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君の魂に抱かれて  作者: 皐月-Satsuki-
boy and girls' aspects
124/136

9月6日/侑eyes    いつか在りし場所と声

ー君の魂に抱かれてー(きみのこころにだかれて)


この作品はフィクションです。

登場する人物・団体・地名・事件・世界設定などは全て架空の物であり、

実際の物とは一切関係ありません。


「君の魂に抱かれて」は本編とboy and girls' aspects

で構成されています。

初めて読む方は、本編からご覧ください。



ーboy and girls' aspectsとは?ー


このモードは主人公の視点ではなく、

君の魂に抱かれての主人公以外の登場人物の視点です。


これにより、より世界観がわかりやすくなります。


※目次の場合、下に行くほど時間が最新です。


粢先輩のテンションは低くなってしまったが、ここで立ち止まる訳にはいかない。

再び俺たちは武装高に歩みを進めた。


「アイスを踏んだぐらいで何テンション落としてるのよ」


先頭をよろよろと歩く粢先輩を、緋咲が卑しめ始める。


「な、なんだと!」


緋咲の戒めを受けた粢先輩が激高し、ギロッと緋咲を睨む。

これは今までとは逆パターンだ。

いつもなら粢先輩が緋咲を弄するのに……。


「あの踏んだ感覚……もう二度と忘れはしない! 今思い返すと、踏んだとき『ぶちゃ』って鈍い音と妙な感触が……」


再びあの時の感覚を思い出した粢先輩は、再び俯いてしまった。

恐らく、靴の裏に再び違和感を感じたのだろう。

これから武装高に向かうというのに、粢先輩は大丈夫だろうか?


「そういえば緋咲は俺を陥れようとして落とし穴を作っていたようだが、結局は自分が堕ちてたな」


「なっ! そんな余計な事は言うなぁ―――!!! あ、あれは……!!!」


蒼生の情報に緋咲は一気に赤面し、言い訳を見つけようとするが言葉が続かない。

その光景を想像してみると、俺も微笑を溢してしまった。

異世界に堕ちる前でも緋咲と蒼生は今と変わっていないという事か。


「ふぅ、滑稽だな緋咲」


粢先輩は勝ち誇ったような笑みを浮かべる。

アイス事件を知っている俺たちから見る粢先輩の笑顔は、説得力の一片もなかった。


「アイス踏んだあんたに言われたくないわッ!!!」



◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇



雑談を重ねるにつれて、粢先輩の調子も元のものに戻ってきた。

それと同時に、俺たちの視野に桜凛市の市街地が視えて来た。

ああ、あれは俺の良く知る桜凛市だぁ……!

湧き上がる感情を抑え、静かにガッツポーズを創る。


「街が視えて来たな……蒼生、武装高まであと何分ぐらいだ?」


「あと20分もあれば着くだろう」


あと20分か……。

が、その言葉より目の前に現れた市街地に俺は感嘆を隠せなかった。

今までずっと辺鄙な所だったから、ようやく来たという感情が心を満たしていく。

すると、それを見透かしたように粢先輩は振り返り、


「市街地も近い事だし、物を補充しに行かないか?」


確かに生きて行くのに不可欠な物は、段々と底を尽きつつある。

丁度、頃合という事か。

ちなみに、俺たちは緋咲の固有結界を利用し、そこに物を保存している。

元から緋咲が持っている固有結界は何でも入るが、取り出す事が出来ないためこの結界は保存には適さない。

だから無理を言って保存ができ、その上取り出す事も可能な結界を創って貰った。

極言で言うと、緋咲はファーゼストクンパニアンの歩く物置なのだ。


「ああ、そうだな。武装高に行く前に準備も整えて置きたい」


蒼生先輩の賛成に続き、俺たちもコクリと頷く。


「よっし! それでは行くぞ!」


リーダーである粢先輩を先頭に、ファーゼストクンパニアンは市街地に向かって行った。



◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇



「ここはまさか……」


俺たちが辿り着いたのは正面入り口ガラスが粉砕しているデパート。

そう……粢先輩と初めて出会った場所だった。

異世界に堕ちた初日に行った場所に、また帰ってくるなんてな……。


「うわぁ、ここ襲撃に遭ってるわよ」


正面入り口の有様を視て緋咲はそう言い、微量に警戒心を持ち始めた。


「安心しろ緋咲」


ポンっと緋咲の肩を叩く粢先輩。


「このガラスを粉砕させたのは誰でもない、この私だ」


何故か自尊心が働いている粢先輩は、大儀そうに胸を張る。


「はッ!? 冗談でしょッ!?」


肩に置かれてる腕を振り払い、粢先輩と距離を取る緋咲。

これは俺が説明した方がいいかもしれない、


「緋咲、良く聞いてくれ」


「な、なによ」


どっちかと言うと、この正面入り口を破壊しようとした先駆者は俺と聖夜だ。

だがエアガンでは言うまでもなく、石垣の如く強硬な正面入り口ガラスを割ることは出来なかった。

そんな時に、いきなりサブマシンガンの音と共にガラスが割れ、後ろを振り返れば粢先輩がいた。

……さぁ、これをどう説明するべきか。

頭の中で整理しているとき、粢先輩が口を開いた。


「そんなハトが豆鉄砲を食らったような顔をするな緋咲。 思わず眼を覆いたくなるじゃないか」


「そんな顔してないわよッ!」


「ああ、そうだったな。緋咲は常にそんな相好だったな」


「……あんた後で覚えときなさい」


「なら私は常に眼を覆ってなくては……」


「うっさいッ! 黙れぇッ!」


結局、粢先輩の言説は緋咲を弄しただけで終わった。

一方の緋咲は、これ以上の追求は無用と思ったのか深く溜息を漏らす。


「さぁ、では行くとするか」


粢先輩は己が粉砕した正面入り口目指して歩みを進める。

その姿が、初めて粢先輩と出会った時と重なっていた。


「わぁ~い! お久しぶりの建物~!」


建物に入れるという事で心が高鳴っている奏笑は、菜月の手を引き建物の中に入っていく。


「ひ、引っ張らなくても大丈夫だよ!」


「い~やだよぉ~! 菜月ちゃんとお買い物が出来るんだよぉ~?」


その後も互いに言い合っていたが、もうその会話も聞こえなくなった。

中に入るの早いなぁ……。


「来ないのか!?」


多少、張った粢先輩の声が聞こえる。

ああ、これは既視感なんかじゃない……あの時とまったく同じだ。


「では俺たちも行くか」


蒼生先輩はそう言い残し、正面入り口に歩みを進める。


「ほら緋咲、行くぞ」


「わ、解ってるわよ」


これが俺たちの知る世界だったら……どんなに本当に楽しい買い物だったんだろうな。

少し口惜しい感情を抱いて、俺も先輩たちの後を追った。


「お、おい侑っ! 俺には一声も掛けてくれないのかっ!?」


後ろから聖夜の声が聞こえる。

その声で反射的に首だけ振り返り、


「聖夜、そこで頭を冷やしていろ」


そう言い残し、俺は歩みを進めた。


「何で俺だけ放置なんだよ!」


駆け出した聖夜と共に、俺たちもデパートに入っていった。



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