表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/66

1−8話:帰りはもうすぐ

◇登場人物紹介


ジェン…主人公。暴走した個体を壊す役割を担うγ(ガンマ)型の少年。温厚で優しい性格。


テルル…人間の護衛のために製造されたε(イプシロン)型の少女。ジェンといつも一緒。純粋無垢な性格。

 結局、オルダが感じ取った低周波の違和感は、ただの気象由来のノイズであると結論づけられた。

  最初に異変を報告したオルダ自身も、「少し敏感になり過ぎていたな」と少しだけ肩をすくめて苦笑し、ウィルも解析データを指して「大丈夫そう」と断言した。

 それを聞いた皆は、どこか張り詰めていた空気をふっと緩め、小さなため息とともに、穏やかな日常へと帰っていった。


 依然として、空の向こうでは時折くぐもった爆発音が聞こえることもあったが、島の平穏を脅かすものにはならなかった。

 リュードの沈着な判断と、ウィルの冷静な指示があれば、島の安全は揺るがない。

 そう皆が信じていたし、事実、ここしばらくは何事も起こらなかった。


 朝にはウィルが新鮮なトマトやレタスを手に現れ、キッチンのカゴにそれを置いていく。

 ジェンは静かな午後になると図書館へ足を運び、テルルに絵本や古い小説を読み聞かせる。

 ページをめくる音と、ジェンの穏やかな声が、部屋いっぱいに柔らかな時間を作っていた。

 そして、その様子をメイズが優しく見守る。


 また、レミナとオルダ、デューラを交えてトランプに興じる日も多くなった。

  誰が一番ずる賢いかを競うように、お互いの手札を読み合いながら笑いあい、時には負け惜しみや冗談を飛ばすその光景は、まるでここが“終末後の世界”だということを忘れさせるほどだった。


 そうして、戦争という言葉さえも夢の向こうに霞んでゆくように、彼らの時間は静かに、柔らかく流れていた。


 ――ただ、テルルには一つだけ気にかかっていることがあった。


 昨夜から、ジェンの様子がどこか落ち着かない。

  彼は普段と変わらないように振る舞っているが、ふとした時に空を見上げたり、誰もいない方向に視線を投げたりするのを、テルルは見逃していなかった。


 そして今朝、まだ空が淡くしか光を帯びていない時間。

  テルルは、眠気に包まれたまま台所へ向かう。扉の奥からは、微かに包丁の音と、何かが焼ける香ばしい香りが漂ってきていた。


「ジェン、何してるの?」


 声をかけた瞬間、ジェンの肩がびくりと震えるのがわかった。 けれど彼はすぐに、いつもの柔らかな笑顔で振り返った。


「おはよう、テルル。ごめん、起こしちゃった?」


「ううん、最近はよく眠れてたんだけど……音がして、起きちゃっただけ」


 テルルはコップを取り、水を注ぎ、一息に飲み干す。

 朝一番の冷たい水が、喉から胸にかけて染み渡っていく。それは彼女の毎朝の決まりごとだった。


「ねえ、何してたの?」


 再び尋ねると、ジェンは恥ずかしそうに視線を逸らして答える。


「今日はね、アルテットたちが戻ってくる日だから……ご馳走の準備をしてたんだ」


 彼の前の調理台には、捌かれた白身魚がきれいに並べられていた。

  昨日、ウィルが北の入り江で釣り上げてきたものだ。 塩とハーブで下味をつけられたそれは、皮がパリッと焼ける音とともにフライパンの上で踊っている。


 その隣の鍋では、レタス、トマト、にんじん、そして少量の生姜が煮込まれ、軽やかな香りを放っていた。

  魚の焼ける匂いと野菜のスープの湯気が混ざり合い、朝の空間に満ちていく。


「朝からこんなに本格的なの作って……すごいね」


「せっかく皆が無事で、安心して暮らせてるんだし……たまには、ちゃんとした食事を作りたいなって思って」


 フライ返しで魚を丁寧に裏返すジェンの動きは、緊張と喜びが混ざり合ったような不器用なやさしさに満ちていた。

  その背中を見つめながら、テルルの胸の中にあった違和感は、少しずつ溶けてゆく。


 それはたぶん、不安ではなく、何かを“迎える準備”に似たもの――そんな気がした。


「ジェンって、実はすごくマメだよね。そういうとこ、ちゃんと見てるよ」


「え……そうかな? からかってない?」


「からかってないよ。本当。……私、こういう朝、好きかも」


 ジェンは照れたように笑い、テルルも小さく笑みを返す。

 ほんの短いそのやりとりに、確かな日常が宿っていた。


 外では、夜の名残が少しずつ白んでいく。 もうすぐ朝日が差し込み、三人が帰ってくる。


 温かい匂いに包まれたキッチンで、ふたりは静かにその時を待っていた。


ふと思ったのですが、この作品のタイトルって長いですよね。

略を考えたいのですが……殺スロとかでいいのでしょうか。

なろうって長いタイトルで内容が一目で分かるのがいいですが、略称がないと大変ですよね。

とりあえず、作者は殺スロと呼ぶことにします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ