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君の魂に抱かれて  作者: 皐月-Satsuki-
boy and girls' aspects
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9月6日/侑eyes    生きる力


「まったく……侑はとんだ変態だな」


粢先輩の声にはまだ羞恥感が残っており、恐らく頬も紅潮しているのだろう。

だけど俺は――粢先輩の顔すら見る事が出来ない。

その瞳を見ただけで先の感触が蘇る……。解ってはいたけど……まさか、まさか……。

粢先輩のがあれほど大きいなんて……。


「い、いや、あれは事故なんです」


だから言葉も片言になる。


「いつまでも俯くな! 私はもう気にしてないぞ! この件は侑が変態だったという事で落着だ!」


「うわぁあああああああああああ―――――ッ!!!!!」


俺の評価が一気に変態の域に落ちた事を痛感し、哀れな絶叫が虚しく響き渡った。




◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇




「四階に着いたぞ!」


嬉しそうに声を弾ませる所を見ると、粢先輩は本当に気にしてないみたいだ。

でも……その笑顔と明るい声が身に沁みて痛い。なんだろう……この罪悪感は。


「ぅ……? ゆう……? ……ゆう―――!!!」


「は、はいっ!? な、なんでしょうかっ!?」


「……まさかまだ気にしてるのか? 男心というのは難しいな。いつも通り接することも出来ないのか?」


頬を赤らめながら少し口重そうに言う粢先輩。

本人は気にしてないっと明言しているが、やっぱりまだ恥ずかしいのだろう……。

二人の間に漂うこの気まずい雰囲気は、まさに告白を原因に仲が崩れてしまったっという状況と酷似している。


「べ、別にそんな思い詰めるような深刻な事でもないだろ!? それともなんだ!? わ、わわわわたしの胸に妙なシコリでもあったのか!?」


「…………」


「そこで黙らないでくれぇ―――ッ!!!」


「い、いや、そんなのはなかったですよ……」


「ならもうこの話は終わりだ! 次なにか言ったらコイツ(MP7)で撃つぞ!? 」


「は、はいっ! 次からはしっかりしますっ!」


黒光りするものを見せられ、ようやく自分を取り戻せた気がした。

……脅迫というのは恐ろしいものだ。




◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇




「粢先輩、先輩の言ってたもう一つの場所って何ですか?」


四階に置いてあるのはDIY関連と日用雑貨。

あの言葉からするに、先輩の目的はどうやらこの二つではないようだ。

行ってからのお楽しみとは言っても……何があるのかは皆目見当がつかない。


「ああっ! ここだっ!」


四階の奥側まで辿り着き、立ち止った粢先輩はここぞと両手を大きく広げる。

そのプレートに書いてる文字は――


「ぶ、武装エリア!?」


一瞬、眼を疑ったが確かにそう書いてあった。

何が売っているのか?

それはもう想像するまでもない。


「桜凛市は日本で唯一、武装高がある都市だ。なら当然武装に対するニーズも高まるという事だ」


「でも、殺傷能力のある武器は一般人には買えないがな」


コンビニも場所によっては揃える品が違うように、武装高が近いここもニーズに合わせて武装品を売っているという事か……。

まさかこんな所が俺たちの生活の間近にあっただなんて、知った今でも信じられない。


「行くぞっ」


躊躇なく中に入って行く粢先輩。

誰もいないと解っていながらも俺は右往左往してしまう。

……でも、俺も行かなきゃな。少しは皆を守れるような物を見つけなきゃな。

仄かな不安と大きな使命感に押され、俺は粢先輩の後を辿った。


「うわぁ……すごい」


元々、サバゲー好きでエアガンも集めていた俺だが……本物という事とその品揃えに面喰らってしまう。


「うおっ! こ、これは!」


入って早々、感嘆の声を上げる粢先輩。

一体、何があったのだろうか?

入り口付近にあるという事は結構の目玉商品なのだろうが……。


「コート?」


粢先輩の視線の先には、漆塗りしたような黒色で背丈も太股まであるコートが展示してあった。

見るからに随分と高そうなコートだ。


「ただのコートじゃないぞ!」


そう口語を強め、コートに指差しながら振り返る粢先輩。


「アメリカの何だかというところが創った防弾コートだ! 確か何だかと言うすごい実験すら潜り抜けてみせた超一流ものだぞ!?」


「アメリカしか覚えてないじゃないですかっ!?」


「と、とにかくすごい逸品なんだ!]


興奮しながら熱弁するところを見ると、相当すごい防弾コートなのだろう。

流れるように値札を見てみると――俺の想像していた額とは桁も違っていた。

ゼロが何個あるんだよこれ……。


「いや待て……、これさえあれば私たちはカモフラージュしながらも武装高に侵入出来るんじゃないか……?」


小さく何かを呟いている。

その後もブツブツと呟きながら脳内で何かを考えているようだ。


「うわぁっ! か、完璧だっ! この防弾コートは是が非でも三着持って行くぞ!」


粢先輩はおかしなテンションのままバーゲンセールのよう身を乗り出して三着を強奪する……。


「はぁ……はぁ……、ゆ、ゆう……。これを……羽織ってみろ」


息を切らせながら粢先輩は開封済みの展示品をくしゃくしゃの状態で俺に差し出す。


「は、はぁ……」


それを受け取って広げてみると、くしゃくしゃだったはずの防弾コートは折り目一つ付いていない。

さすが粢先輩のいう超一流という事か。

デザインもかなり凝っていて、映画等で目にする名探偵が羽織ってそうだ。


「よっと」


実際に羽織ってみると少し重みもあり、その重みが逆に守ってくれそうな心強さを感じる。


「うおぉ……!」


思わず感嘆の声を漏らしてしまった。

なんだこの防弾コート……! かなり動きやすいぞ!

それを証明する為に俺はボーリングの投球ホームをしてみせた。


「粢先輩っ! 見てください! かなり動きやすいですよ!」


「いや、そんなボーリングの投球ホームを見せられてもな……」


「ほらっ! 見てくださいよ! 本塁打王の打撃フォームだって思うがままですよ!」


「い、いや、一本足打法を見せられてもな……。ま、まぁとにかく動きやすいのだけは解ったぞ!」


「どうですか!? あの三冠王を三回受賞した神主打法だって――」


「もういいっ!!!」




◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇


「ぬぅぬぅ……」


顎に手を置き、薄目を開けて何度も唸っている。

考え事をしているぐらいは解るが、その内容までは伝わってこなかった。


「侑っ! ズボンを脱げっ!」


「えぇっ!?」


突如、粢先輩が何を思ったのか言い放った淫らな言葉に俺は反射的に赤面する。

ず、ズボンを脱げってまさか……。 何でいきなり粢先輩のスイッチがオンになったんだ……!?


「ち、ちがっ! そ、そういう意味じゃないんだっ!」


両手をパタパタとさせ全力で否定する粢先輩。


「ズボンが見えるから侑が桜凛高校の生徒だってバレてしまうという意味だ!」


その一言に俺は武装高に行く4つの理由を思い出す。

まず一番の理由は武装高の制服を全員が着てカモフラージュする事。

そして『防弾制服』をが手に入れる事と『武器の補充』

最後の一つは――『真実の真相』を確かめる為。


そうか……なるほど。

粢先輩は防弾コートを利用して制服を隠そうと考えたが、背丈が足りなくズボンが見えてしまうという事か。

ズボンが見えれば俺が桜凛高校という事もバレてしまう……。


「だが菜月はスカートだから大丈夫そうだな。そうかっ! 侑もスカートを穿けば――!」


「穿きませんよッ!!!」


「くぅ……上手く行くと思ったのになぁ……」


残念そうな視線で俺のズボンというか下半身を見てくる粢先輩。

状況が解ってなければ、俺の下半身が残念という風にも見える。

そういう意味での視線じゃないと解っているのに、男である俺の心は何故だか深く傷つく……。


「ってことは菜月はもう大丈夫なんですか!?」


「ああ、恐らくな。背も侑よりは低いだろうし、しかもスカートだ。桜凛高校の制服は完全に防弾コートで隠れる」


自然と安堵の笑みが零れた。

良かった……防弾コートさえ羽織れば菜月はかなり安全になる。

カモフラージュだけじゃない。万が一被弾した場合も大事には至らないんだ。

絶対ではないが、現状と比べてみれば遥かに安全だろう。


「本当に大切な友達なんだな。いつまでもその想いを忘れないようにな」


「えっ……? は、はいっ」


どうして粢先輩はこんな言葉を掛けてくれたのだろう。

羨ましそうな顔にも哀しそうにも見えるその表情。


「よし、これは豊作になりそうだ。 侑、使えそうな物は何でも持って来てくれ!」


ビシィと周囲を指差してから粢先輩は我先に獲物を調達しに行った。


普通じゃないけど、こうやって粢先輩と買い物をしている。

これが普通の世界なら――もっと楽しめるのにな。こんな世界でも十分楽しいのに。


元の世界に戻れても――


ファーゼストおれクンパニアンたちは、一緒にいられるのかな?


確信がある。この世界を共にしてきた絆はそんなものじゃない。

それを想像した瞬間、俺の胸は熱く滾り、生きる力に変わって行った。



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