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1-7話:秘密の花園

◇登場人物紹介


リュード…戦闘に特化したβ(ベータ)型の青年。戦闘を好んでいるため、人間からの侵略には彼が対応することが多い。


ウィル…β型やζ型に指示を出す司令塔を担うα(アルファ)型の青年。皮肉屋で飄々とした態度を取るが、その実力は折り紙付き。

 木々の間を縫うようにして、二つの影が小道を駆け抜けていた。

 テルルはジェンの手をしっかりと握りしめ、笑顔を浮かべながら軽やかに走っている。


「急ごう! きっと今が一番きれいな時間だよ!」


 森の中に、明るく弾ける声が響く。

 夕陽が傾きはじめ、木漏れ日は金の粒となって揺れていた。風が髪をやさしくなで、通りすぎてゆく。


このあと島の送電ケーブルの点検に向かうオルダに、レミナとデューラが同行することになったため三人とは別れ、ジェンとテルルはふたりきりでウィルに教えられた南西の丘へと足を運んでいた。


 やがて、森がふっと開ける。目の前にぱあっと光が差し込み、景色が広がった。


 そこには、なだらかな丘の斜面一面に、色とりどりの野の花が咲き誇っていた。

 赤、黄、白、そして淡い紫――風に揺れる花々は、まるで波立つ静かな海のようだった。


「……きれい。こんな場所があったなんて……」


 テルルは小さく息を呑み、ジェンの手をそっと離して、花の海へと一歩踏み出す。

 ジェンも静かにその後を追いかけた。


 ふたりは言葉を交わさず、ただ立ち尽くす。空は徐々に橙色に染まり、丘の上にも夕暮れの気配が濃くなっていく。


「ねえ、ジェン。この花、なんて名前か知ってる?」


 テルルが指差したのは、淡い紫色の、小さく可憐な花だった。


「……知らない。でも、きれいだと思う」


「うん、私も。名前なんてわかんなくても……“好き”って気持ちは、ちゃんとあるんだね」


 テルルはそう言って、花を一輪摘み取った。その手つきは慎重で、どこか切なげだった。


「ねぇ、ジェン。もし私たちが“殺戮人形”じゃなかったら……もっといろんな花の名前、覚えられたのかな」


 ジェンは答えられなかった。

 ただ、風に揺れるテルルの髪と、それを夕日が縁取る様子を静かに見つめていた。


 そのとき――


 カサッ。


 丘の下、林の方から小さな物音が聞こえた。


 ジェンの身体が即座に反応する。

 テルルの前へと立ち、背中の短剣に手を伸ばした。目だけを動かし、辺りの気配を鋭く探る。


「……誰か、いる」


 その低く押し殺した声に、テルルも思わず身をこわばらせる。

 ジェンの声には、ただの警戒ではなく、直感からくる確信がにじんでいた。


 だが――音はそれきりだった。


 風のざわめきが戻り、鳥のさえずりと花の揺れる音が、世界をやわらかく満たしていく。


「……気のせい、かな」


 テルルが不安げに言った。ジェンはしばらく耳を澄ませたあと、ゆっくりと首を横に振った。


「……わからない。でも、もう遅い。日が沈む前に戻ろう。花、ちゃんと持った?」


「うん……!」


 テルルは摘んだ花を両手で包み、大切そうに胸に抱えた。


 ふたりは言葉もなく、来た道を引き返す。花畑は風にそよぎながら、ふたりの背を静かに見送っていた。


 だが――その背後。


 花畑の一番奥。

 木々の陰に、確かに「誰か」がいた。


 その姿は見えない。

 ただ、その存在だけが、冷たい違和感となって、夕風の中に紛れ込んでいた。


 やがてふたりは、ジェナリウス像の前へとたどり着いた。


 テルルは胸に抱えていた小さな花をそっと足元に置き、リュードとウィルを真似て片膝をつき、手を合わせた。


「これでジェンに似てる人も寂しくないね。また来るからね」


 優しい眼差しでジェナリウス像を見上げるテルル。

 ジェンはその姿を、静かに見守っていた。

怪しい影がチラッと登場しましたね。

少しだけ物語に動きがあったようです。

毎日投稿頑張りますので、今後も読んで貰えると嬉しいです。

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