警戒されるだけだ。


「確かに大人数で行くのは問題があるな。しかし……」


「大丈夫ですよ。少し子供っぽい女の子でしたし危険はないと思います」


粢先輩の表情が曇った瞬間にすかさず言葉を入れる。

心配するのも分かる。もしも少女が襲撃するような事があれば俺は太刀打できない。

だけどあの少女は敵にならないだろうという確信が何故かあった。


「そうかもしれないがやはり一人は危険だ。私も同行させてもらう」


二人なら問題はないか。むしろ一人より自然体かもしれない。

俺はこくりと頷き、快く粢先輩の提案を快諾した。


「じゃーあたしたちはここでお留守番ね。はやく帰ってきなさいよ」


「ああ、分かってるさ。緋咲たちもお留守番しっかりな」


「バカにしないでよ。てか、どうしてその幼稚な子に会わないといけないの?」


緋咲の視線は粢先輩から外れ、流れるように俺を捉えていた。

どうして、か。そう改めて問われると言葉が詰まってしまう。

率直な事を言うしかない。説得力はまったくないが黙っているよりはマシだ。


「上手く言えん。神のお告げみたいなもんだ」


言わばそう。もしくは直感。

いや、もしかしたら逆なのかもしれない。

あの少女が俺に何かを感じたというのもあり得なくはない。

その場合は高確率で期待に背いていると思うが……。


「……あんた。勘って鋭い方なの?」


「その答えはテストでありありと出てるから大丈夫だ。未だに赤点は取ったことない」


「うわッ! まったく信用できない!」


「テストすら受けてないお前が言うな」


「余計な情報言うんじゃないわよ蒼生!」


緋咲に何を言われようと俺は俺の勘を信じたい。

だが、今回は生死が懸かるような選択ではないだろうから気は楽だ。何もなかったらなかったらすぐに引き返せばいい。


「余興もこれまでだ。そろそろ行くぞ。侑」


「ええ、行きましょうか」


悠長なことはしてられない。こうしている間にも世界消滅のカウントダウンはゼロに近づいているんだ。

粢先輩とこれからも一緒にいられるように――俺は冷たい屋上への扉を開いた。


「誰かいるか?」


警戒を怠らない粢先輩は素早く低姿勢になり、辺りは見渡す。

が、そんな警戒がバカバカしくなるような光景が広がっていた。


「あ、なんか転がってますよ」


「え?」


その光景に呆けてしまった粢先輩は著しく警戒心が下落し間抜けな声を漏らした。

転がっているという表現はちょっと間違っているかもしれない。芋虫のような得体の知れない物体が3体も並んでいるのだ。一番奥に。


「なんだあれは……? まさか芋虫型時限爆弾か?」


「人ぐらいの大きさですよ? しかもそれが3体ですよ? 爆発したら化け物級の威力じゃないですか」


冗談を言えるのは、あの芋虫の正体が俺には分かっているからだ。

そう――あれは有人の寝袋。恐らく昨日出会った少女たちの一行が身体を休めていることだろう。


「「……っておきろぉおおおおお―――――ッ!!!!!」」


二人の叫声を合図に猛ダッシュで芋虫へと駆け寄る!

その瞬間、火で炙られたように3体の寝袋が仰天して空を飛んだ。


「やばいやばいって! 手が抜けない~! 翠華お姉ちゃん助けてよ!」


「……それは私も同じ。ここは死んだふりが上策」


「ええぇ!? 無理でしょ!? 相手はクマじゃないんだよ!? もっと言えばクマにも通じないんだよ!?」


俺たちを襲撃と勘違いしたのか猛講義を始め出した3人。

声で確認できた。昨日あった人たちに間違いない。でも……これは一体どういうことだ?

なぜこんな所で寝泊りを……。


「おはよう君たち」


怖い笑顔で3体の寝袋を見下ろす粢先輩。眉毛はぴくぴくと動いているから絶対に内心穏やかじゃない。


「…………殺られる殺られる殺られる殺られる」


寝袋の少女が圧倒的な眼差しを避けるよう寝返りを打ち、呪文のよう高速に何かを唱え始めた。

魔法の呪文かとも疑ったがどうやら違うようだ。


「おいお前! 昨日の一件とこの一件について説明してもらおうか」


もちろん俺の内心も穏やかなはずがなかった。


「あ、その声は昨日会ったお兄ちゃん?」


頬を引き寄せながら今度は俺の方へ寝返りを打ち、顔を確認する少女。

昨日は暗闇だったから互いに顔は知れないと思うが、声から想像していた通りの幼い容姿をしていた。


「ああそうだ。お前が屋上に来いと言ったから来てやったんだ」


「あ、ああぁ……なるほどね」


そう言いながら少女はバツの悪そうな顔で向こう側へ寝返りを打つ。

……一体何が目的なんだこの子は。


「……何がなるほどなんだよ!」


わざと大きく地団駄を踏む。その音に合わせるよう少女の身体もピクリと動く。

するとようやく観念したのか無理に微笑みながらこちらを見た。


「い、いやぁ~。だって目覚ましに来てもらったなんて言ったら怒るでしょ?」


「……?」


意味が理解出来なかった。

目覚まし? 何が? まさか俺が? この少女に目覚まし係として利用されていたというのか?


「でも屋上で待ってるって言っちゃったのはあたしのミスかなぁ~。ここで寝る羽目になったしね。てへぇ」


「何がてへぇだよ……」


少女の意図が分かった瞬間、身体から血の気が引くような脱力感を覚える。

目覚ましも使えないこの世界だ。しかも世界が終わる最終日に寝過ごすなんてまさに絶望的な状況といえるだろう。

その目覚ましの役割を初対面である俺に託すのか……。なんという頭の回転の速さだ。


「君たちも分かっているだろ? 今日が何の日か。この一分一秒がどれほど尊いか」


「わ、わかってるよそんなこと」


粢先輩が諭すと少女から明るい声が消え、ようやく寝袋から出ることに成功した。

え?それで立ったのかと言いたくなるぐらいその少女はやはり小柄。小学生と言ってもいいぐらいに。


「なにお兄ちゃん『え?それで立ったのか?』って言いたげな顔してるの?」


「おっと、そんなこと微塵も思ってないぜ? あの頃から比べて随分と大きくなったじゃないか」


内心、冷や汗が溢れ出ている。どうやらこの少女は小さいだけの女の子じゃないらしい。


「あれ?お兄ちゃんと昔会ったことあったけ?」


「昨日な」


「一日で大きくなるわけないでしょ!?」


思わず微笑が漏れた。やはりこの少女たちは俺たちの敵ではない身を持って感じる事が出来たからだ。


「こらこら! そんなことを言ってる場合か! 早く行動を起こさないと何もかも手遅れになるぞ!」


「それもそうですね。冗談を言い合うのは元の世界に戻った時のご褒美に取っておきますか」


粢先輩にそう強く言われ、もう一度今日が最後の日ということを認識する。

彼女と出会い、仲間とも出会えたこの世界。俺にとってこの世界がここまで思い入れが強いモノになるとは思わなかった。

でも終わらせる。終わらせなければいけない。


「沙耶に会いに行くぞ。アイツが間違いを犯す前に」


先輩は踵を返し、この少女とはここで別れはずだった。

この一言さえなければ。


「……沙耶? まさか……桜夜沙耶?」


心臓を打ち抜かれたように大きく鼓動が鳴り、背を向けたまま硬直してしまった。

何かに気付いてしまったような怯えた口調で桜夜沙耶の名を口にした少女。


「し、知っているのか!?」


「……知ってるどころじゃない。桜夜沙耶のグループ。それがあたしたちだよ?」


頭で理解するのに時間がかかた。……この少女たち三人が桜夜沙耶と共に行動していたということか?

なら今目の前にいるこの三人は――桜凛武装高校が出した殺害命令に中る人ということ。

だけど……どうして別行動を?


「な……ッ!? どういうことだ!? 沙耶が仲間を捨てたのか!?」


状況が理解できない俺たちは少女に訊くしかなかった。

情報が錯乱し過ぎている……。一度頭を整理するしかない。


「違う……沙耶お姉ちゃんはあたしたちを守る為に捨てたんだ」


顔面蒼白になった少女は泣きそうな顔で小さく頷く。

真実が語られるまで俺たちは待ち続けるしかなかった。



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