表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

52/68

3-20話:戦場の剣鬼②

 刀と刀が交差し、銀の火花が飛び散る。

 フウマは渾身の力で押し込むが、ジンマは片腕の力だけで軽く受け止めていた。

 その腕の軋む音は金属が悲鳴をあげるようで、林に不気味な反響を残す。


「力はある。だが、軽いな」


 ジンマは口角を歪め、片目を爛々と光らせる。


「重さがねえ。お前の刀には“覚悟”が宿ってねえんだよ。甘えた刃だ」


「……黙れッ!」


 フウマが叫び、強引に刀を振り払う。

 だがジンマはその勢いを利用し、体をひねって逆にフウマの胴を狙った。


 紙一重で後退しなければ、フウマの体は真っ二つになっていただろう。


「……速い」


 フウマの顔に焦りが浮かぶ。深く息を吸い、気持ちを立て直そうとするが、ジンマの追撃は容赦がなかった。


 まるで怒涛の波のように、次々と刀が押し寄せる。

 一撃ごとに木々が裂け、土が抉れ、舞い落ちる葉すら、地面に触れる前に刻まれていった。


 ミコトは木陰に身を滑り込ませながら、冷静に戦況を見極めていた。

 ――フウマは冷静さを欠いている。ジンマの言葉に、完全に心を揺さぶられてしまった。

 このままでは勝機はない。


(支援するしかない……だが、この男には隙が見えない)


 ミコトはクナイを数本、指の間に挟み直す。

 彼女の技は正確無比。だが、その正確さをもってしても、ジンマの動きは異様に読みにくい。

 刀の軌道は荒々しいのに、無駄がなく、確実に急所を狙ってくる。


「……どうした。さっきまでの勢いはどこへ行った?」


 ジンマはわざと刃を止め、挑発的に笑った。


「コンコルダの小僧が……所詮、女神の庇護がなきゃ何もできねえか?」


「……ッ!」


 フウマの瞳に怒りが宿る。その刹那、ジンマの刃が首を狙った。


 反射的にしゃがみ込んだフウマの髪が宙に舞い、数本が切り刻まれ、風に流れていく。


「……危なかったな。あと一寸で首が飛んでたぞ」


 ジンマの挑発的な台詞が飛ぶ。

 全く本気を出していないのにも関わらず、この力量差。


 ――駄目だ。

 ミコトは決断した。このままではフウマが斬られる。


「……フウマ、下がって!」


 鋭い声と同時に、クナイが放たれる。

 三本の銀閃が林を走り、ジンマの死角を突いた。


「ほう……」


 ジンマは刀を翻し、二本を弾き、残り一本を肩に受ける。

 機械の火花が散り、ジンマの体から焦げた匂いが立ち昇った。


「へぇ……やるじゃねえか。イズモ製の“忍び型”か。お前、ただの添え物じゃなかったんだな」


「……私は、ただの添え物ではありません」


 ミコトの声は低く冷え切っていた。

 その眼差しには仲間を守る決意と、鋭い針のような殺意が宿っている。


 フウマはその隙に体勢を立て直し、再び刀を構える。

 今度は無闇に突撃せず、深く息を整えた。


「……すみません、ミコトさん。冷静さを欠いていました」


「分かればいいのです。私たちは二人居るんですから」


 ジンマはにやりと笑った。


「いいねえ……二人で来るか。そうでなくちゃ退屈すぎる」


 再び刀が交錯する。

 フウマが正面から斬り込み、ジンマが受け流す。

 その瞬間、ミコトが木陰から飛び出し、背後を突いた。


 だがジンマはまるで背中に目があるかのように、機械の腕で後ろを弾いた。

 鋼と鋼が激しくぶつかり合い、銀の粒子が四散する。


「チッ……本当に隙がない」


 ミコトが舌打ちする。


「隙なんざ最初からねえよ。俺たちドールズは戦うために生まれ、殺す運命を辿るんだ」


 ジンマの声には狂気と誇りが混ざっていた。

 またフウマが一歩前に出て、斬り込む。

 その動きは先ほどよりも冷静で、重心のぶれも少ない。


「……ほう。少しはマシになったか」


 ジンマの口元が歪む。


 鋼の音が連続し、二人の刀が火花を散らす。

 フウマの視界に映るのは、相手の片目の奥に宿る狂気の光。

 背筋をなぞる悪寒が、むしろ集中を研ぎ澄ませていた。


「自分たちは……運命に抗うために戦っている!」


 フウマの声は叫びではなく、確信を持った響きだった。


「殺すために生まれた?そんな定め、認めはしない!」


「……面白え」


 ジンマの目がぎらりと光る。


「そういう寒い台詞を吐いた奴ほど、最後は跡形もなく無残に破壊されていくのさ。お前ら"コンコルダ"も、"プロテギア"もな」


 両者の刀が再び激突し、林を震わせる轟音が走った。

 ミコトは横合いから援護に入ろうと構える。

 だがその時、林の奥から低いうなり声が幾重にも響いた。


「……ッ!」


 二人が同時に顔を向ける。

 そこには、うねるように迫るζ型の群れがあった。

 数は五十を超え、しかも異様な光を帯びた個体も混じっている。


「チッ……厄介なことになりました」


 ミコトが眉をひそめる。

 だがジンマは愉悦の笑みを浮かべていた。


「いいじゃねえか。俺はまだまだ遊び足りなかったところだ」


 フウマは刀を握り直し、ミコトと視線を交わした。


「……退けません。自分たちが、ここで止めなければ」


「ええ。私たちが背中を見せるわけにはいきません」


 ζ型の群れが吠え声を上げ、林を揺らした。

 ジンマの狂笑がそれに混じり、戦場はさらなる混沌へと沈んでいく。


 地獄の舞踏はまだ終わらない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ