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2-16話:休息

 医務室の扉を開けた瞬間、甲高い声が飛んできた。


「ちょっと……何この怪我人の数!? ストックのメルキュリア、全部なくなる勢いなんだけど!」


 声の主はレミナだった。 メルキュリア精製を終えて戻ったばかりの彼女は、目の前の光景に思わずため息をつく。


 狭い医務室には、ベッドに六人、立っている七人──合計十三人のドールズがひしめき合っていた。

  薬品と銀色の血の匂いが重く漂い、機械の低い駆動音に混じって、デューラの豪快ないびきが響いている。


 ベッドに横たわるのはメイズ、リュード、デューラ、フウマ、テルル、オルダ。 その周囲を囲むのはジェン、レミナ、アルテット、キリル、エレメイ、ミコト、ウィルだった。 つい先ほどまでの死闘の痕跡が、まだ部屋の隅々に色濃く残っている。


「まぁ……いろいろ事情があってさ」


 ジェンが曖昧に答えると、レミナは腕を組み、ぷくりと頬をふくらませた。


「男子って、ほんっと無茶するんだから!」


「まあまあ……」


 ジェンがなだめるが、レミナはさらに怒りを募らせる。


「あんたたちが死んだら、泣くのはこっちなんだから!」


 一瞬、空気が重くなったその時、ベッドの上から弱々しい声がした。


「……レミナも、けっこう無茶してた」


 テルルだ。 レミナは一瞬固まり、顔を真っ赤にして手をぶんぶん振る。


「い、いや、あれは仕方なかったのよ!」


「俺たちだって、あのノックスと戦ってたんだからな。しょうがねぇだろ」


 横になったまま、リュードが抗議する。


「アンタが一番重症なのよ! いつも無茶ばっかりするんだから!」


 叱責に、張り詰めていた空気がふっと緩む。 戦いの余韻が、ようやく日常の温かさに溶けていった。


「レミナ、面倒をかけて悪い……」


 いつも冷静なオルダがしおらしく謝ると、レミナはキュンとしたように顔をさらに赤らめた。


「いやいや! わ、分かればいいのよ! もう少し皆、自分を大切にしてもらえれば……ね?!」


 その様子に、メイズがぼそりとつぶやく。


「態度が全然違いますね……」


「そ、そんなことないからね!?」


 レミナは慌てて否定した。


 場が和らいだところで、アルテットが軽く咳払いする。


「お前ら、そのへんにしとけ。新入りがいるんだから、まずは紹介くらいさせてやれ」


 視線を受けて、フウマが少し緊張しながら上体を起こす。


「えっと……自分はフウマと言います。ミコトさんとは戦後に偶然目を覚まして……助け合いながらノクティリカ島にたどり着きました。 β型なので、ここでは用心棒として皆さんの役に立てればと思います。よろしくお願いします!」


 深く頭を下げると、ジェンが真っ先にパチパチと拍手した。 それにつられて、部屋のあちこちから小さな拍手が広がる。


「次、ミコト。改めて頼む」


 アルテットの目配せに、ミコトは軽く頭を下げた。


「θ型のミコトと申します。諜報・潜入・暗殺特化の、ちょっと珍しい役割を担っていたドールズです。 戦時中に情報を集めていたので、皆さんのことはだいたい把握しています。改めて、よろしくお願いします」


 静かだがはっきりとした声。 再び拍手が起こり、テルルも微笑みながら手を叩いた。 それを見て、ミコトはほんのり目を細める。


「よし、この二人に質問あるやつは?」


 アルテットが皆を見渡す。


「ハイハイッ!」


 勢いよく手を挙げたのは、いつものキリルだった。


「……他に誰かいないか?」


「おい無視かよ!?」


「お前の質問、どうせくだらないだろ」


「いやいやいや、なんで俺だけいつもそんな扱いなの!? 好きな子に塩対応されてるの、めっちゃ悲しいんだけど!」


 抗議するキリルに、アルテットは深いため息をつき、根負けする。


「……はい、キリル。お前のターンだ」


「フウマとミコトって、付き合ってるの!!?」


 医務室が一瞬、静まり返った。 フウマは「えっ!?」と素っ頓狂な声を上げ、ミコトの白い頬がわずかに桃色に染まる。


「い、いやいや、ミコトさんはめっちゃ可愛いですけど、自分とは付き合ってないですから!」


 必死に否定するフウマ。 その横で、ミコトはほんの一瞬だけ目を伏せた。


「……お前、恋バナ好きすぎだろ。女子か」


 エレメイが呆れたように静かにツッコミを入れる。


「いや、この島男子が多過ぎるから確認しておきたいんだよ!ジェンとテルルは周知のカップルだし、オルダとレミナも多分できてるし、フウマとミコトはくっつくの時間の問題だし──アルテットは俺の彼女だから! 独身たち、悪いな!」


 その爆弾発言に、部屋の温度が一気に跳ね上がった。


 ジェンは「お、おい……」と慌てて視線を逸らし、テルルは頬を赤らめながらも小さく笑って誤魔化す。

 オルダはわずかに肩をすくめて沈黙するが、耳の先がほんのり染まっている。

  レミナは「な、なに言ってんのよ!」と叫びつつも、明らかに顔が真っ赤。

 フウマは「ち、違いますから!」と必死に手を振り、ミコトは横顔を見せまいと俯いた。


 一斉に赤面した六人を見て、キリルは得意げにニヤニヤする。


「やっぱ図星じゃん!」


「勝手にアルテットをお前の彼女にするな」


 エレメイが、いつもより強めに頭へチョップを入れた。 「ぐえっ」と情けない声を上げ、キリルはうずくまる。

 その姿に、笑いがどっと広がったが、やがて少しずつ静けさを取り戻していく。


 笑いが引いたその隙を狙うように、ジェンが口を開いた。


「ミコトに質問だけど、この中でデータにないのは誰?」


 ミコトは周囲を見渡し、淡々と答える。


「ジェンさんとキリルさんは前も言いましたが、テルルさんと……そこの男性。ウィルさんですね」


「ボクのこと知らないんか。残念」


 ウィルは肩をすくめて笑った。


「でもまあ無理もないよ。ボクとジェンとテルルは、アルタイルメカニカ社製だからね」


 その名が出た瞬間、医務室の空気が静かに沈む。 全ドールズの起源である巨大企業──アルタイルメカニカ。

 それは、避けられない現実を思い出させる名前だった。


 沈黙を破ったのは、ウィルの悪戯めいた声。


「じゃあ、なんでキリルはデータにないんだろうね。……てか、お前、何者だ?」


「前も言ったが、こいつは私が拾ってきたんだよ」


 アルテットが即答する。


「記憶は欠落してるし、名前も私が付けた。捨て犬みたいなもんだな」


「好きな子に捨て犬扱いされてるんだけど!」


 キリルが叫ぶと、再び笑いがこだました。


 こうして六人は医務室に入院し、レミナは看病のために残ることになった。 他の六人はそれぞれ解散する。

  ウィルは自室へ、ジェンはテルルのいない部屋が寂しく、中央ラボの空き部屋を借りることにした。


 夜が更け、医務室には規則正しい呼吸と機械の電子音だけが残る。 遠くで波の音がかすかに聞こえていた。


 嵐のような一日が過ぎ去り、ようやく訪れた静寂の中で── ドールズたちは束の間の休息を享受するのだった。

全員出てくると少しゴチャゴチャしますね。

もっとうまく書き分けできるように、日々試行錯誤してます。

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