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君の魂に抱かれて  作者: 皐月-Satsuki-
boy and girls' aspects
115/136

9月5日/侑eyes    仲間と明日へ

ー君の魂に抱かれてー(きみのこころにだかれて)


この作品はフィクションです。

登場する人物・団体・地名・事件・世界設定などは全て架空の物であり、

実際の物とは一切関係ありません。

初めて読む方は、本編からご覧ください。



ーboy and girls' aspectsとは?ー


このモードは主人公の視点ではなく、

君の魂に抱かれての主人公以外の登場人物の視点です。


これにより、より世界観がわかりやすくなります。


※目次の場合、下に行くほど時間が最新です。



空は夕焼け。

黄昏た空から届く黄金色の光彩が、いつもより優しく、そして温かく感じる自分がいた。


「夕焼けってこんなに綺麗だったか?」


いつも通りといえばいつも通りの夕焼けだ。

だけど、この夕焼けにはもっと特別な意味を感じる。


「この光彩の中を自転車で駆け抜けたかったな」


粢先輩が俺に向かって苦笑いをする。

だが、自転車はあの見えない壁の向こうに行ってしまった。

取り戻せる術はない。


「まさか自転車で来た道を徒歩で引き返すとはな……」


粢先輩が頭を軽くボリボリと掻く。

その粢先輩の金髪が、空から降り注ぐ光彩でキラキラと眩い光を煌かせていた。


「俺も思いませんでしたよ。でもどうにかこの田舎道まで引き返せましたね」


軽い口調で俺はそう言った。

俺の返事の直後、先頭を歩く粢先輩が立ち止まりゆっくりと振り返った。

長い金髪がその動きを追い優美な曲線を描く。


「みんな……これからは激しい戦闘も予想される。だから……」


そこまで言うと粢先輩は、握った右手を自分の胸に当て視線を下げた。


「絶対に生きて帰ろう!私たちの日常へ!」


粢先輩は拳を強く突きつける。

その粢先輩の一つの陰りもない言葉に、俺の身体は芯から熱く滾る。


「絶対に全員、生きて帰りましょう!」


粢先輩の拳に、俺も拳を合わせる。

そして、ファーゼストクンパニアン全員が拳を突き合わせる。

みんなの意志は一つで、この力が何よりも凌駕する。

そう確信した。



その時――



俺の対向に、全身を夕陽に染めた人影が見えた――


「まさかこんな所で人と遭遇するとは……」


声のトーンが低く、落ち着いた女性の声。

この声は、俺たちの前方から……。

あの人影から聞こえてくる――!


「誰だっ!」


粢先輩が機敏に振り返り、向かい合わせに対峙する。

そして先輩は、軽くスカートを翻し太ももに着けているレッグホルスターに手を触れる。

空いている左手を広げて、俺たちに後退しろっとジェスチャーする。

それに従い俺たちは3歩程後退する。


「桜凛高校の生徒を連れているようだな」


場の空気に合わせるように夕陽が鎮まり、お互いの輪郭から表情まで判るようになった。

相手は深くて紅い長髪で、息を呑むような美しい容姿をしていた。


「願わくは無駄な戦闘は避けたいのだが」


粢先輩はレッグホルスターを覗かせたまま、直向に対峙している。


「無駄だと? ……笑止」


ふふんっと少女は鼻で笑ってみせた。

粢先輩はまったく動揺もせず、ただ少女の眼を視る。


「桜凛高校の生徒を殺さなくては世界は終わる……もう、その時は近い」


「世界が終わるっ!? どういう意味だ!」


粢先輩が少女の言葉に取り乱れる。

更に追い討ちを掛けるように、少女が二つの鞘から両手をクロスにしてゆっくり刀を抜く。

コイツ……二刀流だ。

そして、右手に握られた刀の刃先を粢先輩へ真っ直ぐ向けた。


「そこをどけ!」


初めて少女の言語に感情が入った。

その強い言葉は今までの少女からは想像できない……強い戦闘心を感じた。


「私が退けたら、お前は桜凛高校の生徒である侑たちを殺す。だから退けれない――!」


その言葉が終わった直後、粢先輩と少女はまったく同時に初動し、駆け出す――!

粢先輩は疾走に駆けながら、その称号通り「両撃の右剣左銃」という独自の戦闘スタイルを披瀝する――!

相手は二刀流、両撃同士の相殺。


『カキ―――ンッ!!!』


初めて聞く刀同士が激しく交差する金属音。

戦闘が……始まってしまった。


「はぁっ!」


刀同士が交差し合った強い衝撃を利用して粢先輩は、背中から引っ張られているかのように後ろへ跳ぶ――!

相手は二刀流、つまりは近距離。

粢先輩は右手に65cm前後の日本刀、左手にはMP7をベースに特別に製作された「MP7・OBK/SR (サブマシンガン)」という戦闘スタイル。

近距離では圧倒的に相手が有利だが、中距離ではサブマシンガンを持っている粢先輩が有利だ!

だから粢先輩は距離を中距離にする為に後ろへ跳んだんだ。


『ズドドドドドドドドドドッ!!!』


着地もせず粢先輩は空中で、相手の防弾制服を舐め回すように発砲する――!


「はぁ――ッ!?」


少女は横に跳び転がり、全ての弾を避ける。

それと同時に粢先輩も地面を滑り、地面に着地する。


「みんなっ!もっと下がれ!」


粢先輩が俺たちに振り返り忠告をする。

確かに粢先輩が中距離を取った今、俺たちと粢先輩の距離が近くなっている。


「ここは粢氏の言う事を聞け! 下がるぞ!」


蒼生先輩が俺たちに下がれのジャスチャーをする。

俺たちは黙って蒼生先輩と粢先輩の指示に従う。


「緋咲!奏笑氏! お前らは桜凛高校の生徒達を護衛してくれ!」


「言われなくたって解ってるわよ!」


緋咲は蒼生先輩に従い、俺の眼の前に立つ。


「わ、わかりましたぁ~!」


奏笑は×字に差してある忍者刀を背中からグルグルと回しながら抜き、柄を上に向けて握る。

奏笑はいつもあんなだが、この動作を見せられるとはっとするものがある。


「聖夜!俺たちだって武装してるんだ!万が一の時は戦うぞ!」


そういい俺は懐からハンドガンを取り出す。


「ああっ、そうだったな!」


聖夜も俺と同じ動作をする。

装弾は5発か……。

弾倉もないから無駄には出来ない。

だけど、絶対に人は殺さない。

俺は誰も殺さずにこの世界から脱出する!


「菜月は武装がない。だから俺が守る!」


俺は後ろの菜月と背中で話す。


「菜月なら武装してなくても強いだろ?」


聖夜が冗談交じりで微笑する。

ああ、それは俺も同意だ。

だが、そんな冗談が通用する世界じゃないんだよな……。


「こんな状況で良くそんなことが言えるわね……」


背中に眼がないから見えないが、今の菜月の表情はかなり恐ろしいだろう。

声のトーンで解る。


「あんた等は素人なんだから戦わないように」


横目で緋咲に鼻で笑われてしまった。

明らかに差別された気分だ。

でも、こればっかりはしょうがない。


「ああ、解ってる。だが自分と大切な仲間を守る最低限の戦いはさせてもらう」


俺は銃を両手で構える。

サバゲーにはかなりの自信があるが、これはサバゲーなんかじゃない。

解っている。生死が懸かっているんだ。

だけどいつまでも傍観者ではいたくない。

俺だって守るんだ――! 大切なものを――!


「あいつ等のターゲットはお前たちなんだから」


緋咲は俺と聖夜、菜月を見てそういった。

だが、その言語には引っ掛かるものがあった。


「あ、あいつ等?」


「そう。敵はあの赤髪の人だけじゃないわよ」


緋咲は周りの田畑を見る。

まさか……あの中にも敵が隠れているのか!?


「少なくとも左右の田畑に一人ずつはいたわよ」


緋咲は腕組をし、歴然とした態度を取っていた。


「お前、武装もしてないのに良くそんな偉ぶった態度を取れるな」


と蒼生先輩が言うと、緋咲は何度も眉毛を上げながら渋々ポケットに手を入れた。

確かに緋咲は武装していないし、緋咲の武装した姿を一度も見たことがない。

武器がないのだろうか?


「あんたはいちいちうるさいわね……ほらッ!これでいいでしょ!」


緋咲がポケットから取り出したのは薄い赤色の折りたたみ式携帯・・・・・・・・だった。


「よっし、それでいい」


だが、蒼生先輩は何も言わなかった。

まるでそれが武器・・かのように……。


「緋咲、何で携帯なんて取り出してんだ?」


俺は緋咲に問いかける。

そして緋咲は俺の問いに少し赤面した。


「これがあたしの武器なのよ!」


「け、携帯が武器っ!?」


緋咲は少し恥ずかしそうだった。

恥ずかしかったから武器を今まで出さなかったのだろうか?

それより、携帯が武器って……どういうことなんだ?


「説明は後よ!聞きたかったら生き残りなさい!」


緋咲はそういって、粢先輩を見る。

聞きたかっら生き残りなさいっか……。

緋咲らしく遠回りに言ったのが少し笑えてきた。


『カキ―――ンッ!!!』


再び、金属が激しくぶつかり合う高音がこの田舎道に木霊した。

中距離を取った粢先輩だが、相手に間合いを詰められたようだ。

だが今度は状況が悪くなったのか、敵から間合いを取った。


「貴方が『両撃の右剣左銃』か……」


「…………」


だが粢先輩はその問いに答えなかった。

そして、左手の銃を少女へ向ける。


「至高の桜月導の次はそのパートナーに会うとは、何とも滑稽な話だ!」


少女が両手を大きく翼のように広げ、一気に滑るように間合いを詰める。

だが、粢先輩の反応は極端に遅かった。


「至高の桜月導――ッ!? 沙耶かっ!?」


「隙だらけだぞッ!」


「ああぁぁ――ッ!?」


眼と鼻の先まで接近している敵にようやく気が付いた粢先輩は正気を取り戻し、その突きを鍔で受け止めた――!


『カキ―――ンッ!!!』


「ぐはぁぁあああッ!?」


まともに衝撃を受けた粢先輩は大きく後方へ跳ばされる――!

粢先輩はその勢いで、地面に何度も身体を強打する。


「ぐあ……がああ……!?」


粢先輩は悶絶を上げ、仰向けのまま地面に平伏せてしまった。

好機が訪れた少女は、先見せたように大きく翼のように広げ、一気に滑るように間合いを詰める――!

それに粢先輩は気付いているが、立ち上がる余力もなく顔を歪ましている。

粢先輩は少女の姿を視ることしか出来なかった。



――剣が峰。俺でも理解出来た。



このままだと、粢先輩は無抵抗なまま殺される。



俺たちと粢先輩の距離は30メートルぐらいある。

誰が走っても、その瞬間に間に合う距離ではなかった。


「粢先輩―――――ッ!!!!!」


喉が張り裂けるぐらいに叫んだ。

だが、俺が叫んでも運命は変わらなかった。

俺は何も出来なかった。


「バカッ!何やってんのよ――!!!」


俺の傍らにいた緋咲が、右手に握り締めていた携帯を開き、まるで携帯から何かが・・・・・・・出るように・・・・・大きく振りかざした・・・・・・・・・――!


『ビシュゥゥゥゥウウウウウウウ―――――ッ!!!!!』


携帯を耳に付ける部位から、肉眼でも見える程のが、粢先輩目指して疾駆する――!

その紐は、まるで意思・・があるように正確に少女へ突き進んでいく――!


「な、なんだっ!?」


少女は疾駆してくる紐の存在に気付き、粢先輩の一歩手前で立ち止まる。


「はぁあっ!」


少女は二刀流の刀をクロスにして緋咲の紐を受け止め、左側に軌道を変える。

くそっ! 一時的な時間稼ぎにしかならなかったかのか!?


「みゃッ!」


緋咲が声を上げた瞬間、軌道が変わり少女を通り過ぎた紐が、少女の周りを取り巻くように疾駆する――!


「ば、馬鹿な……!」


「触れると斬れるわよ!この紐!」


緋咲は少女に届くような声で警鐘を鳴らす。

あの紐は斬れるのか!?

なら、完全なる武器だ!


『カキ―――――ンッ!!!!!」


左右から巻き付くように迫る紐を、少女は左右の両刃で受け止める。


「粢 璃桜っ!!!」


緋咲がチャンスと言わんばかりに粢先輩に唆す。


「ああ、起死回生だっ!!!」


粢先輩が膝を地面につけながらも上体を起こし、サブマシンを構える――!

そして――


『ズドドドドドドドドドドドドッ!!!』


一番最初に粢先輩がした攻撃のように、再び防弾制服一面を舐め回すように発砲する――!

刀は紐を受け止めているから使えない。今の少女は八方塞だ。

だが、回避ポイントは一つだけ存在していた。


「はぁぁぁあああッ!!!」


少女が上空へ飛翔した――!

粢先輩の銃弾はターゲットを失い、更に先へ消えてしまう。


「な、なかなかやるわね!」


緋咲は盛大に長い紐を、携帯に吸い込まれる・・・・・・・・・ように収納・・・・・させた。

本当に瞬く間の出来事だ。


「上かっ!?」


粢先輩が上に視線を上げると同時に銃口も上へ向ける。


『ズドドドドドドドッ!!!』


発砲するが、全て刃身で受け止められてしまう。

粢先輩が再びトリガーを引こうとした時――


『ズドォ―――――ンッ!!!!!』


まるで花火が上がったような……そんな爆音が響いた。

爆音がした方向には眼が眩む程の光が満ちていた。

あれは信号弾か!?

しかし、どこから……?

その音に少女は少しだけ振り返り、何かを呟いた。

すると少女は銃弾を受け止めた勢いを利用して身体を上下に一回転させ、落下地点を田畑へと転換した。

その姿を見て粢先輩は少女へ向けていた銃を下ろした。


ガサッ!という音を立て、少女は麦畑へ消えていった。

高く聳えている麦の中から少女を探すのは一苦労だ。


「上手く逃げられたな……。あれは武装高の信号弾だ」


粢先輩は銃をホルスターへ収納し、それに続いて刀も鞘に収めた。

あれは武装高の信号弾だったのか。

だからあの少女は信号弾の指示に従って、武装高に戻ったのか?


そして、粢先輩は視線を落としながら俺たちの方へ歩み寄る。


「緋咲……あ、ありがとう」


粢先輩が真っ先にお礼を言ったのは緋咲だった。


「えっ? べ、別に大した事じゃないわよ!」


緋咲がぎこちない返事を粢先輩にした。

面と向かって言われたから気恥ずかしかったのだろう。

それよりも、今は粢先輩の生還を喜ぶべきだ。


「粢先輩! 大丈夫ですか!?」


俺は粢先輩に駆け寄る。

遠くからでは見えなかったが、額には少し切り傷があり血も滲んでいた。


「ああ、みんなのお陰で大丈夫だ」


粢先輩は満面の笑顔を見せた。

その笑顔に、俺は心から安心した。


「みんな……すまない。戦いに巻き込んでしまって……」


粢先輩は深く頭を下げる。

そんな粢先輩を見て蒼生先輩が俺の前に割り込んだ。


「そう頭を下げるな粢氏。今回の戦闘でかなりの情報が手に入った」


確かにいくつかの情報が手に入った気がする。


「……そう言って貰えると助かる」


粢先輩がゆっくりと顔を上げた。

そのタイミングで俺は――


「勇敢に戦った粢先輩に拍手っ!」


俺はおどけるように粢先輩へ拍手を送る。

だけど、この拍手は遊びでもなんでもない。

俺の気持ちだ。


最初は俺だけだったが、徐々に拍手の音は増していく。


「みんな……」


粢先輩は潤んだ眼で俺たち「ファーゼストクンパニアン」を見る。

そして、もう一度最高の笑みを見せた。

その笑顔に答えるように、拍手はさらに大きくなる。


すると、粢先輩が両手を大きく上げ、指揮者のように二回両手をリズム良く振り下げ、最後に両手を大きく広げた。

その合図に合わせ、俺たちの拍手は同時に終わる。


何がおかしいのか解らないが、俺たちはそのままずっと無邪気に笑うのだった。



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