9月5日/侑eyes 静か過ぎた景色
ー君の魂に抱かれてー(きみのこころにだかれて)
この作品はフィクションです。
登場する人物・団体・地名・事件・世界設定などは全て架空の物であり、
実際の物とは一切関係ありません。
初めて読む方は、本編からご覧ください。
ーboy and girls' aspectsとは?ー
このモードは主人公の視点ではなく、
君の魂に抱かれての主人公以外の登場人物の視点です。
これにより、より世界観がわかりやすくなります。
※目次の場合、下に行くほど時間が最新です。
かなりドタバタしていたが、どうにか洗濯は終了した。
完全に乾いてはいないが、ある程度乾いた。
だから、俺たちは再び自転車で桜凛市の外を目指す。
空は夕焼けで、時刻もそれなりに予想は出来た。
何れも家もない田舎道を通っている。
「この田舎道いつまで続くんだよ!」
聖夜が誰にでもない田舎道に文句を垂らす。
それに答えたのは粢先輩だった。
「まぁ、いいじゃないか。こんな田舎道に敵がいるとは思えない」
そういい粢先輩は左右を交互に見る。
その視線は何れも山々。
確かに、敵がいるとは思えない。
俺も山を見る。
と、山からギラッと光る怪しいものが見えた。
――嫌な予感がした。
「みんなっ!!全力で走れ―――――!!!!!」
粢先輩が俺たちを見渡しながら叫ぶ――!
本能的にあの光る怪しいものは危ないと認識出来た。
粢先輩の忠告通り、全員が全力で駆け抜ける――!
ブッチン!っという音を出し、何かが道路に減り込んだ。
これは……。銃弾だ――!!!
「はっ――!とぉお!」
粢先輩がサドルの上に右脚を乗せて、左脚をハンドルに置きコントロールをとる――!
す、凄過ぎる……まさに神業だ。だが、これでは速度が減速する。
そこで粢先輩は――
「緋咲!私の自転車を引っ張ってくれ!」
「りょーかい!」
緋咲は自転車を加速させ、粢先輩の3メートル程前に出た。
更にポケットから拘束用ロープを取り出し、そのロープをカウボーイのように空中でブンブンッと回す。
「はぁぁぁああああッ!!!」
緋咲がロープを粢先輩の自転車向かって投げる――!
そのロープは上下にうねるようにして、自転車のバンドルステムに巻き付いた――!
「流石は緋咲だ!」
そして粢先輩は再び、銃弾が向かってきた方向に身体を向ける。
一方緋咲は、自分側のロープを自分の自転車のシートピラーに巻き付ける。
「加速する!しっかり耐えなさいよ!」
「任せておけ!」
二人分の重さがあるというのに、それすらも感じられない。
緋咲の自転車は一気に加速し、それに伴い粢先輩の自転車も加速する――!
「おっ……とっ!」
突然の加速に少しバランスを崩した粢先輩は、ハンドルに乗せた左脚で機敏にバランスをとる。
と、すぐさまバランスを安定させた。
これは……とても人間のする技とは思えない。
思わず見入ってしまう。
「さすがは『違背の花信』だな緋咲。こういうのに関しては神技の域まで達しているな」
「ちゃ、茶化さないでよ!蒼生っ!」
蒼生先輩の一言で少し赤面する緋咲。
確かに、初めての人がこんなに上手くロープを扱えるはずがない。
何か専門な感じなのだろうか。
「…………」
粢先輩はスカートを上げ、ホルスターに収納されてある「MP7・OBK/SR」を見せる。
銃は出さずに、粢先輩は敵がいる山をずっと睨んでいる。
未だに二発目は発砲されてない。
あの一発で終わりとは少し考えにくいが……。
俺はもう一度山を凝視する。
すると、ピカッっと再び同じ方面から光った――!
「な……!!!」
粢先輩ですら反応し切れない刹那。
はぁっとした表情で光った方を見る。
太もものホルスターから「MP7・OBK/SR」を取り出そうとするが、向かってくる銃弾の方が速い――!
『パッキュゥウウウン!!!』
何かに当たって、銃弾が弾ける――!
そんな風な高音がした――
「ぐはぁあ!?」
粢先輩が虐げるような悲鳴を上げる――
ま、まさか、粢先輩が被弾したのか――!?
俺はこの最悪な状況に見事に思考が止まり、凍りついた。
だから、無意識に叫び声を上げた。
「粢先輩―――――!!!!!」
サドルとハンドルの上に乗っている粢先輩は、一瞬グラッとバランスを崩した。
だが、転倒はしなかった。
「くぅ……ぁぁぁあああ!!!」
苦痛に満ちた声を上げると、粢先輩は勢い良く一気にバランスを取り戻す――!
「防弾制服とは言っても当たると死ぬほど痛いんだぞ……!」
粢先輩目掛けて発砲された銃弾は、防弾制服によって守られた――!
こんなに防弾制服ってすごいのか!
いや、今回は距離もあったかも知れない。
だが、防弾制服がなければ確実に致命傷だっただろう。
「遠距離武器を所有してない私たちが断然で不利だ!ここは退くぞ!」
粢先輩の武器は65cm前後の日本刀とサブマシガン(MP7・OBK/SR)。
日本刀はいうまでもなく近距離だが、サブマシンガンも中距離だ。
相手は明らかにスナイパーで、それに対応出来る武器がない。
「それなら、私に任せてくださ~い!」
こんな時でも自分の口調を崩さない奏笑。
即座にポケットに手を入れ、手榴弾を取り出す――!
「おりゃぁぁああああ~~~!!!」
可愛らしい声を上げながら、途轍もなく危険なものを敵のいる山に向かって遠投する。
だが、いくら強肩だって届く距離ではない。いくら強肩でも半分も行かないだろう。
だから奏笑の投げた手榴弾は、4分の一の所で落下した。
そして、手榴弾の中身が破裂する――!
爆発音が聞こえた瞬間、白煙が向かってくる。
奏笑が投げ込んだのは、スモークグレネード。
相手はスナイパーで、狙いを定める必要がある。
だが、この煙なら狙いを定めることは不可能。
多少、俺たちの行動にも妨げがあるが、リスクはかなり減る。
「全力で走るぞ――――――!!!」
粢先輩は自転車を一般の座り方で座り、日本刀で緋咲の自転車と繋がっているロープを斬った。
そして、ファーゼストクンパニアンは全力でこの直進を駆け抜けた――