1-4話:午後の時間
◇登場人物紹介
ジェン…主人公。暴走した個体を壊す役割を担うγ(ガンマ)型の少年。温厚で優しい性格。
テルル…人間の護衛のために製造されたε(イプシロン)型の少女。ジェンといつも一緒。純粋無垢な性格。
昼下がりの観測棟。島を取り囲む青い空は薄く霞み、風は緩やかに丘を撫でていた。
ジェンとテルルの暮らす家から南東にある研究施設には、レミナ、オルダ、そしてデューラの三人が暮らしていた。
レミナは屋上に立ち、風に揺れる髪を押さえながら、何度も空を見上げていた。白く透き通る雲が流れ、遠くでカモメの声がかすかに聞こえる。
彼女の姿は、どこか儚く、守りたくなる雰囲気を持っている。10代半ばの少女の姿を持つレミナはΔ(デルタ)型――ドールズの中でも数少ない非戦闘個体であり、他個体の修理やメンテナンスを担う存在だ。
その役割から、全てのドールズには本能的にΔ型を守る設定が組み込まれている。
「……昨夜の強風でアンテナが曲がってしまったのね」
そう呟いたレミナの声に応えるように、鉄の階段がわずかに軋む音がした。
現れたのはオルダだった。大きな工具箱を手にしている。
オルダはβ型。高い処理能力と冷静な判断力を持ち、理論的で任務に忠実な性格だ。
島に来た当初、彼は人間の襲撃からレミナを幾度も守り、それ以来共に行動するようになった。
効率を重視する彼にとって、すぐに修理を行ってくれるレミナは実利的な存在でもあったが――その視線の奥には、どこか彼女への好意のような感情が潜んでいた。
ただし、それを本人には決して悟らせまいとしている。
「今から直すところだ」
「あら、仕事が早いわね。私より上手く直せるかしら?」
レミナは微笑みながら、片目をつむって見せた。オルダはテキパキと作業に取り掛かる。
レミナは職人のように無駄のない動きでアンテナを直すオルダの手元を眺めながら、再び空を仰いだ。
ここ数日、濃い霧が島を包みこんでいたため、空が見えるのは久しぶりだった。
青空の色、雲のかたち――それらを心に焼きつけるように、彼女はしばらく目を閉じて風を感じていた。
静かな時間が流れる中、バタバタと騒がしい足音が階段の下から響いた。
「おーい! みんないるか!」
元気な声とともに現れたのはデューラだった。工具箱をぶら下げ、肩には焼け焦げたような電線が巻かれている。
彼もまたβ型だが、オルダとは正反対。精密さには欠け、加減を知らない不器用さが目立つ。
度々トラブルを起こしてはオルダに叱られているが、その分、現場での対応力や力仕事には頼れる一面もある。
責任感の強いオルダが「俺が管理する」と言って、一緒に暮らすようになったのもそんな理由だった。
「倉庫裏、ヒューズ飛んでた。ケーブル、バチバチしてる。とてもキケン、きけん!」
「それ、あなたが爆発させたんじゃ……?」
レミナが眉をひそめると、デューラはぶんぶんと首を振る。
「ノン! そっと、なでただけ。やさしさ、最大出力。オレ、ていねい」
「……それを“なでる”って表現するの、ちょっと怖い」
そのやりとりにオルダが一瞥をくれる。
「それなら、倉庫裏の配電も後で確認する。だが今は……」
そこへ、軽やかな足音がもう一つ。階段の上に姿を見せたのはジェンとテルルだった。
ジェンは三人を見つけると軽く右手をあげて挨拶し、テルルは風に目を細めた。
「……風、気持ちいい」
「テルルが、屋上に行きたいって言うから連れてきたんだ」
ジェンの言葉にテルルは静かにうなずいた。
その様子を見ていたレミナが、にんまりと口を開く。
「ふふっ、やっぱり仲良しねぇ~! ジェンとテルルって、ほんと見てると癒される~」
「仲良し、いいこと。とても良好、交信成功中。テルル、ジェンの近くに、いつもいる。なごむ」
デューラもニコニコと微笑ましそうに二人を見つめる中、オルダは観測端末を閉じて短く言った。
「……行動パターンからも親密さは明らかだ。物理的距離もデータに出ている。平均1.2メートル以内」
「データで測るなってば」
レミナが笑い、ジェンは肩をすくめる。
「テルルが……近くにいてくれるのは、たぶん、僕が臆病だからかもね」
「違うよ、ジェン」
テルルがジェンの袖をつまみながら、静かに言った。
「ジェンは、やさしい。だから、そばにいるだけ」
レミナはそのやり取りに顔を赤らめ、頬を押さえる。
「きゃー! もう! 見てるこっちが赤面しちゃうわ! めっちゃ羨ましい〜!オルダ、私たちもくっつく!?」
「しない」
「即答すぎ!」
笑いが広がる中、レミナは少し真顔に戻って皆を見渡した。
「ね、せっかくだし……ちょっと出かけない? 西の小道、見回ってみない?」
「行く価値はある。昨日の嵐で送電ケーブルの支柱が一部歪んでいた。点検を兼ねるなら効率的だ」
「オレ、修理道具、フル装備。いつでも出動オーケー」
「私は風が、もっと見たい」
テルルの言葉に、ジェンが「じゃあ、決まりだね」と頷いた。
五人は並んで、観測棟の階段を降りていく。誰かが笑い、誰かが無言で空を見上げながら、島の西側へと歩いていった。
──その誰もが、まだ気づいていなかった。
森の奥で、かすかに反応していた旧式の警戒センサーが、一度だけ赤く点滅していたことに。
新キャラが3人いっぺんに登場してます。
ゴチャゴチャにならないよう気をつけてますが、いかがでしょうか。
コメントなどもらえれば執筆の励みになります。




