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3−8話:疑心暗鬼

「まず、第一発見者は誰?」


 ジェンの落ち着いた問いに、沈黙を破ったのはオルダだった。


「俺だ」


 低い声でそう告げ、一歩前に出る。足で砂を軽く払って、そこに横たわっていたキリルの頭部と胴体の位置をなぞるように示した。


「頭はこのあたり。胴体は少し離れていた。頭部だけが持ち去られた痕跡があった。…メルキュリアが点々と、この砂浜に続いていた」


 そう言って、波が届くぎりぎりのところまで歩き、立ち止まる。


「ちょうど、ここだ。首は波打ち際に置かれていた。後頭部には深い切り傷があった」


 顔を上げ、ジェンをまっすぐ見て言葉を続ける。


「それを見てすぐレミナに知らせた。もう完全に死んでいたが…修理できるかも、と淡い期待を抱いた。だが無理だった。レミナとデューラが駆けつけ、事態の重大さを判断して、お前とメイズを呼んだ。お前は少し遅れて来たが…まあ、それはいい」


 眉間に皺を寄せ、できるだけ細部を正確に再現しようとするオルダに、ジェンは短く礼を言った。


「ありがとう。何時頃ここへ来たの?」


「六時過ぎだ。センサーの管理のためだ。毎朝、異常がないか確認している。昨日は霧だけで大丈夫そうだったが、先日のζ型大量侵略もあった。だからウィルと相談して、より精度の高いセンサーを設置したんだ」


 説明に不自然さはない。ジェンが頷くと、横でメイズがじっとオルダの表情を観察していた。


「ということは…キリルが殺されたのは六時より前か」


 ジェンが呟くと、すぐに続けて訊いた。


「最後にキリルを見たのは誰?」


 手を挙げたのはエレメイだった。


「俺だな。俺とキリルとアルテットは三人で住んでいる。昨日、アルテットは二十四時前に図書館に出かけた。その後はキリルと二人だったが、キリルは一時過ぎに外へ出て行った。アルテットが帰ってきたのは二時過ぎで…その時にはもういなかった」


「外出の理由は分かる?」とジェンが問う。


「夜中に出歩くのはあいつにとっては普通だ。月や星をスケッチするのが好きでな。アルテットも俺も知ってるし、ウィルやオルダ、メイズも見かけたことがあるはずだ。深夜に歩き回ってるのは、割とみんな知ってる」


 エレメイの説明に、特に引っかかる点はなかった。ジェンは思考を整理する。


「となると、一時から六時までの間に殺害された可能性が高い」


 オルダが補足する。


「メルキュリアの乾き具合から見て、死後三時間は経っている。つまり一時から三時の間と推測できるだろう」


 その言葉にウィルが皮肉気味に口を挟んだ。


「それも、エレメイとオルダを信用するなら…の話だけどね」


 二人の視線がウィルに向き、場の空気が少しだけ刺々しくなる。ジェンが軽く手を上げて収めた。


「ひとまず二人の証言は信じるよ。次は、一時から三時まで、何をしていたか順に聞いていくから」


 視線を巡らせると、怯えたような顔のレミナと目が合った。


「じゃあレミナ、お願いできる?」


「私は…メルキュリア精製をしてた。中央ラボにずっといたわ。ウィルともすれ違ったから、互いに証明できるはず」


 恐る恐る言葉を紡ぐレミナに、ウィルがうなずきながら補足する。


「ボクもζ型のパーツ解析をしてた。階は違うけど、レミナがそこにいたのは間違いない。出入り記録も残ってるしね。まあ、ボクとレミナなら改ざんできないこともないけど」


「なぜそんな時間に精製を?」


 ジェンの質問にレミナは小さくため息をつく。


「この前の怪我人が多すぎて、在庫が底をつきそうだったの。だから……寝る間も惜しんで」


「そうか…無理はしないでね」ジェンは柔らかく言葉を添える。


 メイズはそのやりとりを無言で見つめ、全員の表情を順に確かめていく。


「次、ミコトとフウマ」ジェンが視線を向ける。


 ミコトは背筋を正し、淡々と答えた。


「東の管理棟で休んでいました。最近、寝床を転々としていましたが、そこが一番居心地が良くて。フウマも外には出ていません。共犯を疑われたら反論できませんが…」


「そうです!」とフウマが続ける。


「リュードは?」


 呼ばれたリュードは、露骨に肩をすくめた。


「いつもの洞穴で寝てた。一人だから、こういうときは不利だよな。アリバイなんかねえ」


「そっか」ジェンは予想していた回答に頷く。


「オルダとデューラは?」


 デューラが勢いよく答える。


「オレ、オルダと居た!その時間帯、夜食作ってた!レミナに届けようとしたけど、料理失敗したから、また今度にした!」


「ああ、間違いない」オルダも短く同意する。


「エレメイは?」


「一人で武器の手入れだ。アルテットが出かける前と、帰ってきた二時過ぎしか証明はできない」


「テルルは?」


 少し戸惑った声でテルルが答える。


「十時には寝たと思うよ。六時に起きたらジェンがいなくて探しに行った。そしたら、道の真ん中で寝てたジェンをメイズに起こしてくれって頼まれたよ。ずっと一人だから……ごめんね、証明は難しい」


 少し困ったように顔を伏せるテルル。

 ジェンは、テルルを一人にし、疑われる立場にしてしまったことに胸が痛んだ。


「最後に、アルテットとメイズ。僕は一緒に居たけど、みんなに説明してあげて欲しい」


「二十四時から二時まで読書会で一緒だった。その後は直帰して、エレメイに目撃されている」とアルテット。

「読書会の後は図書館の掃除をしておりました。四時過ぎにそのまま図書館で仮眠をとっております」とメイズ。


「僕は読書会の帰りに気分が悪くなって道で寝てた。テルルが起こしてくれるまで、ずっと眠ってたよ」


 ジェンは最後にそう締めくくる。

 全員の証言が揃い、場には重たい沈黙が流れた。

……。

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