表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/66

2-13話:鋼の咆哮・中編

「……やはり、化け物ですね」


 肩口からメルキュリアを流しながら、メイズがわずかに後退する。

 ノックスの動きは、一見ランダムに見えた。だが、わずかな揺れすら無駄のない、殺すためだけに研ぎ澄まされた戦闘の結晶だった。


(このままでは全滅する……)


 頭の中で回る演算は、いずれも生存率ゼロに近い。

 それでも、メイズは決断する。


「時間を稼ぎます」


 低く静かな声。リュードとデューラが、銀色の血まみれの顔を上げる。


「は? 何言って──」


「きっと、仲間たちが加勢に来ます。それまでは……何としても持ち堪えます」


 その瞳には、冷静な覚悟が宿っていた。

 勝利を望むのではない。ただ、命を燃やして“希望”を繋ぐ。

 その意志を、リュードとデューラは直感で理解した。


「……ちっ、そういうの、性に合わねぇんだよ……!」


 リュードは口元のメルキュリアを拭い、かすかに笑う。


「だが、わかった。お前の判断に従おう」


「オレもやる! 皆で叩くッ!!」


 デューラは戦鎚を握り直し、満身創痍の足で前へ進む。

 三人とも、すでに限界を超えかけていた。銀色の血を垂れ流し、呼吸は荒く、身体は鉛のように重い。

 だが、限界の向こうにしか、この戦いの意味はなかった。


 ノックスが、静かに三人を見下ろす。

 その赤い瞳は、獲物を追う獣のように光っていた。


 メイズは圧に飲まれぬよう息を整え、短く指示を飛ばす。


「デューラは左。リュードは右から。私は正面」


「了解!」「任せろ!」


 次の瞬間──空気が裂けた。


 ノックスが動いた。

 目視すら困難な踏み込みを、メイズが正面から迎え撃つ。

 拳とナイフが交差する。

 だが、その動きはもはや“攻撃”というより“現象”。物理法則に刻まれた結果だけが目に映る。


「はあああっ!!」


 横からデューラが戦鎚を振り抜く。だが、ノックスは一瞥もせず、回避と同時に踵を叩き込んだ。


「ぐっ……!」


 鈍い音とともにデューラが転がる。

 その隙を突き、リュードが背後から槍を連撃するが──全て読まれていた。

 一閃の手刀。腕に重い衝撃が走り、メリッと嫌な音が響く。


「うあっ……!」


 膝をつきながら、リュードは叫んだ。


「お前……ホントに俺たちと同じβ型かよ……!?」


 メイズが割って入り、必死にノックスと刃を交える。

 冷気のような殺気がまとわりつき、時間そのものが凍り付くようだ。


 それでも、三人は動く。

 倒れかけても、膝が折れても、すぐに立ち上がる。


 デューラが再び戦鎚を構える。

 攻撃は避けられ、反撃を受けるたび身体はきしみ、視界が揺れる。

 それでも前に出る。


「まだだ……!」


 リュードも息を荒げながら吠える。

 満身創痍の体を引きずり、再び槍を振るった。


「まだ、終わりじゃねえぞ!!」


 その一撃が、わずかにノックスの頬を裂く。

 銀色のメルキュリアが飛び、瞬間、彼の視界が遮られた。


「──今ッ!!」


 メイズが跳躍し、死角からの一撃を放つ。

 だが──ノックスの手が背後に伸び、足首を掴む。


 次の瞬間、地面へ叩きつけられた。


「かはっ……!」


 肺が潰れ、意識が白く染まる。

 それでも、メイズは心の奥で叫ぶ。


(まだ……動ける……!)


 視界の端に、銀色に染まったリュードとデューラの姿が映る。

 二人とも武器を離していない。


(誰か一人でも落ちたら……終わりだ……!)


 三人は、極限の状態で、ただ立っていた。

 意地でもない。戦士としての誇りでもない。

 ──一人が倒れた瞬間に、全員が死ぬ。

 その張り詰めた連帯だけが、彼らを立たせていた。


「……ジェン……来い……っ!」


 デューラの声が、祈りのように森に響く。


 希望は、ただ一つ。

 ──ジェンが駆けつけること。


 その願いだけを胸に、三人はなおも武器を握り、立ち続けた。

今日も読んでくれてありがとうございました。

引き続きよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ