表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/66

2-6話:眠れる獅子

 廊下を駆けるリュードとメイズ。その前方から、血相を変えたデューラが走ってきた。


「お、呼びに行く手間が省けたな」


 リュードはすれ違いざま、デューラの肩をがっちりと掴んで止める。


「ちょうどいいタイミングだ。久々の実戦だぞ──お前も楽しめよ」


 ニヤリと笑うリュード。その顔に、デューラは即座に反応した。


「テルル、目覚めた!オレ、ジェンに報告しないと!」


 ジタバタと暴れて逃げようとするが、リュードの腕は岩のように動かない。


「そいつは朗報だな。でもよ、今はこっちのが優先だ」


「やだっ!オレ、戦いたくないっ!」


「何言ってんだドールズのくせに。戦うために生まれたんだろーが」


「でも……今は、選べるんだ!オレたちはもう、ただの兵器じゃない!生きてるんだ!」


 一瞬、リュードの目が細められる。が、次の瞬間──


「……まあ、そりゃそうだ。けどな、戦わなきゃ──レミナも、テルルも、お前の相棒のオルダだって守れねぇぞ?」


 その言葉に、デューラの瞳が揺れた。


「……それは、イヤだ……」


 小さく、しかし確かに呟いたその直後──デューラの全身から、熱気のような気配が立ち上る。


 殺意。敵意。戦意。


 ぶわっと吹き出すように、目に見えるほどの“気”が放たれた。


「──やる!!オレ、戦う!!」


「ようし、それでこそ俺の知ってるデューラだ」


 リュードが笑い、手を離す。


 その隣では、メイズが一歩下がって静かに頷く。


「戦闘は久方ぶりですが──皆様の足を引っ張らぬよう、全力を尽くします」


「期待してるよ。β型最強さん」


 三人は、戦場へと向かって駆け出した。


 北部B-7区域、森に面した崩落した資材搬入口跡。警報信号の末端、その地は異様な静寂に沈んでいた。


 折れた鉄骨。苔むしたコンテナ。割れたコンクリートを侵す植物。腐鉄と甘ったるいメルキュリア──ドールズの血の匂いが、湿った空気を重く染める。


「……ここだな。気配が濃い」


 リュードが槍を構えた。槍先に集束する光が、脈打つように揺れる。


 そのとき──森の奥で影が蠢いた。


 現れたのはζ型が二体。


 人型を保ちながらも、肉は裂け、関節は逆に折れ、長すぎる指が地を這う。その全身からメルキュリアがしたたる。

 まるで狂った設計図から無理矢理起こされた、悪夢そのもの。


「……出たな、怪物ども」


 リュードが姿勢を低く構える。


「メイズ、正面を引きつけろ。俺とバカで叩く」


「了解」


 メイズはナイフを軽く弾くように空中へ投げ──それを一度忘れさせるような動きで敵の軌道を読み切り、滑るように突進した。


「……平和を揺るがす方には、壊れていただきます」


 静かに呟いた次の瞬間、空気が裂けた。


 右手のナイフが一閃、左手の補助刃が喉元から肩までを無慈悲に断ち切る。血飛沫すら計算されたかのように一滴も浴びず、ζ型が崩れ落ちた。


「リュード、左です──」


「わかっている!」


 リュードが槍を旋回させ、薙ぎ払う。だが、その手応えは重く、深くまでは届かない。


「しぶといな……!」


 だが次の瞬間──


「終わらせます」


 それは、光だった。


 風の中を滑ってきたのは──忘れかけていた“投げたナイフ”。


 まるで意志を持つかのように敵の関節部に突き刺さる。その動きが一瞬止まった刹那、そこに──


「砕けろッ!!」


 デューラが戦鎚クラッシャーを振り下ろす。質量強化が加わった一撃は、地面ごとζ型を押し潰し、コンクリートの床が四方八方へと割れた。


 ──静寂。


 森が、再び音を飲み込んだ。


「……終了、っと」


 リュードが槍を肩に担ぎ、周囲を確認する。


「メイズ、大丈夫か?」


「ええ。問題ありません。多少、手応えが物足りないだけです」


「贅沢言うな……」


「オレも無傷!なあリュード、オレちゃんと戦えたよな!」


「ああ。お前のハンマー、やっぱヤバいな。威力だけで言えば俺たちの中で最強クラスだ」


「ひゃっはー!」


 デューラが褒められて嬉しそうにハンマーを担ぎ上げる。その背後──


 施設方向から、低く重い警報音が響いた。


 ──“緊急レベルS・反応確認。非認可個体を検出”──


「……レベルSだと!?」


 リュードが険しい顔で槍を握り直す。


「……俺らと同じζ型以外の個体か?」


 その瞬間、メイズの目がわずかに細まる。冷気が空気を走り抜けた。


「……いえ、“格”が違います」


 森の奥。音もなく、存在そのものが空間を歪めながら、黒い影が現れる。


 赤い瞳が、まるでこの世の光そのものを拒むようにぎらついた。


「……あれは──何だ……?」


 リュードが小さく息を呑んだ。


 圧倒的な“質”の違い。


 まるで存在が空間の法則そのものを塗り替えるかのような、異形の重圧。


 それは、眠れる獅子──“ノックス”。


 戦時中、メイズと共に三都市を沈めた伝説のβ型。その破壊力は、規格外であり、設計すら禁じられた“例外”。


 静かに姿を現したその存在に──


「……ノックス殿。図書館の地下に眠っていたはずの貴方が、なぜここに……?」


 いつも冷静なメイズの声が、かすかに揺れた。


「おい……まさか、あの“ノックス”か……?」


 リュードの問いに、メイズは視線を外さず答える。


「はい。私と同列に記録された個体……ですが、実際には私の読みも、技量も、すべてにおいて凌駕していた方です」


 ナイフを逆手に握り直す手が、わずかに震えていた。 それは恐怖ではなく、敬意と、皮肉な再会への覚悟だった。

ノックスはかなりの強敵になりそうな予感ですね。

3体の行方は如何に…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ