1−11話:邂逅
◇登場人物紹介
テルル…人間の護衛のために製造されたε(イプシロン)型の少女。ジェンといつも一緒。純粋無垢な性格。
リュード…戦闘に特化したβ(ベータ)型の青年。戦闘を好んでいるため、人間からの侵略には彼が対応することが多い。
日が暮れ始め、空は茜色に染まっていた。
笑い声が風に流れ、皿の上の料理もほとんど空になっている。
「ごちそうさまでした」
誰かがそう呟いたのをきっかけに、皆がそれぞれ、のんびりと席を立ち始める。
名残惜しげにデザートをつつくテルルの頭を、ジェンがそっと撫でた。
「たまには、こうやって集まるのもいいね」
「うん、またやろうね、こういうの」
彼女は微笑みながら頷いた。
そして、あたたかな時間の終わりを告げるように——
ガサガサッ。
風にしては不自然な、草の擦れる音が静けさを破った。
十一体のドールズたちが一斉に動きを止め、音のする森の方角へと顔を向けた。
十一体、全員がここにいる。ならば今の音は——“誰か”だ。
一瞬、リュードが呟く。
「……動物か?」
動物はこの島ではあまり見かけないが、全く居ないというわけではない。
誰からともなく立ち上がり、全員が音のした草むらへ視線を向ける。無意識のうちに、各々武器へと指が伸びていた。
ざっ……ざっ……。
草を分けて近づいてくる足音。
そして——
草の向こうから姿を現したのは、一体のドールズ。
仮面をつけた、小柄な袴姿の個体。身長は155センチほど、人間ならば少女と呼ぶべきだろう。
しかし、無表情な仮面から滲むその存在感は、静寂を切り裂くほどに異質で、威圧的だった。
誰もが言葉を失い、硬直した。
島の管理を担うオルダとウィルが、同時に低く呟く。
「……馬鹿な……」
この島には、侵入者を感知するレーダーが張り巡らされている。人間はもちろん、ドールズであっても察知なしに接近などできるはずがない。
目の前の“それ”は、常識を超えていた。
十一体と一体の、息を詰めた睨み合い。
それはわずか五秒にも満たない時間だったが、永遠にも感じられた。
その沈黙を破ったのは、リュードだった。
「貴様、何者だッ!」
叫びながら、槍を構えて前へ出る。
その踏み込みは鋭く、槍が風を裂いて仮面のドールズへと突き出される。
——だが。
仮面の少女は、その小さな身体をひねるだけでその一撃を受け流した。まるで、舞うように、しなやかに。
「……チッ」
リュードは舌打ちし、すぐさま二撃目に移ろうとする。
その刹那。
鋭く響く声が空気を切り裂いた。
「待って! その動き……その仮面……エイデンの仇!」
声の主はテルルだった。
彼女は立ち上がると同時に、背中に隠していた鎌を一気に引き抜く。展開された刃が音を立て、二メートルを超える巨大な武器がその姿を現す。
「リュード、下がって!」
「おい、でも——」
「下がってって言ってる!」
普段は穏やかな彼女の声が、怒気を帯びて響いた。
リュードは押し返されるようにして後方へ飛び退く。
ジェンは思わず息を呑んだ。
——テルルが、これほどまでに殺気を纏うのを見たのは初めてだった。
目の前の仮面のドールズ。それはテルルがかつて仕えていた“主”——ハイネ博士の息子、エイデンを殺した存在だった。
テルルはε型として、長きにわたってエイデンと共に過ごしてきた。兄妹のように、家族のように、彼を守り、支え、生きてきた。
その彼を奪ったのが——このドールズ。
テルルの目が細められ、震える吐息が漏れる。
「……どうして、ここに……」
呟きと同時に、彼女の足が地を蹴る。重く、それでいて迷いのない一撃。
鎌が唸りを上げ、仮面を斜めに断ち割る。
パリン——
乾いた音とともに、仮面が地に落ちた。
現れたのは、あどけなさの残る少女の顔。
透き通る白い肌、整いすぎた輪郭。まるで人形のように美しいその顔に、テルルの動きが止まった。
驚き、戸惑い、そして混乱——
それでも彼女は刃を下ろさず、少女の首元に突きつける。
しかし、少女は怯えなかった。逃げる様子もない。
「……逃げられたはず。どうして?」
テルルの声が震える。
少女は、静かに瞳を開く。その中には、恐怖ではなく、かすかな憂いが宿っていた。
「それは……私が、そうしたいと思ったからです」
その声は澄んでいて、まるで鈴の音のようだった。
テルルの眉が歪む。
「どういう意味……?」
少女は、まっすぐに彼女を見つめ、言った。
「私は……あの時、あなたの“家族”を奪ってしまった。ごめんなさい」
テルルの肩が震える。
「この鎌は……ただの鉄じゃない。ゼノスチールにミラサイトを混ぜた、アルタイルメカニカ社製の……ドールズさえ簡単に斬れる刃だよ。……ほんとに壊れるよ?」
「はい。それでも構いません。私を憎んでいるのなら、それでいい」
少女はそっと目を閉じた。許しを乞うわけでも、命乞いをするわけでもなく——ただ静かに、終わりを受け入れようとしていた。
テルルの手は、まだ震えていた。
だがその刃は、少女の肌に触れることは、なかった。
新キャラが登場しました。
ここから物語が一気に加速していきます。
次回も読んで貰えると嬉しいです!!




