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骸にも祈りを  作者: きたある


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同じいじょうもなく

今回書いたやつ。おなじ世界線上の、別幕です。

1章 現状における対策と仕事はじめ

 20XX年、夏。

平和が突如にして崩れた。

青い空、白い雲。暑い暑いと都会の人がスマホ片手に歩き、田舎では農家の野菜すら干上がる異常気象が続いている。

 初めに観測されたのは、SNS上に挙げられた一枚の空を撮った写真とこれは何?というバカげた文章が挙げられた。空の一部が黒みがかりひびの入ったようなそれは、大きな注目を集めていたらしい。

 そんな投稿が多数発生したのが懐かしいと感じるのは年だからなのだろうか。それは集団幻覚という枠を超え、インプレッション数200万を優に超えたころ同じような写真がアメリカ、中国、イギリスで何枚も、発見されたころから、知られるところになった、というのが今回の事前背景らしい。

なんとも不安と不明瞭な点が多いことに、心配とどきどきから動悸がしていた。

にしても、これをウキウキで文章にした人は最近映画でも見たのだろうか。よくあるB級の、惹かれる導入のような文章だな、とふと感じた。見たことのない人間に見せる、興味を持たせようとするにはあまりにも向いている。

本題に戻ろう。本腰を入れた各国政府は、様々な調査を行った。

表だって調べることはなく、秘密裏に調べていた、との連絡とともに、私は落胆していた。書き出す仕事を上司に丸投げしてきたのである。

こういう仕事は、いつも私のところに回ってくる。

以下に、隠しマイクに残った音声を書きだしている次第である。とても、面倒くさかった。

  *音声*

「全く、期日を守らない国の多いことで。大臣、各方面の調査結果はまだ来ないのか。」

いらだったように聞こえる声とバタバタと動いている足音

「総理、落ち着いてください。異常現象が起こって十数年は経っていますが、危険域に手を出すようなことをしない碌に調査も進んでおりません。」

なだめるような声と足音の反響から、数歩後ろから追いつく声

「それが、NASAからの情報では大気圏、及び外側から見た衛星写真に異常は見つからなかったそうです。

 不自然なこととしては、写真の撮られた地点と思しきところの雲がなくなっているといったところでしょうか。世界主要国の都市と鱗片に複数個所発生した通称:崩壊前線は、報告の現状のまま変化なく、しかし真っ黒な霧が時折周囲200kmを覆っているそうです。」

総理と思しき声が呻き、絞り出すように

「被害状況はどうなっている?旧世代の発電装置を使っている国からは少ないからに、我が国だけに絞ってでいい。」

2人の足音が続く中、しばらくして気まずい雰囲気で

「わかりました。上がった報告によると、霧の発生している間全国の日光発電および送電機能が低下、日本の地域の60%の停電によって生 活水準が下がっています。いまや霧の発生域は生活県外となっており北海道と東北の半分、西日本は香川、徳島と広島の66%から東のみが生活区域として登録されています。発生条件が不明である点と現存する技術や建物を隠して見えなくしてしまうことから黒い霧の怪物として民間では恐れられているようです。」

驚愕のため息と諦観を含めた声で

「残りどの程度日本は存在できる?」

「進行が不定期なだけに何とも言えませんが、現状このまま進んだ場合2ヶ月を切るかと。

 他の国においても同じようなことと考えると、支援は期待できません。」

大臣の声で、とても嫌そうに

「あそこに頼るしかないですかね……。」

    *音声終了*


 私は、ここまで書き上げたパソコンから目を上げる。

耳に着けたイヤホンを外し、机に軽く放りやる。

諜報のための大きな傍受器とパソコンの置く場所を確保した机には、片付けていない仕事ともう終わったものすら分別できない書類の山脈が立ち上っている。

仕事のための部屋に見える空間は、自室とオフィスを一つにまとめたようなもので、完全な仕事部屋とはいいがたい。白くてきれいな壁一面だったそれにはマニュアルがいくつもかかっており、用途不明のフックと、金の塗装の豪華な飾りにはいくつもの複雑な形の鍵、外出用のコートにかけてある。積載量ギリギリの重量を直そうにも、記念品か輸入品のそれは替えの聞かないもので、先延ばしてしまっている。

 床に散らかった開業証明書と契約書、許可証などの重要なものと用途不明の紙の散乱具合は、ごみ屋敷のように見える。食事も、仕事も、一つの卓に囲むことのない生活を送ってきた弊害ともいえるが、それは私の所為でもあり。一種の諦観が頭に浮かんだ。

一ヵ所、何処かに行くための荷物だけが一山、角のクローゼットを中心にきっちりとまとめてある。

隅にたまったごみは、曜日を間違えないよう水、金と曜日は張ったが判別がつかない、これもまた困りごとで、出さないうちにたまるのが地味にストレス。原因は簡単で、私以外が主に入れないからだ。入るような人もいない。

テーブルの端にはハリネズミのような、いくつもの付箋がついた手帳が重厚な表紙を基にと並んでいる。

「あー疲れた。座り仕事はこれだから。」

 立ち上がるのは困難だ。何せ、足場を用意していないために立ち幅跳びが必要とされる。

よっこいしょっと、と3-4mのそれに成功し、仕事用に重厚な手帳も持ち出した。毎回の当たり前のようでありながら、多忙という理由から整理できないことが、頭の片端に止めておく。

覚えていれば、今回帰ってきた後にやろう。

 照らし合わせたようなタイミングで、きちっと締まったスーツの女史が駆け寄ってきた。

「お電話です、○○さんから。」

確か現総理の名前と一致する名前の人と思い、電話を受け取った。普通の、家庭的な受話器だ。

「はい、こちら救済委員会日本支部です。黒野がお受けいたします。依頼でしょうか、それとも会食ですか?

料亭の招待なら喜んでうかがいますよ。」

あまりにも呑気に言ってしまったことと相手方の落胆の気配を感じたことから、私は続けて告げる。

「まぁ、戯言はこれぐらいにしましょう。

 空間の亀裂からの黒煙、及び雲ですよね。」

おおむねの了見と省略が得たことに安心してか、声は少し軽くなった。総理の言うそれは、

 制空と食料飢饉の解決には驚きましたよ、だって生活上最低限の配給をして、それ以外は上の人に大量に渡してるみたいじゃないですか。」

 この事態でそうは言ってられませんよね。何処に向かえばいいでしょうか。」

先ほどよりもクリアに、大臣?が答えた。

「――あなた方にしか頼めないことがあります。霧を払うか、原因となる亀裂周辺の調査をしていただけないでしょうか。もしくは、原因を取り除いてもらえませんか。」

電話の向こうの声は、ひどく擦れていた。

官僚特有の沈黙がいくつか続いたあと、伽耶樹は短く息を吐いた。

「……それ、依頼というより命令に近くないですか?」


「状況が状況です。

 国内の主要エネルギーは麻痺、航空網も機能していません。自衛隊も近づけず、観測隊は全滅です。この原因は不明で、中心から銃弾のようなものが飛んできたそうです。頼れそうな人達は――あなた方だけだ。」

私は目を閉じて、額に指をたててグリグリと回した。

あまりにも、何も出きるような状態でもないからである。

多くは聞いていた通りであったものの、あまりにも不明瞭で的確でない仕事には落胆を、頼む側の情報量とは思えない。情報、調査という名目で鉱山のカナリアを思わせるそれには、先延ばしの課題を手伝う親のような気持ちを憶えた。

「“あなた方”って、私は一人で何人分の仕事してると思ってます?頼まれてた仕事の6割もまだ終わってませんよ?

重ねて、随分と他人事ですね。時間ばかりかけて成果もないのに?」

最もこれの原因は、下級のIQと適正がないからだから、という理由である。

「我々としても、委員会に最大限の支援を――」

「支援、支援か。」

苦笑を押し殺したように、伽耶樹は目を細めた。

はたして、何ができるのかがわからない。諦観が静かに湧き上がる。

机の端に置かれた手帳を一度閉じる。そこに貼られた古い付箋には、かつて同じように頼まれた任務の記録が残っている。

半数は成功、といったところだろうか。数と成功例には人が寄る。

「前回もそう言ってましたよ、忘れてません。お礼に渡したそれ、身に着けていただいてうれしいですよ。あなた方が人を見なかったら、存在そのものを焼失されても文句言えないわけですよね。」

「誤解です。我々は――」

「誤解じゃないですよ。」

その声は穏やかだが、底に冷たさがあった。

凍えた鉄のような冷徹さをもって、指名であるかのように。

「あなた方は霧を恐れていない。ただ、使い方を考えているだけです。衰退する生産に工業。見合った人を生き残らせるための策略かなんかだと思ってましたよ。仕事です、仕事。それ以上も、それ以下でもありません。他の人たちも、できることをやってきただけで任務という責が加わっただけです」

電話の向こうで、誰かが息を呑む音。

聞き耳をたててる人がいたみたい、存在感を示したつもりはなかったが。それとも、正しいように、理性のあるように見えたのだろうか。したいことをするしか、やることが出来ないとも言う。

総理と思しき男の低い声が混じる。

「……確かに、我々は霧の正体を知りたい。それが人類の敵であるなら、制御する術を持つべきだ。あなたたちは祈りで対応してきたが、それでは国は守れん。」

「現状維持、も守るに入るので?」

私は少しだけ笑った。だんだん下がっていく戦線のことを、荒廃してだんだん手に余っていく様をそう呼ぶのであれば、

私は野蛮ともいえるのかもしれない。

「私たちの祈りは、科学で言うところの実験と同じです。方法が違うだけで、目的は変わりません。」

「なら、やってくれるのか?」

沈黙。

外の空がまたひとつ軋む音を立てた。呼んでいるのか、負荷のかかり過ぎなのかはわからないが、あまり時間もないみたいだ。

窓の向こうで、ひび割れた青空がわずかに黒を増す。

「……はい。受けます。」

短い答えだった。

しかしその声には、静かな決意が宿っていた。

「ただし、条件があります。」

「条件?」

ここだけは譲れない。これまでの平坦で単純な作業は、危険で命を賭しているものが多かった。だからこそ、配慮をもらっても限らないだろう。

「この任務の記録、すべて私の監督下で行います。報告も、処理も、結果も。――途中で手を出したら、依頼は破棄します。」

劣悪、と私の機関は表されているらしい。向こうは慌てているみたいだ。

「無茶を言う。国家の危機だぞ。」

「私兵も残り少なく、自身の身を守るために対策をした、行ったことは褒めましょう。有力な成果があったようで何よりです。」

私の言葉に、誰かが舌打ちする音が混じった。

総理が最後に言った。

「……いいだろう。だが覚えておけ、黒野君。国は結果だけを求めている。君たちがどんな手段を取ろうと、結果が出なければ。」

「わーかってますよ。いつもの、でしょう。」

私は穏やかに言い切る。

受話器の向こうで、総理は沈黙した。

言い訳も、否定もなかった。

私は小さく笑い、先程より軽く垂直跳びを遂行する。

行っても行かなくとも、破滅するのは自明である。

せいぜい満足していただける結果で、その口と資料をもって証明しよう。

「では、始めましょう。

 苦しみながら死ぬのは勘弁ですからね。」

通話が切れる。

受話器から手を離し、女史が顔を心配そうに覗き込んだ。

「……また、行くんですね。」

「ええ、これが私ですので。」

寂しく、不安そうに見える手に子機を握らせる。

せめてもの握手のつもりで。

善意を乗せてもいいかも、と手早くメモを取り出してやってきた。

「それもやっといてー!」

電話の子機に張り付けたメモには、書き留めた今回調べて欲しいこととやっていない各方面の案件。

関連事項をやっておいてくれ、という意は、もう伝わっていることだろう。

手早く持ち出して外に飛び出すのは、決して書類仕事が苦手だからというわけではない。決して。

何を行っているのかわからない悲鳴が遠く聞こえた。帰る時にお土産を用意せねば。


首相官邸・地下第二会議室。

光の届かないその部屋には、薄い蛍光灯の青白さだけが漂っている。机の上に積まれた報告書の山。

“機密指定/救済委員会関連”――赤い印がいくつも押されていた。

「……つまり、彼らに任せたと?」

声の主は、防衛大臣。

彼の言葉には明確な不満が滲んでいる。

「他に選択肢はなかった。」

総理が低く答える。

「現地に近づける人間はもういない。霧の中で活動できるのはあれだけだ。」

「黒野伽耶樹、ですか。報告によれば、あれは人間ではない。」

「それは否定しませんが、味方でいるうちは態度に出さない方がいいかと。」

科学技術庁長官が静かに書類をめくる。

ページの端には、放射線汚染、未知エネルギー反応、神経崩壊……と並ぶ。

科学的ではありえないそれには、浄化、

「浄化という名目で、霧の成分を取り込んでいる。人間の細胞では説明がつかない。あれは――いずれ、霧そのものになる。」

室内の空気が、わずかに冷えた。

総理は目を閉じたまま、ゆっくりと息を吐く。

「わかっている。だが、今は動かせる駒が彼しかいない。」

「駒、ですか。便利な言葉ですね。」

防衛大臣が皮肉を込めて笑う。

「終われば駒を処分するんでしょう? いつも通りに。」

「それが国の仕事だ。」

総理は淡々とした声で言った。

「人間の“信仰”は、やがて暴走する。あの委員会はすでに宗教ではない。霧を崇め、死を救いと呼んでいる。放置すれば第二の国家になる。」

「だが、国民の八割が支持している。救済委員会の“供給網”がなければ、都市は三日で餓死だ。」

「わかっている。」

総理は机に指を当て、静かに叩いた。

「だから、利用する。霧を払い、国土を取り戻したあとで、委員会を解体する。黒野も――例外ではない。」

沈黙。

誰もそれに異を唱えなかった。

ただ、ひとり。

若い外務官僚が小さな声で口を開いた。

「……それでも、あの人たちは救おうとしているんですよ。自分の命を削って。」

総理はその言葉にわずかに視線を向けた。

「そうだ。だが――救う者が多すぎると、いつか神になる。前例は、もう知っての通りだろう。

 神は、国家の上にはいられない。」

室内の照明が一段暗くなる。

蛍光灯が一度、点滅した。

長官が端末を操作しながら静かに言った。

「……作戦名、終焉。委員会派遣部隊の帰還を確認次第、処分命令を出します。祈りが終わるころには、我々の手で世界を取り戻す。」

「それでいい。」

総理が立ち上がる。

その背後のモニターに、ノイズ混じりの映像が映った。

カフェにでも行くような小さなカバンを持ち――黒い霧の中を、ひとり歩く白い影。

防衛大臣がその映像を見て、呟いた。

「……まるで、神話の亡霊だな。」

「神話は、語る者がいなければ消える。」

総理が答える。

「そして語り手は、いつも最初に死ぬ。」

モニターの中で、伽耶樹が一瞬こちらを見たように思えた。

話を聞くでもない。その目には、明確な意志が乗っているように見えた。

次の瞬間、映像が白く弾け、霧が画面全体を覆った。

沈黙。

誰も何も言わないまま、会議は終わった。

 

   2章  体裁ということばには悪意が詰まっている

 

 それにしても、私はこき使われるようなことをしただろうか。部屋を出て、まともに外に出られると思ったのは束の間だった。私は飛び出す前に、細かに準備していた、という事実を忘れかけていたために、それはそれは多少無駄な時間を過ごしてしまっていた。タンスから取り出した黒と白の正装が幾つか、それと甘味を入れたポーチを、無い無いと探して、荒した床はそのままに。その多少の方がよっぽどいいと思うのは、もうしばらくしてから気づいた。

 出てすぐのこと、私の気分は外出できる高揚感にぎりぎり勝らないほどの、タクシーといえばいいのか、運搬手段に対するがっかり感があった。見える限り外見も中身も黒の、棺桶のような箱に収容されたのだ。息をする程度の大きさの隙間はあるが、押し出さなければいけないうえほとんど体を動かす余地がない状態は、これから間違えて葬儀場に送られるような死人を思い起こさせる。箱に押し込まれた故に、他のことは全く分からない。全く、任務とはいえ自由度が欲しいなということを思って数刻は経っただろうか。暗室は思考と睡眠に向いているとはいえ、手持無沙汰故に思考を回しているものの原因はいまだわからない。この間の仕事はそこそこうまくいったはずで、その後の問題も起こらないように処置はしたはずで、それ以外も何のこともなく終わらせてきたようなきもするけれど...などと、雑然として考えていた。体内時計がくるっていなければ、あと30分はかかる距離のはずだな、という考えがふと浮かんだ時、外が一際大きく揺れた。新たな犠牲者らしい。

 周りに、私以外の同じような大きさの、箱が2つ担ぎ込まれ、のち一つがガタガタなっているような、音がした。外で取り押さえるような音がそういえばしていたな、ということはきこえていた。わざわざ言うほどでもなかったのは、それが初めての場合での当たり前であったことと、経験側で覚えていたためだ。隙間の窓を顔で押し出すように外を見ると、雑に棺桶を空間に押し込もうとする黒スーツの怖そうな人が、こちらを覗いているのが分かった。ふと、笑いかけたはいいものの見えたのは一瞬で、もう何も見えなくなってしまった。片方の箱は静かで、もう片方は常にガタガタとなっていることを、対称的でありながら異常だなと、そう感じた。都市によっては、私は先に居る人として会話を進めないと、と声を上げた。

「そこの人、あんまり暴れないでくださーい。埃舞っちゃうので!」

初めの一言としては十分でもないだろう。でも、すこし気になったのだから仕方ない。聞くが早いか、棺桶は止まった。良かったのは、揺らして動いてくれたおかげでのぞきあながこちらを向いたことだろう。顔合わせで、文字通り顔を見ることのできない状態は、私としても心苦しい。

「なんでお前に止められないといけないんですか...?」

暴れ馬の矛先がこっちを向いたのを確認して、私はより一層めんどくささを自覚した。どこかおかしい人が居る業界ではあるが、この手のタイプは特に。議論を切るように、続ける。

「いや。感情をその場で爆発させるようなのはわかるんですけど、さすがに今これをするようなことでもないのでは。最低限でも、これを仕事にしたのなら皆さん、まずは自己紹介しませんか。これからの仕事仲間なわけですし。

私は黒野です。名前の方は、ちょっと恥ずかしいので隠させてください、よろしくお願いします。」

のぞきあなから覗いた2つの顔は、こっちを威嚇しているように見えるものと、不安そうに眼をそらすものがあった。

小動物のような威嚇の仕草には、本当に人間らしい。

「じゃ俺からでいいか。いいよな?名前は織部悠。こっちが弟の、織部明花おりべはるか、両方同い年で、17だ。それ以上は、後で。」

「初めまして、同じく明花です。所属は…救済委員会山形支部の次長を務めてます。兄が初対面からご迷惑をおかけしました。よろしくお願いします。」

はて、兄弟とは。顔立ちが似ているとはいえ、育てが良いのだろう。顔の良さは、仕事につながると聞いたことがある。きっといい仕事をして上まで登って行ったのだろう。仲がいいのはいいことだ。優に事欠かない。

「そうそう。似てるって、よく言われるだろ?」

薔薇の咲いたような笑みには、眩しく印象的に写った。

私にないものを、人が持っていることが理由なんだろうか。

「ええ。顔立ちが整っていますね」

少しだけ、顔が悪くなったような気がした。人のコンプレックスに触れたような反応に、また気を悪くしたことに後悔した。

結果としては、私から始まり突然ぶったぎることになってしまったものの、きまずい沈黙が、また蔓延した。

どう関わるのが正解なのか、誰も分かっていない沈黙だ。

「今回の件、資料は読みました?」

「一応。でも……正直、実感はなくて」

「それが普通です」

明花が静かに口を挟む。

「崩壊前線、黒い霧、空間の亀裂。

 発生から十数年。

 原因不明で、対処のやり方すらわかってないと来た。

 ――ここまでは、共通認識ですね」

「あぁ。でもさ」

悠が言葉を続ける。

「“世界が終わりかけてる”って割に、

 普通に生活してる人も多いだろ」

一瞬、言葉を探すように視線が泳ぐ。

「……初任務で、こう言うのも変だけどさ。

 資料だと、もっと切羽詰まってる感じだった」

「ええ」

下手な会話力をカバーしてくれるらしいことに、

内心感謝しながら私は否定しなかった。

「終わっていない場所だけを、

 残しているだけです」

少し考えて、付け足す。

「多分、私たちは生きるための資源をパイにして、

 次から次へと食べ潰してきた。

 だから残った分だけは、大事に扱われて、

 お金で買われてるんでしょう」

悠は、納得しかねるように眉を寄せた。

「……それ、助かってるって言えるのか?」

目が再び、ぐるぐると泳ぐ。困惑と、再認識と行ったところだろうか。

それを享受してきた側だろ、とは言えなかった。

諌めた側の言えることではないと、重々わかっている。

「だからこその、少なくとも好転させるために私達が投入されてるのかなって。最も、入っているのは沼ってある程度回ったスロットのコインとしてですが。」

自分で言っておいて、少し雑な言い方だったなと思う。

けれど、娯楽以上の価値を見出す以上に、言語にはできなかった。

「......スロット?」

悠が首を傾げる。

「ええ。払い出しが出るかどうかは分からないけど、

 回し続けないと、確率だけは下がり続けるやつです」

それほどの娯楽は、体験していないらしい。

「それ、やる方が損となりそうな気がするんですが。」

明花も加わった会話には、生産的な価値はないだろう。ただ、道具としては役に立つのだろう。

「それはそうなんですけどね。」

即答してから、付け足す。

「少なくとも、仕事がないよりはましですよ。」

明花が、考え込むように視線を落とした。

「その……異能者、という立場も、

 同じ考え方なんでしょうか」

「はて、どうでしょうか。考えてみれば近いですね。」

私は肯定した。

「本来、異能は外側から関与するための試作でした。

 減り続ける資源や人手に、直接手を突っ込まずに済むようにするための」

「機械の代わり、ってことですか」

「正確には、機械に置き換えられる存在を作ろうとした。

 自己完結して、消耗せず、経済を回し続けられるものを」

言葉を選ぶ。自分の

「……結果として、人の形をしてしまっただけです。」

悠が、思わず笑った。

「それ、めちゃくちゃじゃないか。

 実験以上の価値はなかったんじゃないか?」

「ええ」

否定はしない。

「しかも、その発想は残り少ない善意と称した団体から、

 強く糾弾されました。

 人を道具にするな、と。当事者に言われるほどに」

ひっきりなしに悠が一言加えた。

「正論じゃないですか」

すこしむすっとした顔が見えたことに、

「事実を陳列することと、同じ人としての扱いを受けようとすることは別です。人の形をした機械に人権を求めるような、微妙な問題なんですよね。」

だからこそ、と続ける。

「表には出せなかった。

 隠れて作られて、隠れて使われて、

 名前だけが後から追いついた」

明花が、静かに呟く。

「ええ。来歴不詳。

 分かっているのは、どれも一級品どころか、

 一千級に近い性能を持っている、ということだけですね。」

一拍。

「外が荒廃しても、まだ明るくて、

 現実以上の実践のためといった手を余した理由としてのおもちゃ。

 私は、まだ遊べると判断されたらしいです。」

悠は考え込む。

「残り少ない娯楽、ってやつか」

私は、それを

「そうです」

私たちは、世界を救う駒でも、選ばれた英雄でもない。

「暇つぶしみたいに回されて、

 たまに当たれば拍手される。

 そういうのらりくらりとした仕事が、一番やりやすいんですよ。」

最も、私がその延長線上にいてしまうということがその問題点何だろう。

きまずい沈黙が、少しだけ形を変えた。軽快と話す内容にしては重さはなく、聞いていた明花が、しばらく考え込んでから一つ聞いてきた。

「今回、ある程度情報を集めてきたと思ってました。

 現場にいないとわからないことも多いんですね。本当、参考になります。どうやってそういうことを知ってるんですか?」

回答に、どうこたえようといったものか困った。

「秘密です。個人として、そういったコミュニティは持っているものですよ。」

さらに問い詰めようと、明花が口を開こうとしたときに、車は止まった。

目的地に着いたらしい。

  外の音が戻る。風が鳴り、どこかで金属が擦れる音がした。

 棺桶の蓋が外される気配がして、光が差し込む。

 「……出ていいですよ」

 黒スーツの声は淡々としていた。

 私たちは順番に外へ出る。

3章 解決しに行くことが、その場を助けること

 そこは、地図上では“ま生活区域に分類されている場所だった。

舗装は残り、建物も立っている。

 ただし、人はいない。

装甲車は、生活区域の端で止まっていた。

これから、危険度の上がるからとマージンを多くとっているらしい。

 車両から降りてきた男は、見知ったものだった。

「支給品です」

 いつも通りに、短い言葉とともに、布包みが渡される。

中身は、軽量の2丁のリボルバーだった。周りに人が居ないことは確認済みだ。すぐ奪われないようになったこともあるわけで。

扱いやすく、信頼性が高く、そして象徴的な暴力は必要なものだ。

思ったよりもいい支援に、軽く気分が高揚する。

包このあたりの地図だった。

「弾は六発。地図は最新版です」

「最新版、ですか」

布のような厚みのそれであった、地図を広げた。布は新しく、インクは定着してすぐみたいだ。印刷も鮮明だ。横から、織部兄弟が覗いている。

端から端まで見て、線が一本、足りない。

「この道、ありませんね」

悠が指でなぞる。

 男は即答した。

「まあ、公式には、存在していません。

 安全でもなかったみたいで、記録できなかったみたいですよ。」

 それ以上は言わなかった。

言う必要もないのだろう。依頼内容に、情報探索と開拓の要素もあったとは思わなかった。

手を出したが、

何か連絡でもした後、装甲車は、そのまま引き返した。

振り返らない。国家は、渡した瞬間に手を離す。

  洗濯物が干されたままの家。途中で放棄されたらしい車。信号は青のまま点滅している。

「……思ったより、普通ですね」

 悠が小さく言う。意外と庶民だったのかもしれない。

「普通に見えるだけです」

 私は歩きながら返す。

後ろに具現化した暴力を回してから、私は遮蔽に隠れて着替えた。

外用の正装は、黒と白のがっちりとしたシスター服だ。まるでさっきの運転手さんだな、と外に出ると、織部兄弟が驚愕していた。何か変なことでもあっただろうか。

「もしかして、お前って...。」

視線が表すのは恐怖と困惑、そして一番は渡した暴力の化身が、こちらを向いているということ。

全くもって不快なことだが、私は健全に安全な方だというのに。

「まあ、それなりの立場で仕事させてもらってるってことです。

 だから、それおろしてくださいよ。うっかり指に力が入れば怖いですよ。」

それでもおろさなかったために、私はそれを取り上げた。それ以降はあまり話すことはなかったが、それでも自然環境から生きるためのことを幾つか話したような、気がする。

 私を中心とした小規模な探索。足元がコンクリから土になったころ。獣が見えるようになった。

鹿に似た姿で、三頭。

 こちらを見るが、逃げない。

 目だけが、妙に濁っている。

「来ますか?」

ちらりと見ると、目には怖さが見えた。

「来ません。」

それは依然として恐怖よりも確実な、格の違いからくるものだ。

 言った通り、獣は距離を保ったまま動かない。

 代わりに、進行方向を塞ぐように散っている。

「そっち、地図にありませんけど」

「だからです、頼まれごとはそれなので、さっさと終わらせちゃいましょう。」

 進むにつれ、風が弱まる。

音が減る。

円形の半径4メートルほどの広場が見えてきた。

その中心には、光り輝く水晶のような球が高くそびえているような。

代わりに、声がだんだん大きく聞こえてきた。

人が集まっている。祈っているのか、その言葉こそ聞こえないものの讃えているように見える。

十数人。輪になり、中心を向いている。

 台風の目のように、そこだけが静かだった。

「……操られてる、ってやつですか」

 悠が息を潜める。

「半分は自発的です」

 私は前に出る。空気が重くなったような錯覚と、何かわからないものがいるという存在感が、威嚇しているように思える。

「もう半分は、違います」

困っているからと、自然に一人が祈り始めたのだろう。全くもって効果がなくとも、それが救いとなるならいい。ただ、方向性は間違えちゃいけない。こそこそ話していたはずが、祈りの声が、こちらに向く。

誰かが私を見て、目を見開いた。


  次の瞬間、獣が動いた。


 私は、その中心へ走る。

 棒高跳びの棒を失くしたような跳躍。

 ただの身体能力だが、距離を詰めるには十分だった。


 一言、告げる。


「展開」


 北極のオーロラのような幕が、私を起点に広がる。

 広場を覆い、通ってきた道を包み込み、

 やがて大きなドームの形を取る。


 気づくのは、色だ。

 淡く、しかし確実に赤みを帯びた光が、

 空間そのものを塗り替えていく。


 私の機能は単純だ。

 汚いものを、綺麗にする。


 それだけ。


 汚い、という概念を宗教として指定すれば、

 それは強制的な改宗になる。

 服の汚れを指せば、繊維は元に戻る。


 今回は、空間に滞留していた宗教を、

 委員会のものへと塗り替え、

 周囲の人間の健康と、

 積もった“汚れ”を、綺麗にする。


 決めた瞬間から、吐き気が込み上げる。

 甘く腐ったような悪臭。

 内臓を握り潰されるような圧迫感。

 それらはすべて、

 私に直接、流れ込んでくる。

 呻き声が、喉の奥で漏れた。

 二分ほど。

 時間にすれば、それだけだ。

誰かが、語りかけてきている気もするが、極度の頭痛から返事もママらないままだった。祈りが、途切れる。

 獣の目から、色が抜け落ちる。

 倒れる者はいない。

 叫ぶ声も上がらない。

 ただ、静かになった。

「……終わりですか」

織部某が、私に話しかけてきた。

「はい。」

 私は周囲を一周、確認する。

 空気が、戻っている。

「帰りましょう」

 悠が、何か言いかけてやめた。

 明花は、祈りの場を一度だけ振り返る。

 帰路は、早かった。

 獣はいない。

 歪んでいた道も、元に戻っている。

「さっきの」

 歩きながら、悠が言う。

「怒ってましたよね」

「していません」

「嘘だ」

 少し、考える。

「……人を、使うのが嫌いなだけです」

 それ以上は、言わない。

 乗り物に戻る直前、

 明花が小さな声で聞いてきた。

「委員会の……上の人たちって」

 歩みを止めずに答える。

「秘密です、先ほども言いましたけど。」

 一拍。

「知ると、仕事が増えます」

 明花は、苦笑した。

 箱に戻る。

 蓋が閉まる。

 暗くなる。

 仕事は、終わった。

 私のやることは終わり、後は上司に仕事を任せよう。

最後まで書ききれない症候群です。

趣味赤みたいなところがありますが、感想を送っていただければ幸いです。

手をたたいて喜びます。

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