9月5日/侑eyes 異世界に吹く風の少女
ー君の魂に抱かれてー(きみのこころにだかれて)
この作品はフィクションです。
登場する人物・団体・地名・事件・世界設定などは全て架空の物であり、
実際の物とは一切関係ありません。
初めて読む方は、本編からご覧ください。
ーboy and girls' aspectsとは?ー
このモードは主人公の視点ではなく、
君の魂に抱かれての主人公以外の登場人物の視点です。
これにより、より世界観がわかりやすくなります。
※目次の場合、下に行くほど時間が最新です。
「こんな夜中に面目ないがファーゼストクンパニアン、記憶では第二回の会議を始める」
焚き火の周りを取り囲むように座り、粢先輩の一声でファーゼストクンパニアンの会議が始まった。
恐らく絶対に第二回ではないと思う。
「まったくじゃ。 私は一切関係ないのに巻き込むんじゃない」
「元はあんたのせいでもあるんだぞ?」
「何を戯言を……」
「あんたが来なかったらこんな会議は開かなかったんだぞ!?」
粢先輩が少女の発言の度に眉を寄せる。
「まずは名前を聞かせてくれ。名前が分からないと不便だ」
「…………」
「あんただよ!」
黙していた少女に粢先輩は口語を荒げる。
「なに用じゃ?」
「だ・か・ら……!」
粢先輩もご立腹のようだ。
すると、蒼生先輩が右手でストップをかける。
「どうした蒼生?」
「いや……」
蒼生先輩は手を下ろし、少女を見る。
見られている少女は胡座をかきながら眼を閉じ、黙している。
まるで神経統一でもしているかのようだ。
「お前は本当に桜凛武装高校の生徒か?」
「何を呆けて事を言っているのじゃ」
聞いてないかとも思ったが、蒼生先輩の言葉に反応して少女が眼を開いた。
「確かにお前は剣術科の制服を着ている。だが……」
蒼生先輩がもう一度少女を見る。
「俺はお前を知らない」
「…………」
確かにそうだ!
蒼生先輩は桜凛武装高校の全生徒、しかもスリーサイズまでも知り尽くしている。
そんな蒼生先輩がまったく知らないなんて事があるのだろうか。
「『風の陰陽師』汐見あすか。剣術科のSランクじゃ」
少女が淡々と自ら淡々と語り出した。
『汐見あすか』か……。
ちゃんとこの少女にも名前があるんだな……。
「あすか、か……。ってSランクだとぉおおおっ!?」
え、Sランク!?
俺も名前に気が行っていたから気付かなかった……。
「なんじゃ?」
「な、なんでもない!」
粢先輩は毎回ランクで驚愕するよな……。
あ、緋咲の時は科で驚愕してたな。
粢先輩も忙しい人だ。
「風の陰陽師……汐見あすか……」
蒼生先輩は記憶を手繰り寄せるようにあすかを見つめる。
しかし、すぐに首を傾げた。
「記憶にないな……」
蒼生先輩は称号も名前も覚えがないようだ。
「貴方も人間じゃ。身に覚えのない事があっても当然じゃろ?」
「まぁ、そうかもな」
蒼生先輩は暫く考え込んだ。
あすかは実際に桜凛武装高校剣術科の制服を着てここにいる。
百聞は一見にしかずというべきなのか。
疑う所は何もない。
あの蒼生先輩でも見逃していたデーターがあったのか。
「それで、あすかは今まで何をやっていたんだ?」
粢先輩が話を戻した。
この異世界は何日目だろうか?
もう一週間経った気がする。
「私は風じゃ。風は吹かれるままに流れる」
「風……?」
粢先輩が言葉を返した瞬間、目覚めを誘うような風が吹き抜けた。
その風にあすかの青黒い髪が風に乗せてなびく。
その光景は……比喩ではなく本当に『風』のように感じた。
「あすかは……この世界の事は知っているのか?」
粢先輩は直向にあすかを見る。
この世界……つまりは異世界のことだ。
「この世界は私が死守する。絶対にじゃ」
こ、この世界を死守する?
あすかは思いも寄らないことを言って見せた。
真意の宿した眼で――
とても虚実を言っているとは思えなかった。
「この世界を守るだと?」
「そうじゃ、私を邪魔するモノは斬る」
その言葉に、俺の鼓動は一気に飛躍する。
あの時……あすかと初めて出会ったとき、俺は本当は死んでいたんだ。
いや、ファーゼストクンパニアン全員だったかもしれない。
あの時あすかは焚き火だけを直視していたから、恐らく俺に気が付かなかったのだろう。
剣術科のSランクに……ファーゼストクンパニアンが勝てる筈がない。
いや、人数的には圧倒している。もしかしたら……。
いいや、そんな事考えてもしょうがない。
本当に戦いにならなくて良かったな……本当に……本当に……。
「なら、私とお前は相反するな」
「そのようじゃな」
粢先輩の発言にはドキッとしたが、あすかは何も手は出さなかった。
「だが、お主等には恩がある」
「……恩?」
「恵まれない私に焚き火を恵んでくれたのじゃ」
「それはお前が勝手に……」
「その上、恵まれない私に寝所まで……」
「寝所を提供した覚えもないが……」
噛み合ってそうで噛み合ってない粢先輩とあすかの会話。
あすか曰く、焚き火と寝所を恵んでくれたという恩義で俺たちには手を出さないでくれるようだ。
とにもかくにも、あすかとの戦闘は避けれそうだ。
最初会った時はどうなることと思ったが……。
「祝着に存ずる。実にかたじけない」
そう古文風にいうとあすかは、三つ指をついて土下座のような姿勢をとる。
「あ、いや……! あぁ……そ、その……」
粢先輩も初めての境遇なのか、焦りまくっている。
まぁ、確かに土下座なんてされたこともないししたこともない。
いや、あすかのは土下座とは言わないのか?
「長旅の上に今日は疲れた。今日は休ませてもらう」
そう言いながら、あすかは腕で枕をつくり横になってしまった。
「そうだな……もう日付も変わってしまっただろう。今日は休もう」
粢先輩も会議を打ち切った。
また、俺たちは異世界で夜を越えて、また異世界で朝を迎えるのか……。
「そうですね。明日に備えて休みましょう」
俺はそう粢先輩に返し、背中から倒れる。
ああ、もう一度……この月を見れて良かったな……。
明日には俺たちの日常へ戻れるといいな。
俺は微かな希望を胸に抱き、目を閉じた。




