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君の魂に抱かれて  作者: 皐月-Satsuki-
boy and girls' aspects
125/136

9月6日/侑eyes    舞い戻る日に告げること

ー君の魂に抱かれてー(きみのこころにだかれて)


この作品はフィクションです。

登場する人物・団体・地名・事件・世界設定などは全て架空の物であり、

実際の物とは一切関係ありません。

初めて読む方は、本編からご覧ください。



ーboy and girls' aspectsとは?ー


このモードは主人公の視点ではなく、

君の魂に抱かれての主人公以外の登場人物の視点です。


これにより、より世界観がわかりやすくなります。


※目次の場合、下に行くほど時間が最新です。


「また帰って来たな」


俺はデパートに入り、周囲を見渡す。

まず俺の両サイドに多数整列している買い物カートと買い物カゴが眼に入った。

そして前方には壮大な食品売り場が広がっている。


「さぁ、チーム分けをしよう!」


不意に先頭を行く粢先輩が振り返り、俺たちを視て言い、拳を強く突き出す。

え……? チーム分け?


「全員で動くよりチームで調達する物を決めた方が好都合だ!」


っと粢先輩は力強く唱え、突き出した拳を上下にゆらゆらと揺らす。

これはジャンケンを示唆しているのだろうか?


「まぁ、確かに調達するには良いかも知れないが、その分リスクが増すぞ?」


蒼生先輩が警鐘を鳴らす。

確かにこのデパート内部に敵がいる可能性を否定出来ない。

調達の効率を選択するかリスクを回避するか……。

頭を悩ませている俺を横目に粢先輩は、


「ふぅ、大丈夫だ!」


っと自信ありげに胸を張る。

これは期待して良いのだろうか……?

今までの経験上、素直に期待出来ない俺たちがいた。


「視た限り敵はいなかった! あとは……私の勘だ!」


……。……。……。


「なぜ黙るんだぁ!」


無情なまでに粢先輩の声は空気を揺らし消えて行った。

遂に粢先輩まで黙していた閑静を破ったのは、以外な人物だった。


「確かに此処は私たちしかいないよぉ~! くのいちもどきの私だけど、人の気配は感じられるよぉ~」


「さすが奏笑! 良く言った!」


助け舟を出してくれた奏笑の頭を、満面の笑みで鷲掴みにする粢先輩。

一方、ぐりぐりやられてる奏笑は痛そうだ。


「いたぁ~いたいですよぉ~!」


そういえば、かなりマイペースの奏笑だが、俺が見た戦闘時では忍者のような素早い動きを見せた事もあった。

その奏笑が言うのなら信じても良いかもしれない。


「そうか……なら、新稲氏が言うのなら信じよう」


確信を得た蒼生先輩は、粢先輩の時とは大いに違く即座に賛同する。

その反応に粢先輩は不満気に頬を膨らませる。


「って事はチーム分けした方が良いって訳ね」


「ああ、そういう事だ緋咲。 お前にしては頭の回転が速かったな」


「余計なお世話よ。 あたしは常に女傑の緋咲なんだから」


その緋咲と蒼生の会話を聞いて、誰よりも先に粢先輩が驚愕した。


「……ひ、緋咲が女傑だと!?」


「うっさいッ! 虚栄心ぐらい持ってもいいじゃないッ!!!」



◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇



「それでは、ルールを確認する」


粢先輩が少し低い口調で語りだす。

円形に立っている俺たちはそれを黙して聞く事にした。


「これから3チーム作る。 そのチームごとに担当の階を決め物資を調達する。 異議ある者は挙手」


粢先輩は周りを見渡し、挙手を確認する。


「いないようだな。 なら早速決めようじゃないか」


「ちょっと待ってよ、決めるってどうやって?」


「緋咲、異議がある者は挙手だと……」


「そんなのどうでもいいじゃない!」


ゴホンッと一つ咳払いをする粢先輩。

そして再び、強く拳を突き出した。


「チーム分けと言ったらこれしかない! そう……! グッチッパーだぁ―――!!!」


グッチッパー。

それは、3チームに分けたい場合などに用いる手段の一つで、通常のグッパーにチョキを加えて行うというシンプルかつ平等性が高くポピュラーなものだ。

まぁ、この場合は確かにそれが無難だと思う。


「しかし普通のグッチッパーではない!」


高らかに言った粢先輩の言葉に誰もが眼を合わせた。

普通のグッチッパーではない……?

何か嫌な予感しかしないな……。


「勝負は一回だ! 例えグーが7人でもパーが15人でも不平等になっても勝負は一回限りだ!」


「……パーが15人は絶対にないと思います」


「ふぅ、甘いぞ侑。そこが盲点なんだ」


「――ッ!?」


まさか言い返されるとは思ってもいなく、心臓が躍動してしまう。

この場には俺の知らない人……つまり敵がいるとでも言うのか!?

いや、だが奏笑はいないっと言っていた……見落としていたという事か!?


「全員が両の手を出すかもしれないじゃないか」


……そういう事か。

恐慌していた境地が、一気に変心する。

勝ち誇った顔をしている粢先輩だが、だとしてもそれは在り得ない事だ。


「全員が両手を出しても最高は14人ですよ」


「なッ……んだとぉ!?」


「そんな事どうでも良いじゃないッ!!!」



◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇



「では行くぞぉ―――ッ!!!」


突き出した拳を揚げ、強い口調で始まりの合図を出す粢先輩。

なんか粢先輩のテンションが高い気もするが、そんな事より今は目の前のグッチッパーに集中しなければ……。

一回勝負という事は、俺が独りになる可能性もあるという事だ。

誰かが独りになるというのは避けたいが、俺にはどうも出来ない。

天運、我に味方せよ!


だが、威勢良い粢先輩の掛け声は始まりを示唆するだけで終わった。


「さぁ、緋咲。 音頭を取るんだ」


あの始まりのテンションはどこに行ったのだろう?

粢先輩が所持している音頭権を緋咲に譲渡する。

抵抗するのかとも思ったが、音頭権が渡った事に緋咲は口元を歪ませる。


「後悔はなしよ」


不適な笑みは誰にでもなく粢先輩に向いていた。


「あたしのジンクスその一。 自分で音頭を取れば強くなる」


自信満々に言った緋咲に、今度は粢先輩が嘲笑う。


「ふぅ、面白い!」


掲げている拳に、再び力が入る粢先輩。


「私のジンクスその一。 相手が音頭を取れば強くなる!」


おお、これは矛盾対決という事か。

というその前に、グッチッパーで勝敗はあるのだろうか?

まぁ、この場合は独りになれば負けと考えていいのか。


「はぁ! あんたのジンクスなんて一回二回の偶然でしょ?」


「その言葉、そのまま緋咲に返そう」


「言っておくけど、あたしは小学校の頃に王様ジャンケン不敗の女王だったんだから」


「ならその時に運を使い果たしたんだな。 だからお前は武装高に入っても……」


「うっさいッ! 今は関係ないでしょッ!?」


ジリジリと睨みながら、二人の言い争いは先鋭化して行く……。


「愚弄を述べてるだけでは勝負にならない。 さぁ、始めようか!」


高く掲げた右腕を再び強く突き出す粢先輩。

座興が長かった気もするが、ようやく始まろうとしている。

全員拳を突き出し合い、後は緋咲の音頭を待つだけだ。


「じゃぁ、行くわよッ!」


粢先輩のコクリッと息を飲む音が聞こえる。

これは以外にすごい緊迫感だな……。


「グーチョキパーでわかれま……」


「ちょ、ちょっと待てッ!!!」


緋咲がそこまで音頭を取ると、粢先輩が身体を乗り出して止める。


「どうしたのよ? まさか緊張し過ぎて腰でも抜かしたの?」


そう嘲笑う緋咲に、粢先輩は口重に歯を食いしばる。

俺が視るには、緊張したというかは別に何か違う理由があるようだ。


「グッチョッパっじゃないのかッ!?」


「はぁ? 何の話?」


「音頭だ音頭! 音頭は普通『グッチョッパ』じゃないのか!?」


そう粢先輩は強く言い、同意を求める為に俺たちの視線を一周する。

グッチョッパ……。

確かにそれもあった気がする。

だが、俺は緋咲が言おうとした『グーチョキパーでわかれましょ』推進派だ。


「俺は緋咲と同じですね……」


熱く込められた粢先輩の視線に、愚見を返す。

俺の意見に続いて聖夜、菜月も、


「ああ、俺たち桜凛っ子はみんなそれじゃないのか?」


「グッチョッパも聞いた事あるけど……やっぱりそうね」


駄目押しを言わんばかりに蒼生先輩も、


「桜凛市に限ってではないが、それがポピュラーだろう」


その言葉に、粢先輩は眼を丸くさせる。

だが、唯一賛同していない奏笑が口重そうに、


「ええぇ~!? 『グッチッパーで合った人』じゃないのぉ~?」


何か色んな物が錯綜して来たな……。

グッチッパーで合った人か……そんなのもあったような気がする。


「ちょ、ちょっと! ならどれでやればいいのよッ!」


声を荒げて俺たちを視る緋咲。

ファーゼストクンパニアンはチーム分けでどれだけ時間を使っているんだ……。

まぁ、それも俺たちらしいというか何だか……。


「いや、納得いかないぞ! 粢家では代々グッチョッパだった!」


「アンタの母国の言葉とか家系の影響とかそんなの知らないわよッ!」


互いに前のめりになり、再びジリジリと睨み合う二人。

その二人の間に割り込み、奏笑が慌てながら仲介する。


「じゃ、じゃぁ~、わたしたちで作っちゃおうよぉ~!」


翼のように広げた手で二人を抑えながら、辛そうに声を大にして叫ぶ奏笑。

音頭を俺たちで作る……? どれかに統一するじゃ駄目なのか?

俺はそう思ったが、奏笑の思いが届いたようだ。

粢先輩と緋咲がほぼ同時に言い争いの最前線から微量に後ろへ退いた。


「そうだな、このまま争っても何も解決しない」


「少数派のアンタが降りてくれればそれで解決するわよッ!」


言い争いの火花が散りそうになると、透かさずに奏笑は可愛く咳払いをする。


「いつまでも喧嘩してるとぉ~! わたしが決めちゃいますよぉ~!?」


ええぇ……? 奏笑が独断で決める!?

ファーゼストクンパニアン、チーム命名の時にも、奏笑は驚きのセンスを披露していた為、少し不安になる。


「ああ、いっそのこと奏笑が決めてくれ。私はそれでいい」


「どっちでも良いけど……音頭を取るのはあたしなんだから、言って恥ずかしくないのにしなさいよ」


「うん! 任せてよぉ~!」


そう言い、奏笑は口をぽかーんと開けて上を視る。

これが奏笑の考えている時に思わずしてしまう顔だ。

何というか……視ていておもしろい。

っと、手をぽんっ!と叩き、名案が思いついたと顔で読み取れる程の笑顔を見せ、発言に出る。


「グッチッチィ~のぉ~パッパッパ~!」


「「もう何でも良いぃ!!! 早くやるぞぉ!!!」」


緋咲と粢先輩の声が恐ろしい程にシンクロし、この場を圧倒する。

俺たちで創っている円の中央を見ると、既に二人は拳を突き出していた。


「うえぇえ~ん! 菜月ちゃ~ん! そんなにこの音頭、可愛くなかったぁ~?」


「い、いや、可愛い! すごく可愛かったよ!」


菜月の必死の慰めに、奏笑はこの音頭に自信を持ったのか笑みを取り戻した。

これで奏笑の調子が戻るのだから驚きだ。


「ほ、本当~!? やったぁ~! 音頭も決まったし早くチーム分けしようよぉ~!」


奏笑による鶴の一声で、今度こそグッチッパーが始まりそうだ。

ああ、長かった……あとは行く末を己の拳で切り開くのみ。

俺は握られた右手を見つめる。

どうか全員、誰かと組めて独りがいないように。


「行くわよッ!」


緋咲の掛け声と共に、全員同時に右腕を引っ込める。


「グッチッチィーのぉーパッパッパァ―――――!!!!!」



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