9月5日/侑eyes 陽が沈む前の一時
ー君の魂に抱かれてー(きみのこころにだかれて)
この作品はフィクションです。
登場する人物・団体・地名・事件・世界設定などは全て架空の物であり、
実際の物とは一切関係ありません。
初めて読む方は、本編からご覧ください。
ーboy and girls' aspectsとは?ー
このモードは主人公の視点ではなく、
君の魂に抱かれての主人公以外の登場人物の視点です。
これにより、より世界観がわかりやすくなります。
※目次の場合、下に行くほど時間が最新です。
田舎道でバッタリ遭遇してしまった少女と、激しい戦いになってしまったが、俺たちは全員生きている。
だが、この戦いでかなりの情報が手に入った。
「ああ、もう日が沈んでしまう……」
粢先輩は名残惜しそうに空を見つめる。
夕焼けの姿は消え、確実に夜へ近づいている空模様。
「とにかく、行けるとこまで行こう。 話し合いは夜だ」
夜は真っ暗だから行動出来ない。
だからその時に話し合いをする。
粢先輩が言いたいのはそういうことだろう。
「歩いているだけじゃ詰まらない。何か話そうじゃないか」
明るいトーンでそう話を切り出す。
「……何かって何ですか?」
俺は冷静に粢先輩へ返す。
「何というか、全員を巻き込むような話をしたい」
全員を巻き込む……。
ならみんなに共通な話題がいいかな……。
……共通な話題ね……。
何があるだろう?
「プッシュアップ・プランジ・ブラの話しようぜ!」
聖夜が繰り出したのは……なんとも理解不能な話だ。
「ぷっしゅあっぷ……ぶらんぶらん?」
粢先輩が首を傾げて片言を語りだす。
ってか、ぶらんぶらんって……。
「俗に言う寄せて上げるブラですよ!」
聖夜がグゥ!っと親指を立てる。
なぜそんなに胸を張って言えるのだろう……。
彼の性癖には驚くばかりである。
こんな話で盛り上がる訳ないだろうに……。
「ああ!あのカップを偽装するヤツか!」
粢先輩が食い付いた……!
「ええぇ~!偽装出来るの~!?」
続いて奏笑も食い付いた……!
「ああ、どうやら出来るようだぞ?」
粢先輩が満面の笑みを粢先輩に返す。
「粢先輩は別に偽装しなくても大きいのに……」
つい素で恐ろしいことを口走ってしまった!
俺は何を考えているんだ!
「な、なにっ!? それは本当か侑!?」
「あ、はい……」
何故か嬉しい反応をしてくれた粢先輩に感謝!
ああ、これが顔から火が出るか……。
本当に火が出そうだった。
粢先輩を見ると、かなり機嫌が良さそうだった。
この人のスイッチは本当に解らない……。
「でもさぁ~、なんか寄せて上げるブラ着けると負けた感じがするよねぇ~」
「――ッ!?」
奏笑の言葉に、魂の叫びで反応してしまった緋咲。
「緋咲、お前まさか着けてるのか?」
緋咲の心を透視するような蒼生先輩の心眼。
その蒼生先輩の言葉に一斉に視線が集まる緋咲。
そして、見事な赤面壁を発揮した。
「つ、つつつ着けてにゃんてにゃいわよ!」
緋咲は言いながら睨み眼になり、更に真っ赤になる。
「今の短文で3、4回噛んだのにか?」
「――ッ!!!」
緋咲の頭は恥ずかしさのあまり噴火しただろう。
赤面していた顔は、だんだんと血が引けてしまっている……。
すると蒼生先輩は半分だけ振り返って、混乱しまくりの緋咲にウィンクすると――
「別に恥じることではないさ。堂々と胸を張りなさい」
「何よっ! その妙にいい顔っ!!!」
聖夜の持ち出したプッシュアップ・プランジ・ブラの話は、緋咲が着けていると判明した所で幕を下ろした。
◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇
「しかし、皆でこんな田舎道を歩いているなんて遠足みたいだな」
いきなり遠足の話をし出す粢先輩。
「確かに遠足みたいですね」
そういい、俺も景色を見つめる。
北の大地じゃないのか?っと思うぐらいにのどかな景色だ。
「遠足か懐かしーなぁ。遠足帰りに公園とか橋の下で友達とエロ本拾ってたっけなー」
自分の壮絶な過去を笑顔で語りだす聖夜。
と、粢先輩は――
「その友達って侑か?」
「違いますよ!」
勘違いされると厄介になる。
だから俺は全力で否定した。
「なぁ、侑」
ポンッと俺の肩を叩き、身を寄せる聖夜。
なんだよっと軽く相槌を打っておいた。
「これから橋の下、見に行かないか?」
「何で俺を誘うんだよ……」
「男同士、積もる話もあるだろ?」
このままだと俺まで同類とみんなに勘違いされる!
俺はそんなんじゃない!
だがここは冷静に対処しよう……。
「いや、止めて置くよ」
「なんだよ、つまんねーな」
聖夜が俺の肩から離れてくれた。
なんだろう。この開放感は……。
◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇
「タラバガニはカニではないのかっ!?」
突如、何かに気付いたようにハァッ!とした表情を浮かべ、いきなり突拍子もないことを言い放つ粢先輩。
一体、この人は何を考えているのだろう?
「はぁ?」
俺は唖然となりこの言葉しか出なかった。
「良く考えてみろ!アイツの脚は何本あるっ!?」
興奮した口調で俺に問い詰める粢先輩。
タラバガニの脚の数なんて、いちいち覚えていない。
「3足ずつしかないんだぞっ!?」
3足って……。
靴下じゃあるまいし。
「カニは4足ずつなのにアイツだけ3本だぞっ!?」
自分の気付いたことがそんなに凄いのか、粢先輩は熱く語り俺に教えつける。
「そうでしたっけ?」
俺は頭の中でタラバガニを想像する。
だが、全体的にモザイクが掛かっている。
「これは即ち、タラバガニはカニではないことを意味していないかっ!?」
結論出るのちょっと早くないか?
アイツの容姿は完璧にカニだろ。
「その通りだ粢氏!」
蒼生先輩が高らかにそう言い放った。
「タラバガニはカニではなく、ヤドカリの仲間だ」
やっぱり蒼生先輩は物知りだ……。
それに豪く説得力がある。
「や、ヤドカリだとっ!?」
衝撃の事実を突き付けられた粢先輩は、驚愕の色を見せる。
「それが事実だ。受け止めるしかない粢氏」
「そ、そうなのか……」
粢先輩はガクッと肩を下ろした。
タラバガニってヤドカリの仲間なんだ……。
知らなかった。
◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇
そんなバカみたいな話をしていたら、いつの間にか日は沈んでしまった。
結構歩いた……。
このペースで行くと、明日には市街地に辿り着けるだろう。
「さぁ、今日はもう休もう!」
辛うじて薄っすらと容姿が見えるぐらいに夜が来てしまった。
粢先輩のいう通りこれ以上の行動は止めた方がいいと思う。
「さて、休むとは言ったがどこで休む?」
粢先輩の一言で、全員が周りを見渡す。
俺も眼を凝らして見るが、右側には山があると思う。
「山の中が一番だと思います」
これは俺の意見だ。
山の中だと見つかるリスクも減るだろう。
それに、少しは寝れそうな気がする。
「そうだな、私もそれがいいと思う」
その後に、皆はどう思う?っと付け加える粢先輩。
皆の反応からするに反対意見はないようだ。
「なら、森に潜もう!」
粢先輩を先頭に俺たちは森の中へ入っていった。