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2-15話:戦場の残り火

 山積みに折り重なったζ型の死骸の上で、ウィルは膝をつき、手際よく金属部品を外していた。


「うーん……やっぱり、今の人類じゃこの程度が限界だな。多分、戦時中の残骸をかき集めて再利用してるんだろうけど……作りが荒い」


 軽く鼻を鳴らし、肩をすくめる。


「たまに骨のある機体も混じってるけど、ああいうのを量産できるほどの技術も材料も、もう残ってないんだろうね」


 軽口とは裏腹に、その動きは淀みなく正確だ。

 焦げた配線を迷いなく切断し、黒く変色したフェイクコアを引き抜く。ζ型は量産型で、島の住人が持つエナジーコアはない。代わりに、ミラサイトを微量に含む模造品──フェイクコア──が胸に収められている。

 それを調べれば、製造元の技術水準がある程度わかるのだ。


 ウィルはひび割れや変質の具合を指でなぞり、夕陽にかざして光の反射を確かめる。

 焦げたメルキュリアの匂いが、夕暮れの熱気と混じって鼻を突いた。


 隣では、傷だらけのオルダが立っていた。

 裂けた装甲の隙間からメルキュリアがにじみ、呼吸は荒く、肩が大きく上下している。足元には赤黒い染みが広がっていた。


「……死ぬかと思った」


 ウィルは顔を上げ、歯を見せて笑う。


「うん、ボクも死ぬかと思ったよ」


 その調子に、オルダは眉をひそめながらも、わずかに表情を緩めた。


「お前が一度にあんな数のζ型を操れるとは思わなかった」


「そうそうやるもんじゃないからね。結構きついんだ」


 ウィルは肩をすくめ、部品を袋にしまう。


「アルテットなんか絶対やらない戦法だし。まあ、戦い方の引き出しは多いほうがいい。いざって時、選択肢が多いと生き延びられる確率も上がる」


 オルダは頷き、遠くを見た。


「あいつら……全部、同じ命令で動いていた。まるで一つの生き物みたいに」


「だよねえ」


 ウィルは淡々と返しながら、コアの表面を親指で軽くこする。


「中枢がいるはずだ。でも、もう逃げた後だろうね。次に姿を現したときが狙い目だ」


 オルダは少し考えるように視線を落とした。


「……どうして俺、あそこまで必死になったんだろうな。気がついたら、身体が勝手に動いていた」


「仲間を守るためじゃない?」


 何気ない口調でそう言い、ウィルは軽く肩を叩く。


「オルダみたいな奴が前にいるだけで、皆安心するんだよ」


 オルダは息を吐き、視線を落とす。 


「……そうだといいが」


 ウィルは死骸の山から軽やかに降り、手の煤を払った。


「さて、そろそろ戻ろうか。オルダ、その傷は早く治したほうがいい」


「わかってる」


「彼女さんが心配するんじゃない?」


 ウィルがにやりと目を細める。


「ちがっ…レミナそういうんじゃない!」


 慌てるオルダを見て、ウィルは「ボク、レミナなんて言ってないけどな〜」とクスクス笑う。


 歩き出しながら、ウィルは地面に転がっていた手のひらサイズのキューブ状の部品を拾い上げる。


「……これは……使えるかも」


 そう呟き、懐に滑り込ませた。その仕草は、余った部品を集める整備士のように自然だった。


 二人はゆっくりと戦場跡を後にする。

 風が吹くたび、転がった装甲片がカタリと鳴った。


「……それにしても」オルダが言う。


「お前、傷一つないな」


「運が良かっただけだよ」


 ウィルは笑う。その表情は終始変わらず軽やかだ。


「それに、オルダが盾になってくれたおかげでもあるし」


「俺は……そんなつもりじゃ」


「わかってる。でも、感謝ってのはちゃんと口にするもんだろ」


 オルダは何も言わず、並んで歩いた。

 砂を踏む音と、遠くの波音だけが耳に残る。

 やがて、小高い岩場にたどり着く。

 夕陽に照らされた戦場跡は、赤黒く沈み、煙がまだ立ち上っていた。


 ウィルはポケットの中で、先ほどの部品を指で回す。


「……帰ったら、整備室で試してみよう」


 その呟きは、波風に紛れてオルダには届かなかった。


「行こうか」


 ウィルの声に、オルダは短く頷き、その背を追った。


 夕陽の中、二人の影は砂地に長く伸びていく。

 焦げたメルキュリアの匂いが、まだ微かに漂っていた。

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