2-13話:鋼の咆哮・中編
「……やはり、化け物ですね」
肩口からメルキュリアを流しながら、メイズがわずかに後退する。
ノックスの動きは、一見ランダムに見えた。だが、わずかな揺れすら無駄のない、殺すためだけに研ぎ澄まされた戦闘の結晶だった。
(このままでは全滅する……)
頭の中で回る演算は、いずれも生存率ゼロに近い。
それでも、メイズは決断する。
「時間を稼ぎます」
低く静かな声。リュードとデューラが、銀色の血まみれの顔を上げる。
「は? 何言って──」
「きっと、仲間たちが加勢に来ます。それまでは……何としても持ち堪えます」
その瞳には、冷静な覚悟が宿っていた。
勝利を望むのではない。ただ、命を燃やして“希望”を繋ぐ。
その意志を、リュードとデューラは直感で理解した。
「……ちっ、そういうの、性に合わねぇんだよ……!」
リュードは口元のメルキュリアを拭い、かすかに笑う。
「だが、わかった。お前の判断に従おう」
「オレもやる! 皆で叩くッ!!」
デューラは戦鎚を握り直し、満身創痍の足で前へ進む。
三人とも、すでに限界を超えかけていた。銀色の血を垂れ流し、呼吸は荒く、身体は鉛のように重い。
だが、限界の向こうにしか、この戦いの意味はなかった。
ノックスが、静かに三人を見下ろす。
その赤い瞳は、獲物を追う獣のように光っていた。
メイズは圧に飲まれぬよう息を整え、短く指示を飛ばす。
「デューラは左。リュードは右から。私は正面」
「了解!」「任せろ!」
次の瞬間──空気が裂けた。
ノックスが動いた。
目視すら困難な踏み込みを、メイズが正面から迎え撃つ。
拳とナイフが交差する。
だが、その動きはもはや“攻撃”というより“現象”。物理法則に刻まれた結果だけが目に映る。
「はあああっ!!」
横からデューラが戦鎚を振り抜く。だが、ノックスは一瞥もせず、回避と同時に踵を叩き込んだ。
「ぐっ……!」
鈍い音とともにデューラが転がる。
その隙を突き、リュードが背後から槍を連撃するが──全て読まれていた。
一閃の手刀。腕に重い衝撃が走り、メリッと嫌な音が響く。
「うあっ……!」
膝をつきながら、リュードは叫んだ。
「お前……ホントに俺たちと同じβ型かよ……!?」
メイズが割って入り、必死にノックスと刃を交える。
冷気のような殺気がまとわりつき、時間そのものが凍り付くようだ。
それでも、三人は動く。
倒れかけても、膝が折れても、すぐに立ち上がる。
デューラが再び戦鎚を構える。
攻撃は避けられ、反撃を受けるたび身体はきしみ、視界が揺れる。
それでも前に出る。
「まだだ……!」
リュードも息を荒げながら吠える。
満身創痍の体を引きずり、再び槍を振るった。
「まだ、終わりじゃねえぞ!!」
その一撃が、わずかにノックスの頬を裂く。
銀色のメルキュリアが飛び、瞬間、彼の視界が遮られた。
「──今ッ!!」
メイズが跳躍し、死角からの一撃を放つ。
だが──ノックスの手が背後に伸び、足首を掴む。
次の瞬間、地面へ叩きつけられた。
「かはっ……!」
肺が潰れ、意識が白く染まる。
それでも、メイズは心の奥で叫ぶ。
(まだ……動ける……!)
視界の端に、銀色に染まったリュードとデューラの姿が映る。
二人とも武器を離していない。
(誰か一人でも落ちたら……終わりだ……!)
三人は、極限の状態で、ただ立っていた。
意地でもない。戦士としての誇りでもない。
──一人が倒れた瞬間に、全員が死ぬ。
その張り詰めた連帯だけが、彼らを立たせていた。
「……ジェン……来い……っ!」
デューラの声が、祈りのように森に響く。
希望は、ただ一つ。
──ジェンが駆けつけること。
その願いだけを胸に、三人はなおも武器を握り、立ち続けた。
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