2-3話:告白
場所は中央ラボ十二階の医務室。静けさの中に、機械の駆動音だけが規則的に響いていた。
「……ここは……どこ……?」
かすかに目を開いたテルルがつぶやく。その声を聞きつけるように、白衣姿のレミナが勢いよく駆け込んできた。
「テルル!目が覚めたのね!大丈夫!?」
レミナはベッドに駆け寄り、心配そうに顔を覗き込む。テルルは眩しそうに目を細めた。
ベッドのそばにいたデューラが勢いよく立ち上がる。
「テルル、回復確認。報告する!」
言うなり、研究室の方へ走っていった。
「まったく……メルキュリアを“涙”みたいに流すなんて、ドールズの構造上、ありえないって思ってたのよ。本当に、驚かされたんだから」
レミナの眉間には、まだ緊張の跡が残っていた。
「……心配かけちゃったね。でも、もう平気……」
起き上がろうとしたテルルは、自身の体に繋がれた複数の管に気づき、動きを止める。
「だめ。まだ安静にしてて。あれだけメルキュリアを消耗したんだから、身体もコアも限界だったのよ」
レミナはテルルの髪を優しく撫でながら、静かに言った。
「……でも、ジェンに会いたいな」
テルルの声は弱く、どこか寂しげだった。
「大丈夫。デューラが呼びに行ったから。もうすぐ来るよ」
レミナは微笑み、廊下の方を親指で指す。
「……みんなに迷惑かけちゃった。取り乱して、本当に……ごめんね」
「大切な人を失ったんだもの。取り乱すのは当然よ」
レミナの声は落ち着いていて、温かかった。
テルルは、ふと遠くを見るような目になり、ぽつりと語る。
「でもね……あの仮面の子も、命令だったんだよね。そう考えると、仕方ないのかも。私たちは……兵器だったから。最初から、自分で選ぶ自由なんてなかった」
一瞬の沈黙が、ふたりの間に落ちる。
テルルは布団の端をぎゅっと握りしめる。
「でも……今の私は、生きてる。兵器じゃなくて、“私”として。だから前を向きたいって思ったの」
そして、ゆっくりとレミナを見つめる。
「ねえ、“夢”って分かる?」
「夢? 将来の目標とか、そういう意味?」
「ううん。眠ってるときに見る、“あの”夢」
テルルは少しだけ笑みを浮かべた。
「ドールズなのに、夢を見たの。不思議だよね。……エイデンと一緒に暮らしてる夢。あたたかくて、やさしくて――ほんとうに幸せだった」
レミナは口を挟まず、その言葉に静かに耳を傾けていた。
「その夢の中でね、エイデンが言ったの。“許してあげて”って。あの子のこと」
テルルの手が、微かに震える。
「だから……私は許すことにしたの。知って、考えて、悩んで、傷ついて……でも、それでも許す。生きるってことは、きっと前に進むってことだと思うから…」
その目には、もう憂いはなかった。まっすぐな光が宿っていた。
しばしの静けさの後、テルルはぽつりと打ち明ける。
「……実はね、ひとつだけ嘘をついてたの」
「え……?」
レミナが驚いたように顔を上げる。
「あの子は、エイデンを殺してなんていないの。エイデンは……自分で、引き金を引いた」
レミナの瞳が揺れる。
「攫われそうになったの。ハイネ博士の息子だったから、利用されるのが分かってたんだと思う。……私、守れなかった」
その声は静かだったが、胸の奥底まで届くほど深かった。
レミナは細くて白いテルルの手を包み込むように握る。
「忘れなくていい。背負ってもいい。でも、一人じゃない。私たち皆で前へ進もう。そして、もう二度と同じことを繰り返さないために……今度は、私たちが“平和の尊さ”を人間に伝えるのよ」
「……どうやって?」
テルルが問うと、レミナはふふっと笑い、拳を掲げた。
「それはもちろん、“ジェンとテルル”の関係よ!ジェンテルのカップリングが世界を平和にするの!同人誌を描くしかないっ!」
「……よく分かんないけど、レミナならできると思うよ?」
テルルはレミナの熱量に思わず笑い、彼女を見た。
その笑顔は、確かに“日常”が戻りつつある証だった。
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