9月5日/侑eyes 追い込まれる妄信
ー君の魂に抱かれてー(きみのこころにだかれて)
この作品はフィクションです。
登場する人物・団体・地名・事件・世界設定などは全て架空の物であり、
実際の物とは一切関係ありません。
初めて読む方は、本編からご覧ください。
ーboy and girls' aspectsとは?ー
このモードは主人公の視点ではなく、
君の魂に抱かれての主人公以外の登場人物の視点です。
これにより、より世界観がわかりやすくなります。
※目次の場合、下に行くほど時間が最新です。
「こんな事をしていても時間の無駄だ。さぁ始めようか!!」
蒼井先輩のその声は、狂気の始まりを意味していた。
『子作り』
なにがどうなってこうなったかは分からないが、それを実行へと移そうというのだ。
「わ~い!さんせい~!」
奏笑が手をビシッと上げ、左右に揺らしている。
もう、俺には止められないのか……。
「菜月、お前なら分かるだろう?これがどういうことだが……」
「はぁ?なに言ってんの?」
失笑されてしまった……。
こっちは本気だっていうのに……。
「もう分かったよ……好きにしろ。だが……」
俺は最後に付け加えるように「だが」を付けた。
「だが……なんなの?」
「俺はやらないからな」
俺はそう捨て台詞を吐き、この場から去ろうとする。
「ああ、ちょっと侑!」
菜月の声は俺の背中から聞こえる。
俺を追おうとする菜月に、粢先輩がポンッと肩を叩いて止めさせた。
「私が説得しよう。君達は先にやっていてくれ」
「あ、はい……。分かりました」
その会話を背中で聞き流し、俺はそのまま森林に入った。
◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇
「はぁ~~~」
俺は森林にあったどでかい大木に背中を当て、姿勢を下げた。
すると間もなく、ガサガサっと草葉を踏む足音が段々と俺に近づいてくる。
「ゆう―――!どこだ―――?」
粢先輩の声だ。
だが俺は特別、逃げるようなことはしなかった。
「おお、侑!見つけたぞ!」
俺を見つけた粢先輩は俺の所へ近づいてくる。
だけど俺は粢先輩に視線は合わせなかった。
「ゆう……」
粢先輩らしくもない切なくて儚い声が――ドキッと俺の胸を締め付けた。
「侑も私と同じなんだな……」
粢先輩が俺にゆっくりと歩みよってくる。
「え……?同じ?」
「侑も恥ずかしいんだろ?私もだ」
「は、恥ずかしい?」
俺は恥ずかしいだけなのか?
つまり粢先輩も……まだ心を持っていてくれてたんだな……。
「まぁ……確かに恥ずかしいというのもあるかもしれませんが……」
その言葉を聞いた粢先輩は微笑み、俺の傍らに腰を落とした。
「私が言い出した本人だというのに……情けないな……」
粢先輩はバツが悪そうな顔をし、少し視線を落とした。
そうか……。粢先輩が言い出しっぺだったんだ。
すると粢先輩が俺に視線を合わせてきた。
「侑と一緒になら出来るかもしれない……」
「え……?」
今、粢先輩はなんて言った……?
俺となら出来る……?だと……?
「粢先輩……それってどういう……?」
「侑になら見せてもいいかなっと思ってな……」
!!!!!!
まずい……今のストライクだったよ……。
そしてしばらく、意味深い沈黙が続いた。
これは嫌な沈黙だ……。
「だから侑、一緒にやらないか?」
うう゛……。
粢先輩って以外に積極的だったんだな……。
一瞬、身体がクラッっときたぞ……。
「粢先輩は……本当にいいんですか……?」
徐々に俺の心も動き始めた。
絶対にしないと決めてたのに……。
粢先輩の色気というものは恐ろしいものだ……。
「ああ、もちろんとも。一緒に洗濯をしようじゃないか!」
……。……。……。
俺の思考が完全にストップした。
センタクッテナニ?
センタク?せんたく?洗濯!?
「センタク……???」
「な、何をそんなに驚愕しているんだ!?」
「…………あ、あははははは!」
なんだよ……そういうことかよ……。
子作りなんて聖夜の……聖夜の……。
ただの嘘だったていうのかよ……!!!
「侑!?どうしたんだ!?何かあったのか!?」
俺は勢い良く立ち上がり、聖夜達がいる河川まで行こうと振り返る。
すると、粢先輩が俺の腕を掴み、進行を止めた。
「ゆう!?私を置いてどこへいく!?」
俺は逆に、粢先輩の腕を掴んだ。
「みんなで洗いましょう。そっちの方が楽しいですよ」
「な……!なんだと―――!!!」
あとで聖夜を殴ってやる……。
よくも騙したな……。
さっきまでの変な感情が憎悪に変わった。
「ゆう―――!お前は私と同じなんじゃないのか―――!」
「あははははは!今は違いますよ。誤解が解けましたので」
そういい、俺は空いている右手の拳を握り直す。
「な、なにがあったんだ―――!!!」
俺の手を振り放そうと、上下に強く動かす。
だが、今の俺の力は――
分かる。力が滾っているのが――
「わ、私はみんなの前で着替えるのはごめんだ―――!!!」
粢先輩がその言葉を発したのは――
既に河川に戻ったときだった。
粢先輩の大きな声で、洗濯中の皆は同時に振り返る。
「ああ……」
失態に気付いた粢先輩は口を両手で覆う。
そして、気付かれないようにゆっくりとそのまま後ろに下がっていく。
『穴があったら入りたい』
それが粢先輩の気持ちだろう。
再び林に戻ろうとしている。
だが、バレバレだ。
「璃桜先輩~!バレバレですよ!やっぱただ恥ずかしだけ……」
そう粢先輩に言った聖夜に――
俺は疾走する――
「うおぉぉおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
まるで外野からホームまで遠投するかのように――
俺は全力で聖夜の顔面を殴った。