3-20話:戦場の剣鬼②
刀と刀が交差し、銀の火花が飛び散る。
フウマは渾身の力で押し込むが、ジンマは片腕の力だけで軽く受け止めていた。
その腕の軋む音は金属が悲鳴をあげるようで、林に不気味な反響を残す。
「力はある。だが、軽いな」
ジンマは口角を歪め、片目を爛々と光らせる。
「重さがねえ。お前の刀には“覚悟”が宿ってねえんだよ。甘えた刃だ」
「……黙れッ!」
フウマが叫び、強引に刀を振り払う。
だがジンマはその勢いを利用し、体をひねって逆にフウマの胴を狙った。
紙一重で後退しなければ、フウマの体は真っ二つになっていただろう。
「……速い」
フウマの顔に焦りが浮かぶ。深く息を吸い、気持ちを立て直そうとするが、ジンマの追撃は容赦がなかった。
まるで怒涛の波のように、次々と刀が押し寄せる。
一撃ごとに木々が裂け、土が抉れ、舞い落ちる葉すら、地面に触れる前に刻まれていった。
ミコトは木陰に身を滑り込ませながら、冷静に戦況を見極めていた。
――フウマは冷静さを欠いている。ジンマの言葉に、完全に心を揺さぶられてしまった。
このままでは勝機はない。
(支援するしかない……だが、この男には隙が見えない)
ミコトはクナイを数本、指の間に挟み直す。
彼女の技は正確無比。だが、その正確さをもってしても、ジンマの動きは異様に読みにくい。
刀の軌道は荒々しいのに、無駄がなく、確実に急所を狙ってくる。
「……どうした。さっきまでの勢いはどこへ行った?」
ジンマはわざと刃を止め、挑発的に笑った。
「コンコルダの小僧が……所詮、女神の庇護がなきゃ何もできねえか?」
「……ッ!」
フウマの瞳に怒りが宿る。その刹那、ジンマの刃が首を狙った。
反射的にしゃがみ込んだフウマの髪が宙に舞い、数本が切り刻まれ、風に流れていく。
「……危なかったな。あと一寸で首が飛んでたぞ」
ジンマの挑発的な台詞が飛ぶ。
全く本気を出していないのにも関わらず、この力量差。
――駄目だ。
ミコトは決断した。このままではフウマが斬られる。
「……フウマ、下がって!」
鋭い声と同時に、クナイが放たれる。
三本の銀閃が林を走り、ジンマの死角を突いた。
「ほう……」
ジンマは刀を翻し、二本を弾き、残り一本を肩に受ける。
機械の火花が散り、ジンマの体から焦げた匂いが立ち昇った。
「へぇ……やるじゃねえか。イズモ製の“忍び型”か。お前、ただの添え物じゃなかったんだな」
「……私は、ただの添え物ではありません」
ミコトの声は低く冷え切っていた。
その眼差しには仲間を守る決意と、鋭い針のような殺意が宿っている。
フウマはその隙に体勢を立て直し、再び刀を構える。
今度は無闇に突撃せず、深く息を整えた。
「……すみません、ミコトさん。冷静さを欠いていました」
「分かればいいのです。私たちは二人居るんですから」
ジンマはにやりと笑った。
「いいねえ……二人で来るか。そうでなくちゃ退屈すぎる」
再び刀が交錯する。
フウマが正面から斬り込み、ジンマが受け流す。
その瞬間、ミコトが木陰から飛び出し、背後を突いた。
だがジンマはまるで背中に目があるかのように、機械の腕で後ろを弾いた。
鋼と鋼が激しくぶつかり合い、銀の粒子が四散する。
「チッ……本当に隙がない」
ミコトが舌打ちする。
「隙なんざ最初からねえよ。俺たちドールズは戦うために生まれ、殺す運命を辿るんだ」
ジンマの声には狂気と誇りが混ざっていた。
またフウマが一歩前に出て、斬り込む。
その動きは先ほどよりも冷静で、重心のぶれも少ない。
「……ほう。少しはマシになったか」
ジンマの口元が歪む。
鋼の音が連続し、二人の刀が火花を散らす。
フウマの視界に映るのは、相手の片目の奥に宿る狂気の光。
背筋をなぞる悪寒が、むしろ集中を研ぎ澄ませていた。
「自分たちは……運命に抗うために戦っている!」
フウマの声は叫びではなく、確信を持った響きだった。
「殺すために生まれた?そんな定め、認めはしない!」
「……面白え」
ジンマの目がぎらりと光る。
「そういう寒い台詞を吐いた奴ほど、最後は跡形もなく無残に破壊されていくのさ。お前ら"コンコルダ"も、"プロテギア"もな」
両者の刀が再び激突し、林を震わせる轟音が走った。
ミコトは横合いから援護に入ろうと構える。
だがその時、林の奥から低いうなり声が幾重にも響いた。
「……ッ!」
二人が同時に顔を向ける。
そこには、うねるように迫るζ型の群れがあった。
数は五十を超え、しかも異様な光を帯びた個体も混じっている。
「チッ……厄介なことになりました」
ミコトが眉をひそめる。
だがジンマは愉悦の笑みを浮かべていた。
「いいじゃねえか。俺はまだまだ遊び足りなかったところだ」
フウマは刀を握り直し、ミコトと視線を交わした。
「……退けません。自分たちが、ここで止めなければ」
「ええ。私たちが背中を見せるわけにはいきません」
ζ型の群れが吠え声を上げ、林を揺らした。
ジンマの狂笑がそれに混じり、戦場はさらなる混沌へと沈んでいく。
地獄の舞踏はまだ終わらない。




