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君の魂に抱かれて  作者: 皐月-Satsuki-
boy and girls' aspects
129/136

9月6日/侑eyes   これから始まる未来



「なんか外で買い物カートをひくって変な感じだけど楽しいねぇ~」


奏笑の間延びした声と買い物カートが地面を這う音が聞こえる。

しかし、奏笑は本当にいつも笑顔だな……。傍から見るとまるで買い物でも楽しんでいるかのようだ。

こんな世界でも笑顔を絶やさない彼女は……本当にすごい超人かもしれない。


「で、何であたしたちが買い物カートをひかないといけないのよ……。こういうのは普通、男がするもんでしょ……」


「まぁ、誠意を込めて頼み込んだら代わってやらん事もないが」


「はぁ!? 誰が蒼生に頼み込みなんてするもんですか! このカートは墓場まで押してくわ!」


「……いや、それは無理だと思うぞ」


俺たちが調達してきた荷物は厖大過ぎて、とても抱えて持てるような量じゃなかった。

だからこうして買い物カートで運んでる。

奏笑は何だか楽しそうにカートをひいているようだが、緋咲は不満しかないらしい。

それなのに緋咲の反抗が少ないのはジャンケンで負けたからだ。奏笑は自ら進んで立候補してたが……。


「菜月、聖夜、防弾コートの具合はどうだ?」


「ええ! もう完璧ですよ璃桜先輩!」


粢先輩の問いに親指を立て声を張り上げる聖夜。


「珍しい事に聖夜が言う通り完璧ですよ! ありがとうございます粢先輩!」


菜月を見てみると、粢先輩の言う通り桜凛高校の制服は完全に隠れていた。

これで菜月はかなり安全といえる領域に入っただろう。……本当に良かった。


「これで侑と聖夜の制服が全て隠れたらな……」


物惜しそうに俺たちが穿いている桜凛高校のズボンを見る粢先輩。


「ああ、そういえば4階でコスプレフェアが開催されてたな。桜凛武装高の制服もあったから一応3着持って来たぞ」


一瞬、蒼生先輩の言葉が文字通り理解出来なかった。

あれ? それってつまり……。


「蒼生! お前は神か!」


「お、落ち着け粢氏!」


粢先輩が半ば、蒼生先輩に抱きつくようにしてその3着を強奪していった……。



◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇



「ふぅ、これで全員、周りから見れば武装高の生徒だな」


菜月と聖夜、そして俺が桜凛武装高校(コスプレ版)に着替え、再びその上から防弾コートを羽織る。

これだけの装備をしている者が桜凛高校の生徒だと思うはずもないだろう。見事、カモフラージュ成功だ。


「わぁ~! 菜月ちゃんかわいい!」


両手を合わせ、満面の笑みで歓迎する奏笑。


「あ、ありがとう」


あまりのハッピーオーラに菜月も反応に困っていた。


「あーあ、遂に桜凛高校の制服を脱いじまったな」


聖夜は脱いだ桜凛高校の制服を綺麗にたたみ、周りを右往左往する。

どうやら腕の中にあるそれの始末に困っているようだ。


「捨てるのか?」


「捨てるっていうと可哀想だけどなぁ。でも置いて行くしかないだろ?」


切なそうに聖夜は微笑し、俺が行動を起こすまだ待っているよう。


「そうだな。コイツはこの世界の地雷みたいなもんだもんな」


何だか俺まで切なくなってきた。

俺たちの青春を共にしてきて、これからも、卒業するまで着るはずだった桜凛高校の制服。

そのはずだったコイツとも別れないといけない。


なんで俺たちは戦ってるんだろうな。 なんで桜凛高校の生徒を殺さないといけないんだろうな。

なんで皆が協力することも出来ないんだろうな。


改めてこの世界の理不尽を連ねる。


「あっ! そうだ! 緋咲の固有結界の中にでも収納しておいたらどうだ? その制服を!」


理不尽を脳内で黙考していると不意に、粢先輩がぽんっと手の平を叩き、純粋な微笑みで緋咲を見る。


「えっ、おかしい! 絶対におかしいって! あたしの固有結界は一度入れたら取り出すことが出来ないのよ!?」


焦燥する緋咲を見て、聖夜の表情も一気に明るくなる。


「確かに置いて行くなら緋咲の中に放った方がいいな!」


粢先輩の案にのり、制服を抱えながらじわじわと緋咲に近づく聖夜。


「よ、よるなへんた―――いッ!!!」


緋咲には悪いが、この制服を置いてくなんて後ろ髪を引かれる思いだ。

俺も加勢させて貰おう。


「緋咲、俺たちの制服を任せたぞ」


「緋咲ちゃん、任せた!」


俺と気がつけば菜月まで制服を緋咲に差し出していた。

そして、ここで決め手が訪れる。


「緋咲、この制服は侑達にとって青春の証なんだ。その証をこんな異世界に置いていいと思うか?」


「うぅ……、そ、それは……」


口語を詰まらす緋咲を見て、勝ちを悟った粢先輩が更に拍車をかける。


「もし、もしも緋咲が引き受けてくれるのなら――」


粢先輩はおもむろに空を見上げて小さく息を吸い、ゆっくりと瞳を閉じた。


「――私が大切にとってあった秘蔵のうなぎパイをあげよう」


「どんなかっこいいシチュエーションにしたって無駄よっ! それにいらないわ!」


ぶんっと腕を振り払うお決まりのポーシングでツッコミを入れる緋咲。

なんだか、この流れは俺たちの中でお決まりになってきたな。

というか精鋭なツッコミを入れられるのは緋咲ぐらいしかいないんじゃないか?


「緋咲、俺からも言わせてくれ」


さぁっと粢先輩を庇うよう前に現れた聖夜は真剣な形相で緋咲を見つめた。


「もし、もし緋咲が引き受けてくれるなら。俺をも蠱惑させたベット下に隠してある――」


「それ以上はいわせないわよ――ッ!?」


再び緋咲の高い声が街中に響き渡り、それが皆の笑い声に変わる。

……が、その中一人だけ真剣な形相で何かを考えている粢先輩がいた。


「――待てよ。確か私たちが無理を言って緋咲に取り出しも可能な保存用固有結界を創ってもらったんじゃないか?」


「――あっ!?」


皆の声が重なり、その後は無言になる。

……今までの荷物がなかったからまったく気付かなかった。というか忘れていた。

そういえば緋咲は歩く物置と表していたな……。


「な、なんで全員忘れてたのよっ!? あぁ!もうっ!! 今までの努力はなんだったのよッ!?」


「いや、そもそも当の本人が忘れている事を私たちが覚えているはずがないだろ?」


「――ッ!?」


粢先輩の言葉に息を呑んだ緋咲はもどかしそうに視線を下へ泳がす。

そんな姿を見て粢先輩は切なげにぴくっと眉を上げたあと、優しく肩を叩いた。


「すまなかった。私が無理を押して頼んだのに……。その私が忘れるなんて甚だしかったな……」


真摯に謝意を示す粢先輩に緋咲も動揺し、言葉に詰まっている。


「ほ、本当にそう思ってるの……? なら良いけど……」


緋咲は覚束ない手でポケットの中の携帯を取り出し、そっと逆の手をその表面に添える。

これは前に緋咲から話してくれた固有結界の入り口を創っている――らしい。

その証拠に手の添えた部位は黒い闇のような妖しい光りを漏らしている。


「奏笑、あんたの荷物も入れるから早く頂戴」


手を添えていた携帯の表面を奏笑に向けて突き出し、荷物を入れるよう示唆する。


「えぇ~! もうちょっとお買い物気分を味わいたいのにぃ~!」


「あんたここは外よッ!? こんな状況で良くお買い物気分を味わってたわねッ!?」


ブツブツと何か言いながら最後を味到するようカートをゆっくりと押して行く奏笑。

一方、その様子を早くしろっと顔で分かるほどのイライラをみせる緋咲。


「はいっ! はやくこの中に入れて! 早くよ早く!」


苛立ちが有頂天に達した緋咲は勢い良くビシィともう一度携帯を奏笑に突き出す。

が、ようやく緋咲のもとまで行った奏笑だが、どうやって荷物を入れていいのか分からずただ小首を傾げながら満面の笑みを浮かべた。


「えへへ、どうやっていれるの?」


怒りの感情すら感じないい子供のような顔をされて、緋咲も歯痒いのだろう。


「もぉ!貸しなさいっ!」


強引にカートの中から荷物を鷲掴みにして、これも強引に固有結界へ押し込む緋咲。

その様子を心配そうに身体を乗り出して奏笑は見ていた。

が、心配なんて感じる暇もなく一瞬で荷物は固有結界の中へと吸い込まれ消えていった。


「わぁ~! すごいすご~い! 両替機みたい~!」


ま、まぁ、確かに両替機みたいな感じもあったが……。

もっとマシな例えは奏笑の中にはなかったのだろうか?


「……どうもあんたが相手だと調子狂うわねぇ」


緋咲は眉をぴくぴくっと動かせながら荷物を全て固有結界に入れると、一度ぶんっと携帯を縦に振り抜きざまにポケットへしまった。


「ああーすっきりした」


遠い目で空を見つめている。

本当に色々と緋咲の中ではすっきりしたと俺でも思う。


「これで後は――桜凛武装高校を目指すだけだ!」


粢先輩は良く通る声で俺たちに振り返り、その先を見る。

遂にその言葉が現実のものになる――そう考えるだけで胸が激しく心悸してきた。

これからは相手の本陣へ行くことになる。いくらカモフラージュしてるからといって上手くいくとは限らない。


だけど、それでも俺たちは真実を知らなくてはならない。

この世界を壊すために。この世界から脱するだめに。

歩き出そう。みんなで。



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