静香の誤算
ロシア人かと思ったら・・・。
「日本人?!」
吉田和希は、思わず起き上がった。
「気が付いたようだ」と、のぞきこまれた男の後ろから声がした。
(何だろうか?)
吉田は、頭に手をやり、記憶を辿ろうとした。
すると、また声がした。
「やんちゃが過ぎたようだ」
声の主がようやく立ち上がる。
(青い目・・・?)
「お前の御霊が光っていた。どうやら命拾いしたようだ。我が国の「鷹」として働かないか?」
鷹とは、エージェントのことである。
吉田はふと、家族のことを思ったが、すぐに身震いを持ってして振り払った。
アジア人らしき男が言った。
「気楽に生きることだよ」
のちに、吉田は、サトウキビ畑の意味を知ることになる。
「林黄の演技は素晴らしかったじゃけ!!」
大興奮した静香が、お座敷が終る頃帰って来た。
まかないたちが、「ほな、失礼しやす」と言い、帰って行くのを横目で見ながら、「のどが渇いたじゃけ」と、台所の冷蔵庫を開けた。
まかないたちが、それぞれの名前を貼り付けたペットボトルの飲み物が並んでいる。
静香はそれをよけながら、一番奥にあった、ほたると書いてあるペットボトルのコーラを手に取った。
それを躊躇せずフタを開けると、コップに注いだ。
舞妓の二人が、「お疲れやす」と言いながら、廊下を通り抜けて行ったので、静香もコーラを飲みながら、「お疲れ」と声をかけた。
「よほどよほど、舞妓たちの方がお行儀がいいじゃけ。それに比べておかみの手癖の悪いこと」
開いたままのドアの向こうから蛍の声が聞こえたので、静香はコーラを吹き出しそうになった。
「ずいぶん、ゆっくりだったじゃけ?」
蛍が台所に入って来たので、静香はコーラを冷蔵庫に戻しながら、「よーく冷えるように、一番奥じゃけ」とうなずいてみせた。
「帰りにな」と静香は言いながら冷蔵庫を閉めた。
「林黄さんから誘われたじゃけ。いや、なーに、喫茶店じゃけ」
蛍は静香の頬が赤いのを見ると、「ほう、ほう、ところで、結川様じゃが、うちのお座敷に来てたじゃけ。お花代をたーんと弾んでな」と言った。
静香の顔色が変わる。
「どういうこと?」
蛍が口を開けかけた時、皆伐が台所に来て言った。
「舞妓が二名、どうやら枕の指名を受けたらしい」
「なんと!!」
蛍が今度は顔色を変えた。
「しっかりせーや。おかみなき店、虫がたかる」
皆伐が怒る表情をあらわにした。
「攻防戦じゃけ!」
皆伐はそう言うと、そのまま台所を出て行った。
蛍が言った。
「恋はふしあな、目にふしあなってな」
浮き足だって開けた大穴だった。




