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【悪役と人外の戦記】 - 悪役貴族に転生した僕には、神秘の滅びを謳う戦乱の大陸で人外を視る眼があり、ゆえに成り上がる  作者: 所羅門ヒトリモン
第1巻

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第5話



 結論から言えば、ラウグレイ高原で起こっていた問題は無事に解決された。


 疫病のヌシは〝楽になりたい〟と願っていて。

 彼は生者への呪いよりも、自らが安らかに眠れる時を切望していた。


「イたい クルしイ ヤダ ツラい タスケテ」


「どうすれば、貴方を助けられますか? 僕はどうすれば、貴方たちの魂を癒せるんでしょう?」


 戦場から発生した負の澱み。

 死者と生者の苦鳴が混ざり合い、弔われるコトもなく長々と放置され続けたために産み落とされたアンデッド。


 赤黒く腫れた腐肉の体と。

 剥き出しになった骨には蛆が踊り。

 黄色い膿みが、トロトロと流れる。


 そんな全身が、咳に入り混じった血と唾と蝿の瘴気に包まれていて。


 正面に立つのはかなり勇気が要ったが、エスメラルダのおかげで不思議と病に冒される心配は無かった。


 ラウグレイ高原に火を放っても、疫病のヌシをどうにかしなければ()()は叶わない。

 疫病のヌシが広げる瘴気によって、物理法則による火は掻き消されてしまうからだ。


 放置すれば、さらに手がつけられない災厄になるだろう。


 これは叔父でもどうにもできない。


 僕にしか、対処できない。


 人外のモノと話をするのは、エスメラルダが初めてだった。

 こちらの言葉がまともに届いているのか、エスメラルダと違って確信は無かったけれど。


 彼は幸い、願いを口にしてくれた。


「ラクに なリたイ」


「慰霊碑を建てます。貴方たちの鎮魂のため、この高原には千年先にも残る慰霊碑を建てさせます」


「ユルセない」


「……もちろん、(あがな)いが必要ですよね」


 石のモニュメントを作る程度で、アンデッドと化してしまった者たちの魂は癒せない。

 僕も自分で言いながら、それはどちらかと言えば残された生者たちのための行いだ、と思っていた。


 慰霊碑も墓も、結局は死者を追悼する側である生者に必要な物なのだから。


 では、疫病のヌシが何を望んでいるのか?


 それはすぐに判明した。

 ラウグレイ高原の戦死者たちは、その貢献に対して不釣り合いな報酬を与えられてしまった。


 彼らは味わう必要のない長い苦しみを味わい。


 略式的な弔いであっても、火葬さえされていれば速やかに家族の元へ戻れたところを。


 今もまだ大半が野晒しにされて。

 かろうじて息を続ける者たちも、劣悪な環境で戦後の処理がふざけた有り様になったせいで、救えたかもしれないのに死んでいく。


 楽になりたい。

 早く安らかに眠りたい。


 その気持ちが一番の本質だとしても。


 疫病を蔓延させる呪いは、明らかに代償を要求している証拠だった。


 ──我らは求めに応じて戦で働いた。

 ──その報酬が満足いかない粗末なものなら。

 ──取り立てるために主君に刃向かうのも、物の道理なり。


 正論である。


 何ひとつとして反論は無かった。

 封建制による貴族社会。

 未だに慣れないコトも多い僕ですら、それは弁えている理屈。


 ゆえに僕は、迷うことなく頷いて。


「では、貴方たちに不要な苦しみを与えたクズどもを、どうぞ連れて行ってください」


 グレイムヒル家の三人の子ども。

 火葬を禁じる慮外者の司祭。

 そして、逃げた蛮族の捕虜ども。


 明確に、コイツらが元凶だと告白した。


 そして、


「西部総督、ヴァルドリック・ダイアニーシアスが名代、ダンタリアス・ダイアニーシアスの名の下に許しを与えます」


 以って、贖罪を。

 眠れぬ死者に安息の癒しを与え、その後に高原は焼き払う。

 それを約束した。


 結果。


「ゴフッ! ぐ、ぁ……? なん、だ……急に、コレは──!?」


 少し遠くから僕を嘲笑っていた司祭は、突然、口から血を吐いて膝から崩れ落ちた。

 肌色も見る見るうちに土気色になって、肉は生きながらに腐り、目玉は膿みと一緒に眼窩から滑り落ちた。


「アガがぁ……!? じ、〈地母〉よォ……なにゆえにィィアガガボがおぼあ……!!」


 後半の叫びは、ゴポゴポと。

 ゲロ混じりの水音が響き渡りながら、禿頭の中年は呆気なく死んだ。


 それは渡鴉城(レーヴェンヒル)でも同じだったようで。


 後から分かったことだけど、グレイムヒル家の三人の子どもはほとんど同時刻に同じ末路を辿ったそうだ。


 また、北側山中では逃亡した蛮族たちの死体も、やはり同じような様子で確認されたと聞いてるね。


 疫病のヌシは、気づくと消えていた。


 ……うん。


 ちなみに、ノウマン・グレイムヒルだけは、生かしてあげてもいいかと思ったんだけど。


 あの男には家督を握る器が無かった。


 一ヶ月間、生意気な弟と常識知らずな妹を放置し、殺しもしないで実権を掌握できなかった時点で。


 ラウグレイ高原にこんな惨状を招いた罪は、やはり処罰の対象だと思った。


 叔父が僕であれば、使い物にならないと早々に見切りをつけただろうし。


 北西部の安泰は、しばらく我が家の預かりとして代理人を立てるしかないだろう。


 騎士たちは困惑していたね。


「どういうコトだ……?」


「気味が悪いですな……」


「さっさと引き上げましょう、ここは(けが)れてる」


「何か新しい流行病かもしれません」


「そうだね」


 僕の眼にはすでに、疫病の蔓延は防がれたコトが分かっていたけど。

 人ならざるモノを視れない彼らには、不吉な現象として顛末(てんまつ)が映った。


 それは西部総監家の領地で暮らす、他の人間たちにも同様だったに違いない。


 不気味さと恐怖と、静かな困惑に支配された彼らに向けて。


「火を」


「……は?」


「火をつけてくれないかな?」


 僕は命令した。


「ここら一帯は、焼き払え」


 それと、二度とこんな事態が起こらぬよう。

 ラウグレイ高原には戒めとして、慰霊碑を建設する。

 遺族には申し訳ないけど、慰霊碑こそが弔いの儀式場となるのだ。


 それを確認できなければ、西部総督家は次こそグレイムヒル家を処断するだろう。


 処罰ではなく、処断だ。


 わざわざ強調せずとも、その意味は伝わったと思う。


 伝わっていない。

 汲み取ることができていない。


 そんな程度でしかないのなら、どのみち結果は変わらないしね。

 僕がやらずとも叔父がやる。


「けど、火はつかなかったじゃ──」


「待て」


「……燃えてる」


「火がつくぞ!」


 斯くして、我が家の騎士たちの先導のもと。

 こうして北西部高原で滞っていた戦後処理の諸々には、ようやく後始末がつけられる運びとなった。


 肩の荷が降りて、僕も「ふぅ」と一安心だよ。


 帰り支度をしている途中で、例の従軍医師の彼女が再び天幕へ訪れた。

 彼女は依然として血で汚れた看護衣を身につけていたけど、疫病が防がれたコトで助けられる命が残ったと、頭を下げて礼を伝えてくれた。


 ありがとうございます、ではなく。

 申し訳ございません、って独特なお礼の仕方だったけど。


「この度は、グレイムヒル家に代わり責務を果たしていただき、申し訳ございませんでした」


「貴方が謝ること?」


「北西部の民は死後の苦しみを恐れるあまり、〝いま〟を蔑ろにしてしまった。私たちはまだ生きているのに、火葬を行えば〈冥夜〉へ渡れなくなると……」


「信心深いのは結構だね」


「この謝罪は一生のものです。閣下は私どもの代わりに、ご自身の魂を犠牲にされてしまった」


「後始末をつけるコトには、他人よりもちょっとだけ強いこだわりがあってさ」


「……後悔はございませんか? 正教の枢機官は、最後にはあのようになってしまいましたが、閣下はまだお若いのに不要な罪を背負ってしまったのでは……?」


「不要な罪?」


 戦場跡地を、焼き払ったコトが罪なのだろうか?

 嘆き苦しむ死者の叫びを、聞き届けてあげるのが罪?


 結果として、僕はたしかに四人以上の人間を死に追いやっているね。


「逆に質問をしても? 僕の家名は?」


「え?」


「ダイアニーシアス。我が家は残虐非道、冷酷無比、一族同士ですら貶め合う。そんな家だ」


 しかし、我が家の悪徳なかりせば。

 この世に正義や良識の残される余地は、どれほどのものなんだろうね?


「無論、罪はある。この咎は僕のもので、我が家は大陸西部を預かる四方総督家の一角だ」


 悪徳ゆえに大貴族。

 それは、他の誰でもない僕らだけの存在意義。


 責任の所在は明白で。

 命令を下したのは僕。


 誰にも押し付けたりしないし、曖昧な信仰や神のもとにも委ねない。


「貴方は五本の腕と三本の足を切り落とすとき、その命の責任を他人に?」


「……!」


「そういうことです。では、さようなら。このラウグレイ高原で、貴方は僕の知る限り責務の全うに努めた唯一の人だった」


 孤軍奮闘の従軍医師。

 惜しむらくは、その名前を聞き出すには。


 僕と彼女の身分差は、あまりにかけ離れていたコトだった。







 帰路。

 エスメラルダは隙を見ては、「すごいねっ」と僕に笑いかけた。


「私だったらバイバイって終わりにするし、普通の人間はああいうとき、退治しようとするものじゃない?」


「どうやって? 僕はあいにく、塩の弾丸も銀のナイフだって持ってはいませんよ」


「方法はいろいろだよ。でも、昔から共通しているのは、貴方たち人間は化け物と見たら、とにかく退治しようとする生き物だってコト」


 まるで、化け物=退治して当然の存在とでも言わんばかりに。

 人間は自分たちとは違うモノを、排斥し、撃退し、打ち滅ぼそうとする。


「私からしたら、そっちのほうがおっかないのに」


「人間を黄金に変えられるクセに、どうして僕らのほうが怖いって言うんです?」


「数が多くてうじゃうじゃしてるし、実際、退治されちゃったんだもん」


「え?」


「私はね? 遠い昔に貴方たちのご先祖様たちに見つかって、なんていうか懲らしめられちゃったんだー」


「懲らしめられる」


「そう! おかげで契約をするコトになって、子孫の誰かをとびきり幸せにしてあげないと、自由の身には戻れないの!」


 だから、エスメラルダは契約者を幸せにするのが目的なのだと語った。


「でも、おかしいよねー? 人間の欲望はとても簡単で、私はそれを叶えてあげるのにとびっきりの力を持ってるのに、どうしてかいつまで経っても自由に戻れないんだ……」


 富、名声、力、ハーレム。

 エスメラルダにとって、人間の幸せとはそういう認識らしい。

 間違いではない。


 が、僕はそれよりも詐欺られたのでは? と思ってしまった。


「よく分かりませんけど、それって貴方の力を繋ぎ止めておくための嘘なんじゃないですか?」


「?」


「ダイアニーシアス家の先祖が、古代にどんな約束をしたのか知りませんけどね」


 エスメラルダに人間の幸せは理解できない。

 そうタカを括った最初の契約者は、エスメラルダがもたらす黄金にだけ興味があった。


「我が家の富の源泉が、金鉱ではなく貴方だったとしたら」


 いろいろ、納得のいくバックボーンだ。

 千年以上も続く金鉱なんて、ご都合主義にも程があるからね。

 そこにもし神秘の関与。

 人外の不可思議が関わっていたのだとしたら、ダイアニーシアス家がここまで強く繁栄したのにも理屈が通る。


 エスメラルダは「えー!」と驚いていた。


「薄々そうじゃないかと思ってたけど、やっぱりそうなの!?」


「どうです? 契約、破棄したくなってきましたか?」


「あ、そういう。ううん、ザンネンでした。私、貴方たちを幸せにするの、好きだもん」


 人間にとって、幸せが何なのか。


「ダンが自分の人生に意味を探しているのと同じくらい、私もその答えを探してる。これはもう、趣味と言ってしまっていい命題だね」


「チッ……そうですか」


「舌打ち!? ふ、ふん! でも、それだけじゃないんだよ?」


「はい?」


「私の契約には、貴方たちにとって間違いなく幸せだと断言できる役割もあるの。それはね? 神代の鎮圧」


「…………神代の、なんですって?」


「ち・ん・あ・つ。この世界はもう、神代じゃなくて人代。貴方たち人間の時代にシフトしていくから」


 古代のダイアニーシアス家は、後世、人の世の安寧のためにセラフィオンを契約で縛り付けた。

 魔法、非科学、神秘、人外。

 それらが人の代に災いを溢れさせないよう、毒には毒で抗う秘策を用意したのだと云う。


「だからね? あの高原でも、ダンが私に助けて〜って泣きついたら、私はちゃんとダンを助けてあげるつもりだったんだよ?」


「……疫病のヌシを、黄金に変えて?」


「うん。だってそのほうが、綺麗だし有効利用できるでしょう?」


 人の死体を使って錬金術を行うことに、エスメラルダは忌避感を持っていなかった。

 それどころか、あれだけの嘆きを目の当たりにして、その叫び声に耳を貸すこともなく。


 消すときは消す。


 躊躇なく消す。


 そう、あっけらかんに宣言した。

 嘘では、ないんだろう。

 嘘をつく理由もないのだから。

 エスメラルダは人間ではない。

 けれど、人間の幸せを探している化け物なのだと、このとき判明した。


 僕にはそれが、ひどくアンバランスで歪んだ違和感に映った。


「まぁ、いいでしょう。でも、いいんですか?」


「いいって、なにが?」


「貴方からしたら、人間に手を貸して神代を鎮圧するのは、メリットがあるように思えませんが」


 神秘を殺して、神代を完全に終わらせる。

 それが仮にエスメラルダの役割なんだとしたら、この化け物は自らを殺す行為に手を染めているのと変わらない。


「貴方も神代の存在ですよね? さっきの口ぶりだと、そう聞こえましたけど」


「えっ、ダンってば私を心配してくれてるの!?」


「……単純に、疑問視しただけです」


「えっへへ〜。大丈夫だよ? 神代を鎮圧するって言っても、私が守るのは契約者の周辺だけだし。全体的な速度からしたら、特に変わらないもの」


「……はぁ」


 これはもう、決まったコトだしね〜。

 エスメラルダがあまりに気軽に返答するので、僕も「そういうものか」と受け止めるしかなかった。


 だが、公平さには欠けているような気がした。


「僕らにばかりメリットがあって、エスメラルダには良いことが少なすぎますね」


「えっ、えっ? なぁに? ダン? もしかしてほんとうに、私を心配してくれてるの!?」


「気持ちが悪いだけです。そっちは契約を守っても、自由を取り戻せる保証なんて無いのに」


 人間のために化け物同士で殺し合う。

 そんな役目まで背負っているとか、これは酷い契約だ。


「優しいね、ダン」


「……」


「安心して? 契約は私にもメリットがあるから」


「……そうなんですか?」


「私が契約者を幸せにすれば、私の力はどんどん大きくなるの。というか、本来の力が戻ってくる感じかな」


 天幕で、言ったでしょう? と。

 僕の背中にしなだれかかりながら、馬の上で器用にエスメラルダは囁く。


「いまは霊体状態だけど、ダンが幸せになっていけばいくだけ、私のカラダは戻ってくる。人の形に閉じ込められた縛りも、最後には解ける」


 これまで、霊体から実体化するところまでは、代々の契約者でも成功していると。

 女は、妖しい声と髪の香りで耳元に唇を寄せる。


「でも、皆どうしてかそれ以上幸せにはなってくれないの。とっても不思議」


 富、名声、力、ハーレム。

 およそ人の欲望を臨界まで極めたとしても。

 エスメラルダが真の自由を取り戻せる『幸せ』には至らない。


「なるほど。非常に興味深い話でした」


「そう? ……ところで、私のことはエスメって呼んでね?」


「エスメラルダ」


「イジワル!」


 不貞腐れたのか、エスメラルダはガバッと身体を離すと、鼻を鳴らしてこちらの背中をポカポカ叩いた。

 いや、爪を立てて猫のようにガリガリして来る。

 割と痛い。


(マリセアに続いて、困ったクセの持ち主が現れちゃったな……)


 だが悔しいのは、相手が見目麗しい異性だと分かっていると、男のサガでちっとも嫌な気がしない事実だった。


「フシャーッ!」


 背後でそんな威嚇まで聞こえても、可愛いとしか思えない。

 僕はやっぱり狂人だった。










 断石砦(クラグホルン)に着くと、叔父はすぐに報告を要求した。

 例の執務室。

 およそ四十日ぶりに足を踏み入れても、内装はいつもと変わり映えしない。


「フン、運が良かったな」


 報告を聞いた叔父は、鷹揚に椅子の背もたれに身体を預けて。

 羊皮紙を卓上に投げ落とすと、眼鏡を外して僕を見下ろした。


 物理的にじゃない。

 精神的に。


 西部総督ヴァルドリック・ダイアニーシアスは、座上からでも人を見下ろせる。


「オマエがあの司祭をどう片付けるか、興味があった」


「そうでしたか」


「だが幸運にも、疫病が問題を解決してしまったようだな」


「ラウグレイ高原は焼き払いました」


「それに、慰霊碑の建設か。喜べ、北西部はオマエに感謝の書状を送って来ているぞ」


「叔父上のご期待に応えられましたか?」


「図に乗るな。だが、グレイムヒルの令嬢を上手く手懐けたのは褒めてやる」


「……令嬢? あの一家の子どもたちなら、ご報告の通り死んだはずですが」


「とぼけるな。フレイア・グレイムヒルから早馬で、直々に感謝状が届いているのだぞ」


 叔父は封蝋の割られた手紙を、視線だけで示した。

 西部総督の執務机の上には、たしかにグレイムヒルの家紋が押印された手紙が置かれている。

 中身は読まないが、読まなくとも充分な証拠がもうひとつあった。


「……それは、髪ですか?」


「令嬢ながらに気骨がある。フレイア・グレイムヒルは自身の()()を切り落として、〝これからの覚悟の印〟と書き添えて来た」


 孤軍奮闘の従軍医師。

 思えば彼女は、市井の民であれば「殿様」と呼ぶところを。

 貴族である僕に向かって、正しく「閣下」と呼んでいた。


 天幕にも簡単に面通りして来たし、ヒントはたしかに転がっていたな。


 どうやら、ずいぶん変わり者な貴族令嬢だったらしい。


渡鴉城(レーヴェンヒル)に、新しい女主人が誕生したんですね」


「書状には北西部諸家からを代表して、ともある。潰しても構わんと思っていたが、その面倒を省いた功績は認めてやろう」


 オマエを従士に任ずる。

 叔父は淡々と、決定を告げた。


「エヴァンドルの従士として、来年の成人まで騎士の何たるかを学ぶがいい」


「──御意に」


 着実なステップアップが、ここより始まる。



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