2-14話:鋼の咆哮・後編
突如、森を裂くような雷鳴が轟き、強風がうねりを上げた。
木々がざわめき、空気は異様なほどに緊迫している。
「ジェン……!」
デューラの声が震えた。
次の瞬間、待ち焦がれた影が姿を現す。
銀光を放つ短剣を右手に携え、ジェンが風を切るように駆けてきた。
刃は唸りを上げるように輝きを増していく。
──瞬きの間に、ノックスの巨体が拳を振り上げた。
だが、それよりも早くアスペラが閃く。
「……遅いよ」
青白い雷光のような斬撃がノックスの胸部を貫く。
直後、爆発的な衝撃波が走り、周囲の木々をなぎ倒した。
ノックスの体がのけぞる。
黒い装甲には深い裂傷が刻まれた。
片膝をついたものの、巨体は倒れない。赤い瞳がジェンを鋭く睨みつけ、その体からはメルキュリアがだらだらと滲み出していた。
動きは鈍いが、殺意は消えていない。
ジェンは静かに構え直したが、アスペラの光は急速に弱まっていく。
それを見て、メイズが顔をしかめる。
「ジェン……今のが……」
「……最大出力。だけど、もう……ストックしていたメルキュリアが尽きた」
ジェンは静かに刃を見下ろす。
「……一撃で仕留めるつもりだったのに」
アスペラは命を失ったかのように沈黙していた。
ノックスはゆっくりと立ち上がる。肩口から火花を散らし、足取りは重い。
それでも、その瞳に宿る闘志は微塵も衰えていなかった。
「来るか……!」
リュードとデューラが身構える。
だが、ジェンは手を上げて制した。
「皆はメルキュリアの漏出が激しい……これ以上は動かないで」
その声は仲間を気遣う優しさと、静かな決意に満ちていた。
ノックスが咆哮し、突進する。
「下がってて…!!」
ジェンは光を失ったアスペラで迎え撃つ。
しかし刃は通らず、黒い装甲に傷一つつかない。
速さでは圧倒していても、力を失った刃では決定打にはならなかった。
「クソッ……!」
数合の応酬の末、ジェンは距離を取り、息を整える。
その時だった。
「ジェン、アスペラを貸してください」
静かで揺るがぬ声。メイズが一歩、前に出る。
「……何をする気?」
「私のメルキュリアを流し込みます」
ジェンの表情が険しくなる。
「無茶だ。これ以上流したら……」
「構いません。ここで倒れるくらいなら……貴方に全部託します」
迷いのない瞳に、ジェンは言葉を失った。
メイズはアスペラを受け取ると、自らの左腕に突き立てる。
「──っ……ッ……!」
鋼が肉を裂く。銀色のメルキュリアが刃に吸い込まれ、アスペラは再び青白い光を灯す。
「はあ……っ、ふぅ……これで……」
震える手で刃を引き抜き、ジェンに返す。
「……お前……」
リュードが呟く間もなく──
「オレもだ!!!」
デューラが叫び、アスペラを奪って右手に突き刺した。
「クソ、そんなん、お前らズルいだろ!!」
リュードも叫び、続けざまに自らの手に刃を突き立てる。
三人の命を削る覚悟が、一本の刃に注ぎ込まれていく。
「ジェン……受け取れ……」
アスペラを握った瞬間、熱がジェンの全身を駆け抜けた。
メルキュリアが沸き、エナジーコアが焼けるような感覚──いや、それは覚醒だった。
風の流れも、敵の呼吸も、すべてが手に取るように見える。
アスペラが完全に光を取り戻す。
「……皆の覚悟、受け止めたよ」
ジェンは瞼を閉じ、仲間たちの想いを全身に沁み渡らせた。
刃は命を宿したかのように脈打っている。
足元の地面が軋み、空気が震える。
ノックスが鋼の咆哮をまとい、最後の突撃を仕掛けてきた。
ジェンもまた、一歩を踏み出す。
世界が反転する。
ノックスの拳が空間を裂く──
「……負けないッ!」
アスペラが閃く。
拳を逸らし、回避と同時に一閃。さらに二撃、三撃と畳みかける。
連撃がノックスの右肩から脇腹までを断ち切り、巨体は大きく傾いた。
「……やれる……!」
デューラが叫ぶ。
「押せぇぇぇえええ!!!」
リュードが喉を震わせる。
「今です、ジェン!!!」
メイズの声が森に響く。
ジェンは跳躍した。重力を振り切るように空を裂く。
(この力は、三人の意志の結晶……)
その想いを刃に乗せ、振り下ろす。
ノックスが拳で迎撃しようとするが──遅い。
アスペラが命の輝きを纏い、閃光を放つ。
「────ッ!!」
轟音と閃光。鋼の咆哮が戦場を貫いた。
刃がノックスの胴を貫き、大地を裂く。
巨体は幹をなぎ倒し、土煙を上げて崩れ落ちた。
──森が静まり返る。
ジェンは静かに着地し、アスペラを下ろす。
「……対象、戦闘不能確認」
その一言で、張り詰めていた空気が解けていく。
「や……やった……」
デューラがその場にへたり込み、
「もう立てねぇ……死ぬかと思った……」
リュードも膝をついた。
「……お見事でした」
メイズが苦笑しながら、軽く頭を下げる。
ジェンは仲間たちを見渡し、ふと空を仰いだ。
静かな風が頬を撫でる。
ノックスの瞳が、最後にメイズを捉えていた。
そこには、満ち足りたような光が宿っていた──
まるで、長き戦いからようやく解放されたかのように。
唇が、かすかに動く。
「……メイズ殿……強く……なったな……」
その声は、風に溶けるように消えていった。
ジェンは深く息をつき、仲間に微笑む。
「皆で掴んだ勝利だね」
──鋼の咆哮は、今、静かに幕を下ろした。
緊張感が伝わるように書くのは難しいですね…。
いつも読んでくれてありがとうございます!
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