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亡霊と巡り合う話

 『エリオット』、そう書かれた木彫りの墓に花を添えたおれの足元、ビニール製のボールがすってんてんと転がってきた。かかとにあたったボールを拾うと背後の茂みが騒がしく揺れる。獣かと身構えるが、向こうからはあれれ、ないなったとのんきな声がした。相手はどうやらこどものようだ。

「およ?」

 郷愁に浸る気分だったがそのこどものおかげか、虚しさは吹き飛んだ。ボールを構えてこっちだよと合図するように数度地面にはねさせてやると音に反応した茂みのなかのこどもがこっちに来る。



 ずいぶんちっこいやつだな、最初はそう思った。三歳児くらいか、まだおぼつかない足取りで危なげに歩いてくる。ふらふらと揺れる体は頭と身体のバランスが悪いらしい。

 それでもおれの前にやってくるとボールを受け取るべく腕を伸ばした。

「りょ!」

 てーんっと勢いよく差し出された手の指なんかつくしの先端みたいなちいささで、逆に戸惑ってしまう。

 それにしても変な挨拶だか返事だかわからないものには苦笑するしかない。おれがスラムで預かってたちびどもでももっとましだったぞ、と思った。



 身ぎれいな幼児はこのあたりの屋敷の子どもだろうか、豊かなシズール女王国にあってその恵みを受け取れる身分なのは服装からありありとうかがえた。

 青いボールをそいつに返す。

「えんがちょ!」

 なんの悪縁を断ち切るつもりの呪文だ、それは。

「おいおい、そこはありがと、だろ」

「うあ? あんがちょー?」

 首をかしげて悩む男児、だが違いがわからないのか、もう一度えんがちょなどという独特の礼をしてボールを拭いている。

 ぷくぷくのほっぺでにまにま笑って満足げだ。

「よかったな、ボール、みつかって」

「うい!」



 春風が吹いた。

 おれの無念ごと吹き飛ばすような、きもちのよい疾風だった。

 どこかのお貴族様の庭園で、高い空に舞い上がる、一面の花びら。

 淡い桃色が飛んでいくのをなんとはなしにみつめていると、眼の前の幼児が顔を乱暴にこすった。

「にぁ? ……ふんふんっ!」

 前髪を払ったその顔は土汚れのないきれいものだった。流れるような金髪も、芽吹いたばかりの新芽を思わせる新緑の目も。

 たちまち、おれたちに降り掛かった不幸が甦る。


 火の手があがった屋敷の映像がありありと浮かんだ。


 動悸がする心臓を抑えて、唇は音を発した。


「――エリオ?」

2025年7月23日までは日に三回更新します。

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