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君の魂に抱かれて  作者: 皐月-Satsuki-
boy and girls' aspects
114/136

9月5日/侑eyes    儚くも確かな意思

ー君の魂に抱かれてー(きみのこころにだかれて)


この作品はフィクションです。

登場する人物・団体・地名・事件・世界設定などは全て架空の物であり、

実際の物とは一切関係ありません。

初めて読む方は、本編からご覧ください。



ーboy and girls' aspectsとは?ー


このモードは主人公の視点ではなく、

君の魂に抱かれての主人公以外の登場人物の視点です。


これにより、より世界観がわかりやすくなります。


※目次の場合、下に行くほど時間が最新です。



色んな事が立て続きに起こったが今では落ち着き、お馴染みの円形の形で座っている。

まずは最初に起こった出来事。

「見えない壁があった」こと。

そして、その壁の向こうに自転車が消えていったこと。

その後は……そんなに重要じゃないか。

一番に解明しなければならないのは見えない壁だ。


「さぁ、この壁はどういうことなんだ」


粢先輩が立ち上がり、俺たちが衝突した見えない壁まで歩み寄る。

まるでドアをノックするかのようにコンコンと叩く。

だが、返ってくる音はコンコンではなく、電撃に触れたかのような音だ。

その見えない壁を粢先輩は両手で押してみる。


「駄目だ。やはりびくともしない……」


はぁっと位相結界はため息をつき、自分のポジションまで戻る。


「これは一体……どういうことなんだ……」


自転車はもう俺たちの周りにはない。

あの見えない壁の向こう側にある。

だが、その姿も見えない。

すると蒼生先輩が傍らにあった小石を見えない壁に向かって投げる。


「やはり、あの先に行けないのは俺たちだけか……」


蒼生先輩が投げた小石は悠々と見えない壁を越えていく。


「破壊できるとも思ったが、破壊する術もないか……」


確かに武器はある。

だが、その武器もあの小石のように当たらずに通り過ぎていくだろう。

なら、何をやっても駄目なんじゃないか?


「解っていることは、私たちはあの見えない壁の向こうには行けないということだ」


粢先輩から改めて事実を突きつけられる。

予想もしてなかった。思いもしなかった。

だから、俺の心は大きく堕落した。


「なら俺たちは桜凛市から出られないということですか!?」


「侑のいう通りかもしれないな……」


粢先輩も酷く堕落しているようにみえた。


「だけど、これは良い収穫だと思うぜ? そりゃ、出れなかったのは残念だがな……」


聖夜が俺に向かって苦笑いをする。

そうだな……確かにまったく無駄ということではない。


「そうだよ!もしあの正体がわかったらこの世界の事、少しは解るかもしれないよ!」


菜月は一度見えないけ壁を見てから、俺の方を見る。


「そうだな、ありがとう。聖夜、菜月」


俺は微笑を返した。


「では、この世界の解明の為にも、見えない壁の解明を始めよう」


俺はさっぱり解らない。

見えない壁の正体が。

あんなもの見たこともないし、実在するとも思えない。

だが、それが俺たちを遮らせている。


「あの壁は間違いなく魔術と考えていいと思う。詳細はまった解らないけど」


逸早く答えたのは緋咲だった。


「魔術は簡単に言うと、この世の法則に干渉し自然な状態を歪めて意のままに操る技術」


自然な状態を歪めて……!?

魔術というのはこんなもの造ることが可能なのか……。

どこまでが可能でどこまでが不可なんだよ……。


「ほぉ、まさか緋咲がこんなまともな回答をするとは」


蒼生先輩が緋咲に苦笑いをする。


「忘れてた?仮にもあたしは総合科なんだから魔術にも触れてるのよ」


総合科は魔術にも触れているのか……。

だからレベルが群を抜いて高い訳だ。


「恐らくこの異世界は魔術で創られた位相結界」


魔術で創られた位相結界?

どういう意味だ?


「緋咲。位相結界とはなんだ?」


粢先輩が緋咲に質問する。


「まぁ、簡単に言えば現実を切り・・・・・取ったような世界・・・・・・・・ってことよ」


「げ、現実を切り取ったような世界!?」


「そう、つまり異世界」


それが、この俺たちのいう世界なのか……。


「魔術の絶対的な発動方法は魔方陣。つまり円形の陣が必要」


「つまり……ここだけではなくて円状に見えない壁が存在しているってことか……?」


「半径どのぐらいかは解らないけど、広大な範囲を覆う結界の中に私たちはいるってこと」


「それが、私たちのいる異世界なのか……」


見えない壁のお陰で随分と真実へ近づいた。

俺たちは広大な円形の中に八方塞りで閉じ込められているんだ……。

その空間を異世界とって……。

幾重にも謎になっていた線が頭の中で一本の線になった。


「もしそれが……緋咲の言っていることが本当なら……」


粢先輩がゆらゆらと立ち上がり、俺たちを見渡す。


逃げる術はない・・・・・・・


「――ッ!!!」


全員、息を呑んだ。

全身を駆け巡るように悪寒が走る。

ようやく自分が置かれた立場が理解出来た……。

なら、俺たちはどうすればいいんだ……。


「逃げる術がないのなら、やることは一つだ……」


粢先輩が拳をブルブルと震わせる。


「この異世界を壊そう……」


粢先輩の小さく震えているその声が、何よりも俺の心を激動させた。

儚なくも確かな粢先輩の意思。

俺たちに逃げる術はない。

立ち向かうしかないんだ。

唇を噛み締め俺は立ち上がった。


「全員、一人も欠けずにこの異世界から脱出しよう!」


「侑……」


自分の意思が非難されると思った粢先輩は、滲んだ眼で俺を見つめた。

そうか……粢先輩も怖いんだ……。

怖くて仕方ないのに、粢先輩はこの絶望に満ちた異世界に立ち向かおうとしている。

その『魂』に俺は惹かれたんだ。


「お前はいつだってそうだよな」


聖夜が微笑を漏らしながら立ち上がる。


「何も考えもない癖に希望を創ってさ……」


聖夜が本気の表情で、俺の眼を見る。

俺は一時も視線を逸らさずに聖夜の眼を見た。


「だから俺はお前が好きなんだよ」


聖夜は表情を崩し、無邪気に笑う。

その表情を見て俺もつい子供のように笑ってしまった。


「そうだね。数少ない侑の良い所だもんね」


「おいおい菜月、数少ないは余計だろ?」


「ええぇ~? 侑くんの数少ない良い所ってな~にぃ~?」


「おいおい奏笑、俺にだって星の数ほど良い所があるぞ?」


俺たちはあの頃のように、いつもの日常のように無邪気に笑う。

心の底から想いが溢れ出てくる。

何より大切な、この世界に欠けている想いが。


「楽しそうだな……」


粢先輩は笑顔で俺たちを見守る。


「こんな世界なのに、どうしてそんなに楽しくいられるんだ……」


ポンッと蒼生先輩が粢先輩の肩を叩く。


「これが『仲間』だよ。粢氏」


「なかま……」


『仲間』という意味と言葉を照らし合わせるように俺たちを見る粢先輩。


「私は大切なものを見落としていたかもな……」


「ほぉ~?大切なものとはなんだ?」


「なっ!なんだっていいだろ!?独り言だ!」


「蒼生っ! お腹すいた! 何か買ってきて!」


「緋咲……お前はバカか? こんな山奥に店がある訳ないだろ?」


『ファーゼストクンパニアン』に、確かな絆が生まれた。

その絆は、この異世界を壊す為の、それぞれの日常に帰る為の、何より大切なもの。



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