9月6日/侑eyes 翼を広げて、運命を変えて
ー君の魂に抱かれてー(きみのこころにだかれて)
この作品はフィクションです。
登場する人物・団体・地名・事件・世界設定などは全て架空の物であり、
実際の物とは一切関係ありません。
初めて読む方は、本編からご覧ください。
ーboy and girls' aspectsとは?ー
このモードは主人公の視点ではなく、
君の魂に抱かれての主人公以外の登場人物の視点です。
これにより、より世界観がわかりやすくなります。
※目次の場合、下に行くほど時間が最新です。
「みんな起きてるな?」
迎えた新しい朝も粢先輩の一声から始まった。
いつも通りの円形に座り、第何回かすら記憶にない会議が始まろうとしている。
が、全員かなり眠そうだ。
聖夜なんて完全に眠りに入っているだろう。
菜月からは眠りを示唆するあくび。
奏笑なんかは左右にゆらゆらと緩やかに揺れている。
……これは寝ているのだろうか?
「ファーゼストクンパニン第……何回だ緋咲?」
寝起きで気分の悪そうな緋咲に話を振る粢先輩。
恐らく粢先輩も眠いのだろう。
声のトーンとテンションが低い。
「……なんであたしが知ってるのよ」
粢先輩の質問で更に気分を悪くした緋咲は腕組をし、険悪した顔で眼を瞑る。
「そうだったな。緋咲に聞いた私が愚かだった」
「……あんた後で覚えときなさい」
お互い寝起きであるという事で、争いは勃発しなかった。
俺も眼を瞑ってしまえばもう次元を超えそうだ。
「今日は何日か解るか緋咲?」
「……なんであたしが一々あんたの質問に受け答えしないといけないのよ」
「いいじゃないか。緋咲の一問一答コーナーだ」
その言葉で抵抗をなくした緋咲は、はぁ、と深く不快そうな溜息をつく。
「……一週間ぐらい?」
「残念、今日は6日だ」
「……だから何であたしに聞いたのよ!」
粢先輩のお陰で緋咲だけが眼を覚ましつつある。
いや、お陰ではないな。
緋咲にとっては良い迷惑だろう。
「どうやら緋咲のIQは猿以下の561のようだ」
「……あんた後で覚えときなさい」
ちなみに人間の平均IQは100だ。
粢先輩の話が本当なら、緋咲は人間を大きく超越した事になる。
その事に寝起きの二人は気付いていないようだ。
いや、その前に猿のIQはどれだけ高いのだろうか?
「緋咲に構っている暇はない。ファーゼストクンパニン、会議を始める」
……緋咲を構っているのは粢先輩だろ。
「残念だが視て通り、汐見あすはもういない」
粢先輩の言葉に、俺は夜の出来事を思い出す。
俺たちに感謝を告げた汐見あすかは、月と同化するように姿が見えなくなった。
本当に風のように現れ、風のように消えて行った。
「粢氏、何かあったのか?」
唯一、眼が冴えている蒼生先輩が粢先輩に問う。
ってことは、皆の意識は上の空ってことなのか……。
「私はこの世界に吹く独り風。風は吹かれるままに流れる。っと最後に言い残し、昨日の夜ぐらいに去ってしまった」
「……そうか。少し残念だな」
「ああ、私も、一緒に行動しないか、と勧誘したんだが、先の通りだ」
「何かやらかしてなければいいがな。 アイツはこの世界を壊そうとする者と酷く敵対していた」
「……そうだったな。 結局これも解らず仕舞いか」
とにかく謎の多い少女であったというのは確かだった。
しかし、あの少女の事ならまた風のようにやってきそうな気がしてきた。
◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇
「それでは、眼も覚めた事だし本題に入ろう」
確かに粢先輩は眼が覚めているだろう。
だが、眼が覚めていそうな人は蒼生先輩しかいない。
……本題に入るんだから俺もしっかりしないとな。
「私は戦いを回避したい。これは皆も同じ事だと思う」
俺は起きている証拠に強く頷く。
この世界は戦いが起こっているから狂気なんだ。
戦いが皆無になれば異世界だが少しは俺たちの日常へ近づくだろう。
「だから私は人知れず考えた。争いを避ける方法を」
「あ、戦いを避ける方法……!?」
眠っていた身体が一気に目覚めた。
戦いを避ける方法が存在するのか!?
もし在るとするなら、それは至高の光になるかもしれない。
「戦いをする理由、……それは桜凛武装高校が桜凛高校全生徒の殺害命令を実行する為だ」
粢先輩は辛そうに語る。
改めて事実を突きつけられると、狂気もいい所だ。
いや、狂気なんかでは形容し難い事がこの世界では起こっているのだ。
「その理由は解らない。恐らくこの世界の真実と深く密接しているだろう」
この世界の真実。
なぜ俺たちは戦わなければならないのか。
桜凛武装高校が狂気な命令を実行する訳。
どうすればこの世界を脱出、壊せるのか。
電気が使えない理由、あの視えない壁の存在。
考えてみれば、俺たちは何も解っちゃいない。
「私は戦いを避け、この世界の真実へ辿りつきたいと思っている。 ……みんなはどう思う?」
粢先輩は少し弱い口調で同意を求める。
「俺は粢先輩に賛成です。戦いはゼロにしましょう」
俺が同意すると、ファーゼストクンパニアン全員力強く頷く。
いつの間にか全員、眼が覚めたようだ。
「……ありがとうみんな」
粢先輩は安心したような声を上げ、ファーゼストクンパニアン一人ひとりを一瞥する。
その瞳には強い想いと決意に溢れていた。
「ところで粢氏、争いを避ける方法とは何だ?」
「あ、ああ、そうだな」
蒼生先輩の問いに少し歯切れが悪い粢先輩は、ゴホンッと咳払いをし、
「侑たちの制服を桜凛武装高校の制服にする!」
ええ……ッ!? 俺たちの制服を桜凛武装高校の制服にするッ!?
菜月、聖夜、そして俺は眼を思わず合わせた。
「桜凛武装高校の連中はファーゼストクンパニンの中に桜凛高校の人間がいるから攻撃を仕掛けてくる!」
「ならば武装高の制服を身に纏ってカモフラージュすれば奴等は気付かない!」
粢先輩が拳を握って力説する。
確かにそうだ。
桜凛高校の生徒だと判断しているのは制服だろう。
ならその判断基準をなくせば、桜凛高校の生徒だと気付かれない。
だが……、
「ちょっと待ってくださいよ! どうやって制服を手に入れるんですかッ!?」
「それはだなぁ……」
粢先輩が下を向き、口重そうな態度を取る。
何だか、嫌な予感が立ち昇る。
「桜凛武装高校に侵入し、強奪するッ!!!」
「「「お、桜凛武装高校に侵入するッ!?」」」
桜凛高校在中の3人、菜月、聖夜、そして俺は思わず声を上げてしまった。
「武装高の制服を手に入れればカモフラージュにもなり、万が一の時は防弾制服の真価も発揮される! まさしく諸刃の剣……いや、諸刃の盾だ!」
武装高の制服が手に入ればかなりの優勢になる。
それは粢先輩の話を聞けば良く解った。
だが、それを手に入れる為には相当のリスクを背負う事になる。
……それだけの物を手に入れるという事は同等のリスクが必要という事か。
「ま、待て粢氏! 相手の本拠地に突っ込むという事だぞッ!? それがどういう事か解って……」
「ああ、解っている蒼生。 だがそれでも私は戦いを避けると誓う! だから蒼生!」
粢先輩が希望を託すような声で、蒼生先輩の名を叫ぶ。
「戦術科Aランクのお前の力を借りたい!」
ほ、本当に武装高に進入して、更に戦いを避ける事なんて出来るのか……ッ!?
だけど、蒼生先輩なら……それも可能かもしれない。
戦術科Aランクの蒼生先輩なら……。
「確かに防弾制服が手に入れる、武器の補充、真実の真相、武装高に進入する理由は多数ある」
蒼生先輩も頭を悩ます。
だが、瞳をゆっくりと開け直ぐに、
「解った。戦いを絶対に避ける戦術を考える。 だが、それにはファーゼストクンパニンア全員の力が必要だ」
そう言い、蒼生先輩は皆を見渡す。
「もちろん私も頑張るよぉ~! 菜月ちゃんに同じ制服着て欲しいもん!」
「おいおい奏笑、俺には同じ制服着て欲しくないのかい?」
なぜか聖夜が決め顔と魅惑の低音で返答する。
「聖夜がスカートなんて穿いたら吐き気がするわ!」
聖夜の返答を菜月が返すという懐かしいコンビネーションが復活する。
まぁ、確かに聖夜がスカートなんて穿いたら吐き気しか押し寄せない。
「Gランクのあたしにも何かすることあるの?」
「もちろんだ緋咲。 一人ひとり重要な役割を担う作戦だ」
一体、蒼生先輩の考えている作戦とはどのようなものなのだろうか。
しかし、なぜだか悪い予感はしない。
「侑、聖夜、菜月、お前たちの意見を何より重要視したい」
粢先輩が優しい口調で俺たちを見る。
俺は、ファーゼストクンパニアンを信じている。だから――
「敢行しましょう! ファーゼストクンパニアンなら遂行できます!」
「ああ、桜凛高健児の底力を見せてやろうぜ!」
「やろう! やるしかないわ!」
聖夜、菜月、そして俺の心は一つだ。
桜凛高の底力を本当に見せる時かも知れない。
俺たちはどんな世界でも抗う。
例えどんな強大な差があっても、何も抵抗なしに消えるわけにはいかない。
俺たちにはファーゼストクンパニアンがいる。
きっとそれが、悲しみのない世界へ誘う為の鍵になる。