(忍者×悪役令嬢)『俺は隠れ里に住む忍者だ。ある日、まきびしが無くなったので探したら、俺好みの悪役令嬢になってたのだが』
『俺は隠れ里に住む忍者だ。ある日、まきびしが無くなったので探したら、俺好みの悪役令嬢になってたのだが』
適用レーベル名:
【なろうに登録したばかりだけど、何を書いたらいいか分かんねー】
--
俺は風魔ハヤト。山奥の隠れ里に住む、れっきとした忍者だ。
隠密行動、情報収集、毒薬の扱い、木の葉隠れ、そしてまきびし投擲術――どれも極めたつもりだった。
なのに。
「……まきびし、ねぇな」
朝、訓練用の倉庫に行ったら、俺専用の黒鉄まきびしが忽然と消えていた。
昨日の任務の帰りに確かに補充したはず。まさか、盗まれた? 隠れ里の警備をすり抜けて?
「いや、ないない。ここは人里離れた秘境だぞ。盗人が来るわけ……」
と、その時。森の奥から妙な笑い声が聞こえた。
「ふっふっふ……これが庶民の忍具というものですのね」
なんだ、今の喋り方。明らかに“貴族口調”。というか、声が可愛い。妙に好み。
気配を消して音のした方へ忍び寄ると、そこにいたのは――
「……誰だ、お前」
ブロンドの髪をツインテールに結い、豪奢なドレスを身にまとった少女。
見た目は十七、八。眉の角度、口元の傲慢な笑み、上から目線の佇まい。
――悪役令嬢そのもの。
しかもその手には、俺のまきびしが握られていた。
「ふんっ、下民風情がわたくしに話しかけるとは。身の程を弁えなさいな」
「……あのな、まずお前、まきびし返せ」
「これは拾ったのですわ。落ちていたので、わたくしのものになりましたのよ。文句ありますの?」
なんだこの理屈。だが妙にハマっててムカつけない。
顔は人形のように整ってるし、声は鈴の音みたいだし、語尾に「ですわ」って……なにそのテンプレ感。ド直球すぎる。
「お前、どこから来た? ここは忍の隠れ里だ。部外者は立ち入り禁止だぞ」
「気がついたら森にいましたの。気づいたら、この姿でしたの。元々はまきびしだった気がしますのよ……たぶん」
「……は?」
思考が一瞬フリーズした。
まきびしだった。
この悪役令嬢は、俺の忍具だった、と?
「なにそれ、どんな異能だよ……」
「知らないのですわ。気がついたら人の姿になって、やたら忍びたい衝動に駆られていますの」
「なんだそれ、呪いか? いや、進化か?」
「“くのいち”……って響きが脳内に流れてきて、すごくワクワクしますのよ。闇夜に踊る紅い影、わたくしこそ真の美しき忍び――って名乗ってみたりして」
……なるほど。完全に俺の影響だ。
毎日まきびしに語りかけてたせいか?
「いいか、まず服が目立ちすぎだ。そのドレス、木の上じゃ引っかかって動けないぞ」
「なるほど。では、まずはこのドレスを脱ぎ捨て……」
「ストップ! それは違う問題だ!」
彼女はくすりと笑った。
「あなた、忍者のくせに顔が赤いですわよ?」
「うるせぇよ。……とにかく、帰るぞ。里の長老に見せて、事情を話す」
「つまりあなたは、わたくしを“拾って”連れて帰るのですのね?」
「違ぇよ、変な言い回しすんな」
「うふふ、まきびしから令嬢にジョブチェンジした女ですわ。よろしくて?」
「よくねぇよ……でも、ま、変なのに嫌われるよりマシか」
そう言って歩き出した俺の背中に、彼女がぽつりとつぶやいた。
「わたくし……あなたの手の中が、一番落ち着きますのよ」
「……おい、恥ずかしいこと言うな」
「顔が真っ赤ですわよ?」
「黙れ!」
こうして俺と“元まきびし”の奇妙な同居生活が始まった。
俺は忍者。彼女は悪役令嬢――もとい、転生(?)まきびし。
この物語、どう転んでもまともな方向にはいかない気がする。
(完)